シリアスというのは、意外と人の心を磨り減らすものだ。
そういうわけで、笛吹は久々に秘密基地に心根と碑石を呼んだ。
「かくかくしかじかというわけで・・・僕を殴ってください」
「こりゃ重症だな」
心根の二本の指が笛吹の眼球に向かって直進運動を開始した。
「はあ・・・はあ・・・何するんですか!?」
「だって望んだ罰与えたら罰にならないじゃねえか」
「確かにそりゃそうですけど・・・ありがとうございます」
笛吹は目薬を入れる。
「・・・ふう、ところで僕を恨んでいないんですか」
「確かにアイツらとは知り合いだけどさ・・・。
やっぱり、心のどこかでキャラクターに過ぎないって思ってるんだよ。
俺の方が、お前よりもよっぽど非情だと思うぞ。
お前はアイツらを人間だと認めているから苦しむことができるわけだし。
それに・・・照星は止めようとしても無駄なんだ。
アイツ、いざってときは意地を張り通すような奴だったし」
そこで、碑石が話に割り込んできた。
「そういえば、君は家に謹慎してなくて大丈夫なのかい?」
「ああ、今回の一件で俺に構う暇はなくなったらしい。
俺はずっと見張られていたおかげで、アリバイがあるんだ」
ちなみに、三人は理子の店の弁当を食べながら話している。
ギルはとにかく食べていた。
食料供給係の笛吹がずっと忘れていたせいである。
「げふっ、さすがの我でも死ぬと思ったぞ」
「すみません、普通に忘れていました」
「まったく・・・ところで、その腰に差しているものはなんだ?」
ギルは笛吹の帯刀しているMURASAMA BLADEを指した。
「これですか。これは僕の照星くんの遺品みたいなものです。
まあ、もともと僕の所持品でしたが・・・。
でも、照星くんに貸したもので僕の手元に残ったのはこれだけなんです」
この街は意外とおかしく、転生者が帯刀していても咎められないのだ。
その後、三人は前のように談笑して、遊んで、解散した。
笛吹はそれだけでも満足であった。心が少しだけ楽になった。
それでも、何かが彼の心を握りつぶそうとしているような気分でもあった。
家に帰ろうとしている最中のことであった。
笛吹は見慣れない青年に出会った。
その青年は一瞬日本人に見えたが、中国人だった。
それに、一般人ではなかった。
転生者は同類を見分けることがどういうわけか可能なのだ。
「・・・你好」
「你好。日本語でも大丈夫だ」
「わかりました。まさか中国からも転生してくるなんて・・・」
「中国にはbilibiliがあるんだ。私は
神浜には今日引っ越してきたばかりなんだ。
小学校の時も日本に滞在していたが、両親の仕事の都合でまた日本に来たんだ」
それを聞いて、笛吹はあることを聞いた。
「章さん、あなた前世で中国海軍に所属していましたか?」
「ああ、そうだ。すごいな、君はまるでホームズみたいだ。
どうして私が軍人だったとわかったんだい?」
「まあ、自分の書いたSFに中国海軍の将校が出てくるので。
そういえば、名字も同じなんですよね。名前は・・・
「北海?念のため聞くが、それは君のオリジナルかい?」
「ええ、オリジナルですよ。中国の人名を名付けるのは大変でしたよ」
「・・・三つの太陽を持つ文明と地球文明の叙事詩かい?」
笛吹は目を丸くした。
「ええ、その通りですよ!どうしてわかったんですか?」
「君の表情からして、君は完全にそれを独力で書いたようだな。
まさか、前世で君は劉慈欣だったのかい?」
「誰ですか?」
「たまげた。君の書いたものは、ヒューゴー賞間違いなしだ」
ヒューゴー賞というのはSF界における大勲位菊花章頸飾だ。
「そうなんですか!?・・・でも、これは売ること考えていないんですよ」
笛吹は三体を取り出した。
「僕の好きな女の子にあげるための本なんです」
「まあ、成功することだけが幸福とは限らないからな。
だが、後で俺のためにもコピーをくれ」
「いいですよ」
そこで能力を使ってコピーを作り、灯魂に渡した。
「・・・君の能力はずいぶんとすごいな」
「ええ、突発的な戦闘には役立ちませんが」
「確かにそれはそうだろう。
君の能力は、拳を振るうのに使ってはいけない」
「頭と尻で支配するのに使え、ということですか」
それは昔のSFに使われていた一種の常套句だった。
目の前の中国人青年は、悪魔の契約を持ちかけようとしているのだ。
「俺も原作がどうなるのかは知らないが、この先に待ち受けているのは破滅かもしれない。
君には好きな女の子がいるんだろ?その子を守るためにも統制が必要だ」
「それで、章さんにはどんな利益があるんですか?」
「生命の安全だ。我々は、どちらにせよ一般人に分類されるからな。
一般人がどんな扱いになるか、マギウスという差別主義者が証明したはずだ」
「もしかして、こんな夜中に歩いていたのは僕みたいなのを探すためだったと?」
「そうだ」
「僕にこれ以上罪を重ねろと?僕はかこさんを守るために、転生者と魔法少女を殺した。
もちろん、どれも直接っていうわけじゃない。でも、いつまで続ければいいんですか?」
「・・・もちろん強制はしないさ」
数分ほど黙って歩いて、そして笛吹がついに口を開いた。
「里見メディカルセンターの近くに人気のない野原があるんです。
そこでもう少し話を聞かせてください。内容によっては引き受けてもいいでしょう」
「ああ、それだけでもありがたい」
しばらく歩いて、野原に到着した。
そこは笛吹が自分の正体を告白し、碑石が転生者の生き方について考察していた場所。
綺麗な三日月と星々が、ススキと二人を照らしていた。
「それで、僕たちは一体何をすればいいんですか?」
「簡単な話だ。物語に参加する。
俺たち二人で新しい組織を創り上げるんだ。
その組織を介して、魔法少女同士の緊張緩和を図る」
「僕たちにそんなことできるんでしょうか?」
灯魂が次の言葉を喋るまでの数秒、世界は草木の揺れる音と虫の鳴き声だけだった。
「ああ、できる。少なくとも、俺たちにはその力がある」
彼の手が光で満たされ、その光はレーザー銃に変わった。
そして、それはまた光に還元され消えていった。
「でも、もしかしたら灯魂さんの正体がバレてしまうかもしれませんよ。
僕はかこさんに話したからいいものの・・・」
「ああ、そこも承知の上だ。参加する代償にしては小さいほうだ」
「・・・でも、僕にそんな権利があるとは思えない。
さっきも言った通り、僕は友人ともいえた転生者と、
和解できたかもしれない魔法少女を間接的に殺してしまった。
この刀に、それが染み込んでいるんですよ」
笛吹は刀を灯魂に渡そうとしたが、彼はそれを突き返した。
「君にはこの剣を取る義務がある。
君の顔は辛そうだ。しかし、それでも取らなければならない。
それが死んでいった者たちに対するせめてもの贖罪だ」
「・・・あなたの顔も少し辛そうですよ」
灯魂は虚しそうに笑った。
「はは・・・君のと比べたら些細な物さ。
症状はアイデンティティの喪失。
前世と同じ国に生まれたとはいえ、結局は外国の物語の中だ。
でも、前世から引き継いだ信念で何とかなってる。
自分で言うのもあれだが、俺の信念は玄武岩みたいなものさ」
二人は少しだけ笑った。
「・・・俺が玄武岩の足で立ち、君が剣を取るような組織を作ろうってことだ」
「ええ、そして物語に参加して、それを内部から統制する。
そうすれば僕は贖罪ができて、灯魂さんはアイデンティティを少しでも取り戻せる。
それで、組織名はもう決めてあるんですか?」
「
「最高ですね。名前のセンスが本当にいいですね」
「ああ、前から候補には入っていたが、君がSF好きだとわかったからね」
「面白そうじゃねえか。俺にも参加させてくれよ」
現れたのは心根だった。
「あっ、心根さん。ちょうどよかった、彼はE.G.Oを発現できるんですよ」
「ふむ、それはありがた・・・心根くんだったか。後ろを見たほうがいいぞ」
心根の後ろにはアシュリー・テイラーが立っていた。
「・・・アシュリー=サン、ドウシテココニ?」
「私たちの目を欺いて外出とはカワイくない真似するんだね。
こんなこともあろうかと、GPSを付けておいたんだよ。
ところで、笛吹さん。その補完機構とやらには私も参加していい?」
「戦力はいくらでも欲しいですからね・・・灯魂さんは?」
「確かにありがたい申し出だが、中立性やら一般人保護も必要だからな。
申し訳ないが、君の入会は認められない。当分は二人でやっていくさ」
「気にしないでいいよ。ただ面白そうなだけだったし」
「ねえ、俺参加しちゃダメ?」
「駄目に決まってるでしょ。良い子だからお家に帰ろうね」
「そんなー・・・」
心根は引きずられて消えていった。
「・・・まさか無断外出だったとは」
「まあ、彼もまたいつか勧誘しよう」
笛吹はシャンパン(未成年でも飲めるような)を生成した。
「何に乾杯しますか?
「そこは当然、
二人は一気にグラスを空にした。
この瞬間が
神浜史上初の、男子による魔法関係の組織が誕生したのだ。