目を覚ますと、そこらに散らばっている小さな瓦礫以外に大東学園の面影は残っていなかった。
「・・・休校だって喜ぶべきなのかな?」
「何馬鹿言ってやがるです???」
ギンとメルはかすり傷を負ったくらいで済んだ。
二人は笛吹と修也を探し始めた。
「・・・学校にいたのが俺たちだけで良かったな、本当に。
もしかしたら、死人が出ていたかもしれなかったし」
「余計な心配すんなです。もしボクたち以外にいたとしても、
その時はその時でギンちゃんのように保護したと思うです」
「それもそうか」
修也は意外とあっさりと見つかった。
ピアノにしがみついたまま気絶していたのだから。
ちなみに、腕は二本に戻っていた。
「よかった・・・元に戻ってる」
「・・・少し嫌な予感がするです」
「またピアノを弾き始めるとか?」
「そういうわけじゃないです・・・これ後で絶対尻叩かれるに決まってるです」
ギンにはメルが何を恐れているのかわからなかった。
その時、マントを付けた少女が近づいてきた。
「しゅ、修也くん!」
その少女は修也に駆け寄ると、彼の胸に手を当てた。
「良かった・・・生きてる」
さらにもう二人少女が近づいてきた。
どうやら、彼女たちは修也の知り合いのようだった。
「・・・修也はあの子たちに任せるですよ。
ボクたちは笛吹くんを探したほうがいいです」
「了解っと」
しかし、笛吹はなかなか見つからなかった。
ギンの脳裏に修也が言っていたことがちらついた。
「・・・代償ってまさか」
ありえない、と考えたかった。でも、こんなことが起こるくらいだ。
あの青年がこの世から完全に消え去ってしまっていても・・・。
「縁起でもないこと考えるなです」
「ぐわあああ!?」
股間に蹴りを入れられた。
「笛吹くんがそんなことで死ぬわけないです!どうせ生きてるですよ!」
「・・・そ、そういえば知り合いだったの?」
「ええ、生前に何回か会ったことがあるです。
笛吹くんは易経というのをよくやっていたので」
「エキキョウ?」
「占いの原型みたいなものです」
そりゃ色々と気が合いそうだ、とギンは思った。
だが、いくら探しても笛吹は見つからなかった。
困ったことになった。左腕も何とかしなくてはいけない。
「困ったな」
ギンは困ってしまった。
「二回も繰り返すなです」
「いや、ふざけないとやっていられないというか」
「ボクはもっとやってられない気分ですよ!
左腕持ってかこさんにこれが笛吹くんですって言えるわけないです!」
「それは見物ね。ぜひ、見てみたいわ」
金棒を持った少女が立ちはだかった。
「あっ、結菜!お前、まさか復活しやがったですか!」
「ええ、アンタと同じ手を使ってね」
結菜の背後に、続々と柄の悪そうな少女たちが現れた。
「結菜さん、こいつらどうするっすか」
「今は見逃しておくわ・・・それじゃあねえ」
少女たちはどこかに消えていった。
ギンは考えるのをやめた。
さっきから、わけのわからない事態が連発していたからだ。
修也の非人間化、笛吹という青年の登場、二人の戦闘、メルの復活、大東学園の消失・・・。
そもそも、戦闘自体が理解不能だった。事象を操る戦闘など見たことがなかった。
「メル・・・?メルなのか!?」
さらにわけのわからない事態になった。
高等部の和泉十七夜が軍服みたいな恰好で現れた。
「げえっ、十七夜先輩!これはボクのせいじゃないですよ!」
「んなもん言われんでもわかってる。お前にこんなことできないからな」
十七夜はそう言って辺りを見回した。
「それで・・・そこのお前、お前が持っている左腕と刀はなんだ?」
「・・・笛吹という奴のものだった」
「そうか、あれの・・・笛吹はどこに?」
「「行方不明です」」
「そりゃまずいな・・・灯魂とかいう男は何をやってるんだ?」
その時、スクリーンが彼らの前に現れた。
「こっちも捜索中だ。でも、彼の生存反応が一切見当たらないんだ。
・・・俺が止めておけばと、役に立たない後悔の真っ最中だよ」
スクリーンがふっと消える直前、そこに映っている男は言った。
「・・・少なくとも、神の誕生を見たのは確かだ」
神、確かに笛吹という青年は神に等しい存在となっていた。
あらゆる事象を操ることができ、敵を敗北させることも自由自在だった。
「くだらん・・・奴が神になったというなら、どうしてこんなことになった?」
十七夜はそう吐き捨てたが。
「こりゃひどい状態だなっと・・・やっぱ左腕だけかよ」
「・・・ええ、最悪の状態ね。かこさんに家の中にいるように言って正解だったわ」
今度は鉤爪を装備した少女と白い衣装に身を包んだ少女が現れた。
「美国織莉子さんですね」
「知ってんの、メル?」
「笛吹くんの友人です、というかアンタ結果わかってたですか?」
織莉子は溜息をついた。
「そう言われても、今朝急に視えたんだもの。
それに、本当はもっと悪い状態になってたかもしれないわ。
心根とかいう男が両腕失って解決できるくらいの状態にね」
その言葉に、十七夜は蒼ざめた。
「心根でも・・・?何が起こるはずだったんだ?」
「殺戮、それもあなたたちやキュゥべえでさえ知らない力による。
私が視た未来だと、心根はそれをE.G.Oとかって言ってたけど」
「E.G.Oだと!?それは心根しか扱えない力のはずだ!」
「あら、知ってたのね?とにかく話を進めるわ。
そのE.G.Oとかいう力を発現させたのは夏目かこという魔法少女よ。
多分、笛吹くんの左腕を見て彼が死んだと思ったんでしょうね」
ギンにはやはり彼女たちが何を話しているのか理解できなかった。
それよりも気になったのは、修也の処遇だった。
彼女たちが只者ではないことはわかった。
今のギンにはそれがなんとなく理解できるようになった。
どういうわけか、彼女たちから謎の力を感じるのだ。メルからも同じように。
そんな力を持った彼女たちは、修也をどうするのか不安になった。
「・・・さて、用があるのはあなたの方にもよ。
確か・・・ギンくんでいいかしら?」
「それでいいよ。それで、何か用なの?」
「いえ、ただの警告よ。あなたは強大な力を持ちつつある。
多分、この爆発に巻き込まれた影響でしょうね。
まだ不吉な未来はあなたに関しては視えてないけど・・・。
それでも、気を付けて。力に吞まれないで」
なるほど、ギンは納得した。
確かにあんな戦いに巻き込まれたら何か覚醒しそうではありそうだ。
「・・・ところで十七夜先輩、どうするですか?」
「どうするとは?」
「修也のことです」
「まずは裁判だな。さすがにこれは見逃せない」
メルと十七夜の会話を聞いて、ギンは少し不安になった。
裁判?謎の力を持った少女たちによる裁判?
果たして、ちゃんと法律に則ったものになってくれるのか?
「あと、お前は尻たたきだ」
「ボク悪くないですよ!?」
「今すぐじゃない。
裁判で叩く回数を決めるから、安心しろ」
「ボク無罪ですよ!?」
「皆を悲しませたという罪があるからな」
「そんなあ・・・」
とにかく先行きは不透明。ギンは不安になった。
「こりゃ酷いな・・・スカっとしたけど」
「光、そんなこと言っちゃダメじゃない。私もスカっとしたど」
「光お兄ちゃんに姉ちゃも・・・ミィもだけど」
不穏な会話が聞こえた気がしたが、気のせいに違いないとギンは無視した。