あの頃、僕たちは輝いていた   作:ryanzi

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ありがとう、さようなら水名女学園

笛吹は本当に迂闊であった。

この文化祭には、外部の人間も来るのだ。

もちろん、他の学校の魔法少女も。

そして、今回、笛吹は自信作を書き上げた。

正確に言えば、自信作「たち」だ。

あの綺麗な装飾の本はSF短編集なのだ。

その中の一つ、”変わらない大切な日常”は特に自信があった。

基本的にSFは「人間を描いていない」という批判を受ける。

だが、この短編はSF的な未来でも変わらない甘い学園恋愛を描いているのだ。

 

「甘酸っぱい小説だね。まるで青春小説だね」

 

「ブラックコーヒーが飲みたくなるよー!甘すぎるよー!」

 

だが、十分後にこの会話は変貌する。

 

「素晴らしい丸太だね。まるで聖書だね」

 

「易経がやりたくなるよー!」

 

ほい、こういうことだ。

だが、読者の中でも正気を保てた者はいた。

 

「ふ、ふゆ・・・かこちゃん・・・もしもし・・・」

 

「もしもし、かえでちゃん?声が弱々しいけど・・・?」

 

「引き・・・返して・・・ふゆ・・・危険な本があるから・・・」

 

「・・・作者名は?」

 

「ふ、ふえ、ふ、・・・ふゆう・・・何人か、ひどいことに・・・」

 

電話が切れた。

かこはチームななかの仲間と一緒に行動していた。

 

「・・・ななかさん、笛吹さんが小説を向こうで出しているそうです」

 

全員に戦慄が走る。彼女たちは、笛吹の小説の危険性を理解していた。

特に、ななかは先日、あやめの小説を読んで、間接的にそれを体感したのだ。

そんなことは露知らず、笛吹は善意で危険物を配布していた。

ああ、もし彼がかこに秘密にしていなかったら!

犠牲者はもう少し減っていたはずだったのに!

 

「さて・・・そろそろ昼ご飯でも食べに行きますか」

 

「ボクは留守番してるね・・・ゲフッ」

 

こうして、笛吹、碑石、正史郎の三人は飲食スペースに向かった。

そこには、北養区名物のオムライスが出されているというのだ。

 

「うまい!うまい!うまい!」

 

なんか一部の読者が怒りだしそうな先客がいた。

 

「おい、碑石。あれは・・・」

 

「間違いないね、煉獄杏寿郎だ。私も前世で名前くらいは知っていた」

 

「おいしそうに食べてますねー。・・・二人とも、どうしましたか?」

 

そして、その男は三人に気づいた。

 

「おっ、そこの君たち。一緒にどうだい!」

 

「あっ、ではお言葉に甘えますね!」

 

笛吹は、鬼滅の刃のことは知らないようだった。

 

「まなか、オムライスを頼む!この三人の分も!」

 

「はーい!」

 

笛吹は少し考えて、煉獄に聞いた。

もしかして、この男は転生者ではないのか?

 

「あの、もしかしてあなたはて・・・」

 

すると、煉獄は笛吹の口をおさえた。

 

「少年!そういうことは抜きにしようじゃないか!

というより、俺は君の聞こうとしたものとは違うからな!

しいて言えば、本人とやらに当たるそうだが・・・まあ、そんなことはいいだろう!」

 

「・・・そうですね!」

 

ちなみに、急に周りの一部の女子が騒がしくなった。

 

「BLが嫌いな女子なんていません!」

 

一方その頃、氷河は一人でスペースの管理をしていた。

スクリーン越しに市長をやれる人間なので、これくらいは簡単なのだ。

しかし、来たる破滅には抗いようがなかった。

 

「あっ、氷河くんじゃないですか!」

 

「・・・久しぶりだね、かこさん。あと、ななかさんとあきらさんも」

 

「お久しぶりですね」

 

「・・・」

 

「あと、そこの子は・・・」

 

「純実雨アル」

 

「中国から来たのかい。笛吹くんが興味持ちそうだ。

彼、最近は・・・おっと、これ以上は言えないね」

 

氷河は段々といつもの調子を取り戻していた。

 

「ところで、君たちは何をお求めに来たんだい?

笛吹くんの小説かい?工匠区の職人の卵の工芸品?

それとも・・・どうしたんだい?かこさん、ななかさん、あきらさん?

どうして、そんなに悲しそうな表情しているのさ?」

 

「・・・氷河くん、変わってしまいましたね」

 

「かこさん、何もかも変わるものさ。変わらないものがあるとしたら、

それはせいぜい笛吹君の小説の作風くらいだろうね」

 

氷河は本を一冊、人差し指と親指でつまみ上げる。

 

「それにしても、綺麗な装飾だよ・・・。

これはルビーかな?宝石まではめているなんて。

こんな美しい芸術品を壊そうとする輩がいるなんて信じられないよ」

 

彼はおどけた表情で、彼女たちを見つめた。

全てお見通しだった。彼女たちの行動パターンは読めているのだ。

 

「ボクは物を壊される苦しみと悲しみを知っているんだ。

純さんは事情を知らないだろうけど、かこさんたちは知っているはずだよね?

ボクは笛吹くんの唯一の理解者ともいえるね」

 

言っておくが、氷河はノンケの部類に入る。

ただ、スクリーンで転生者を監視する必要があり、笛吹の苦悩も知っているのだ。

まどマギにBL持ち込むような奴がいたら、見てみたいよ。

 

「笛吹くんはいつも苦しんでいるんだ」

 

その頃、笛吹たちはオムライスを食べていた。

 

「「うまい!うまい!」」

 

「・・・正史郎くん」

 

「言うな。俺だってこいつら怖いんだ」

 

一旦、視点を戻そう。

 

「・・・氷河、あなた、すっかり頭がやられてしまったようね」

 

「ななかさん、そんな言い方はないじゃないか。

言っておくけど、ボクもさすがに笛吹くんの小説を読む気にはなれないよ。

ほら、見てよ。あの惨状を」

 

氷河は阿見莉愛を指差した。

 

「はあ、はあ・・・丸太。丸太が欲しいですわ・・・。

どこにとは言いませんが、入れたいですわ・・・」

 

色々と手遅れな彼女を見て、氷河は冷笑した。

 

「脳みそ溶かされるのは、ごめんだね。

それで何の話をしていたんだったけ?

そうそう、ボクが笛吹くんの唯一の理解者だっ・・・」

 

次の瞬間、氷河の目は驚きで丸くなった。

こんな態度を取っていれば、あのななかの怒りが見れるはずだと思っていた。

しかし、彼の胸倉を掴んでいたのは、夏目かこであった。

 

「・・・誰が、ふーくんの唯一の理解者だって?」

 

「ボクだよ。ボクこそが、彼を理解できる唯一の人間だ」

 

氷河には自信があった。笛吹が転生者だという重要な事実を知っているのは彼だ。

彼からすれば、かこはそうした事実を知らないただの魔法少女に過ぎなかった。

だが、次の瞬間、信じられない言葉が彼女の口から発せられた。

 

「私は、ふーくんの小説を幼い時から読んでいるんです」

 

信じられないことだった。彼女は、正気を保っている。

いや、知っていたはずだ。今まで、気にも留めていなかっただけで。

だが、よく考えたらおかしい。なぜ、彼女は正気を保っているのだ?

笛吹の小説を読むことは、宇宙的恐怖に直面するに等しいのに。

 

「ふーくんの小説を読んでもいない奴が、ふーくんの理解者?

冗談も度を過ぎると、殺意が湧きますよ?」

 

胸倉を掴む力がどんどんと強くなる。

 

「・・・訂正するよ。ボクは、彼の理解者じゃなかった。

でも、彼の小説を破壊することが、理解者のすることなのかい?」

 

「理解者だからこそ、友達だからこそ、止めるんです」

 

かこはまだ胸倉を掴んでいたが、掴む力は弱くなっていた。

その頃、笛吹たちは楽しくデザートを食べていた。

 

「はい、煉獄さんにはスイート・ポテトです!」

 

「わっしょい!わっしょい!」

 

「煉獄さんが食べているのを見ているだけでも幸せです!」

 

煉獄を除く三人はブラックコーヒーを頼んだ。

あまりにも、甘すぎるからだ。

ちなみに、作者は二十一巻まで読破してるぞ。

どうして残り二巻は読んでないかって?

美術の先生が持っていなかったからだ!

視点を戻そう。

 

「友達のすることが、本を燃やすこと?」

 

「そうです。友達が人を殺めようとしているのに止めようとしないのは、友達失格ですから」

 

「ああ、君の言っていることは正しいよ、かこ。でも、ボクにだって信念はある。

ただ、その信念が、君の正しさと合わないというだけなんだ」

 

氷河はかこの手を無理やり突き放した。

 

「ふう、苦しかった・・・。さて、三冊ぐらいは守り抜くとするか!」

 

氷河は三冊本を取ると、それを抱えて走り出した。

 

「ななかさんたちは、小説の処分をお願いします!

私は氷河くんを追いかけますので!」

 

それから水名女学園を舞台とする追いかけっこが始まった。

長い間、地下に引きこもっていた氷河は、足の速さでも、スタミナでもかこに負けていた。

しかし、彼には代価を払うことで物を得られるという能力がある。

そして、それは概念にも及ぶ。例えば、「結果」だ。

彼は能力をちまちまと使って、危うい状況から脱した。

完全に逃げ切るわけにはいかなかった。

なぜなら、一冊は笛吹に託す必要があったからだ。

そして、ようやく笛吹のところに辿り着いた。

 

「笛吹くん、かくかくしかじか!」

 

「なるほど!そういうわけで、煉獄さん!僕は逃げますね!」

 

「無事を祈るぞ、少年!」

 

煉獄はわかったようだが、二人には彼らがどんな会話をしたのかわからなかった。

なぜなら、笛吹と氷河はろくな会話をしていなかったからだ。

ちなみに、まなかはどういうわけか、煉獄と同じように理解できたようだが。

笛吹は自分の本を抱えて、水名女学園から脱出できた。

どうやらかこは氷河の方を追っているようだ。

 

「待ってください、ふーくん!」

 

訂正、かこはどういうわけか笛吹に狙いを変えたようだ。

彼は逃げる。とにかく逃げる。だが、彼女の気配はどんどん迫っていた。

転生者とはいえ、一般人だ。体力は向こうの方が上だ。

水名大橋の上に差し掛かったとき、笛吹はついに決断した。

彼は橋の上から、川に飛び込んだ。あとは、川の流れが彼を導いてくれる。

その頃、ようやく誰もが昼食を食べ終えていた。

ひと段落ついたまなかは、煉獄のところに向かった。

 

「煉獄さーん!」

 

「よくやったぞ、まなか!」

 

煉獄は彼女の頭を撫でた。

 

「えへへ~」

 

碑石はとにかく気になることが多すぎた。

一体、魔法少女と柱はどんな関係なのか?

というより、どうして柱がここにいるのか?

完全に別作品のキャラ、しかも本人がなぜかいる。

 

「・・・あっ、大変です!ガス点けっぱなしでした!火!」

 

「それは大変だ!炎の呼・・・」

 

碑石の疑問は物理的に吹っ飛んだ。

南凪区の海浜公園、笛吹はどこからともなくやってきた爆発音に耳を傾けた。

北西の方を見ると、見慣れないキノコ雲が現れていた。

 

カクテ世界ハ変ワリユク

 

いったい、何の小説のセリフだったか?そんな言葉が脳裏によぎった。

彼は身震いした。寒い。やっぱり寒い。はやく家に帰らなくては。

本は耐水性なのでまったく濡れていないが、服と体はそうはいかない。

それに、塩水をかなり飲み込んでしまった。水分補給も必要だ。

タオルと着替えと、ペットボトル一本のスポーツドリンク。

彼がいま一番欲しいものであった。

 

「ほら、タオルと着替えと、スポーツドリンクですよ」

 

「ありがとう、かこ・・・・さん?えっ・・・?」

 

なぜか一番捕まりたくない人が、目の前にいた。

しかも、笛吹が欲していたものを抱えて。

氷河は苦虫を嚙み潰したような表情をして、その様子をスクリーン越しに見ていた。

彼は用事を済ませたので、市役所まで一気に逃げたのだ。

本当は販売スペースに戻るべきだったのだろうが、

 

「どうせここに来るだろうと思っていたんです。

その時には、ふーくんは濡れてるし、喉もカラカラでしょ?」

 

「・・・本は見逃してもらえませんかね?」

 

「タオルと着替えと、ドリンク、あげませんよ」

 

「すみませんでした」

 

「はい、この一冊は私が責任を持って厳重に保管しておきますね。

家に帰ったら、少しお話がありますよ?」

 

「ふえええ・・・・」

 

氷河はスクリーンの電源を落とす。

かこは本当に笛吹の唯一の理解者だった。

彼の逃げる場所、その時の彼の状態まで、全てを予測していたのだ。

だが、今はそれよりも、爆発で崩壊した水名女学園をなんとかする必要があった。

 

「ねえ、市長。これ姉ちゃの料理と同じオーラがするんだけど???」

 

「気にしないでいいよ。とりあえず、一冊はみたまさんに渡してくれ。

一冊はボクが保管しておくから。気が向いたら、読んでみるよ」

 

とにかく、これは予行演習だ。神浜市全域をいつか吹っ飛ばす時が来る。

その事後処理もする必要があるのだから、練習は必要だろう。

幸いにも、死者はおらず、重傷者もいなかった。

どうしてその被害で済んだのかは、氷河にもわからなかった。

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