【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼き 作:リレー小説実行委員会
美星祭初日の夕日が沈む、薄暗い山道。
両脇の森から突然、悲鳴に似た鳴き声を上げながら野鳥が羽音を立てて飛び立つ。
(おや、こんな時間に誰やねん?)
この道の傍らに立つ地蔵は、未だ見ぬ来訪者を訝しんだ。
戦国時代よりも前からここにいる地蔵だが、この時間帯の山道に漂う薄気味悪い空気には、未だに慣れない。
ましてや人の身では、足を踏み入れるのは難しい。
過去の記憶を手繰り、この時間帯に来た顔ぶれを、地蔵は思い起こす。
肝試し、命知らず、命を知り尽くした者、人の身を捨てた魂。
地蔵が思いを巡らす間に、生成り色で揃えられた、来訪者のカーディガンとスラックスが現れた。
彼女は、頭の後ろのポニーテールを揺らしながら、人の頭ほどの大きさがある何かを両腕で抱え、山道を登って来る。
(人の頭ほどの大きさって、まさか…。)
最初は、それがスキンヘッドだったために、杞憂かと地蔵は思った。
剰りにも大きく赤い鼻だったので、人のそれだとは思わなかった。
だが、彼女が歩を進める度に、地蔵の懸念は濃さを増していく。
力を失った口元、光を失った瞳…。
「今日は珍しいモノを持って参りました。お地蔵様、御照覧あれ。」
薄ら笑いを浮かべた女は、両腕に抱えていたそれを、ドチャッと地蔵の足元に置く。
地蔵は見た。
見てしまった。
足元の物体に刻み込まれた、憤怒の表情。
その表情が自分に向けられていることに、地蔵は気付いてしまった。
(この首は一体…、誰やねん!)
勿論、この首が怒りを向けたのは、死の直前に目の前に居ただろう誰かであって、死後に出会った地蔵ではない。
だが、そのことを分かっているのに、元々あまり柔らかくない地蔵の体は、さらに強張る。
なぜ強張るのか、その理由に考えが至ったとき、首を持ってきた女が目の前で何かを唱えていることに、地蔵は気付いた。
(「…世界征服…」やと!?)
しかし、その考えの行き付く先から逃げる言い訳を、丁度いいタイミングで地蔵は手に入れた。
唱え終えた女が再び首を抱えると、大きく口を開いたのだ。
そして、そのまま噛み付き、首から肉をむしり取る。
凝固した血だろうか、肉片だろうか、粒の混じる赤黒い糊が女の唇にこびり付く。
舌を伸ばして唇に付いた糊を舐めとる女は、薄ら笑いを崩さない。
「今宵も元気だアンパンが旨い!」
(この女…、「人喰い」なんか?)
はるか昔、とある噂を地蔵は耳にしたことがある。
人を殺して食すことで、その人の力を自分の物とする妖怪。
先ほど中断していた考えが、地蔵の頭の中で再開される。
(この女は「世界征服」と言うとった。この女の目的は、秋月 流と同じ、世界征服なんか?)
そして、それを実現するのに十分な「徳」が、流にはある。
だから、流を喰ってその「徳」を奪い盗ることは、世界征服を狙う「人喰い」にとって、目的達成への手っ取り早い近道だ。
(いや、ありえへん。秋月 流の「徳」は膨大や。妖怪程度が食い殺そうとしても、「徳」のパワーで防がれるはずや。)
だから最初から、地蔵は目を逸らしていた。
女が姿を現す前から、気付かないフリをしていた。
だが、その「徳」は地蔵を介して得られるものであり、「徳」の流れ、つまり、誰が「徳」を継承しているか、地蔵は感じることができる。
女から発せられる、膨大な「徳」の気配。
(まさか、まさか…!)
ふと、流の供えた珍品の数々が、走馬灯のように地蔵の脳裏をよぎる。
最新型バニラ風味プロテイン、暑い日の友・ひえピタ、魔法瓶一杯の焼肉のタレ、伝統の納豆餃子風味プロテイン、カツの浮いた胸やけする甘ったるい味噌ソース、…。
「それでは、また明日!」
そう言い捨てると、哀れな首を一片残らず平らげた「人喰い」は、高笑いを上げながら山道を駆け降り、夜の街へ姿を消した。
山道に残されたのは、絶望に打ち拉がれる一尊の地蔵。
しかし、いつまでもこうしてはいられないことは、地蔵が一番良くわかっていた。
己れの涙が枯れ果てたのを確認すると、地蔵は立ち上がる。
(そうや、秋月 流には妹・小雪がいるんや。)
流の「徳」を、彼の命を奪った人喰いが継承する。
そんな道理など、あろうはずがない、あってはならない。
先に述べたように、秋月家の「徳」は地蔵を介して得られるものであり、継承者の変更も地蔵次第。
だから、地蔵はしてしまった。
秋月家の「徳」の継承者を、秋月 小雪にしてしまった。
運命というものがあるなら、それが狂い始めたのは丁度一日前。
美星祭前日の夕方だろう。
美星市郊外の、普段は寂れた住宅団地。
「シュプレヒコール!「「ヒャッハー!」」シュプレヒコール!「「ヒャッハー!」」」
「美星セイキマツ団地に、秘密基地は要らなーい!「「イラナーイ!」」」
その一室で、装置の山を相手に格闘するばいきんまん。
「ばいきんまんは、団地から出て行けー!「「デテイケー!」」」
秘密基地の窓から飛び込む騒音に掻き消されがちな、コイル鳴きの出処を追う。
装置の山の麓に取り敢えず置かれたキーボードの上では、ばいきんまんの指が華麗に舞い踊る。
「汚物は消毒だー!!「「ショウドクダー!!」」」
抗議の声を上げる住人達の携える火炎放射器から放たれる熱が、装置の不調の原因のようだ。
このため、やっとばいきんまんは外の様子に目を向けた。
(これが、「団地の経済が潤う」とか言って、秘密基地の誘致活動をしていた連中か…。)
秘密基地反対運動は年中行事のように行われているので、いつものばいきんまんなら気にも留めない。
しかし、研究が思うように進まない今回は、流石のばいきんまんにも堪えた。
装置の山に手を突っ込み、埋もれた通信機を探り当てると、ばいきんまんは部下に指示を出す。
すると、外の住民達のそれぞれの鼻の穴から、ピンポン玉に毛のように細い手足を生やしただけの、頭と胴との区別の付かない小人が姿を現した。
「フガッ、なんだ、てめぇら!?」
「やあ! 僕達、ブドウ球菌マン!」
ブドウ球菌マンはヒトから分離されることが多い常在細菌ヒーローであり、特に健常な人間の鼻腔内には100%確実に存在する。
彼らの殆どは、他の常在細菌達と協力して、人間を病気から守る役割の一端を担っている。
「巫山戯やがって。ばいきんまんの前に、まずお前らから消毒してやる!」
怒りに燃える住民達は、その怒りを火炎放射器の炎に載せて、ブドウ球菌マン達に浴びせかける。
「つまりね、人間っていうのは、細菌に覆われた汚物なん…、うわぢゃーっ!!」
当然、ブドウ球菌マンを鼻から覗かせた住人達も、怒りの炎を浴びて燃え上がる。
「おのれっ、ばいきんまん! 同士討ちとは卑劣…うわぢゃーっ!!「「うわぢゃーっ!!」」」
こうして、窓の外は静けさを取り戻した。
が、ばいきんまんの心労は終わらない。
基地の階段をけたたましく駆け上がる、聞き慣れた足音。
玄関扉の開閉スイッチを反射的にばいきんまんは押すと、駆け込んだ勢いそのままに、涙で顔をグシャグシャにした秋月 ポン助が、扉から飛び込んで来た。
「助けてぇっ、ばいきんまん!」
そのままばいきんまんに抱きつこうとする途中、括り罠に片足を突っ込み、泣きじゃくるポン助は逆さ吊りになる。
ばいきんまんの手がける秘密基地に、死角は存在しないのだ。
天井にぶら下がるポン助を、呆れた顔で見上げるばいきんまん。
「どうせまた、秋月 流に無謀なケンカを吹っ掛けて、あっさり返り討ちに遭ったんだろう?」
泣きながら頷くポン助。
「それで、天才である俺様に何か秘密道具を出して貰おうというわけだな。」
驚きつつも、泣きながら頷くポン助。
「いつものことだからな。なら、返事も分かるだろう? 俺様は21世紀から来た青狸じゃねぇっ!」
ポン助に背を向け、研究作業に戻るばいきんまん。
「そこを何とか! 美星祭の準備に忙殺されている今日までが、流を叩くチャンスなんだ。」
「ホヘッ? 明日から美星祭なのか?」
首だけ振り返るばいきんまんの腕の方は、急に激しくキーボードを叩き始める。
ポン助が頷いた途端、彼の足をロープで吊り下げていた天井に穴が開き、その穴へポン助は吸い込まれ、秘密基地から姿を消した。
「フフッ、この研究を実験するのに、ヒヒヒッ、うってつけじゃないか。ハーハッハッ!」
秘密基地から団地の入り口へ投げ飛ばされたポン助は、団地中に響くばいきんまんの高笑いで目を覚ます。
団地のどこかで、住人の叫び声が聞こえる。
「ウルセェぞ、ばいきんまん! こんなことなら、基地の誘致なんかするんじゃなかったぜ。」
美星祭初日。
コーヒーの香り漂う教室の入り口の、ペーパーフラワーで彩られたアーチ。
まず、渡辺 摩利が潜って行く。
そして彼女に手を引かれる千葉 修次。
「外でデートは久しぶりだなぁ。あれっ? 摩利、目、血走ってない?」
修次に続いてアーチを潜る秋月 流を小突きながら、燕尾服に身を包んだ飯島 直樹が囁く。
「なんで風紀委員、選りにも選って、鬼の委員長なんだよ?」
「いや、これは好機だ、絶対逃すな! 最終裁定の権限があるのは摩利だけだ!! 摩利の目さえ誤魔化せれば、後はやりたい放題だ!!」
一瞬だけ顔を引き攣らせる直樹だが、アーチに看板を掛け直したあと、覚悟を決めて流に続く。
その看板には
「AR喫茶『TS水着カフェ』」
と書かれていた。
その頃ばいきんまんは、コーヒーの香り漂う教室の窓の外から、中を覗いていた。
学園祭だというのに教室内には飾り付けが一切なく、一見すると、生徒達が弁当を食べる普段の昼休みに見える。
良く見れば、机の間を忙しく歩き回る何人かはメイド服や燕尾服という異様な姿なのだが、それよりも異様なのは、中の人間は例外なく全員、大きなゴーグルをかぶっていることだ。
ほくそ笑むばいきんまん。
コーヒーの香りが溢れ出す窓の隙間に、怪しげな機械から伸びるホースを突っ込む。
「ハーヒホーヘフーッ! 実験開始ーっ!」
教室入り口からすぐの受付で、燕尾服の直樹にゴーグルを付けてもらうと、流の目の前に現れたのは、ブラジャーとビキニ以外は何も纏わない女子。
「うおおいっ! なんでお前だけ露出度が高いんだよ!」
反射的にビキニの女子、いや、直樹から目を逸らす流は教室を見回す。
そこに居たのは、水着姿の男子女子達。
先にテーブルに着いていた、金剛力士像のモデルかという男…鬼の風紀委員長・渡辺 摩利が、流の叫びに振り向く。
(アッチャーッ、流ーッ!)
(ヤッベ、もうバレた?)
(ちょっと、何やらかしているのよ…。)
まるで教室の中が瞬時に凍りついたように、流、直樹、直樹のクラスメート達、コーヒーを味わう客達に緊張が走る。
この教室では、AR(Augmented Reality 拡張現実)技術を使った、店員・客ともに水着姿でコーヒーを愉しむ喫茶店が営まれていた。
折角のAR技術を活かし、性別が反転するというオマケ付き。
このオマケにより、男子からのイヤらしい視線を危惧する女子からも支持を受け、クラスの出し物として実現の運びとなった。
勿論、生徒会、特に風紀委員会には内緒である。
各クラスからの模擬店・出し物の選定作業を、流は思い出す。
今、目の当たりにしているように、本来ならば「AR喫茶」も十分に怪しい企画であり、不可決裁になるはずだった。
ところが、恐らく一部の暴走と思われていた、「水着喫茶」の申請。
(そういえば、「水着喫茶」の申請も、直樹のクラスから上がってきたものだった。)
ならば、直樹のクラスからのもの、そして直樹の教室を使用するため両立できない企画として、「AR喫茶」と纏めて生徒会に提出されたはず。
本来なら両方とも不可決裁の両企画は、競合する選択肢の形で提出されることで、片方が許可され易くなるように仕組まれていたのだ。
人間、選択肢の形で与えられると、その選択肢の外側に考えが及ばなくなる。
流の携帯電話に昨日届いた、セキュリティ・アップデート通知と同じ原理だ。
「今すぐ再起動しますか? それとも、自動的に再起動しますか?」
こうして許可と教室と機材と予算を勝ち取った直樹達の企画だが、内容が内容なだけに、それが風紀委員に露見すれば、学祭中だろうとも一発退場間違いなし。
集客を直樹達は慎重に行なったのだろうが、たまたま通り掛かった摩利が噂話を耳にしたらしい。
突然静まり返った教室に、摩利の声だけが響く。
「お茶を運ぶからって、飛脚の恰好はどうかな。」
どこかから安堵の息が漏れると同時に、凍てついた教室は再び動き出す。
冷や汗を掻く流の耳に、色っぽい唇が近づく。
流に耳打ちする直樹。
「こんなこともあろうかと、風紀委員長夫妻のゴーグルは江戸時代に設定してある。何とか切り抜けてくれ。」
直樹に促され、摩利と修次の着くテーブルに流は案内される。
修次の服装は、頭・手・足しか肌の見えないウェットスーツ。
だが、袖口が目立たず、体に密着しているため、反って女体の妖艶さが際立ってしまう。
「たぶん、このARシステムは、人物の仕草や恰好から、その人の性格とかを推測して、それに合った服装の拡張現実を生成するんだよ。飯島君の格好がああなのは、彼の性格に因るところが大きいんじゃないかな。秋月君の恰好もそうだろう?」
そんな目の遣り場に困る恰好の修次に問いかけられ、自分の服装を見ようと、流は視線を下に落とすが、思わぬ胸の膨らみに遮られる。
体を捩ってそれを躱すと、流の水着の腰周りにはミニスカートのようなフリルが施されていた。
「ええっ!? 何この子供っぽいデザイン! フ」
リルなんて、と喉から出掛かった言葉を流は飲み込む。
流のゴーグルと摩利・修次のゴーグルでは見えているものが違うことを、思い出したからだ。
恐らく、摩利・修次のゴーグルから見れば、流の恰好は水着ではなく、何らかの着物のはずだ。
が、それがどんな着物なのかは、流のゴーグルからは見えない。
しかも、それを摩利に気付かせないまま、彼女達との茶飲み話を遂げなければならない。
(なんで、俺のゴーグルは水着喫茶のままなんだ、直樹…。)
待ち受ける困難を前にし、流の背中に汗が滲む。
そのとき、教室の窓の隙間から白い煙が吹き込まれ、あっという間に視界がホワイトアウトする。
教室内の白い霧が晴れたとき、ばいきんまんのニヤけた顔が窓の外に現れた。
「ハーヒフーヘホー! 実験一件目は成功だ!」
嫌な予感でも感じたのかゴーグルを脱ぐ摩利は、脱いだ途端に金剛力士の野太い声で、しかし悲鳴を上げる。
流と同時にゴーグルを脱いだ修次は、ミロのヴィーナスのような顔を、険しく歪ませている。
しかし流には、何が起きたのか分からない。
目の前には、白い霧が吹き込まれる前と同じ光景が広がっている。
敢えて違う点を挙げるとするなら、流と同じように戸惑う直樹達。
「えっ? 何? 叫んでるの誰?」
そして、何処から湧いたのか、床に散らばる服。
ばいきんまんが窓から消えると同時に、摩利と修次が席を立ち、窓に向かう。
「不味いよ、摩利。逃げられてしまう。」
「済まないシュウ、手伝ってくれ。」
取り残される流と、平静を取り戻した教室。
その平静を破ったのは、ブラジャーとビキニ以外は何も纏わない女子と化した、直樹の呟きだった。
「拡張現実じゃなくなった…。」
その言葉で、既にゴーグルを脱いでいたことに流は気付き、教室を見回す。
そこに居たのは、水着姿の男子女子達。
恐らく全員、直樹と同様に性別が反転している。
海パンに紫陽花の萼(がく)を模した刺繍を施している、中学生のように小柄な男子は、秋月 東雲だろうか。
事に気付いた教室は、やっとパニックに満たされ、流もバイキンマンの後を追う。
「これが実験一件目なら、二件目をやめさせなければ。いや、それより、男に戻してくれえーっ!」
そんな教室内のパニックを横目に見ながら、足元から服を拾って、ビキニの上に重ね着する直樹。
「服は消えずに残っているようだぞ。東雲、カフェのメニューにアンパンあったよな。」
「アンパン? 何に使うの?」
彼に促されて服を羽織る東雲の疑問に、答える直樹。
「恐らく、ばいきんまんのあのガスは、仮想に過ぎないものを現実化するらしい。今のところ、水着カフェの原因はバイキンマンの仕業だと、風紀委員長は思っているようだ。だが、彼女がばいきんまんを捕まえてガスの仕組みを知ったら? このAR喫茶の正体がバレてしまう。アンパン、どの棚だっけ?」
美少女の可能性を仮面で隠したセーラー服による、エアギターの超絶技巧が鳴り響く屋外ステージ。
スピーカーから放たれるセーラー服のシャウト。
「そうよッ! もっとッ! もっとッ! ワテクシを崇め奉りなさぁい!」
彼女は片腕を頭上に伸ばし、ゆっくりと左右に振る。
熱狂する観客はそれに合わせ、各々の掲げたアメリカンドッグやホットドッグなどを左右に振る。
「「○んち○ぶらぶらソーセージ ち○○んぶらぶらソーセージ……」」
そんな観客の喧騒の後ろで、ばいきんまんは足をとめる。
右からは海パン一丁の金剛力士、左からはウェットスーツのヴィーナスが現れて前方を塞ぐ。
後方からは、腰のフリルをはためかせ、水着のポニーテールが追い付く。
「360°囲んだぞ、ばいきんまん!」
叫ぶ流に対し、余裕の表情のばいきんまんは、自分の背中の羽を指差す。
「まだだ。まだ美星祭は終わらんよ。コスプレ大会、お化け屋敷、演劇…、虚構を現実に変換する俺様の新発明『そのフィクションノンフィクション』の実験もなぁ!」
飛んで逃げようとばいきんまんが頭上を見上げると、その空中に仁王立ちする作業服姿の人影は、アンパンでできた頭部を怒りの炎で燃やすトラック運転手・剛力 甘男。
「水着姿にされたみんなを元に戻すんだ、ばいきんまん!」
「ええいっ! 甘男、なぜここに!? まさか…」
思い当たったばいきんまんが視線を下に向けると、携帯電話を必死で操作する流がいた。
「甘男くんの連絡先はどこだぁっ!」
「ぼくはね、今の流君のように、助けを求める心の声が感じ取れるんだ。」
高度を下げ、ばいきんまんに躙り寄る甘男。
すると流の後ろから、バタバタ駆け寄る、男装の令嬢が現れる。
「甘男くん、新しい首よ!」
走り込んできた彼女の強肩から放たれたアンパンは、狙い過たず甘男の顔面に激突し、彼の首を弾き飛ばす。
「元気百倍、勇気百倍、アーンパーンチ!」
「バイバイキーン!」
思いがけず新品の首を得た甘男は、勢い余って、ばいきんまんを白昼の流星にしてしまった。
自らのパンチでばいきんまんを逃してしまった甘男の逃亡を、手を振って見送る誇らしげな表情の令嬢・直樹。
「ありがとうー、甘男くーん! いやー、ばいきんまんをやっつけて一件落着!」
「なっ! この水着姿はどうするんだな?」
思わず突っ込む摩利に対し、それを見越していたのか、流れる動作で直樹は服を渡す。
「着ていた服は床に落ちるようですよ。ほら、千葉さんと流の分も。」
続いて服を受け取る修次も、直樹に抵抗する。
「性別が逆転したままじゃ、困るんじゃない?」
「摩利さんも逆転しているんだから、二人の関係は変わりませんよ。」
摩利と修次との関係に問題を矮小化する直樹だが、修次より先に流が口を挟む。
「いや、何か重大なことを忘れている気がするんだよ。」
「ああ、あのアンパンのことじゃないかな?」
生成り色の道着を流に渡しながら直樹が顔を向ける先には、大きく赤い鼻のアンパン。
新しいアンパンと先ほど入れ替わった甘男の古い顔から、怒りの炎で焼けた香ばしい匂いが漂う。
「パンは焼きたてが一番! 喫茶店やっている俺んとこのクラスには食品用ラップがあるから、湿気らない内に包んでしまおう!」
「そうだな! さすが直樹! 食べ物を粗末にしちゃいけないよな!」
人間のの頭ほどのアンパンを二人で抱えて運び去る流と直樹を、心のどこかに引っかかるものを感じながら、見送る修次。
だが、ひと仕事終えた顔の摩利を見て、彼女とのデートを優先することにした。
こうしてその日の夕方、女体化した流の手によって、甘男の生首は地蔵に供えられることとなった。
「今日は二回も、お地蔵様にいいことをしたぞ!」
笑いながら山道を駆け降る流には知る由もない。
秋月家の「徳」が、彼の妹・小雪へと継承されたことを。
継承が行われるのは、前の継承者の命が尽きたときだけであり、例外は三度しかなかったことを。
その三度の例外、生きたまま「徳」を失った者達こそ、裏秋月家各家の初代当主である。
今や四度目の例外が生じ、秋月 流を初代当主とする肆の遺影が誕生した。
遂に、裏秋月四天王が揃ったのだ。
「明日も、世界征服に向けて邁進するぞ!」
四天王最強と予言されし魔の手が、世界に迫る。
作者さまのページ↓
https://syosetu.org/user/316281/
A-11さま、執筆お疲れ様でした♪
わお! ついに美星祭開始ですネ! 学園祭一日目!
当作品も、どんどん設定が出来上がってきた感がありますナ。
そろそろどこかで、設定解釈の齟齬とかが出て来てそうな予感! ちょっと怖いです私!w
ではでは! 6番手お疲れ様でした♪ A-11さまありがとぉ~う!(hasegawa)
☆もんじゃ焼き掲示板☆
おおっ! 次節を担う新たな書き手が二人も!(A-11)