颯爽と街中を駆け抜ける文学少年が一人。
そんな彼を追いかける本を愛する少女が一人。
彼女は何回も彼を捕まえようとするけれど、彼もその度に危機を回避する。
そして、ついに彼はポストにファイルを放り込んだ。
しかも、その数秒後にそれは取り出され、どこかに行ってしまった。
なお、少年は無事に少女によって取り押さえられた。
彼に待っているのは、少女からのOHANASHIであった。
そのファイルは、あるビルに運ばれて行き、色々な作家に審査された。
彼らは、多くの風変わりな作品を書いたりして、半ば狂人とも言えた。
だから、少年の小説を読んでも、精神に支障をきたすことはなかった。
むしろ、彼らの多くは少年の作風を好んだ。
少年の小説もまた、狂っていたからだ。
そして、その小説は見事合格となり、あるミステリー雑誌に掲載された。
その雑誌は、ミステリー業界では一番発行部数が多い。
「む・・・これはなかなか出来の良い作品だね」
そんなミステリー雑誌を手に取った少女、広江ちはるは珍しく精神ダメージを受けなかった。
関係ない話だが、この日、全国の精神科は繁盛したらしい。うん、関係ない話だ。
「作者名は・・・笛吹文雄。えっ、中学二年生なの?
すごいなあ、そんな年齢でこれほどのミステリーを書けるなんて。
・・・神浜市出身?意外と身近にいるんだ」
その頃、その笛吹文雄とやらは死にかけの状態で学校に登校してきた。
「ちょっ、笛吹くん!?なんかものすごく死相が滲みでてるんだけど!?」
「夏希さん・・・いえ、ちょいっと幼馴染とOHANASHIをしていましたから」
「数学のテストの事で?」
「それは二週間前の事じゃないですか。もうとっくにOHANASHI済みですよ」
「それはそれで大変だね・・・それで、何をやらかしたの?」
「なんか素人のミステリー小説大会みたいなのが雑誌の企画にあったので、
それを見て、ついうっかり一作書き上げて、ついうっかり投稿しただけなんです」
「それは確信犯というんだよ?だから、ニュースで・・・」
「何かあったんですか?」
「ううん、別に?」
「・・・?」
昼放・・・おっと、作者の出身県がバレるところだった。
昼休み、笛吹は学校の図書室で中国文化について勉強していた。
次に完成させる超大作のための勉強だ。
「中国の人名、色々と面倒くさいな・・・」
そう呟きながら、彼は勉強を進めた。
「あれ、笛吹くん?数学の勉強しなくていいの?」
「大丈夫ですよ、あきらさん。もうOHANASHIには慣れたので」
(・・・全部、中国関係の本じゃん。なんか嫌な予感がするな。
まさか始皇帝が丸太を振り回すSFでも作るんじゃないよね?)
あきらの予感は半分当たることになってしまった。
夕方、彼は夏目書房に寄って、遠野物語を立ち読みしていた。
いくつかの差異はあるが、重要な書籍に関しては現実と同じだ。
「ふむふむ、これは・・・非常に参考になりますね」
「最近、よくその本を立ち読みしていますね」
「ええ、民俗学について学ぶ必要があったので」
「それはそうと、冷やかしは駄目ですよ。ふーくん?」
「買いますね」
かこには逆らえないのだ。言っておくが、笛吹の方が年上だ。
そして、夜。彼は例の秘密基地に向かった。
そこで、重大な議論があるのだ。
「遅くなってすみません」
「いや、大丈夫だ。私たちも今来たところだ」
「じゃあ、始めようぜ」
議題:地球の位置座標を宇宙に公開するべきかどうか?
キュゥべえを追い出すために、別の文明の力を借りるという作戦。
そのためには、まずは他の文明に地球の場所を知ってもらう必要がある。
これは、探査機とは別に進める予定であった。
だが、それで本当にいいのか、議論をする必要があった。
絶対、マギレコ世界でするような話ではなかったが、三人はそんなこと気にしなかった。
「まあ、そうはいっても、俺たち全員反対なんだけどな」
「それを言ったらおしまいだよ。まあ、全員理由を考えてきてから、だったよね?」
「そうですよ。まずは、心根くんからお願いしますね」
心根は咳ばらいをしてから、喋りはじめた。
「まあ、俺のは根性論に近いんだけどな。
やっぱりよ、こういうのは自分の力で成し遂げるべきなんじゃねえか?
自分の力で追い払わなかったら、他の文明にやられても文句言えねえよ」
「なるほど、心根くんらしい精神論だ。では、私は歴史論で行こう。
二人とも・・・インカ帝国やアステカ帝国がどうなったか知ってるかい?」
「「うん、知ってる」」
碑石の話はあっという間に済んだ。
最後は、笛吹の話だ。
「僕は民俗学的アプローチをしますね」
「「えっ?」」
笛吹は懐から遠野物語を取り出す。
「ギルさん、電気を消してください」
「我を顎で使おうというのか?わかった」
なんやかんやでギルは秘密基地の電気を消した。
「ここが真っ暗な森の中と仮定しましょう。
二人は森の中を歩いていて、僕を探しているとします。
あと、言っておきますが、森の中には別の何かもいます」
「さらっと怖い事言ってんじゃねえよ!」
「あと、付け加えておくと、僕たち三人は猟銃を持っています。
安心してください。何かあっても、それで一発ですよ」
「あっ・・・」
碑石はさっそく笛吹の言わんとしていることがわかったようだ。
「さて、二人が僕を探しながら森を歩いていると、前から足音がしてきました」
「そうだな・・・俺は声をかけてみるかな?」
「本当にそれでいいんですか?森には別の何かもいるんですよ」
「そうか。じゃあ、困ったな・・・碑石、お前はどうすんだ?」
「・・・私だったら、遠慮なく撃つね。それが確実だから」
「おいおい、もし相手が笛吹だったら・・・」
「笛吹くんも、猟銃を持っていて、森の中にいる何かに怯えているかもしれないんだ」
「それがどうしたんだよ・・・ああ、くそ、そういうことかよ。
足音の正体がお前だったとしても、お前も俺たちを撃つかもしれない。そうだろ?
だったら、生き延びる方法は一つ。とにかく早く撃つ。
でもよ、それがどうして宇宙に結び付くんだよ」
「そうですね。じゃあ、百均で買ったミニランタンで説明しますね」
真っ暗な秘密基地に、一つの星が輝く。
「基本的に、恒星間の距離は四光年です。いったんキュゥべえの文明は忘れてください。
そして、今さっき話したことも含めて考えてください。
この星にある文明にコンタクトして安全ですか?相手が何者かわからないのに」
「・・・つまり笛吹くんは、宇宙が遠野の森みたいなことになっていると」
「ええ、そういうことですよ。キュゥべえは・・・まあ、彼らは最強クラスですからね。
地球のような文明になんて、恐れは抱かないんでしょう」
「じゃあ、決まりだな」
再び、電気がつけられる。
ギルが拍手していた。
「ふっ、素晴らしい理論だな。だが・・・この世界、マギレコだぞ?」
「ええ、この世界だと宇宙開発以外ではほとんど役に立たない理論ですね
でも、現実の世界でも同じですよ。あと、使えると言えば、僕のSFぐらいでしょう」
それからしばらく、探査機調整に集中した。
データはたくさん入れる必要があるし、その解説文もその分必要だ。
こうした作業は簡単に進むものではなかった。
それでも、この作業は楽しいものだった。
「・・・よく考えたら、僕たちって一番のんびりとしていますよね」
「うん?まあ、そりゃそうだな。今頃、十七夜たちはドンパチやってるもんな」
「私たち男子は意外と平和なんだよな」
そして、お開きの時間がやってきた。
三人は解散して、秘密基地にはギルだけが残ることになる。
その帰り道、笛吹は最初に秘密基地に集まった日の帰りに会った少女にまた遭遇した。
「あっ、お久しぶりですね」
「・・・お久しぶりです」
「僕はこの通り、あいも変わらず夜に散歩することが多いんです」
「そうですか。・・・もしかして、笛吹文雄さんですか?」
「えっ?そ、そうですけど・・・」
目の前の少女は、どういうわけか笛吹の名前を知っていた。
「やっぱり・・・かこさんの友達の方ですよね?
私、かこさんに頼んで、あなたの写真と、小説を見せてもらったんです」
自然と納得がいった。おそらく、この少女は魔法少女なのだろう。
だから、かことも自然と知り合いになって、それで自分の話題が出たに違いない。
「かこさんの好みには合わなかったようです。でも、私にはすごく良い小説でした」
「・・・ありがとうございます」
「それで聞きたいんですが・・・魔法少女の事知っていますよね?」
危うく喉から心臓が飛び出そうになった。
しかし、転生者である彼はポーカーが得意であった。
「・・・どういうことだい?」
「かこさんが、たまに笛吹さんの小説をこっそり押収しているんです」
「何それ、初めて聞いたんだけど?」
「その押収した小説に、いくつか怪しい記述がありました。
人間を怪物に変化させ、それによるエネルギー供給・・・」
しまった、と彼は思った。それはマギレコではない。
LobotomyCorporationの二次創作のつもりで書いたのだ。
下手に知らないと言えば、後でややこしいことになるかもしれない。
真実味を含んだ嘘、これが重要だ。
「・・・参考にしていないといえば、嘘になる。
でも、僕はただ、こっそり聞いていただけに過ぎないんだ。
どの魔法少女だったか忘れていたけど、そんな会話をしていたんだ。
でも、そんなことを直接書いても誰も信じないだろ?
だから、こうやって少しずつ書いていこうと思ったんだ。
そうすれば、いつかすべてが白日に晒されても、みんな受け入れられるはずだから」
とっさにすらすらと、嘘を言うことができた。
どうせバレることはないだろう。
なぜなら、それは彼が転生者であるという事実とともに暴露されるからだ。
そして、転生者という事実はバレないだろうという確信が何故かあった。
「・・・そうですか。実は、私も同じ目的で魔法少女のことを記録しているんです」
「君も・・・魔法少女なのかい?」
「いえ、私は、魔法少女ではないんです」
「それだったら、僕と同じだね。僕たち一般人はやれることをやればいい。
突然、魔法少女の事を公開するのは論外だけど。皆が慣れないだろうからね」
「・・・そうなんですか?」
「そうだよ。皆、意外と脆いんだ。何かあったら、すぐに割れてしまう。
僕だってそうさ。何か大きな真実を突きつけられると、頭がついていかない」
「・・・参考になりました!ありがとうございます!」
「いえ、僕は大したことは言っていませんよ」
「・・・ところで、神浜市のどこに住んでいるんでしょうか?」
「参京区の方ですよ」
「・・・では、一緒に帰りませんか?夜道は危ないですから」
「ええ、そうしましょう」
二人はしばらく些細なことを喋り合った。
かごめが魔法少女の事を知った理由や、かこのことだったり。
何故か、かこの話題になると、少しかごめは不機嫌そうだった。
「ところで、この写真の男子、知りませんか?」
「どれどれ・・・」
そこには、心根がE.G.Oを手に魔法少女と戦っている姿が映っていた。
「・・・僕の友人ですが、これはいったいどういうことですか?」
「・・・いえ、気にしないでください」
そして、ついに別れの時間がやってきた。笛吹の家の前まで来たのだ。
「それでは、かごめさん。また、会いましょう」
「はい・・・あと、最後に一つ。今度から・・・ふーくんと呼んでいいですか?」
「ええ、いいですよ」
笛吹は家に入ると、急いで地下に入り、溜息をついた。
「・・・氷河くん、聞こえていますか?」
すると、彼の目の前に、SFでよくあるような浮く画面が現れた。
「さすがは笛吹くん。名演技だ」
「記憶処理剤、ばらまいてくれませんか?」
「あれは逆効果かもしれない。ここは・・・マギレコだ。
財団のチートアイテムが使えるとは限らないんだ」
「・・・僕たちはすっかり油断していたのかもしれない。
いくら、マギレコだからといって、ここは現実と同じなんだ。
いや、現実そのものだ。何が起こってもおかしくはないんだから。
あり得ないことだけど、僕たちが転生者だといつかバレるかもしれない」
「ええ、そうだろうね。・・・できる限り、サポートはするよ」
「・・・ありがとう」
「それはそれとして、神浜市は吹き飛ばすけど」
「やっぱり?」
やった、やった。かこさんに追いつける。
かこさん曰く、ふーくんの小説を読めるのは彼女だけらしい。
でも、私は読めた。そして、正気を保てた。
さらに、私はふーくんに偶然会ったふりをした。
最初に会った時は、本当に偶然だったけど。
その時は、変わった子だなと思ってた。すごく優しそうには見えたけど。
でも、かこさんと話しているときに、ふーくんの写真と小説を見せてもらった。
運命ってあるんだと思った。あの夜、偶然会った子が、こんなにすごい子だったなんて。
そして、小説を見て気がついた。ああ、ふーくんも魔法少女のことを知ってるんだって。
それで、偶然を装って、再び会ってみた。そして、聞いてみた。
ふーくんは、私よりも考えが深くて、慎重に事を進める人だった。
でも一つだけ、嫌なところがある。・・・かこさんのことになると、顔を輝かせることだ。
いやだ、いやだ、ふーくんには私を見てもらいたいんだ。
でも、悔しいけど、かこさんは私よりも十数年間もふーくんと一緒にいる。
それだったら、ふーくんはかこさんを信頼して当然だ。
・・・じゃあ、その信頼できる奴がいなくなったら、ふーくんは私だけが頼りだよね?