【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼き 作:リレー小説実行委員会
「あっ、お兄ちゃんだ! お~いお兄ちゃ――――ん!!」
学校祭で賑わう美星祭校舎。休憩スペースとして確保されている中庭。
秋月小雪は待ち合わせの相手を見つけ、その相手に駆け寄る。
「小雪イイイイイイイイイイイイ!!」
待ち合わせの相手である秋月流は、魔法少女の身体能力で突っ込んできた小雪を抱き止め、その勢いのままぐるんぐるん、回る。
その回転に小雪は思わず、ケタケタ笑った。
やがて勢いが収まったと同時に、二人とも生い茂る芝生の上へ倒れる。
暫しの沈黙の後。
そのやり取りが面白かったのか、芝生の上に寝っ転がりながら、暫く2人で爆笑するのであった。
目に浮かぶ空に、曇りなく。
ひだまりはあたたかく、ぽかぽかで。
吹き抜ける風はやわらかく、涼しげで。
昼寝に丁度いい天気のためか、このままぼおっとして寝てしまいそうになる。
だが流と小雪は、その誘惑を振り払って、ゆっくりと起き上がる。
待ち遠しかったこの日を、ぼおっと無駄に使うわけにはいかないのであった。
そのままのんびりと歩き出す。
「すっげえ元気になったなぁ…」
しみじみと兄は呟いた。
少女の腕はいまだ細かった。だが、それでも魔法少女の身体になってからは、どんどん健康になっているようで、少し太くなっていた。
もう、骨と皮だけという形容されるようなことは無いと言えるだろう。
少年の腕は丸太のように硬かった。だが、それでも魔法少女の身体能力から放たれる無邪気なタックルで、少し痛んでいた。
もう、彼女のパワーはゴリラと形容してもいいだろう。
「ほんとね。こんなに動けるようになる日が来るなんて、信じられなかったよ♪」
「ああ…本当に良かったな…」
彼女が
だからこそ、今小雪が健康を通りこしてゴリラパワーを発揮していることに、喜びを感じていた。
腕に痛みも感じていた。
生まれつき体が弱く、病院暮らしであった秋月小雪は魔法少女になったことで、健康な体を手に入れ、こうして元気に走り回れるほどにまでなった。
魔法少女としての運命とか色々、彼女には付きまとってはいる。
だが、それでも彼女は幸せな人生を手に入れたと言っても良いだろう。
きっと来年も再来年も。彼女は美星祭を見に行くことが出来る。
もしかしたら、美星高校に進学して美星祭を作り上げている未来も、ありえるかもしれない。
病気による”死”。その逃れえぬ”運命”に打ち勝つことが出来た。
彼女の人生は、きっとこれからなのだろう。
少年は妹を守る決意を密かに固めるのだった。
「そういや、俺が来るまで何してたんだ?」
「映画を観たよ」
楽しかったか? という流の問いかけに、思いっきり頭を上下させて答えた後、こう続けた。
「映画部の人たちって凄いね!! 小雪の書いた脚本をね? 凄い映画にしてくれたの!! 特にね! ラストシーンの動画のシーンとか、思わず息を飲みそうになったよ!! 凄い演技だった!!」
小雪も高校生になったら映画部に入部しようかな…。と少女は続ける。
もしかしたら先ほどの映画体験が、彼女の人生を変えた瞬間になるかもしれない。
ある達人曰く。『飯食って映画見て寝るッ! 男の鍛錬はそいつで十分よッ!』
男。というより、これは“人”としての精神の育て方と捉えるべきだろう。
良い創作物は心を育む栄養となる。そこから得る体験は心に残り、心を作る基となる。
時には創作物に込められたメッセージを受け取り、考えることで新しい考え方の軸を作る。
別に映画でもなくてもいい。小説であったり、アニメであったり、芸術で有ったり、音楽であったり…。
良い体験というものは、“人”をより良い“人”に変えていくのだ。
自身が脚本を担当し、映画部が作り上げた映画は、確実に彼女の心に残ったはずだ。
彼女がどのような道を歩むのかは、まだ分からない。
だが、彼女の人生がより豊かなものになるだろうことは確かだ。
「ありがとうね。お兄ちゃん」
「いいってことよ」
このときの妹の顔を見て、兄は大きな達成感を得るのだった。
そしてふと、少年は頭に浮かんだ疑問をそのまま口にした。
「…そういえば、ここまで来るのに一人で来たのか?」
「? チョコおじさんに送ってもらったけど。そうだ!!」
(そうか…あのおっさんたちがいるのか…。 なんやかんやで世話になるな…。)
ワーキングプア侍。
秋月チョコ太郎。
実は流は、既に彼らとは面識があった。
最初、小雪に近づく不審人物かと警戒したのだが……、何かと小雪のために動いてくれていて、何より小雪自身が“友達”と思っている相手なので、今ではすっかり彼らを信用するようになった。
(話してみると、意外といい奴らだし。……今度、手作りパンをもっていこうかな? きっと喜んでくれるだろ)
友達との関係性に飢えているチョコ太郎と、物理的に飢えているワーキングプア侍。
彼らが泣いて喜ぶ姿が、目に浮かぶようだ。
そう考え込んでいた流の眼前に、いま大量のストラップや小物らしきものが、ズイッと突き出された。
「じゃじゃ~ん♪ 見てみて! これチョコおじさんとプアおじさんが、射的で獲ってくれたんだ♪」
(前言撤回!! 鉄拳パンチを喰らわしたらああああああああああああああ!!)
侍とは武芸百般に精通するもの!! 鉄砲の扱いもお手のものでござる!! ……とワーキングプア侍。
ワイを誰やと思うとるんや? シノギ*1にテキ屋をやることもあるのがヤクザで、その首領もやっとるワイが、出来へんワケないやろうが!! ……とチョコ太郎。
小雪に良いところを見せようとする両者の射的対決は、射的屋の終焉をもって幕を閉じた。
“余った景品を山分けしよう”という、とあるクラスの企みは、見事に水泡と帰したのだ。
そのストラップは戦利品というわけである。
異性からのプレゼント。しかもお祭りの射的というシュチュエーション。
これらの要素は、兄としての警戒レベルを急上昇させるのには、充分な材料であった。
流は激怒した。必ずやあのオッサンどもから、妹を守らねばならぬ。
流には恋愛はわからぬ。流の実年齢は21である。逆行する前も後も、恋愛とは無縁の暮らしをしてきた。されど、妹を狙う気配には人一倍敏感であった。
(…勝也から一度空手を教わったほうがいいな。待ってろ。小雪は俺が守る。)
少年は密かに、妹を守る決意を固めるのだった。
やがて、中庭に向かって歩いていた室斑を視界にとらえた流は、渡りに船とばかりに彼に駆け寄り、その肩に組み付く。
「よお勝也。早速だが、一撃必殺の技を教えてくれ!!(小声)」
「そんな都合のいい技が……一応ない事もないが、とりあえず落ち着け流。どうした?」
「頼む!! 兄として一度あいつら半生*2にしなきゃならねえんだ頼む!!」
「食材は火をよく通せ、食中毒になるぞ。とにかく訳を話してくれ…」
「かくかくしかじか…」
「ごめん。ちゃんと説明してくれ…」
「侍とヤクザ」
「大体わかった」
とんだ兄馬鹿だな…と室斑は思った。
そして「どうどう」と流を宥めつつ、むりやり組まれた肩を外してから、小雪に挨拶をすべく歩いて行くのだった。
なお、彼らが流の分のストラップも取ってくれていたことが分かり、流の怒りはどっかいった。