まあ、当然というべきか、
心根は外出不可能なので参加できないのは当初の予想通りだった。
そこまでは予想できていた。しかし、碑石が断るのは想定外だった。
「確かに面白そうだけど、私はのんびりと暮らしたいからな。
実際、もう原作なんて終わったようなものだろう?
PROMISED BLOODは誰かさんが間接的に滅ぼしたし。
マギアユニオンと時女が争うかもしれないが、些細なものだろう。
というか、まず笛吹くんの”ハーメルン”だろ?
そして、章くんの能力はなんだって?」
「人民解放軍の装備の召喚。ちなみに、覚醒済みだ」
「その覚醒済みって何ですか?」
「能力をさらに自在に扱える状態だ。
俺の場合だったら、想像上の兵器も出せるようになるんだ。
もちろん、人民解放軍の装備という設定でな」
「ほらね、それだよ。君たち二人だけでも最強なんだよ。
私はそんなおっかない組織に関わりたくもないんだ。
もちろん、原作とやらにもね。
結局、この世界は原作じゃなくて現実なんだからさ。
すまないね、私は現実を平穏に生きたいんだ」
「いえ、大丈夫ですよ。ただ盾が欲しかったので」
「この野郎」
そういうわけで、碑石のスカウトには失敗した。
次に無花果と沖田総悟を勧誘しようと試みた。
「・・・僕はいいけどさ、こいつ女だけどいいの?」
「沖田さんを仲間外れにするんですか!女性差別反対です!」
「どうしますか、灯魂さん?僕は戦力強化は大歓迎なんですが」
「まあ、備品扱いでいいだろ。英霊は人間とはいえないからな」
「私が備品?えっ?」
とにかく失敗した。
ちなみに、ギルは無事に
そういうわけで、構成員にはカウントされていない。
「えっ?」
ちなみに、煉獄に関してはまなかと関係が深すぎるので勧誘されなかった。
マギアユニオンと友好的になりすぎてもいけないのだ。
次に氷河のスカウトを試みようとしたが・・・。
「何しに来たの?クソ超展開駄作&交渉失敗マシン」
「少し氷河くんに会わせてもらいたいんですが・・・」
「帰って、役立たず」
葉月遊佐に門前払いされた。
しかも、以前より悪口が悪化してた。
神浜市の一部の魔法少女の間で笛吹の評判は下がっていた。
中には照星の死の責任は笛吹が負うべきとすら考えていた者もいた。
まあ、事実その通りではあるのだが。
「・・・僕が何したっていうんですか。いえ、しましたけど」
「元気出せよ、笛吹」
「・・・ううっ」
灯魂に慰められて、何とか元気を取り戻した。
次に正史郎のスカウトに挑もうとした。
「断る」
「ですよねー」
一瞬で終わった。
「ところで、彼は何者だったんだい?」
「確か百年戦争時代に転生した人だったはずです」
「なるほど、彼だったのか。
百年戦争に黄色人種が参加していたという都市伝説があるんだ。
なるほど、彼の事だったか」
ここまでスカウトにまるで成功していない。
こうなったら、二木市に行くしかない。
そこでどこでもドアを出して獅山の近くを指定した。
ドアを開けると・・・。
「おにいちゃん、おにごっこしよー!」
「・・・そうだな」
そこにはショックから幼児化してしまった樹里と憔悴した獅山がいた。
その時、獅山は笛吹の気配に気がつき、近づいた。
「おにいちゃん、その人誰?」
「俺の知り合いだよ。ほらよ、神浜の魔法少女が喉から手が出るほど欲しがっているものだ」
そういって、彼は樹里の持っていたキモチの石を渡してきた。
「・・・」
「これでお引き取りくださいってな」
彼は知っているのだ。照星がPROMISED BLOODを壊滅させたと。
笛吹がその復讐に手を貸したことも、直感で悟ったのだろう。
その結果、樹里の仲間は殺され、彼女も幼児化してしまった。そして、照星は自殺した。
そういうわけで、獅山の瞳は完全にこう言っていた。
もう二度と俺たちに顔を見せるな、クソ野郎
笛吹はそっとドアを閉じた。
「・・・
「・・・そうするしかないんだよ、君には」
「それはそうと、キモチの石ってこんな簡単に受け渡しできましたっけ?」
「俺たちがいるからじゃないか?転生したというだけでも影響は大きいだろう」
こうなると、もうなりふり構っていられなかった。
「レナの弟くん!僕と契約して
「断ります」
「レナの弟くん!マジで頼む!君も戦う力はあるんだろ?だったら俺たちの仲間に入ってくれ!」
小学生に土下座して頼み込む中学生男子二名という構図の完成だった。
「お姉ちゃんから戦うこと禁止されてるんです。あと、これからういとデートなんですよ」
「なるほど、こりゃ殺すしかないですね、灯魂さん?
一人だけリア充とかふざけないでくださいよ?」
「ああ、万死に値するな」
「我流 恋の呼吸 初恋のわななき ・・・俺の恋路を邪魔した報いですよ」
そういうわけで、二人はめった打ちにされてしまった。
「ふーくん、小学生相手に何をしていたんですか?」
「これには深い事情があるんですよ」
「お話が必要なようですね。あと、明日の夜は予定がないのでラーメン士郎に行けますよ」
「ありがとうございます!!!・・・では、また明日の夜に」
「俺も帰らせてもらう」
「駄目に決まってるじゃないですか?というか、誰ですか?」
「俺は章灯魂。御覧の通り軍人だ」
「はいはい、わかりました。二人ともお話が必要そうですね」
「「放せ・・・!うわあああああ!」」
二人は夏目書房の『関係者以外立ち入り禁止』の部屋に引きずられていった。
かこのOHANASHIとは、某カードゲームで負けた後と同じくらいの苦しみを要するのだ。
何はともあれ、
翌日、例の野原にレジャーシートを敷いて仕事を始めた。
まず、組織設立を他の勢力にも告知しなければいけない。それは笛吹の仕事だ。
そういうわけで、笛吹は広報誌の作成に取り掛かっていた。
灯魂は魔法少女のリストを確認していた。彼は一名除いて登場人物を忘れていたのだ。
「・・・いくらなんでも酷くありませんか?
アメリカの映画に出てきた御前会議でも机はありましたよ」
「そんなこと言ったら、俺の国の建国の父祖たちも酷い有様だったぞ」
今日は天気が穏やかだが、強風や雨だったりすると大惨事だ。
組織が二人しかいないうえに、組織所在地が野原。最初期から末期だ。
「・・・そういえば、
できればそれを表紙とかに飾りたいんですがね」
「そうだな・・・八一という文字を入れてくれ」
「それ人民解放軍のシンボルじゃないですかやだー。
冗談抜きで僕たち時女一族の皆様に殺されることになるんですが?」
「じゃあ、日の丸の中にでも描いとけばいいだろう。
それに、あの子だったらそんなことは気にしないはずさ」
「ほいほいっと・・・あの子っていうのは?」
「俺が唯一覚えていた魔法少女さ。
実はというと、俺は小学校低学年の時にも両親の都合で日本にいたんだ。
その時にすごく仲良くなった子がいたんだ」
「そうなんですか。・・・それはそうと、デザイン追加していいですか?」
「おーけい、それでどんなのを追加するんだ?」
「椿の花ですよ。あれの花言葉は美徳を意味するので。
おっと、魔法少女の方とは関係ありませんからね。
日の丸を囲むように三角形を書いて、それぞれの頂点に花を配置しましょう。
色は赤、白、ピンク。これで
もちろん、原義は違いますが、至上の美徳を表現しているので些細な事でしょう」
「君は花言葉にも精通してるんだな」
「ええ、友人がそういったことに詳しいので」
こうして出来上がった
広報誌の内容は
まず、一番は一般人と魔法少女の地位の平等である。
私たちは確信しています。地球文明の構成員である一般人と魔法少女が平等であることを。
どちらも優れているわけではないし、劣っているわけでもないということを信じています。
この文章にそれははっきりと表現されていた。
次に、一般人の保護である。
一般人には、私たち
だからこそ、私たちには彼らを守る義務があるのです。ああ、なんと崇高な義務でしょうか。
私たちが暗闇で戦っているからこそ、一般人は光の溢れる世界で生きることができるのです。
実はというと、半分くらい不真面目に執筆した文章だ。笛吹もそれは自覚していた。
しかし、神浜マギアユニオンと時女一族の歓心を買うことはできるだろう。
ネオマギウスからは大不評間違いなしだが。
次に、コスモポリタニズムという信条が
まあ、英語版と中国語版とチベット語版が同時に掲載されているというだけの話だ。
「こりゃたまげた。君は翻訳ソフトを使わずにこれを書いたのか?」
「ええ、語学だけは前世から僕の得意分野の一つだったので」
こういうところで笛吹の本領が発揮された。
何はともあれ、広報誌は完成した。タイトルは組織名と同じだ。
「あとはこれをどう配布するかですね。
まあ、直接届けに行きますか」
「そうだな。一緒に行くとするか」
いつの間にか笛吹はスーツ姿になっていた。
二十世紀前半のアメリカのセールスマンを想起させるようなスーツだった。
まず、二人はフラワーショップ・ブロッサムに向かった。
そこでかこのために花を買うと同時に、春名このみに広報誌を渡すつもりだった。
彼女は笛吹と友人であり、同時にマギアユニオンの一員なのだ。
「僕たちが入った途端に店内の花が全部枯れましたよ???
これはいったいどういうことですかね???」
「君、呪われてるんじゃないか?」
「まさか、僕が何を・・・身に覚えがありすぎますね」
その時、このみがやってきた。
「謝罪と弁償を要求します。あと、かこさんに言いつけますからね」
「僕が何をしたっていうんですか。ただ店内に入っただけです!
僕は被害者なんですよ!かこさんにOHANASHIされる筋合いはありません!」
「あなたが店に入ってこなければよかったじゃないですか!
というより、聞いていましたからね!身に覚えがありすぎるって!」
一瞬にして二人はもみ合いの喧嘩になった。
「・・・店主さんですか?どうもすみません。これ弁償代です」
「いえいえ・・・笛吹くんの新しい友人かしら?」
「はい、そうです・・・。俺の友人が迷惑かけてすいません・・・」
灯魂は謝罪と弁償をしていた。
「ほら、帰るぞ。笛吹」
灯魂は笛吹を引きずって店を出た。
「・・・納得いきません」
「まあまあ、他の人に渡せばいいさ」
そういうわけで、秋野かえでの家に向かった。
「どうして僕が来た途端に家庭菜園の植物が全部枯れるんですか?」
「そんなこと言われても知らないよお・・・ふゆう・・・どうして・・・」
とりあえず、広報誌を彼女に渡した。
「それをいろはさんに渡してください。新しい組織を設立したんです。
もう二度と、あんなことを繰り返さないための組織を」
かえでは笛吹の瞳に覚悟が宿っているのを見た。
「・・・わかった。伝えておくよ。でも、かこちゃんには言いつけるからね」
「いくら欲しいですか?」
「今のも含めてかこちゃんに言いつけるから」
「」
次に時女一族の拠点である水徳寺に向かうことにした。
「・・・ところで、今もマギアユニオンとは同盟関係なんでしょうかね?」
「さあ?まあ、どちらにせよ俺がなんとかするから安心しろ」
水徳寺に着くと、そこにはやはり時女の巫たちがいた。
灯魂はその中の一人、広江ちはるに近づいていった。
「・・・ちゃる、久しぶりだな。覚えているか?章灯魂だよ」
一瞬、ちはるは戸惑ったようだが、すぐに思い出したようだ。
「えっ・・・章くん?ほんとに、あの章くん!?」
彼女は照れたように顔を赤くした。
「ああ、中国人の章だ。少し用があってな。
少し時間をくれるか?」
「う、うん!いいよ!」
灯魂は広報誌を持って、彼女と本堂に入っていった。
「・・・あれ、僕、置いてかれた?」
そんな笛吹に一人の巫が話しかけてきた。
「笛吹文雄さんですね。マギアユニオンの皆様から話は聞いています。
私は土岐すなおといいます。時女一族の巫です」
「僕のこと、時女一族にも伝わっていたんですね。
それで、やっぱり僕のことを役立たずの交渉役だと思っていますか?
準備に気を取られていて、一般人と魔法少女の死を招いてしまった役立たずだって」
そう言うと、すなおは悲しそうに微笑んだ。
「いいえ、そんなこと思っていません。
笛吹さん、あなたは悪くないですよ。
・・・でも、あなたの顔はとても悲しそうですね」
おそらく、彼女は直感的に笛吹が何か関わったことを感じ取ったのだろう。
彼女もまた、人を殺したことがあるのだから。
「・・・それはそうと、僕と友人である組織を設立したんです。
もちろん、どこぞの調整屋と違って柔軟な中立をね。
ただ、一つだけ、あなた方の気に入らない信条もあると思います」
「どんな信条なんでしょうか?」
「コスモポリタニズム。日本語にすれば世界主義ですね。
そういうわけで、もしかすると日本国にとって都合の悪いこともしでかすかもしれません」
「大丈夫ですよ。今の時代、グローバリズムは大事ですから」
(・・・二つは何か違うような気がしますが、まあいいですかね)
こうして、時女一族との接触も友好的なものとなった。・・・と二人は思っていた。
「おい、このイラストなんだよ!?これ完全にふざけてるじゃねえか!」
南津涼子からは大不評だった。彼女は
「ええ、日の本に他国の軍隊のシンボルを刻み込むのはなんて・・・。
”こすもぽりたにずむ”と言っても、品性が欠けてるのはね・・・」
それは時女静香も同意見だった。
しかし、広江ちはると土岐すなおが好意的だったことから、
「さて、次はピュエラケアですか・・・。まあ、大丈夫ですね」
「知り合いなのかい?」
「えっ、全然?」
こうして、二人は復興が進んだが意外とボロボロな中央区にやってきた。
まだ市役所は瓦礫の山となっている。
「あれ?誰が神浜市を運営しているんだ?」
「・・・嫌な予感がしますね」
後にこの予感は的中したが、
「・・・ピュエラケアの人、誰かいらっしゃいますか?」
「ふんっふん!」
「いるようですね。これ、リディアさんに渡しといてください」
最後に向かうはネオマギウス。
「そういえば、彼女たち生きているんでしょうか?
まあ、あの三人は生きてそうですが・・・」
「何かあったのか?」
「心根くんにケチョンケチョンにされたんです」
「それは・・・ご愁傷さまとしかいえないな」
そんなことを話しながら適当に路地裏に入ると、羽根たちに囲まれた。
「キャハ★私チャンたちはまた復活しました!」
「生きてて何よりです。はい」
笛吹は広報誌を藍家ひめなに手渡した。
彼女はパラパラとページをめくった。
「ふーん、
スキャナー?ノーストリリア?罪と栄光?そういうの読んだことあるの?」
コードウェイナー・スミスの小説はこの世界にも存在する。
「よくご存知ですね。僕も全部は読んだことはないんですが」
「まあねー★・・・まあ、文章はいいね。でも、内容は気に入らないなー」
ひめなは広報誌を栗栖アレクサンドラに渡した。
「それもそうでしょうね。でも、僕たちはあなたたちと戦争する気はないので安心してください」
「うーん、どうしよっかなー?戦争しちゃおうかな★どうする、時雨ちゃん?」
「・・・ぼくは別にどうでもいい」
「でもさー、すっごく気に入らない内容だし・・・」
笛吹はあることに気がついた。彼女はさっきから笛吹のポケットを見ている。
そこには、獅山から渡されたキモチの石が入っているのだ。
キモチの石を手に入れるために、脅しをかけているのだ。
というか、何が何でも戦争を仕掛けようとしているのだ。
「・・・急がなくてもキモチの石は逃げませんよ。
そうだ、レクリエーションとかどうですか?
僕の持っているキモチの石をめぐって魔法少女同士のレースとか。
PROMISED BLOODが消滅したので、そういうのは誰も抵抗がないと思いますよ。
なんといっても、血が流れない。最高じゃないですか」
すると、今まで黙っていた栗栖が口を開いた。
「・・・良い文章ですね。噂によると、小説を書いているそうで?」
「・・・ええ、拙いものですが」
「逆にできないことはないんですか?」
「算数ですね。0点取った時のかこさんの表情・・・。
人の表情ってあそこまで無に近づくんですね」
そこで、灯魂が機転を利かせた。
「彼のように、人間には誰しも得意不得意というものがある。
だからといって、それで人間の価値が変わるわけではない。
それは悠久の歴史が証明している。
魔法が使える使えないという点で、人間の価値は決まらないのさ」
これは
笛吹も灯魂の狙いに気づいたようだ。
「彼の言う通りですよ。大事なのは何を為したかということです。
別に魔法少女というものに無理にしがみつく必要はないんです。
何か好きな事、得意な事を極めればいいんです」
ひめなは少し唸った。
「むううう・・・。まあ、あなたたちの言う通りだね★
とにかく、今日のところはこれまで!」
「ええ、その方がいいですね。帰りましょう、灯魂さん」
「ああ、これからも仲良くやっていこう」
二人が帰っていった後、羽根たちは一斉に舌打ちした。
「持つ者には持たない者の気持ちなんてわからないんだよね」
やはり、ひめなは何かろくでもないことを考えている様子であった。
とにかく、こうして男子による組織が各勢力に接触したのだ。
この先、何が起こるか誰にもわからなかった。
転生者にも何が起こるかわからなかった。
だって、『原作』は崩壊して、今からは『現実』なのだから。
しかし、笛吹の頭の中は、今晩かこと一緒にラーメン士郎に行くことだけだった。
これからのことは、また後で考えるつもりだった。