あの頃、僕たちは輝いていた   作:ryanzi

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許されない

「ふーくん、このみさんと喧嘩しましたね?」

 

「・・・ハイ」

 

「かえでさんの家庭菜園を枯らしましたね?

しかも、お金で口封じしようとしましたね?」

 

「・・・ソノトオリデゴザイマス」

 

「後でお話ですからね」

 

「ハイ」

 

それはともかく、笛吹とかこは手をつないで夜の神浜市を歩いていた。

こうしてゆっくりとしていられるのは、ずいぶんと久しぶりだった。

最近は辛いことがたくさんあった。もちろん、良いこともあった。

灯魂に会えたのは、笛吹にとっては良い事だった。

ラーメン士郎は行列ができることで有名だが、今日は誰も並んでいなかった。

それでいて、店は開いている。しかも、店内から客の声はしない。

 

「よかった、今日は幸運でしたね、かこさん」

 

「ええ、そうですね」

 

店に入ると、笛吹は客がいない理由を一瞬で理解した。

店員が一人だけで、その店員の顔には見覚えがあった。

彼は間違いなく、ラーメン士郎のCEO、EMIYA/SHIROUに違いない。

おそらく、彼が何らかの能力を使って、人払いをしたのだろう。

 

「どうしましたか、ふーくん?」

 

「いえ、なんでもありませんよ?」

 

まさか世界的企業の社長が目の前に現れるとは思わなかった。

転生者というオーラよりも、世界経済を支配するする大物という雰囲気が勝っていた。

ラーメン士郎は前世でいうGAFAの一角に相当する企業だからだ。

ラーメンと社名にはあるが、実際には食料生産を掌握しているのだ。

しかし、笛吹はある程度スルーするということを学んでいた。

それよりも力が上手く入らない足と、さらにぼやけてきた視界が問題だった。

ここ最近、ストレスのせいか症状が悪化していた。

できるだけ、周りにはそれを隠し通そうとしていたが。

 

「・・・しっかり掴まってください」

 

かこにはそれさえも見抜かれていたようだ。

 

「僕は大丈夫ですよ、かこさん」

 

二人は手をつなぎながらカウンター席に座った。

 

「では、私は聖杯ラーメン大盛りで」

 

「僕も同じく」

 

SHIROUは頷くと、黙々とラーメンを作り始めた。

それは達人の域どころか神の域すら突破した早業だった。

 

「・・・」

 

彼は黙々と二人の前に聖杯ラーメンを置いた。

 

「「いただきます」」

 

ラーメンの味を表現するのは、語彙力のない作者にとっては至難の業だ。

極めて簡潔に言えば、それは数億年分の想いが詰まった味だ。

ただうまいだけでなく、そこに辿り着くまでの紆余曲折も感じられる味だった。

二人とも、黙々と食べた。言葉など必要のないうまさだった。

改めて、笛吹はSHIROUに敬意を感じた。

彼は気の遠くなるような年月を何度も何度も繰り返したのだ。

果たしてそこまでの年月が必要だったのかは理解できないが。

おそらく、彼が数億年で得たのはラーメン作りだけではないだろう。

もし心根が彼に戦いを挑んだとしても、あっさりと負けるに違いない。

それほどの力を得るための数億年、それは雰囲気で感じることができた。

間違いなくこの男はラーメンを作ったのと同じように敵を処理することができるに違いない。

転生者の強さは能力だけではない。彼らが経た年月も強さとなるのだ。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

二人は同時に食べ終わり、SHIROUはそんな二人の前に杏仁豆腐を置いた。

割引クーポンには杏仁豆腐の無料サービスも含まれていた。

そして、SHIROUは店の奥に消えていった。

 

「・・・不思議な店員さんでしたね。どこか人間離れしていると言うか」

 

「ええ、でも彼も僕たちと同じ人間ですよ。そんな気がするんです」

 

そう言いながら、笛吹はバッグからかこのために書いた本を、

三体、遠野森林を取り出した。

 

「これ、約束のものです。ほら、償いのための」

 

「・・・忘れてました、てへっ」

 

そう言いながら、彼女は三体の最初の部分を読み始めた。

 

「なかなか本気を出してますね・・・」

 

「ええ、自信作ですから」

 

かこはあることに驚いていた。

読み始めてから三ページになっても丸太と易経といったワードが出てこないのだ。

これは進化に近かった。笛吹が新しい境地に足を踏み入れている証拠だった。

というより、これSFのはずなのに何故か文革から始まっていた。

彼女は一旦本を閉じた。

 

「・・・また家で続きを読みますね」

 

「ええ、結構長いですからその方がいいですよ」

 

笛吹は既に杏仁豆腐を食べ終えていた。

実はというと、笛吹は意外と食べるスピードが早い。

だが、これでもいつもより遅かった方だ。

そして、かこはそれが何を意味するかを理解していた。

 

「・・・ふーくん、やっぱり辛いんですね」

 

「・・・ええ、すごく」

 

照星の自殺とPROMISED BLOODの壊滅は神浜市の魔法少女に大きな衝撃を与えた。

全ては悲劇に終わってしまったのだ。

そして、同時に神浜市と周辺の街の魔法少女はある不安を抱くようになった。

男子一人で魔法少女勢力を滅ぼすことに成功してしまったのだ。

キュゥべえも男子にそんな力があるとは把握していなかった。

そして、かこは笛吹が何か関わっていると確信していた。

 

「・・・本当は照星さんと友達だったんですよね?」

 

「・・・わかってたんですか?」

 

「そうじゃなきゃ、私の腕の中で泣かないはずですよ・・・。

それに、最近のふーくんは銃刀法そっちのけで帯刀しているじゃないですか。

・・・それ、照星さんが使ってた刀ですよね」

 

「ええ・・・やっぱりお見通しでしたか」

 

「言ってくれなきゃわかりませんよ。今の今まで、確信はありませんでしたから」

 

笛吹は静かに涙を流し始め、そんな彼をかこは抱きしめた。

彼は語った。笛吹と照星がどこでどう会ったのかを。

そして、観鳥令の死を偶然に知ってしまったことを。

その後、二人で復讐の計画を練ったこと。

笛吹がそれに協力した理由は、かこを守るためであったことも。

笛吹が大反対したにも関わらず、彼が自殺したことも。

彼がそれを受け入れざるを得なかったことを。

そして、計画のためにかこを騙したことも。

全てを語り終えた笛吹の両頬を、かこはつねった。

 

「い、いひゃいへひゅ・・・」

 

「・・・ふーくんのばか。後でお話だから」

 

そんなかこも、涙を流していた。

そして、そんな雰囲気をぶち壊すように由比鶴野が突入してきた。

 

「たのもー!はす向かいに店を立てるなんて営業妨・・・お邪魔しちゃった?」

 

厨房の奥からSHIROUが駆けつけてきた。

 

「そんな・・・人が近づかないようにしてたのに・・・」

 

すると、次の瞬間、信じられない事態になった。

 

「・・・護くん?護くんだよね・・・?」

 

「えっ、何で俺の名前を覚え・・・じゃなくて、俺はSHIROUであって・・・」

 

「嘘だよ・・・顔変わってるけど・・・えっ、護くん?

あれ?私、どうして会ったことのない人を知ってるの・・・?」

 

笛吹はとんでもないことが起こっているのを悟った。

 

「店員さん!料金はここに置いておきますね!」

 

「ひいふうみい・・・ありがとうございましたー!

・・・じゃなくて、俺を置いていかないでくれー!」

 

「かこさん、ここは二人きりにさせてあげましょう」

 

「は、はい!」

 

とりあえず、二人は近くの公園まで逃げた。

 

「・・・かこさん、僕は許されないでしょうね。

僕は多くの魔法少女を間接的に殺してしまった。

一回目は不本意とはいえ心根くんにさせてしまって、

二回目は故意的に照星くんに手を染めさせてしまった」

 

「・・・ええ、私も許さないです。

真実を知ったら、みんな、ふーくんを許さないと思います。

でも、嬉しいです。こうしてふーくんが話してくれたこと。

一緒に償っていきましょう。

少しずつ、少しずつでいいんです。一緒に償っていけばいんです。

補完機構(The Instrumentality)の活動でも、なんでもいいんです」

 

「・・・かこさん、少し泣いていいですか」

 

「さっきから泣いているじゃないですか・・・」

 

笛吹はずっとこの瞬間が続けばと祈った。

もう、原作とかどうでもいいから、こうしてかこと一緒にいたいと思った。

でもその思いは犯した罪を考えると、とても実現できそうになかった。

 

「・・・どうしようかしらねえ?」

 

笛吹に憑いていた結菜は精神世界からその様子を見ていた。

 

「結局、彼は罪悪感に耐えられなかったか」

 

スパシンも一緒にその光景を見ていた。

 

「あら、おじさん。来ていたのね」

 

「ああ、少々想定外のことが起こったがな」

 

「・・・あなたたちも何かとんでもないことをしでかしたようね?」

 

「・・・」

 

ともかく、時間は過ぎていった。

そして、次の日、笛吹はこの世界から姿を消すことになった。

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