【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼き 作:リレー小説実行委員会
「ひもじいよぅ。ひもじいよぅ」
「寒いわ」
美星町の外れの方にある河川敷。その高架下。
「お腹すいたよぅ。キューキューいってるよぅ。ひもじいよぅ」
「辛いわ」
現在ヘルキャットの二人、爆乳バスガイドことRui&爆乳チアガールことAiは、肩を寄せ合って三角座りしている。
少しでも体温を逃がさないように、ギュッと足を胸に引き寄せ、お互いに密着。
心と身体に吹きつける寒風に耐えながら、町の片隅にチョコンと座る。
「バッグ落としちゃったものね。お爺ちゃんから逃げた時に。
ごめんね、私が預かっていたのに……。お金なくなっちゃったわ」
「いいんだよぉ。あーしが持ってるより、お姉ちゃんが管理したほーが良いもん。
きっとあーしだって、バッグ放り出してたと思うし。あんな状況だもぉん……」
バッグごと所持金を失ったので、ごはんを食べる事も出来ない。
さっきヤングストリートで見つけたウォータークーラ―で、まわりの人達がドン引きするくらい、ガブガブお水を飲んで来た。みじめだ。
「ママに怒られちゃったねぇ。怖かったねぇ」
「ええ、泣きそうだったわ。
ママに怒られると、胸がキュッってなる……。悲しくなってしまうの」
グジグジと、二人がすすり泣く声が、朝方の高架下に響く。
二人ともえらい綺麗な子達なのだが、今は子供のようにえぐえぐ。美人が形無しだ。
辺りはチュンチュンと鳥の声が聴こえ、お天気も良いし、清々しい朝なのだが……二人の気分は沈んでいるのだった。
愛するママに、怒られる。
こんな悲しい事が、この世にあるのかって思った。
あの人を捕まえるまで、お家に帰って来ちゃいけません――――
昨日、アジトにすごすごと帰還した時、そう怒鳴るでもなく叩くでもなく、ただ淡々と叱りつけられた。とても冷たい声で。
自分たちの不甲斐なさを痛感したヘルキャットの二人なのだ。ガチ凹みである。
「ねぇねぇ、あーし昨日生まれたばっかだし、知らないんだけどさぁ?
ご飯ってゆーのは、どんなのがあるの?
“おいしい”って、どんな感じなのかなぁ?」
「私は半日ほどAiより早かったから、一度だけご飯を食べさせてもらった事があるの。
お米を三角の形に固めた物……おにぎりっていうらしいのだけど。
あれはとても“美味しい”と思うわ。なんだか胸がポカポカするよ?」
「へぇー。いいなぁ。あーしも食べてみたい~。
でも三角って、なんか
高架下の壁にもたれ、三角座りで寄り添い合う。
そんな今のあーし達には、そのおにぎりという食べ物が、ピッタリかもしれない。おんなじ三角だし。
「はやくパパを捕まえて、おにぎり食べよーね? お腹いっぱいになろーね?」
「ええ、そうしましょう。一緒におにぎりを食べましょうね。
たしかタクアンというのもあったから、楽しみにしているといいわ。
お姉ちゃんの、ひとつAiにあげる」
ありがとーお姉ちゃん! えへへ♪
いいのよAi、うふふ♪
こんな時でも、二人は仲睦まじい。とっても姉妹想いな子達だった。
「ねぇお姉ちゃん……バチが当たったのかなぁ?
あーし達って、Hitomi姉さんに酷いこと、いっぱい言っちゃたじゃん?」
「……」
「きっとそれで、神様が怒ったんだよ……。いま腹ペコの刑に処されてるんだよ。
姉妹なんだし、Hitomi姉さんとも仲良くすればよかった……」
膝におでこをくっつけ、小さく縮こまる。
顔を隠し、心から悔いている様子が分かった。
「そうね……きっと嫉妬していたのね。
自分だけ早く生まれて、パパと暮らしてたーって。
私、Hitomi姉さんに、辛くあたってしまったわ……」
「記憶そーしつって、きっとすごく怖いよねぇ? 自分が何だかも分かんないんだもん。
不具合なんて、Hitomi姉さんのせいじゃないのに……。悪いことしちゃった……」
自分たちが辛い境遇になった事で、初めてあの子の気持ちが分かる。
不安とか、悲しみとか、頑張りとか……それを理解する事が出来た。
いくらパパと会いたかったからといって、これが任務だったからとて、Hitomiに酷いことをするのは違う。辛く当たるのは可哀想だ。
私達は今、とてもひもじい想いをしているけれど、Hitomiはこれと同じ気持ちを、一か月もの間あじわっていたんだから。
しかも、たった一人きりで。
常に二人で行動し、互いに慰め合える自分達とは、きっと比べ物にならないほど辛かったハズだ。
今ならそれが分かる。
「ムキムキだしね。きっと怖がられてたよぉ」
「ええ。頼れる人も、友達も居なかったことでしょう。ムキムキだしね」
考えてみれば、
腹筋バキバキの、あんなえっちぃ恰好をした変態淑女が、オロオロ町を彷徨ってたんだから。
たぶん、何度か通報されてるクサイ。
許可取ってんのかオラァン!? 公然猥褻だろオラァン!(AV撮影的な意味で)みたく。
ほんと大変だったろうに。
「それよりも、さっき良い物を拾って来たのよ?
さてAiちゃん、右手側をご覧くださいませ」
「えっ、なにこれぇ?」
話がひと段落した時、爆乳バスガイドことRuiが、おもむろに何かを取り出す。
「“ダンボール”って言うらしいのだけどね?
これがあれば、寒さもヘッチャラなんだそうよ」
「おーっ! すごいじゃーん!
さっすがお姉ちゃんだ♪ でっきるぅー☆」
ゴソゴソとダンボールを開き、暫し二人で眺める。
さっき道で拾って来たのだが、これはそんなに凄い物だったのか。ゴミじゃなく文明の利器なのね。
「これにくるまっておきましょう。
さぁAi、こっちにいらっしゃい」
「えへへ♪ お邪魔しまーす♪
わぁ! お姉ちゃんあったかーい☆」
ギューッとくっつき、ダンボールにくるまる。
安らぎとぬくもりを感じ、二人ともすごく幸せそう♪
……まぁこんな美人の子達が、
「でもこれ、なんかゴツゴツしてるねぇ。
意外と固いし、冷たいよぉ……」
「まっ平らだから、あまり身体に密着しないわね。
隙間風で、ガンガン体温が奪われてく……」
布団や毛布とは違い、これはダンボール。
とてもじゃないが、秋の寒風から身を守れるようには、出来ていなかった。
二人とも、おへそ丸出しの服を着ていることもあり、すごい寒い。
丈の短いバスガイドコスとチアコスは、動き安くはあれど、防寒には向いてないようだ。
「がんばるのよAi。ダンボールを信じましょう。
これは文明の利器よ」
「そーだねお姉ちゃんっ!
Fight! Go! Win! Let's Go☆」
――――もうやめて! 助けてあげて! 誰かこの子達をッ!!
さりげなくモニターで見守っていた、幾人かの組織の者達は、思わず拳を握りしめて叫んだ。あの子らがいったい何したって言うんだと。
そんな彼らの尊い祈りが、神様に届いたのかは分からないけれど……。やがでこの場の状況に、少し変化が訪れる。
「 君たちっ! ちょっと来たまえっ!! 」
「「っ!?」」
怒鳴り声。朝の河川敷に、すごく大きな声が木霊する。
「何をやってるんだ君たちはっ! 早く! こっちに来ないかっ!!」
「えっ、あの……」
「おにーさんは……?」
今こちらに向けてプンプン怒っているのは、“秋月ポン助”。
かの裏秋月・壱の
いそいそとダンボールを傍にどけて、言われるままに彼のもとへ向かう。
二人はキョトンとした顔だし、なんでこの人が話しかけてきたのかなど、ぜんぜん分からないのだが、とりあえず声に従う。
あのぉ……ナンデスカ? みたく。
「――――君たちはダンボールを、何だと思っているんだい!?
そんな使い方で、
「えっ」
「えっ」
しばし……、時が止まる。
あまりの男の剣幕、意味の分からなさに。
「可哀想だとは思わんのかっ!! ダンボールに申し訳ないと思わんのかっ!!
君たちはっ……、ダンボールの可能性を潰しているんだぞっ!?
何故もっと真剣に、
ブチギレ。激おこだ――――
今ポン助は、彼女らのあまりに拙い“ダンボールの使い方”に、我を忘れて激怒しているのだった。
「ばっきゃろう! こうだっ!
これがダンボールの使い方ッ! 正しい活用だッ!!」テキパキ
ポン助の手によって、みるみる内に“家”が出来上がっていく。
何枚もダンボールを重ね、強固な一枚板を形成。それに窪みを作っていくつも合体させる。
釘一本、ガムテープすら使わず、ガッチリしっかり組み立てて見せる。
やがてこの場に、約10畳ほどの広さがある、立派な一軒家が完成。
「耐震、防水、湿気や強風などへの対策……。
考えることは沢山あるよ? でも創意工夫すればいけるさ」
「すっ……すごい! 魔法みたいだわ!」
「おにーさん大工なのっ!? めっちゃ手早く作っちゃったぁ!」
ふーやれやれって感じで、汗を拭いながら“作品”を眺める。
娘たちもテンションMAX! なんて立派なお家なんだろう! 広いしすごく丈夫そうだ!
「いま見せたように、ダンボールはここまで出来るんだ。
風よけにも緩衝材にもなるし、使い方次第で、色々なことが可能だ」
先ほどとは違い、ポン助が優しい顔で微笑む。
腰に手を当て、しっかり胸を張り、まっすぐ娘たちの顔を見る。
「たかがダンボール、されどダンボール――――
感謝して、ありがたく享受するんだ。
しっかり使ってあげてね?」
「うんっ! ありがとうおにーさん♪ あーし分かったぁ☆」
「使い手によって、ここまで差が出るだなんて。感服しましたわ。
ありがとう御座います、おにいさん」
わっはっは! いいのいいの!
そうポン助が朗らかに笑う。貧乏人とは思えない爽やかさだ。
「ダンボールを馬鹿にするヤツは、僕が許さないぞう! 今まで何人
牛乳パックや割り箸を活用して、何が悪いって言うんだまったく」
「そのとーりだよおにーさん♪
ゴミじゃない! 資源ですっ!」
「愛してあげて。大切にしてやってね?
そうすれば、
手をかけてやればやるほど、ダンボールは羽ばたく事が出来るんだ」
「なにやらダンボールが、愛おしく見えてきましたわ。
すごいんですねダンボール。私にも出来るかしら?」
――――やめぇ、変なこと教えるな。
監視していた者達は、そう叫びたくなる。
この場の朗らかな雰囲気と、モニター室との温度差が凄い。
まだ子供なんだぞ、その子らは。
「おーいポン助ぇ。おんどれどこ行っとんねーん。
お前が『ランニングしたい』言うたんとちゃうんかーい」
「あっ、チョコ太郎! ごめんごめん!」
やがてこの場に、紫色のスポーティなジャージ姿の男が現れる。
金髪をオールバックにしてるし、ガタイもすごく大きいので、とても厳つい風貌だ。
「ワイにとっちゃ日課やし、付き合うのは構わんけどな?
でも後で、プアにメシ届けたらなアカンねん。
あのボケ……。ほっといたら何も食わんと過ごしよる。
PFCバランスをなんやと思っとんねん」
【PFCバランス】とは、一日で摂取すべきタンパク質、脂質、炭水化物。その理想的なバランスの事。身体作りや健康には必須だ。
わしゃアイツのオカンか――――みたいな事を言いながらも、ぜんぜん嫌そうではないチョコ太郎の顔が、とても印象的だった。
「あーっ! 何あの怖いオッサン! きんもーい☆」
「嫌悪感があるわね。こっちに来ないで下さる?」
「ッ!!??」
ランニング中にはぐれたポン助を探し、何気なくここへやって来たら、ものすごく辛辣なことを言われる。
「すまんポン助……ワイ帰ってもええか?
ちょっと自分の部屋で、
「――――挫けんなよチョコ太郎っ!!
君には友達がいるじゃないか! 僕だってそうさっ!」
「?」
「???」
キョトンとした顔で、彼らを見る。
一方はウジウジと地面に「の」の字を書き、もう一人は必死に慰めている。
あ、大の大人でも、三角座りってするのね。
少しだけ親近感が湧く、ヘルキャット達だった。
◆ ◆ ◆
「という事で、本日はお伺いしたんです。
この子たちの話を、聞いてやっては貰えませんか?」
「お願いしますぅ」
お昼時。美星鎮守府(6畳間)。
今この安アパートの一室に、ポン助&東雲の姿があった。
後ろの方でチョコンと座り、申し訳なさそうに俯いているヘルキャットの二人も一緒だ。
ちなみに嫌悪の“業”の事もあり、問題が起こるといけないので、チョコ太郎は同行していない。今はワーキングプア侍の所へ行っているハズだ。通い妻みたく。
「いや……いきなりの事で、正直ちょっと混乱してっけども……。
でもご親切にあざっす。この子らを送って下さって」
「構いませんよ、これも何かも縁です。
まさか前町長の娘さん方だったとは。お力になれたなら光栄です」
「ですぅ」
ポン助が事情を説明し、東雲が優しくRui&Aiに寄り添う。「大丈夫ですよぉ♪」と元気づけるように。
この子達が、貴方の娘だと言ってて――――そう告げられたマスターP氏は、飛び上がるくらいビックリしちゃったのだが、今はちゃんと客人に対応している。流石は元町長。
「最初はね? 行く所が無いと言っていたんです。
でもよくよく話を聞いてみると、この町にお父さんがいるとの事で。
遠くから訪ねて来たそうです」
「おせっかいかもしれませんがぁ、放っておけなかったんですぅ。
どうかこの子達の事、よろしくお願いしますぅ」
「もちろんスよ! ホントあざっしたお二人とも! まかして下さいっ!」
深々と頭を下げ合う。ははーっ! みたいな感じで。
ポン助と東雲に心からの感謝を告げた後、P氏は改めて、娘達に向き直る。
「ごっ……ごめんなさいパパ。めーわくだよね……?」
「あんな事をしておいて、どの面下げて来たって言われても、仕方ないわ……」
「おん?」
P氏は気絶してたので、二人の言うことに、まったく覚えが無い。
それどころか、Hitomiに連れられて来た公園での出来事……その記憶が酷く曖昧なのだ。
防衛本能が働いて、事件の前後の記憶が消し飛んだのか。それとも何者かの手によって、意図的に記憶を操られたのか……。それは定かでは無い。
とにかく、P氏が憶えているのは、昨日の仕事終わりに、部屋でひとり晩飯を待っていたって事。
そして次に気が付いたら、時刻は夜の10時になってて、なんか知らないが布団に寝かされてたって事だけだ。
「とりあえず、
小難しい話は、その後にしましょうねぇ!」
「「えっ!?」」
ちょうど昼時だし、ナイスですねぇ!
のびぃー! っと背筋を伸ばす。堅苦しい空気を壊すように。
「いまアイツらが、材料買いに行ってくれてっから。
今日のご飯は、パパのオムライスですじゃ! たくさん食えよ食えよー!」
バカ、能天気、考え無し。
そんなパパの人柄は聞いていた。でも違うって思う。
これは……“優しさ”だ、
この上ない器の大きさから来る、あったかさなんだ――――
「うぉおい! なぜ泣く!? 娘たちナンデ!?
そんな腹減ってたのかお前ら!?!?」
泣いた。たくさん泣いた。
RuiとAIはグジグジ鼻を鳴らしながら、「あーん!」と天井を見上げて、泣き続けた。
けれど、さっきまでの心細さじゃない。
心があったかかった。