【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼き 作:リレー小説実行委員会
「すいませぇーん、写真撮って貰えますかー?」
「お願いしまーすw」
なんかいかにも若者って感じの男女二人が、公園のベンチで「ぽけぇ~」っと佇んでいたHitomiに、声をかけてきた。
「えっ……、あたし?」
「そそ! そこのお姉さんっ! おねがしまーすw」
「噴水をバックに一枚撮って! 今日ぼくら初デートなんスよ!
しっかりフレームに入れてねー」
時刻は夕暮れ時。今この公園はオレンジ色の光で照らされており、とても写真映えする事だろう。
恐らくは、その場にいたHitomiを見つけ、適当に声をかけたのだろうが……、なんというタイミングの悪さ。
先の出来事により意気消沈。ただ無為に時間を潰すように、ひとりポツンとベンチに座っていたHitomiは、慌てて俯いていた顔を上げる。
いま彼女が纏う雰囲気も、空気も読まず、若いカップルは不躾にカメラを押し付ける。
そして有無を言わせぬまま、自分たちは噴水の方へ駆け出し、そこで「いえーい!」とばかりにポーズ。
「あのっ、これを押せばいーのカナ?」
「はーい! シャッター切るだけでOKなんでー!
撮る時は合図を……ってデカぁ!?」
ワケも分からないまま、言われるがままにカメラを構える。
それを余所にカップルの二人は、スクッとベンチから立ち上がったHitomiの上背を見て、なにやらキャッキャと盛り上がっている様子。
若者特有のノリなのか、彼女に聞こえるとか失礼だとか、そういった事には全く頭が回っておらず、見たままの印象を大声で口に出す。
こんだけ背が高けりゃ、いい感じの角度で撮れるんじゃね? すごくね? みたいに。
「それじゃあいくヨ? えっと……はいチーズ」バッキャァ!!
「!?!?」
「!?!?!?」
シャッターのボタンを押し込んだ途端、Hitomiの手の中で
彼女の軽い剛力により(?)、原型を留めないほどバラバラになった。
「ごっ……ゴメンナサイ! 弁償するねっ! 1万ペソでいいカナ?」
「――――なんでアルゼンチンペソ!? なに持ってんだアンタ!?」
「つかカメラ砕くなし! どんだけだし!」
ごめんなさいゴメンナサイと平謝り。何度も何度もペコペコ。
一応は、いつも所持しているバッグの中に、札束めいた日本円のお札も入っていたので、それを差し出してみたけれど……、これにより更に「ドヒャー!?」と驚かれてしまう。
なにこんな大金持ち歩いてんだと。
「いや、そんな高くないヤツだし、これ一枚だけで充分なんで。
あんま外で札束とか、出さない方がいいっすよお姉さん……?」
「もういいし! 他の人に頼むし!
信じらんないわこの人! ぷんぷん!!」
なんだアイツ、と言外に伝えるような態度で、二人が離れていく。
申し訳なさそうに「しゅん……」と俯くHitomiだけが、この場に残された。
「やっぱりあたし、駄目な子だ。
こんなだから、パパに怪我させちゃうのわよ……」
暫しの間、じっと立ちつくした後、ようやく動くことを思い出したかのように、ベンチに戻る。
沈んだ顔で項垂れ、力なく肩を落とす。
今のHitomiには、それ位しかする事が無い。どこへも行けないから。
「骨を折ったら、とっても痛いよネ?
でもパパ、笑ってた。
Hitomiごめんなって言って、頭をなででくれた……」
それって凄い事だ。いったいどれほどの優しさがあれば、そんな事が出来るのだろう。
きっと甘えていたんだ、その優しさに。
どれだけパパに迷惑をかけていたかなど、自分はこれまで、全然考えもしなかったんだから。
ただただ、好きと言うばかりで、それを免罪符にパパを振り回した。
挙句の果てに、大怪我まで負わせて。
そんなのが許されるワケないのに、反省なんて思い至りもしなかった。
今日だって、みんなを守るために仕事をしてるパパを置いて、ひとり遊び呆けていただけ。
こんなんじゃ、あの人に怒られるのも当然だ。
いや、あの女の人は
彼女にそのような想いをさせてしまったのは、他ならぬ自分。
今までずっと考え無しだった、Hitomiの至らなさのせい。
「謝らなきゃ……テンリューさんに。
ごめんなさい、もう二度としませんって」
そして、変わらなければいけない。
子供のように好き勝手するのではなく、パパや艦娘たちの役に立てるような。迷惑や心配をかけてしまわないよう子になろう。
Hitomiはそう心に誓う。これから頑張ろうって、こくりと頷きながらギュッと両手を握る。
けれど……。
「あっ」
今しがた、何気なく拳を握った事によって、思い出される。
ついさっき、人様のカメラを壊してしまった時の、手の感覚が。
普通にシャッターを押したつもりだった。全然そんなつもりはなかった。でもまるで発泡スチロールの玩具のように、誰かの大切な物がHitomiの手の中で壊れた。
これが物じゃなく、人だったら? 大好きなパパだったら? 小さな子供だったら?
その時、自分はなんて謝ればいいんだろう。何億ペソ支払えば許して貰えるんだろう。想像もつかない重さだった。
それを想い、また「ずーん」と凹む。ちびまる子ちゃんみたく、頭の上にたくさん線が入っている。
「両腕へし折っとくのはどーかな?
2か月にいっぺんくらい、定期的に自分の腕を折るの。そーすれば安心わよ」
ナイスアイディア☆ あたし冴えてるゥ♪ カシコーイ!
それはどうか分からないけれど……とりあえずようやくHitomiが、少しだけ笑顔に。
トイレとかお風呂の時は、大変かもだケド、人に怪我させちゃうよりはいーよネ?
あたし指が二本あれば、金属で出来たカメラをスクラップにしちゃえる事が実証されたんだし、念入りにやらないト!
そんな風にうんうん頷く。無駄にカワイイ仕草。
「ピッコロさんだって、たまに自分の腕を引きちぎってるし。ダイジョーブわよね!
……あれっ? なんであたし、そんな事知ってるんだろう?
記憶喪失は複雑怪奇だネー」
自分の事がよく分からん。あたし女の子なのに。
マスターP氏が英雄だというのと同じく、DBも一般常識の範疇なのか。謎だ。
「それにしても、あたしはいったい何なんだろ……?
パパの娘ってこと以外、なんにも分からない……」
ふいに、ずっと胸の中にあった不安が、とめどなく溢れ出す。
今日使ったお金の事も、自分のバッグに入っている物すら、Hitomiには覚えが無いのだ。
何故これを持ってて、何故この服を着ているのか? どうして自分はパパに会いに来たのか? そんな事すらもHitomiには分からない。
とんでもない恐怖と、不安、孤独感。
Hitomiはこの一か月ほど、常にそれと戦って来た。
圧し潰されそうになる心を、なんとかパパの顔を思い描くことで耐えて、この美星町まで歩いて来たのだ。
「でも、ひとつだけ憶えてる。
なんの事だか、よく分からないんだけど……でも知ってる光景があるのわよ」
それは、
泣いて泣いて、怖くて心細かった心が、誰かの温もりで溶かされていった……そんな不思議な思い出だ。
綺麗な蛍がたくさん舞う、青白い世界の中で、短冊に願いを込める――――君とまた会えますようにと。
そんな知らない光景が、いつかどこかの“七夕の記憶”が、ふいに頭に浮かぶ事があるのだ。
大切な大切な、宝物のように綺麗な記憶。
「あたしの髪は緑。銀色とチガウ。
だからこれ、きっと
この女の子じゃないのに……」
自分以外の、誰かの想い。
知らない女の子の、淡い恋の思い出。
何故こんな記憶が、自分の中にあるのか? いったいこの少女は誰なのか?
そしてこの子は、また男の子に会えたんだろうか――――願いは叶ったんだろうか。
そう考えてみるも、Hitomiには知る由もない。分からない事だらけ。
「探してみたいナ……あの夜の森。
そして、あの可哀想な女の子を。小さな織姫と彦星を」
叶えてあげたい。会わせてあげたい。
Hitomiの中に、そんな漠然とした想いがある。あの子を幸せにしてあげたいと……。
自分は記憶喪失の身だし、そんな余裕がどこにあるのかという話だが。でも探してみたいと思う。
いい子になって、たくさんお手伝いをして、そしていつかパパにお願いしよう。一緒に探しに行こう。
あの七夕の願いを。その結末を――――
それがHitomiにとっての、大切な道しるべだった。
失くしてしまった自分を探すための、鍵。
「さって、そろそろ2時間カナ? 家に帰らなくっちゃ」
そして、天龍さんに謝ろう。パパにごめんなさいしよう。
Hitomiは「よいしょ!」とベンチから腰を上げる。
落胆で縮こまっていた身体を真っすぐに、元気にのびぃ~と身体を伸ばしてみた。
腰を反らした事で、その豊かな胸がさらに強調され、服がパッツンパッツンに。
ボタンがポーン! とひとつ飛んでいっちゃったので、慌てて「あわわ」と探す羽目に。
もう辺りは薄暗い。そんな中がんばってしゃがんでキョロキョロ。なかなか見つからないナァと。
「――――ねぇ、探してるのはコレかしら? Hitomi姉さん」
その時、突然Hitomiの頭上から、声がした。
「と言っても、私達の方が、背は大きいのだけど。
チビで出来損ないの、Hitomi姉さん?」
「長女のクセに、使えなーい☆
あーし達ヘルキャットの面汚しだねぇ! プークスクス♪
◆ ◆ ◆
腰まで伸びる艶やかな黒髪が、サラサラと風に揺れる。夕闇に溶けるように。
「迎えに来たわよ、迷子のナイチンゲール」
大人の色気を感じさせる、低く美しい声。
それに顔を向けたHitomiの目に、真っ先に飛び込んで来たのは、とても長身の女性……のバキバキに割れた腹筋。
女性らしい豊かな丸みをおびた、ヒップ。
思わず二度見してしまうほどに、大きなバスト。
あえて腹部を見せつけているかのように、非常に丈が短いタイプの、“バスガイドのコスチューム”。
そして
服の上からでも分かる、ダイヤモンドみたいに引き締まった筋肉。肉体美。
「私の名はRui――――コードネーム【
スラッと伸びた足に、まっすぐ伸びた背筋。セクシーな腰のくびれ。
女性としての自信に満ち溢れた、威風堂々の佇まいに、思わずHitomiは一歩後ずさる。
「あはは! そんな小鹿みたく怯えなくてもいーって♪
あーし達姉妹でしょ? 仲良くしよーよ姉さぁーん☆」
その隣に立つのは、街燈の灯りを反射してキラキラと輝く、金髪ツインテの娘。
リップを塗った瑞々しい唇と、幼さを感じさせる無邪気な笑顔。
それとは裏腹に、競輪選手もかくやという、信じられないくらい逞しい
加えて、これまた丈の短いカラフルなノースリーブから、ボッコボコに割れた岩みたいな腹筋が、可愛いおへそと一緒に見え隠れ。
その中高生的な若者口調と、両手に持った黄色い二つのポンポンが、彼女が“チアガール”であることをハッキリ示している。
にもかかわらず、この場の誰よりもデカい
「あーしはAi――――コードネーム【ヘルキャット】の
Go! Fight! Win! Let's Go!
足を高く上げ、リズミカルに踊る。
金色のツインテと、大きな胸をゆさゆさ揺らしながら、次々にチアの技を繰り出していく。
だが、そのエロキュートに似つかわしくない、凄まじい威圧感。まごう事なき強者の佇まい。
――――何だコイツらは? 何故あたしの前に!? ヘルキャット?!
Hitomiの脳裏にいくつもハテナマークが浮かび、震えと共に身体がこわばる。額に汗が滲んでいく。
声を出すことも、その場から動くことも、出来ない。
「さて、
ここに連れてきて頂戴、もう待ちきれないわ」
「Hitomi姉さんばっかりずるーい☆ あーしもパパとチュッチュしたぁーい!」
はやくはやくーっ☆」
「っ!?」
だが、彼女らの口から“パパ”という言葉が出た途端、呪縛から解き放たれたように正気に戻る。
Hitomiは身体が命じるままに、警戒の構えをとりながら、目の前の二人組に詰め寄る。
「なに言ってるノ……? 姉とかパパとかって……。
あたしそんなの知らない! 貴方たちなんかっ!」
「駄目ね、お話にならないわ。
記憶に難アリ、とは聞いていたけれど、これ程だなんて」
「この調子じゃ、自分の任務のことも、忘れてるんじゃないのぉ?
マジ出来損ないじゃーん! 何しに来たのアンタ? キャハハ☆」
なしのつぶて。爆乳バスガイドことRuiと、爆乳チアガールことAiは余裕の表情を崩さず、ニヤニヤとこちらを見ている。
記憶喪失――――この言葉が痛烈にHitomiの頭をよぎる。同時に恐怖とも不安ともつかない、得も知れぬ感情が襲う。今はしっかり前を睨まなければいけないのに!
「あ、そーれ」
「ッ?!?!?」
爆乳バスガイドことRuiの身体が
瞬時に零距離まで迫る突進から、とんでもない剛力によって放たれた、腰から拳までをピンと伸ばす美しいアッパーカット。
80㎏近くもあるHitomiの身体は、簡単にふわりと宙に浮き、受け身もままならず地面に叩きつけられた。
「ふむ、お腹を殴ろうかと思ったのだけど……予定変更。
AI、油断出来ないわよ? この子とんでもない
「うっげぇー! あんなの殴ったら、こっちの手が折れちゃうよーっ!
役立たずのクセに、無駄に頑丈なんだね♪ 腐っても長女ってトコかな☆」
話は無駄と判断し、即座に実力行使。その冷徹さよ。
恐らくは、叩きのめした後で言うことを聞かせる算段だったのだろう。しかしHitomiは、苦し気な呻き声こそ挙げているものの、しっかりと目に力が宿っている様子。
加えて、爆乳バスガイドことRuiの方は、拳の痛みを散らすように、プラプラと右手を振っていた。攻撃した側のハズが、逆にダメージを受けたのだ。その異常なまでの頑強さに。
Hitomiは、倒れてしまった身体を起こすべく、必死に腹筋に力を込める。
顎に不意打ちを喰らい、豪快に吹っ飛ばされたにも関わらず、もう動くことが出来ている。
極限まで体脂肪の削られた、まったく無駄のない美しい腹筋が、まるで山脈のように逞しく隆起。ギギギと音が聞こえて来んばかりに引き締まり、鋼の硬度と化す。
たとえ身長は二人に及ばずとも、身体のクォリティでは、全く引けを取らない!
むしろ凌駕しているッ! これは見せかけの筋肉に非ずッ!
「なんて肉体なの。……お前が言うな感あるけど。
とにかく、こんな脳筋娘、まともに相手してられないわ。
さっさと目的を果たしましょうか」
「りょーかいだよ、Ruiお姉ちゃん♪」
爆乳チアガールことAiが、小型の無線機らしき物をたわわな胸の谷間から取り出し、手早く操作。
時を置かず、すぐに繋がった先の相手に向けて、元気の良い声で告げる。
「ママぁー!
例のヤツお願ぁーい☆」
――――狂え。
ボソリと、無線機から小さな声。
得も知れぬ圧力と、不気味な強制力を伴う
――――目覚めろ。己を取り戻しなさい、Hitomi。
「ッッ!?!?」
……その途端、フッと糸が切れたように、Hitomiの身体が脱力する。
夢遊病のように、目に力が無くなり、光を失う。
瞳孔が開かれた、濁った色の眼は、もう何も映していないかのよう。
まるで、
「さて、パパを連れてきて貰えるかしら?
私達は、ここで待ってるから」
こくり、と頷く。
無言のまま、
◆ ◆ ◆
「いや~、終わりましたねぇ!
今日も頑張ったなぁオイ! わいナイスガイ!」
肩をグルグル回し、書類仕事によるコリをほぐす。
わいまだ17才やのに、なんで執務とかやっとるんやろうかと思わない事もないが、これも町の平和の為。艦娘たちの為。
チュニジア大統領を目指して、頑張らなければ。
「あー腹減った! 脳に糖質が足りませんねぇ!
今日はガッツリ銀シャリでいきます? 炭水化物サイコー!」
先ほどまで書類を手伝ってくれていた第六駆逐隊の子達は、現在お夕飯の買い出し任務を受けて、再びヤングストリートへ行っている。
表で歩哨(警備)をしていた天龍も、ちびっ子の引率として共に出払っている。
すぐ戻ってくるから、部屋から出るんじゃねーぞ。オレが戻るまで――――
そう出掛ける際に言い付けられたが、正直アイツは心配しすぎだと思う。こちとら北斗神拳の伝承者やぞと。
だが全然たいした事は無いとはいえ、自分が怪我をしたと知った時の天龍の顔を、今も憶えている。いつもの彼女らしからぬ様子で、哀れなほど愕然としていたのだ。
ゆえにここは、大人しくしておこう。アイツに心配かけるの、いくない!
わい未成年やし、外でたばこ吸うワケじゃないしな、とマスターP氏は思う。
通称“提督の椅子”(ホームセンターで買った2980円の座椅子)で背筋をのびぃ~っとやりながら、久方ぶりに一人の時間を堪能。気分をリラックスさせた。
『――――パパ』
ガチャリと、扉が開く音。
それと同時に、Hitomiが部屋に入ってくる気配。
「おう娘よ! 今日もパパは頑張ったぞぅ!
もーすぐ艦娘たちも帰ってくるから、一緒にアホみたいに銀シャリを貪r
『――――ねぇ、来て』
ゆっくりとした足取りで、まっすぐP氏のもとへ。
そして有無を言わせず、その手を取る。
「おっ、おっ? ちょ……Hitomiどしたん? もうすぐ飯が……」
『ほら、来てパパ』
平坦な声、感情の窺えないフラットな表情で、P氏を引っ張っていく。
優しい手つきながら、どこか強引に。
慌てて玄関で靴を履くけれど、こちらの戸惑いなど全く意に介さず、Hitomiはどんどん進もうとする。
「どこ行くんですかねぇ!? それだけ先おしえて? おーい!?
ちょ、えっ……Hitomi?」
……
…………
……………………
「なぁHitomiぃ! もう暗いんだし、そんな走らんでもぉ!」
タタタと、軽快な足音。
まるで物語に出てくる恋人たちのように、Hitomiは楽し気にP氏の手を引いたまま、暫く走り続けた。
そして、辿り着いた先は“公園”。
アパートの近所にある、みんなの憩いの場だ。
だが今は7時過ぎという事で、あたりに人の気配は無く、この場は静寂に包まれている。
町の喧騒から離れ、まるで自分たち二人だけが、世界から隔離されたかのように。
「なんだぁ、カナブンでも見つけたんかぁ?
わい昔、バッタ獲るの得意だったけども。一緒にぴょーんって跳ねてよぉ」
うーんと腰に手を当てて、あたりをキョロキョロ。
だがどれだけ見渡しても、ここにはベンチや噴水くらいしか無い。公園の街燈が弱々しく照らす、何も存在しない空間。
『――――好き』
突然、Hitomiが振り向く。
少女のように、うしろで手を組みながら、妖艶な笑みを浮かべて。
「ッッ!?」
キス――――Hitomiの桜色の唇が、P氏の口を塞ぐ。
P氏が驚く間もないまま、何もさせぬまま。
同時に、思考が真っ白になる。あまりの唐突さに、理解が追いつかない。
「んッ……!!??」
視界がぼやける。
目をつぶったHitomiの美しい顔が、零の距離で、いま目の前にある。
なに? なんでチュー? わい達は親子なのに。
怒涛の勢いで疑問が湧く。だがその意識は、だんだん遠くなっていく……。
しだいに身体から力が抜け、眠りに落ちていく。抗えない心地よさと共に。
『好き、好き、好き――――』
意識を失ったP氏を抱きかかえながら、愛おし気に口づけ。
ほうっと呆けた顔、頬を赤く高揚させながら、キスの雨を降らせる。
お母さんに甘える子犬のように。とても純粋で、原始的な、愛情――――
「あらら。Hitomi姉さんったら、随分とはしたないのね?」
「ずるくない!? 普通あーし達からでしょお!?
姉さんはずっと、パパと一緒に居たじゃんっ!」
雑木林の暗がりから、爆乳バスガイドことRuiと爆乳チアガールことAiの二人が、ふっと姿を現す。
影と一体化するが如く、クノイチのように気配を消していたのだ。
まぁ彼女らは、どちらかと言えば
「まぁ辛抱なさい。これからはずっと、パパと一緒にいられる。
キスだって、それ以上の事だって……沢山して貰えるわ」
「そだね☆ いっぱい愛してもらわなきゃ♪
あーし達三人、脳がトロットロになるまで。交じり合って形が分からなくなる位。
もう離さないよ、パパ」
P氏を取り囲む。隙間なく密着する。
円になり、三方向からギュッと挟むように。
大きくて柔らかい胸で、彼を包み込むようにして。
その途端、彼女らを中心として、地面に魔法陣のような物が出現。
それは眩いほどの光を放ち、辺りを白一色に染める。強い風が吹き荒れる。
『『『 好き、好き、好き 』』』
不思議な力で、彼女らの身体が、宙に浮いていく。
ふわりと、ゆっくりゆっくり、浮き上がる。
P氏を愛おし気に抱きしめ、三人で身体中にキスをしながら、どこか別の世界へと転送されていく……。
「――――ちぇぇぇえええりゃあああああああーーッッ!!!!!!!!」
「「「 ッ?! 」」」
その時! この場に声が木霊する!
信じられないほど大きく、高い、
「――――チェストォォォオオオオオオオーーーッッ!!!!!!!!!」
切り裂く! 地面を!! 光を!!!!
突如として現れた何者かが、こちらに神速で駆け寄ると共に、刀を一閃。
縦に振り下ろされた凄まじい斬撃が、光の根源であった魔法陣を破壊!
中にいたHitomi達もろとも、斬り伏せんばかりに。
「ちぃ、外したか……。
少しは出来ると見える」
咄嗟に術式を解除し、この場から飛んだ。
そうしなければ、彼女らは殺されていた事だろう。確実に。
いま日本刀を肩に担ぎ、鋭い目でこちらを睨む、
「主ら、物の怪の類だな?
大義の下、誅殺するであります――――」