あの頃、僕たちは輝いていた   作:ryanzi

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初めて小説が喜ばれた日

笛吹は今日もノートパソコン(能力を使って出した高性能もの)を使い、小説を書いていた。

南凪区の海浜公園は、目を休めるのにもうってつけだった。

前世に置いて、彼の小説はハーメルンでは見向きもされなかった。

笛吹は、自分の小説が見向きもされないのは、文才のなさが原因だと思っていた。

それでも、彼は今回の人生でも小説を書いていた。

幼馴染みたいな関係のかこからも酷評されようが書いていた。

理由はない。彼は常に何かを書くのが好きだった。

思えば、彼の人生は常にそうだった。

好きだからそのことをするのだが、それが人に認められることはなかった。

前世でハーメルンに小説を投稿したが、お気に入りすらつかなかった。

この人生でも、かこを泣かしてしまうくらいだ。

自分には才能がない。それはわかっていた。

でも、好きだから。そうでなければ、四半世紀もこんなことはしていない。

 

「・・・いい小説」

 

「へっ?」

 

気がつくと、隣に見知らぬ少女が座っていた。

そして、その少女は彼の小説を良いと言ってくれたのだ。

そんなこと言われたことなかったから、つい間の抜けた声を出してしまった。

ちなみに、ちょうど書き終わったところだったので、集中は途切れてもよかった。

 

「・・・見せてくれる?」

 

「あっ、少し待ってくださいね」

 

彼は印刷ボタンを押した。

すると、留められた状態で印刷された。

普通のノートパソコンだったら、不可能だ。

しかし、このパソコンは能力で作ったのだ。

不可能なことなど、ない。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

両者にとって、長く感じられる沈黙。

 

「他には、ない?」

 

「あ、ありますよ」

 

笛吹はまたもう一つ印刷して、少女に手渡した。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

また、沈黙が訪れる。

 

「・・・ありがとうございます」

 

「いえ、あまり上手く書けていないので・・・」

 

「上手く、書けてたけど?」

 

「そ、そうなんですか・・・」

 

「持って帰っていい?」

 

「いいですよ。・・・他のも印刷しましょうか?」

 

「お願い」

 

彼は内心狂喜乱舞しながら印刷した。

 

「あっ、バッグも貸しますね」

 

「いいの?」

 

「大丈夫ですよ」

 

笛吹は初めて、自分の小説に自信を持つことができた。

文才はないかもしれないが、それでも自分のSF小説が良いと言われた。

その日、彼は良い気分で家に帰っていった。

その夜、少女こと柊桜子は笛吹の小説を読みふけっていた。

 

「桜、何読んでるの?」

 

「ねむ、このSF小説面白い」

 

「どれどれ・・・」

 

同志エレクセイの言ったことを真剣に受け止めていれば。

彼は深く後悔した。閉め切っていたカーテンを開ける。

家々の窓から漏れ出る光と街灯が、星々の代わりを担っていた。

あの光は、常に何かを燃やしているのだ。星々も何かを燃やして生きている。

夜の世界が終わると、太陽が”時間”を燃やすことになる。

そして、彼は人民焚書委員会として、多くの本を燃やしてきた。

このままでは、()()()()()が燃えることになってしまう!

だとしたら、こんな狂気は誰かが止めなくてはいけない。

太陽や、星々や、街灯が、それを止めてくれるはずはない。

だとしたら、自分がそれを止める必要がある。

何かを燃やすことを、彼自身だけでも止める必要がある。

ウォッカをもう一杯飲む。落ち着いた彼は、もう一度、易経を始めた。

やはり、結果は同じだ。自分はKGBの手に落ちることになる。

では、その末路は?さらに、易経を続ける。

結果はわかりやすかった。シベリア行き!

そこで彼が凍死することになるのは、はっきりとわかっていた。

でも、恐怖は感じなかった。もう、命を燃やさずに済むからだ。

ドアが破壊される。KGBが一人ずつ丸太を抱えながら、突入してきたのだ。

そして、彼らはミハイルをその偉大なる叡智で気絶させた。

だが、ミハイルの顔に苦痛はなかった。

これまでの命を燃やす苦痛に比べてみれば、なんということはなかった。

 

小説の一節を見たねむは言った。

 

「桜、これSFはSFでも、Soviet Fictionだよ」

 

「そう?」

 

「まあ、文章は悪くないね。他の借りていいかい?」

 

「いいよ」

 

次の日、みかづき荘に夏目かこは呼び出された。

 

「あなたがかこさん?ねむを助けて!」

 

この前の事件の諸悪の根源である里見灯花が泣き付いてきた。

 

「えっと・・・一体どういうことですか、いろはさん?」

 

「・・・ねむが、ずっとあんな調子なんです」

 

「宇宙の真実は42本の丸太なんだ!どうして、いろはも灯花も桜もわかってくれないんだ!?」

 

「ねむ、現実と小説を区別して」

 

「易経は真実なんだ・・・。誰か、僕の言うことを信じてよ!」

 

「あれはただの占いだから」

 

車椅子に座っている少女が必死の形相で変なことを訴えていた。

その傍にいる桜子はその少女を宥めようとしている。

 

「ふーくんの小説!!」

 

かこはドラや菌を見たドラえもんの表情をしながら叫んだ。

 

「えっ、ふ、ふーくん?」

 

「いろはさんは知らなくて当然でしょう!

あれは常人が読めるようなものではないんです!」

 

「それはどういった感じに・・・」

 

「レーザー銃から丸太が飛んでくる感じですね。

それを綺麗な文章で書くから、余計にタチが悪いんです」

 

「面白かったのに・・・」

 

「いろはさん、桜さんにまともな小説を読ませましょう」

 

「そうだね」

 

その頃、三栗あやめは喫茶店で文章の書き方を笛吹に教えてもらっていた。

 

「笛吹先輩、すっごく文章上手いじゃん!」

 

「そうですか?」

 

あくまで、読書感想文の書き方なので、丸太も易経も出てこない。

かこ曰く、普通の文章題だったら完璧とのこと。

 

「あやめさんもすごいですよ。飲みこみが早いですから」

 

「そ、そう?あちし、先輩と比べると・・・」

 

「大丈夫ですよ。この調子なら、コンクール狙えますから」

 

「・・・あちし、頑張る」

 

「その調子ですよ。・・・ところで、小説書いてみませんか?」

 

彼は才能がなかったということに苦しんでいた。

だが、そんなことで彼はもう苦しまなかった。

その後、あやめの書いた小説を読んで、ななかは体調を崩した。

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