【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼き 作:リレー小説実行委員会
「はわわ! とっても高いのです!」
「ハラショー」
「次! つぎ私だからねHitomiさんっ! そこの電信柱まで行ったら交代ねっ!」
「れ、レディは肩車なんて、されないんかだから!
でもせっかくだし、大人の視点を体験しとくのも……? むむむ……」
その隣を寄り添うように歩くのは、雷と暁。
Hitomiに肩車&お姫様だっこをされている二人を、キラキラと羨望の眼差しで見ている。
現在彼女ら“第六駆逐隊”の4人は、Hitomiお姉さんと一緒に、買い出しの任務にあたっているトコロ。
マスターP氏の御言い付けにより、なにかお昼ご飯を調達するべく、ヤングストリートへ向かっている。
お前らのチョイスでいいぞ、何でも好きなモン買ってきな。頼むよ頼むよー! とP氏の弁。
第六駆逐隊は引率役のHitomiを伴い、張り切って出掛けているのだ。
駆逐艦の艦娘であり、身体も非常に小さな彼女たち。来ている服こそセーラー服なのだが、5才か6才くらいにしか見えない容姿。
そんな“幼児”と言っても差し支えない子達と、身長196cmを誇るHitomiが並んで歩けば、いったいどうなるか?
その答えが、いま美星町の住人たちが目にしている光景である。
「うわっ! すごく高いわ! 長門さんより背がおっきいっ!」
「私もいつか、立派なレディになれるかなぁ?
Hitomiさんみたいに、キレイになりたいの!」
「うん、なれるヨ。あたしなんかより、ずっとネ♪」
Hitomiはちびっこ達の“アスレチック”と化していた。
肩車をしてやったり、だっこをしたり、ギューっと身体にしがみつかれたり。みんな彼女に楽しそうにじゃれつき、キャキャとはしゃぐ。
電信柱を5つ分いったら交代、というルールにより、今度は雷と暁の番。彼女らを肩車&だっこ。
子供とはいえ、まがりなりにも2人分の重量を担いて歩くのだ。普通なら汗のひとつもかきそうな物だが、そこは流石Hitomiといったトコロ。
今もニコニコと笑いながら、優しい目で彼女らを見つめている。とっても頼りがいのあるお姉さんぶりだ。
通りすがる美星町の者達は、その長身ゆえに真っ先に目に入るHitomiの姿に、一瞬「ギョッ!?」とするのだが……、でもすぐに4人の女の子たちが、無邪気に彼女にじゃれついている光景を見る事となる。
それにより、彼らはすぐに警戒心や恐怖心が薄れ、それどころかすごく微笑ましい気持ちとなった。
すごく背が高くて、モデルみたいにスラッとした女性と、その身長の半分もないような愛らしい少女達、という組み合わせ。
なんというか、これはとても“絵になる”。
下手をすれば、他者に威圧感や劣等感を与えかねない、Hitomiの逞しくて美しい身体。
それが今、幼い彼女らと一緒にいる事により、「収まるべき所に収まった」かのよう。
あの大きな身体は、子供達を守るためにあるんだ――――あの人が居れば、きっと何があっても安心だ。
町人たちはそんな印象を抱き、微笑ましい気持ちで彼女らを見守る。
まぁエロいナース服を着てたりするんだが……、なんかそれも“優しそう”というイメージに変換されているようで、結果オーライ。
「パパすごいよね。町長だけじゃなく、シャッチョさんだったなんて。
こんな若い頃から、みんなを守ってたんだナァ……」
「はい! わたし達の“提督”なのです♪ 艦隊の指揮をお願いしているのです♪」
「みんな潮干狩りで大破しちゃって、今は私たち4人と、天龍さんだけだけどね……。
でもみんなも、じきに戻ってくると思うわっ!」
美星町はいわゆる“海なし県”にあるので、艦娘たちは他県に遠征していた。
食料調達が任務だったというのに、そこでどういうワケだか。全員大破しちゃったのだが……、でもみんなを代表する形で、先に帰還したのが、電や雷たち第六駆逐隊の面子。そしてちびっ子達の引率(旗艦)を務めた、“天龍”という艦娘だ。
彼女らは、通称バケツと呼ばれる高速修復材、いわばなけなしの貴重品を使ってまで身体を治療し、マスターP提督の護衛の為に、先に鎮守府(六畳間アパート)に帰って来たのだった。
「それにしても、ぼくビックリしたよ。
急いで帰ってみれば、すごく綺麗な人がいるんだもの」
「わたしもおどろいたわ! まさか提督に、娘さんがいたなんてっ!
う~っ! 早くみんなにも紹介したいっ!
Hitomiさんなら、きっと仲良くなれるよ!」
「嬉しい、あたしもみんなと友達になりたい♪
ずっと独りだったから、いっぱいお喋りしたいナ♪」
クールで僕っ子の響、おしゃまで愛らしい暁。そして今も無邪気にじゃれついている雷&電。
そんな第六駆逐隊のメンバーと語らいながら、のんびり美星町を歩く。
記憶喪失という身の上だが、これまで感じた事の無かったやすらぎの中で、Hitomiはニコニコと微笑む。
昨日パパに買ってもらった、オシャレな赤いメガネも、とても良く似合っており、彼女の笑顔を美しく際立たせている。
通りすがる人達が、思わずドキッとしちゃうくらいに。
『――――ふぎゃあーーっっ!!!!』
けれど、突然遠くの方から、この平穏をぶち壊す声が聞こえた。
『ちょ……!? 大変っ!!
誰か来てぇーっ! 男の人呼んでぇーーっ!』
続けざまに、前方から女の子の声。とても焦った様子で助けを求めている。
Hitomi&第六のみんなは、示し合わせたようにノータイムで駆け出し、声のした方へと向かう。
そこには……。
「大丈夫ですか東雲さん!? しっかりしてぇーっ!」
「もごご! もごごごご!! だっ……だずげどぇっ!?!?」
何故か田んぼに落ちている秋月東雲と、それを救出しようと躍起になっている諸星のどかの姿があった。
「いっ……息がっ! 息がでぎまぜぇーん!! し゛ぬ゛っ……!?」
「なんで落ちちゃうのよ東雲さんっ! 私ちょっと声をかけただけなのにっ!
ビビリすぎでしょ!?」
いま東雲は、ズボッと土に埋まってしまった頭を引っこ抜こうと、躍起になっている。
のどかの方も泥だらけになりながら、彼女の服や脚を引っ張っている模様。
Hitomiたちは現場に辿り着いたのは良いものの、この光景を前にポカーン。
「しゅ……しゅいましぇ~ん!
不幸でしゅいませぇ~ん……! 落ちぶれてしゅいませぇ~ん……!」
「情けない声出さないでよぉ! あなた裏秋月の当主でしょ!?
ほらちゃんと掴まってっ!」
うーんしょ! うーんしょ!
まるで大きなカブの童話のように、いっしょうけんめい東雲を引っ張る。
のどかは文系の少女であり、本来あまり運動は得意じゃないけれど、この時ばかりは頑張る。なんたって人の命が賭かっているのだから。
「わたし……
一体どんな落ち方をしたら、あんな風になるんでしょう……?」
「うん、あたしもそーカモ。
とりあえず行ってくるヨ。ちょっとここで待っててネ」
ちびっこ(電)の何とも言えないような表情。呆れとも同情ともつかない感じの。
それをよそに、Hitomiが「えいやっ!」と田んぼに入る。
靴や服が汚れることも厭わず、さも当たり前のように飛び込んでみせた。
「あっ、助けに来て下さったんですか? ご親切にどうも……ってデカッ!?!?」
のどかが驚くのも無理はない。突然こんな大きな女の人が現れたら、誰だってビックリしちゃう事だろう。
彼女自身はすぐに口をつぐみ、「せっかく来てくれたのに、失礼なことを言っちゃった……」と後悔したのだが、Hitomiにはまったく気にする様子は無い。
よっぽど深く突き刺さっていたのか、あれだけ引っ張っても抜けなかった東雲の身体。それをHitomiは「よいしょ!」と一息で引っこ抜き、そのままブラーンと頭上まで掲げる。
まるでちっちゃい子を“たかいたかい”するみたいに。
◆ ◆ ◆
「よかったね東雲さん。水田だったらアウトだったよ?」
「田んぼで溺死するダークヒロインとか、嫌すぎますぅ!!」
エグエグと泣く東雲を慰めながら、並んで歩く。
いま彼女らは、身体に付いた泥を洗い流すべく、すぐ近くにあるというのどかの家に向かっている所だ。
ちなみに第六駆逐隊のちびっこ達は、お買い物の任務を遂行すべく、ここで別行動となった。
彼女らはHitomiのことを凄く心配していたのだが、「家でごはんを待ってるパパのために」と諭され、大任をまかされた使命感を胸に、商店街へと向かって行ったのだった。
「そもそもですねぇ! 貴方が突然声かけたりするから、いけないんですよぉ!
背後から大声で呼ばれたら、誰だってビックリしますぅー!」
「いや……でもあんな『うひゃあい!?』みたく飛び上がる人、私はじめて見たよ?
しかも、着地でグキッと足を挫いて、そのままピョーンと田んぼにダイブだなんて……。
無駄に流れるような動作だったから、ちょっと感動しちゃった。
コントみたいだったよ東雲さん?」
「うふふ♪ 不幸というものは、連鎖するんですよぉ♪
ひとつ起これば、それを皮切りにし、次々と容赦なく襲いかかってくるモノなのですぅ!」
「なに熱弁してるの? やめてよそんな救いの無い話。
東雲さんの人生を本にしたら、全米が泣くかも(あまりの不憫さに)」
「同情するなら、秋月流に言って下さいよぉ! 『東雲を助けてやれ』ってぇ!!
私の一族みんなこうなんですからぁ! 毎日がコントですよぉ!
まるで吸い寄せられるように、植木鉢が頭に落ちてくるような人生は、もう嫌ですぅー!」
Hitomiの背中におぶられながら、「うわーん!」と泣く。
隣を寄り添って歩くのどかも、そのあまりの迫真さにドン引き。
「えっと、私もぶしつけに声かけちゃって、アレだけど……。もう流くんの事はいいの?
たしか“徳”だっけ? それを奪うために、倒そうとしてたハズじゃ……」
「あぁ、それはもう良いんですよぉ。
彼の事情も分かりましたし、小雪ちゃんの事もありますしぃ……。
本家の打倒ではなく、他の裏秋月の者達と協力して、この“業”をなんとかする手段を、現在模索中ですぅ」
「事情かぁ……。
でも、もう恨んでないの? 今までずっと大変だったんでしょう?」
「確かに我が一族は、煮え湯を飲まされて参りましたがぁ、それはあくまで“業”による物ぉ。
本家に何かされたとか、かのお地蔵さまのせいというワケでは、御座いませんねぇ」
ふぅ、とひとつため息。そのやるせなさを吐き出すようにして。
「これまでグギギ……! と羨むばかりだった秋月本家は、決して一人勝ちのように幸福を甘受しているのでは無い、という事を知りましたぁ。
誰しもが
先日、私もチョコ太郎めに連れられ、小雪ちゃんのお見舞いに行ったんですよぉ?
とっても愛らしい子じゃないですかぁ♪ 手作りの押し花も貰いましたし、もうお友達ですぅ♪」
不思議なことに、小雪が傍にいる時には、不幸が襲い掛かることが無い。
ふいに窓を突き破って野球のボールが飛んで来たり、湯呑をひっくり返して熱湯を被るといったような不運が、一度たりとも起こらないのだ。
まるであの子の優しさが、包み込むように守ってくれているかのような……、そんな不思議な感覚を東雲は感じた。
これはお地蔵さまの慈愛なのか、はたまた小雪に備わった力なのかは、分からない。
しかしながら、結論として「この子を恨むのはお門違い」
小雪ちゃんと会ってから、人生が変わりました! 初めて宝くじが当たったんだよ僕! 500円だけどね!
そうポン助も喜んでいた事だし、いつも甲斐甲斐しく彼女を支えているチョコ太郎の姿も、微笑ましく思ってやらない事もないし。
ゆえに――――もう今後、東雲が秋月本家に手出しをする事は無い。
あの日もらった可愛いらしい押し花に誓い、人から奪ったり蹴落としたりするのではなく、前を向いて歩いていくつもりだ。
まぁ……、かの“切り札”を使う機会に恵まれなかったのは無念だし、未だに
アイツは太陽か貴様って程、眩しいくらい真っすぐだし、自分と同じように苦労してるクセに、それを物ともしないほど底抜けに明るいバカだ。
長年ウジウジと恨んで来た日陰の身としては、どうしても割り切れない感情もあるので、そこはご勘弁願いたいと東雲は思う。
因縁を抜きし、彼を普通の目で見られるようになるまでは、まだまだ時間がかかりそうだった。
「と……申し訳ありません、二人で話し込んでしまってぇ。
この度は、本当に助かりましたぁ~。
落ちぶれてすいませぇ~ん……! 幸が薄くてすいませぇ~ん……!」
Hitomiの背中で、申し訳なさそうに縮こまる。
そんな事をしても体重は変わらないし、別に背負い安くなるワケではないのだが、そうせずにはいられなかった。
「いーよ? さっきまで子供達をおんぶしてたしネ。
シノノメちゃんも、ちっちゃくてカワイイ♪」
「いえ、泥まみれの私を背負って頂き……って、ちっちゃい!?!?」
ズガーン! と頭上に雷鳴。
東雲は口調こそ大人びているものの、見た目は中学生くらいの子だし、当然体重も軽い。
彼女の倍ちかい体格であるHitomiは、もう鼻歌気分でおんぶ出来てしまうのだった。
「ち、ちっちゃくないです! ちっちゃくないですぅー!
ちっちゃいと言う方が、ちっちゃいのですぅ!」
「いや無理あるでしょ……。Hitomiさん2メートル近くあるんだよ? モデル並じゃないの」
「ちっちゃい方がいーよ♪ 女の子だモン♪
背なんか大きくたって、町で変なおじさんに『モンゴルで相撲やってみねぇか?』って言われるだけわよ」
「――――言われた事あるんですかぁ!?!?
それは確かに、ちょっと無理ですけどぉー!」
「あたしモンゴルの言葉分からないから、断っちゃったケド、やったほーが良かったカナ?
チャンピオンになったら、パパ喜んでくれると思う?」
「――――ごめんなさい知りませぇん!
自分の娘が、海を渡って、モンゴル相撲の頂点を獲ってしまった親の気持ちなど、察するに余りありますぅ!」
「パパってエライのわよ、シャッチョさんなのわよ。
だからあたしも、エラくなっといたほーが良いのカナーって。
モンゴルには、他にどんな競技があるの? どのクソから順番に捻り潰せばイイ?」
「――――肉体系競技を網羅しようとしないで!
なんか普通に出来てしまいそうで怖いんですぅ!!」
「モンゴリアン・ドリームとか、私聞いたこと無いわ……。
とりあえず、日本で頑張ろうよHitomiさん」
女の子3人、かしましくおしゃべり。
やがて歩く内、彼女らはのどかの家に到着。いま彼女が「ちょっと待っててね」と、家の鍵を開けに行った。
「そ、それはともかく……本当に申し訳ありませぇん。
服も汚してしまいましたし、メガネにも泥がぁ……」
「あぁ、これ?」
田んぼでワチャワチャした事で、Hitomiのメガネにも泥が跳ね、酷く汚れてしまっていた。
東雲は裸眼なので分からないけれど、きっと前が見えにくかっただろうし、なによりそれは大切な物のハズだ。せっかくのオシャレなメガネなのに。
心から申し訳なく思うし、弁償だってさせて貰うつもりでいた。
「いいのわよ。あたしパパの娘だモン。
困ってる人を助けない方が、きっとパパは怒る――――」
◆ ◆ ◆
『同じ人間とは思えませんでしたぁ……』
これは、Hitomiと一緒にお風呂に
勘違いしないで頂きたいが、東雲は背丈こそ低いものの、中々にグラマーな身体つきをしている。まさに“トランジスタグラマー”とも言うべき、セクシーな女の子なのだ。
しかしながら、それも肉の本場アメリカ人を彷彿とさせるような、Hitomiの肉体美を前にしては、どうしても霞んでしまうというだけの話。
カブト虫はとてもカッコいいけれど、横に馬鹿でかい“戦車”がいる、みたいな感じだ。もう生物としてのカテゴリーが違う。
それでも、のどかを加えた女の子3人で、髪を洗いっこしたり一緒に湯船に浸かったりと、すごく楽しい時を過ごした。
特にお互い綺麗どころである為か、Hitomiと東雲が一緒に並ぶと、まるで姉と妹のような印象を受け、たいへん微笑ましい光景となる。
ちっちゃいけどしっかり者な東雲と、身体は大きいがおおらかなHitomiは、どうやら相性が良いらしい。
のどかの目から見ても、二人はすごく仲が良いように思う。
初対面という遠慮や気遣いも、こうして一緒にお風呂に入った事で、どこぞへ吹き飛んでしまったらしい。外国人(?)ゆえのHitomiの天然ボケに、「ぜーはー!」言いながらツッコミを入れ続けた事も、この子達が打ち解ける一因となったのかもしれなかった。
『はい、これラッピングしたから。
お父さんへのお土産にしてね』
その後、洗濯して貰っている服が渇くまでの間、のどか主導のもと、みんなでクッキーを作った。
時間もあるし、せっかくだからという事で、彼女の特技であるお菓子作りを教わったのだ。
つい先日まで敵対していた仲だし、東雲との遺恨をキレイさっぱり消しておきたい。ちゃんと友達になりたい。
きっとのどかには、そんな想いもあったのかもしれない。
こうして一緒にお菓子作りをする事で、東雲は楽しそうに笑ってくれたし、掛け値なしに仲良くなれたような気がした。
そして、家にお父さん(マスターP氏)を待たせているというHitomiの為に、今日みんなで作ったクッキーを、お土産として持たせてやった。
彼女はとても喜び、「はじめてパパにプレゼントが出来る」と、凄くのどかに感謝していた。
助けられたのは私達の方、感謝すべきは私の方なのにと、のどかは複雑な気持ちになったのだが……。受け取ったクッキーをそっと抱きしめながら微笑むHitomiの姿が、思わず見とれてしまうくらい綺麗で、儚くて……。もう何も言えなくなってしまった。
『また遊びに来てね。今度はおっきなケーキを作りましょ。待ってるわ』
『今日はとても楽しかったですぅ♪
秋月の人間は、受けた恩を決して忘れません。またお会いしましょう♪』
もう友達だ――――三人はギュッと手を握り合い、再会を誓う。
初めての友達、あたたかな友愛。
彼女らから貰った大切な思い出と、頑張って作ったクッキーを胸に、Hitomiは嬉しそうにアパートへ駆け出して行った。
早く今日のことを、パパに報告したいと。
……
…………
……………………
「あぁん? 提督は執務中なんだ。
部外者はあっち行ってな」
しかし、思わぬ所で、Hitomiの足は止まった。
喜び勇んで帰ってみれば、そこに居たのはアパートの扉の前に座り込む“天龍”。
彼女は軽巡洋艦というタイプの艦娘であり、かの第六駆逐隊の引率を務める事も多い、姉貴肌のカッコいい女性だ。
彼女は今、ろくにHitomiの方を見ないまま「ケッ!」と舌を鳴らし、Hitomiの行く手を塞ぐようにして、じっと扉の前に座り込んでいる。
「あ、あのっ! あたしパパに用が……」
「知るかよ、いま執務中だって言ってんだろうが。消えろ」
見せつけるように、手にした刀がチャキッと音を立てる。
これは彼女の艤装のひとつであり、人間など紙のように切り裂いてしまう凶器だ。
目線も合わせず、さもくだらないと言ったような態度。それは明確にHitomiを拒絶していた。
「戻ってみりゃあ、提督が大怪我してやがった。アバラが何本もイッてんだってな?
まぁあの人なら、こんなのなんて事ねぇのは、知ってる。
バカみてぇによ、ケラケラ笑ってやがったさ。
だが正直……肝を冷やしたぜ」
「っ!」
「……よぉ、お前に分かるか? そん時のオレの気持ちが。
提督を傷付けられた、艦娘の気持ちがよ……?」
天龍が初めて、Hitomiに目を向ける。
「“守れなかった”罪悪感で、オレは死にたくなった。目の前が真っ暗になるんだ。
ガキ共が見てなけりゃ、泣いて詫びてたよ。提督に」
睨むでなく、凄むでもない、何の感情も浮かんでいないかのような、暗い瞳。
息が詰まる。何も言えなくなる。
Hitomiはただ、その場に立ち尽くす。ギュッと胸元で手を握って。
「2時間後だ、執務が終わんのは。
それまでここは
やがて、Hitomiは声も無く、踵を返す。
力の無い足取りで、ゆっくりこの場から遠ざかっていく足音だけが、静かに響いた。