気まずい空気が流れた。とにかく気まずい空気が流れた。
もう気まずいとしか言いようがないのだ。
「こ、こ、これ、笛吹くんの左腕です」
「・・・」
結局、嘘をついて誤魔化した方が悪化するという結論に至った。
メルの右隣では灯魂が土下座をしていた。
その左隣では、かこが暴走した場合に備えて心根が立っていた。
「・・・そのひだりうでにせものですよね?
どうしてそんなおもしろくもないじょうだんをいうんですか?」
かこのソウルジェムが急速に濁り始める。
(あっ、駄目だこりゃ)
とっさに心根がE.G.Oでかこを気絶させて、事なきを得た。
織莉子がよくやってくれたと言わんばかりに親指を立てていた。
とにかく状況は最悪だった。
笛吹行方不明の報は数日中にあらゆる魔法少女勢力に伝わった。
もちろん、転生者たちにも伝わったが、それは後にしよう。
まずは魔法少女たちの反応に関してだ。
「・・・笛吹文雄って誰ですか?」
色々な意味で最悪の反応を示したのは環いろはであった。
彼女は
マギアレコードは少女たちの物語だから、男子を知らないのは多少はね?
・・・なんてことでは済まないのは当然だった。
「・・・アンタ、それ正気で言ってるのよね?」
「は、はい」
「レナ、信じられないんだけど」
「ふゆう・・・笛吹くんのことも知らないの?」
結果として何が起こったかといえば、神浜マギアユニオンでの支持率が大幅ダウン。
笛吹本人も信じられないと思うが、彼は神浜市を救った英雄として知られていた。
まあ、その分、PROMISED BLOOD壊滅時の失望が大きくなったのもそのせいだが。
「いろは、君とは初対面ではないが嫌いになった」
「煉獄さん!?」
「お姉ちゃん・・・これ以上私を失望させないで」
「うい!?」
「小説兄ちゃんがいなくなったのにその態度ですか。
そんなあなたにういを任せられません、俺がもらいますね」
「調子に乗んじゃねえぞ、このマセガキ!」
後にういは語る。あんな暴言を吐いた姉は始めて見た。
環いろはとレナ弟の喧嘩が始まってしまった。
「ストラーダ・フトゥーロ」
「我流 日の呼吸 壱ノ型 円舞」
ボヤ騒ぎで済んだものの、一歩間違えれば火事決定だった。
後にやちよは語る。あんなにういの説教が怖い物とは思わなかった。
さて、時女一族はというと・・・。
「しばらく喪に服すことにしましょう」
静香の提案で、日本中の巫が喪に服すことが決定した。
神浜市外にいる巫からしたら、なんのこっちゃという感じだったが。
土岐すなおは自分の迎えるであろう末路に思いを巡らしていた。
人を殺したという点で、彼女と笛吹の間には不思議なつながりがあった。
そんな彼が、裁きを受けたかのごとく姿を消してしまったのだから。
広江ちはるは色々と忙しかったが、それは後で説明しよう。
ネオマギウスは臨戦態勢に入っていた。
目障りな『男子』が消えてラッキー、と彼女たちは考えなかった。
むしろ逆だ。これから『男子』が増えると予想したのだ。
「・・・こりゃ厳しいことになるね」
「ええ、そうでしょうね・・・」
(・・・二人が真面目に!?)
さて、ピュエラケアはいつも通りであった。
「ふふん」
「そもそも広報誌だけ持ってきただけの奴に構う意味はないと言っています」
「せやな。まったく、ご近所づきあいは大事だってのに・・・」
さて、構成員が一人になった
ちはるはそれを気にして何度もメールや電話をしたが、一向に応じる気配がない。
そこで彼女は灯魂に直接会うことにした。
「・・・そういえば、章くんってどこにいるんだろ?」
まず居場所がわからなかった。
そこで笛吹の知り合いに聞いてみることにした。
「だからって、私に頼む必要もないだろ?」
「笛吹くんの知り合いの魔法少女はこの事態で忙しいので・・・。
それに、心根とかいう男の子も引っ張りだこの状態だから」
「なるほど、暇そうな私に回ってきたということか」
碑石は彼女を再建が急に始まった市役所の前に連れてきた。
「・・・ここは」
「以前、白谷氷河という奴がここで神浜市を操っていた。
それは君もだいたいは把握しているはずだ。
そして最近、急に市政がようやく動き出したんだ。
おそらく、灯魂くんが市政をコントロールし始めたんだ」
「えっ、何のために・・・」
「リソースのピンハネと魔法少女たちの監視」
「・・・章くんはそんなこと絶対しないよ」
「絶対的な権力は絶対的に腐敗する、ということわざがあってね」
ともかく、二人はエレベーターで市長室に降りて行った。
「まさか、あの中国人がボクに権力を返してくれるとは・・・最高だ!」
そこにいたのは灯魂ではなく、氷河だった。
二人は地上にさっさと戻っていった。
「・・・私と君は何も見なかった、いいね?」
「あっ、うん」
振り出しに戻ってしまった。色々な意味で。
「氷河のことはこのはさんに報告しておくとして・・・灯魂はどこにいるんだ?」
以外にも、その居場所はすぐに判明した。
日本の街並みには似つかわしくない四合院が見つかったからだ。
四合院とは伝統的な中国家屋のことである。
「ここが章くんのお家か・・・」
ドアに鍵はかかっていなかった。
「失礼しまー・・・なに、この匂い?」
アルコール臭が鼻を突き刺してきた。
「・・・ちゃるか。すまんな、こんな惨状で」
すっかり無気力そうな状態の灯魂がソファーから立ち上がった。
「俺という男はずいぶんと思い上がっていたようなんだ。
この日本人少年の能力は高いが、俺無しではやっていけないだろうってね。
ところがどっこい、彼無しでやっていけなかったのは俺の方だった。
・・・君がずいぶんと眩しく見えるよ、ちゃる。
左腕を切断されかけてもなお、君は立ち上がっている。
笛吹もそうだった。彼は左腕を切断されても、なお戦い続けた。
・・・ヒーローっていうのは、君や笛吹の人種のことを指すんだろうな」
「・・・碑石さん、ここは私に任せて」
「・・・おう」
碑石は一人病院に帰っていった。
「先生、ふーくんの左腕と私の左腕を交換してください」
「・・・何が何だか、わからない・・・」
笛吹を失ったかこはどこかが狂ってしまった。
院長はそんな彼女の無茶振りに対応できなかった。
仕方がないので、碑石はいつもの野原に行くことにした。
ようやくのんびりできると思ったら、そこには無花果がいた。
「僕は善人のふりをするのをやめるぞー!笛吹ィィィィ!」
碑石は考えるのをやめた。