あの頃、僕たちは輝いていた   作:ryanzi

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ただいまより演奏が始まります

鍵譜修也はついに大東区に帰ってきた。なぜか葬式ムードが漂っていたが。

彼は転生者である。それも原作介入せずにありのままに生きたいタイプの。

原作の悲惨な出来事なんぞ他の転生者が何とかすると思っていた。

そういうわけで、彼は巻き込まれまいと旅に出ていたのだ。

何も考えずに旅に出たが、意外とどうにかなった。服装も制服のままだったが。

思えばずいぶんと久しぶりだった。原作開始の一年前から旅に出たのだから。

西に向かって歩いていたら鳴門海峡を訪れることになった。

それで北の方に向かったら初めて自分の目で津軽海峡を見ることができた。

そして南に向かって歩き続けていたら、大東区に帰ってきた。

つまり、彼は本州を一回りしていたのだ。

ちなみに、転生特典は”楽譜を誰よりも早く読める”である。

各地でストリートピアノを弾くということも欠かさなかった。

・・・たまに酷い感想を浴びせられたが。

 

「譜面そのままでしか弾けないんじゃないのか?」

 

「正確だけどつまらない」

 

「アレンジが足りない」

 

それは彼が一番わかっていた。

前世の時からピアノは好きだった。いや、ピアノの音が好きだった。

それでも、楽譜を読むのが下手で好きな曲を弾けなかった。

だから、今回の人生の方が彼にとっては良かった。

楽譜を一回見るだけで、好きな曲をいくらでも弾けるのだから。

とりあえず、久しぶりに友達に会いたくなった。

同じ団地に住む幼馴染の相野みとに顔を見せなくては。

そうそう、伊吹れいらや桑水せいかにも。

その三人に会った後、転生者友達の仏英正史郎にも。

あと・・・まあ、心根光種にもとりあえず顔を合わせなくては。

修也は心根が嫌いだった。性格の問題ではない。一緒にいると不運な目に遭うからだ。

決まって、いかにも踏み台みたいな転生者が襲い掛かってくるのだ。

 

(・・・いや、心根は後回しでいいや。照星と令を優先しよっと)

 

二人は転生者と魔法少女という事実を抜きにしても、お似合いであった。

修也はそんな二人のことを応援していた。

照星は修也からしてみれば本当に素晴らしい人間だ。少し意地っ張りな部分があるが。

そんなことを考えていたら、菊の花束を持った正史郎にばったりと出会った。

 

「・・・お前、修也か?久しぶりだな」

 

「おっす、久しぶり!・・・誰か死んじゃったのか?」

 

「ああ、たくさんな。今回は、その中の二人に会いに行く予定だ。

お前も一緒に来い。アイツら、喜ぶと思うからな」

 

「・・・おーけい。誰が死んだんだ?」

 

死というものは転生者にとっては意外と身近な存在だ。

何しろ、彼らの構成要素自体に死が含まれているのだから。

死ぬことでしか、人は転生者になれないのだ。

一緒にしばらく歩いて、墓地に着いた。

 

「・・・照星、令、ようやく修也が帰ってきたぞ」

 

「ただいま・・・えっ、どういうこと?」

 

帰ってきたら、まさか死ぬとは思わなかった転生者と魔法少女が死んでいた。

 

「色々とあったんだ。・・・さっき言ったはずだ。たくさん死んだと。

まず、ネオマギウスに入っていた東の魔法少女たち。これは心根がやらかした」

 

「心根が!?アイツ、原作介入するような奴じゃなかったのに!?」

 

「事情があったんだ。次に、令が死んだ。ある奴の判断によると原作通りだったらしい。

PROMISED BLOODとの抗争で死んだらしいが・・・詳しいことはよくわからん」

 

「じゃあ・・・照星はそれで自殺したのか?」

 

「最終的な結果はそうなる。だが、奴はその前にPROMISED BLOODを壊滅させた」

 

「壊滅って・・・そんな・・・」

 

転生者でも魔法少女でも死ねば骨になって墓石の下に眠ることになる。

ごくごく普通のことに、修也は直面していた。

 

「・・・心根は何をやっていたんだよ?アイツ、照星を止めなかったのか?」

 

「アイツは家から一歩も出られる状態じゃなかった。

魔法少女たちに見張られていたからな。ネオマギウスの件でだ。

逆にそれがアイツの命を救ったともいえる。

もし、アイツに容疑がかかってたら、今度こそ極刑は間違いなしだったはずだ。

・・・念のため聞くが、自分がいれば何とかなったとか考えてないよな?」

 

「考えれるわけないさ。俺の能力は知ってんだろ?

・・・それにしても、勢力が一つ壊滅か。

こりゃ原作とやらは終わったんだろうな?」

 

「そういうことになる。ただし、新しい勢力が現れた。

補完機構(The Instrumentality)、二人の死を繰り返さないためとかほざいている組織だ。

今のところは転生者二人だけの組織だがな。それでも強いのは確かだな」

 

「お前は・・・ああ、そうか。タルト様とやらで忙しいか」

 

「それもあるが、俺はとにかく気に入らん」

 

「何がだよ?」

 

「・・・お前は知らなくていい。知らない方が良いともいえる。

とにかく、家に帰ってゆっくり休んでろ」

 

もう、何も理解できなかった。

その後のことはよく覚えていない。

だが、確実なことは団地に帰っていなかったということ。

彼は今、大東学院の音楽室のピアノの前にいた。

気付いたらここに辿り着いたのだ。

楽譜などなかった。いや、今まで持っていたような楽譜などなかった。

今の彼にとっては神浜の騒音が、大東区を包む悲しい雰囲気が、

何よりも照星と令との思い出が楽譜であった。

どうしてピアノを弾こうとしているのか。わからなかった。

ただ、何か悲しみを紛らわしかった。

ただ、無力感を紛らわしかった。

二人が死んだという事実さえ、紛らわしかった。

修也はただただ自分が憎かった。のうのうと帰ってきた自分が。

のうのうと生きている自分が。・・・何もできなかった自分が。

悲壮な旋律が音楽室を満たす。

だが、この旋律はほんの序章に過ぎなかった。

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