【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼き   作:リレー小説実行委員会

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 これはリレー順とは関係ない【番外編スピンオフ】としてお読みください。
 ――――この作品を、創造主である大輪愛さまに捧ぐ!


※時間軸 蟲獣使い・参の遺影(天爛 大輪愛 作)の後。





【スピンオフ】わしの名はファンキー爺さん。 (hasegawa 作)

 

 

 

「軍曹殿ッ! しっかりして下さい! 軍曹殿ッ!!」

 

 硝煙の匂いと煙ただよう、一寸先すらも見えない荒野を、我武者羅に走った。

 銃弾と砲撃が飛び交う中、たったいま血を噴き出して倒れた、敬愛する上官の元へ。

 

「お気を確かにッ! 目を開けて下さい軍曹ッ!!

 衛生兵ッ! 衛生兵ぃぃぃーーーーッッ!!」

 

 滑り込むように駆け寄り、その泥にまみれた顔を覗き込む。

 自身の上官である彼は、いま力なく目を閉じて、沈黙している。

 軍服に覆われた胴体から、直視するのも躊躇われる程に、大量の血を垂れ流しながら。

 

「……船木、俺のことはいい。早く下がるんだ……!」

 

 だが上官は、耐え難い激痛に顔をゆがめながら、消えそうな程に小さな声で――――

 

「塹壕に戻れッ……! これよりお前が指揮を執り、部隊を率いるのだ……!」

 

 最後の力を振り絞るように、そう告げた。

 

「なっ……何を弱気なことを! 貴方ともあろう者がッ!

 すぐ衛生兵が来ます! 気をしっかり持って下さい! 軍曹ッ!!」

 

「……馬鹿者、お前にも分かっているだろう……?

 腹をやられた者は、決して助からん(・・・・・・・)。……俺はここで終わりだ」

 

 手で必死に押えてはいるが、今も腹からは止めどなく血が噴き出している。

 大きく切り裂かれた傷口から、ピンク色の臓物までが飛び出している。

 

「頼んだぞ船木……! 必ずあの砦を落とせ……!

 撃たれた時、機関銃の位置が特定できたぞ。あちらの方角だ……!

 お前が突破口を開くんだッ! ……いけるな、船木?」

 

 身体は血に染み、もう命すら消えゆくというのに、軍曹が口にするのは仲間の為の言葉。

 一言の恨み言もなく、泣き叫びもせずに、ただ自分の使命を果たさんとしている。

 それはまごう事なき、帝国軍人の姿――――

 

「……い、嫌だッ! 嫌だ嫌だ嫌だッ!!

 軍曹が死ぬんなら、俺もここで死にますッ!! お供しますッ!!

 どうかッ……どうが俺を置いて行かんで下さいッ!! 一人にせんで下さいッ!!」

 

 だが船木は、まるで子供のように泣きじゃくり、軍曹にしがみ付く。

 早くして親を失くし、ずっと孤独の中で生きてきた船木は、軍曹をまるで本当の父親のように慕っていた。

 つねに先陣に立ち、厳しくも暖かく導いてくれたこの人を、心から信頼していた。

 この人に尽くす、この人の為に死ぬ――――そう決めて戦っていたのだ。

 

 なのに、軍曹がいなくなったら、自分はどうしたらいい?

 いったい誰を信じ、なんの為に戦えばいい? どうやって歩いていけばいい?

 

 目の前が真っ暗になる。船木は嗚咽を漏らし、ただただ軍曹にしがみ付く。

 軍人ではなく、迷子になった子供のように、悲痛な声を上げて。

 

「船木――――これを」

 

 そんな彼に、軍曹はポケットから取り出した一枚の写真を見せる。

 

「……俺の娘だ。

 もう随分と会っていないが……、ちょうどお前と同い年になる……」

 

 血まみれの指で懸命に握られた、もう随分と古くなった写真。

 ボロボロで、所々が破れているそれは、きっと軍曹が肌身離さずに持ち歩き、心の支えとして何度も見ていたであろう事が分かる。

 

「どうだ……可愛い子だろう……?

 女房なんか、いつも『貴方に似なくて良かった』なんて……そう笑ってて……」

 

 震える手で、写真を受け取る。

 少しだけ血で汚れてしまったそれを、船木は涙に滲んだ瞳で、呆けたように見つめる。

 

「俺の宝だよ――――

 この子の為ならば、俺はなんだって出来るって……そう思ってた」

 

 この砲声の響く戦場ではなく、違うどこかを見つめるようにして、軍曹は笑みを浮かべる。

 

「けど……もう会えん。

 ひとめ成長した姿を見たかったが……もうそれも叶わん」

 

 軍曹が、船木の腕を掴む。

 いま瀕死にあるとは思えないような力強さで。想いを託すように。

 

「……だから、お前に任せていいか(・・・・・・・・・)

 生きて国へ帰り……、この子を守ってやってくれないか。

 お前にしか、頼めないんだ……」

 

 光が灯る。

 たった今まで、弱々しく泣くばかりだった船木の瞳に、意思の炎が灯る。

 

「俺たち夫婦は、男の子には恵まれなかった。子供はこの子だけだ。

 けどな? お前に会えた……。こんな地獄の底みたいな場所で、お前に会えたんだ。

 こいつが俺の息子ならって――――そう思える男に」

 

 

 娘さんを守る。娘さんを預かる――――

 そうすれば俺は、この人の“本当の息子”になれる。

 この人の意思を受け継ぎ、大切な物を守り通すことで、家族になれるのだ。

 その絆はきっと、永遠に消えない――――

 

 

「頼んだぞ船木。必ず生きて帰り、娘を守ってくれ。

 お前は、俺の自慢の…………息子だッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砲撃が、全てを掻き消した。

 

 父の最後の声も、船木の叫びも。

 そして、涙で滲んだ世界も――――

 

 愛した人の身体はバラバラになり、跡形もなかった。

 どれだけ探そうとも、ひとかけらの遺骨さえ、見つけてやれなかった。

 

 

 けれど今、船木はここに立っている。

 生きて国へ帰り、軍曹の娘と出会い、夫婦となり……そして70年以上の時が経った今でも。

 

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

「――――婆さんはどこじゃあーーッッ!!!!」

 

 船木一等兵こと、ファンキー爺さんの声が、空に響き渡った。

 

「ここはワシの世界やないッ! 知らん間に飛ばされとるがなッ!!

 婆さんどっこもおらんやないか! どこじゃココはッッ!?」

 

 以前ヤングストリートにて、まったくの善意からのアンパンチによって爆散し、いつの間にか流たちとは違う“みっつめの世界”に飛ばされていた、ファンキー爺さん。

 だが世界の改変とか、修正力もなんのその。婆さん恋しさにバッチリ記憶を取り戻していた。

 

 というか、消去出来なかったのだ(・・・・・・・・・・)

 ファンキー爺さんの持つ、妻である婆さんへの愛は、もうとんでもなく深かったから。

 世界の修正力にも抗えちゃうくらいに。

 

「――――デートするんじゃ!!

 わしゃ婆さんと、ゴージャスなデートをするという、約束があるんじゃ!」

 

 お気に入りのステッキをブンブン振り回しながら、ファンキー爺さんが「うおぉぉ!」と走っていく。

 

 恐らくは……どこかの神様とか創造主の「流石に死なせてしまうのは可哀想」という温情により、“みっつめの世界”にて復活させて貰ったファンキー爺さん。

 けどそんなもの、実はファンキー爺さんにとっては、意味のない事だった。

 

 何故なら――――婆さんがこの世界にいないから。

 連れ合いである婆さんは、今も流たちのいる世界で、本屋を営んでいるのだから。

 いきつけの本屋が営業を再開し、のどかはとても喜んでいたけれど……それとこれとは話が別。

 

 ファンキー爺さんは、見知らぬプリキュアとかと一緒に、ひとりこの世界に飛ばされてしまった。

 たとえ復活させて貰っても、それがファンキー爺さんにとっての現実なのだ。

 

 そして、それは大いに困る!!

 婆さんと離れ離れになるのは、非常に困る!!

 だってファンキー爺さんは、婆さんを守るために(・・・・・・・・・)こそ、生きているのだから!

 

 愛する婆さんを幸せにし、共に寄り添い、二人で生きる――――

 それこそが爺さんの生きる意味であり、かの地で散っていった“父親”との誓いである。

 ぶっちゃけ、こんな“みっつめの世界”とかいうワケのわからん所に飛ばされても、すんごい困っちゃうのだ!

 

 

「なんでこんなトコにおらないかんのじゃ!!

 ――――わしゃ元の世界に帰るッ! 婆さんの所に帰るッ!!

 そうと決まれば、おっしゃえーーい! ぬおぉぉぉおおお~~ッッ!!」

 

 

 ファンキー爺さんは走る。曲がってた腰もピーンと伸ばして、夕日に向かって走る。

 

 とりあえず一回家に寄り、いくつかの荷物を持ち出してから、また夕日に向かって「わーっ!」と走る。

 

 その行先は、この地で“暗黒街”と呼ばれる場所にある、不気味なまでに大きなビルだった。

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

「くっくっく……まさか不覚にも、異世界に飛ばされようとはな。

 世界というヤツは、よほど我々の力が恐ろしいと見える――――」

 

 あべのハルカスにも負けない程の、巨大な高層ビル。

 それはいかにも『世界征服を企んでおります』と言わんばかりの、おぞましい風貌だ。ドクロのエンブレムとかも飾ってある。

 

 今そのビルの最上階にある、広大なまでに大きくて豪華な一室に、いかにも『わたくし悪党を生業にしております』と言った風貌の男の笑い声が、静かに響く。

 

「まぁ構わぬ……。世界の破壊、及び征服には、何の支障も無し。

 なんといっても我々は、かのComeTrueやオリジンゼロに並ぶほどの、強大な力を持つ組織なのだから」

 

 どことなく説明臭い独り言を呟く、白髪の中年。

 

「必ずや、世界を手にしてみせよう――――思うがままに操ってみせようぞ。

 そしていつの日か、財布の中身を気にする事なくコンビニでからあげを買ったり、好きなだけDVDをレンタル出来るようになるのだ」

 

 この男は、確かに組織の“総統”の地位にあるのだが、実生活においては大変な恐妻家。

 だから月のお小遣いも凄く少ないし、気軽に部下達と飲みに行ったりも出来ない。

 成果を示して妻に認めて貰い、せめて2万円くらいにはお小遣いを上げてもらう為に、一刻も早く世界征服をする必要があった。

 

「世界間の移動や、異世界の観測など……我々にとっては容易なことよ。

 オールインワンの連中が持つ技術は、我らが発見した理論が元となり、生み出された物なのだ」

 

 ちくわを作り続けて70年。

 そんな食品生産業である彼の組織は、何年か前に偶然“異世界”という物の観測に成功。

 そして、美味しいちくわをご家庭に届けるついでに、世界間の移動や、空間転移の技術の開発に成功した。

 その技術を駆使して、いま現在もこの組織は、流たちの世界に美味しいちくわを届け続けている。

 

「我ら悪の組織、味のヤマモト(有)が、必ずや世界を掴んでみせる。

 見ておれよ、オールインワン。

 貴様らなど、所詮は羽虫に過ぎんことを、思い知らせてくれよう」

 

 その豊富な資金源、組織力、そしてちくわなどの練り物を作る技術は、他の組織とは一線を画すほどに強大な物。

 恐らくは、他の組織が束になってかかろうとも、この有限会社【味のヤマモト】を打倒するのは至難だろう。

 

 この世界、そして他の組織に力を知らしめるが如く、総統である山本の高笑いが木霊する。

 その声は、彼の内心の愉快さを表すように、すでに世界征服をした自身の姿が見えているかのように、嬉しそうな声色に思えた。

 だが……。

 

「――――大変です総統! 侵入者ですッ!!」 

 

 彼の高笑いは、突然この場に飛び込んで来た部下によって、中断される。

 

「なんだ、騒々しい。

 侵入者など、いつものように排除すれば良かろう」

 

 やれやれとばかりに、山本は気だるそうにソファーに腰かける。

 

「どうせ、我が組織の持つ“ちくわの作り方”の秘密を探る、不届き者だろう?

 馬鹿なヤツだ……ちくわを作るのに必要なのは、愛情と手間暇しか無いというのに」

 

 ぶっちゃけここに来る侵入者たちは、主に異世界に関する知識や技術を狙っているのだが、山本は知る由も無かった。ちくわ一筋70年なのである。

 

「それが……! 侵入者はもう、すぐ下の階まで来ているのです!!

 警報も、トラップも、我が組織の兵隊たちも……その全てを無力化して!」

 

「なっ……! なんだとッ?!」

 

 思わず手元にあるちくわを食べ、山本がソファーから立ち上がる。その顔は驚愕の色に染まっている。

 

「止められませんッ!

 銃器も、手榴弾も、対侵入者用の装置も、ヤツには効かないのですッ!

 ありえない……! ヤツは普段着のような恰好の、杖をついた老人なのに(・・・・・・・・・・)!」

 

「ッ!?!?」

 

「とにかく! 今すぐここから避難なさって下さいッ!

 屋上にヘリが用意してあります! 逃げて下さい社長! ……いえ総統ッ!」

 

 その信じられない言葉を受けて、山本は目を見開きながらも、机の上にあるスイッチを押す。

 いま社長室(総統室)の前面にある巨大モニターに、まるで紛争地にでもなったような下の階の映像が映し出される――――

 

 

 

 

我は官軍 我敵は 天地容れざる朝敵ぞ

 

敵の大將 たる者は 古今無雙の英雄で

 

之に從ふ兵は 共に慓悍 决死の士――――

 

 

 

 

 歌声が響く――――

 老いた男の、とても暖かく勇壮な声が……

 

 

 

 

敵の亡ぶる 夫迄は 進めや進め 諸共に

 

玉ちる劔 拔き連れて 死ぬる覺悟で 進むべし――――

 

 

 

 聞き覚えがある……。これは“軍歌”だ。

 日本最後の内戦として知られる、西南戦争。そこで戦った明治政府側の官軍である、通称“抜刀隊”の勇敢さを称えて、作られた歌。

 そして現在も、自衛隊や警察隊によって“陸軍分列行進曲”として歌い継がれる曲。

 ――――軍歌【抜刀隊】

 

「……ッ?!?! なっ、なんだこのジジイは!? 何者だッッ!!」

 

 山本の叫びが響く。

 いま画面の中に、辺り一帯を覆う硝煙を抜けて堂々と歩いてくる、ひとりの老人の姿が映った。

 

 

 

皇國(みくに)の風と 武士(もののふ)の その身を護る(たましい)

 

維新このかた 廢れたる 日本刀(やまとがたな)の 今更に

 

又世に出づる 身の(ほまれ) 敵も身方も 諸共(もろとも)

 

刃の下に 死ぬべきぞ 大和魂ある者の

 

死ぬべき時は 今なるぞ 人に後れて 恥かくな――――

 

 

 

 明治維新により、武士の魂である刀は、その存在価値を失ってしまった。

 銃器の大頭によって、時代遅れの、無用の長物と化してしまった。

 同時に、この国で戦をこそ生業としていた“侍”という者達の存在すらも。

 

 しかし、武家出身の者達で構成されし、我ら警察隊(抜刀隊)が、いま西郷隆盛の率いる反政府軍を討つ任務を受けて、また刀を携えて表舞台に出られることは、身に余るほどの名誉である。

 まさに、この身命を賭して成すべき、またと無い晴れ舞台。

 

 敵は武士。そして我らも武士――――

 手にするは、共に時代遅れの日本刀(やまとがたな)

 

 ロシア、アメリカを始めとする諸外国に対抗すべく、富国強兵を目指し、近代国家として生まれ変わろうとしている国、日本。

 いまやこの時代において、侍など最早、消え去るべき存在だ。

 

 ゆえに――――死ぬべきぞ。

 

 奴らも、そして俺達も。

 敵も味方も諸共に、刃の下に死ぬべきぞ――――

 

 

 ……これは、そんな抜刀隊の心を歌った曲。国の為に殉じた兵士たちの歌。

 忠を尽くすこと、義の為に命を捧げる心を、歌った曲。

 果敢に戦い、潔く散る――――“大和魂”の歌だ。

 

『軽機関銃、防刃チョッキ、数多の敵兵……全て恐るるに足らず。

 我が刃を持って、誅殺するであります――――』

 

 船木一等兵……いやファンキー爺さんは、父の形見である軍刀を携え、堂々たる歩みでゆっくりと進む。

 呟くように、勇壮な歌を口ずさみながら。

 

 

 

前を望めば (つるぎ)なり 右も左りも 皆劔

 

劔の山に 登らんは 未來の事と 聞きつるに

 

此世(このよ)(おい)て まのあたり 劔の山に 登るのも

 

我身のなせる 罪業を 滅す爲に あらずして

 

賊を征討 するが爲 劔の山も なんのその――――

 

 

 

※四方八方、どこを見渡しても剣だらけ。

 剣の山に登るのは、死んで地獄に行ってからだとばかり、思っていたが……。

 

 その地獄のような光景が、いま俺の眼前にある。

 しかも、これは決して、己が犯した罪を償う為に非ず。

 

 俺は君主のため、国賊を倒さんが為にこそ、戦うのだ。

 ならば、このような戦場、どうという事は無い――――

 

 

 

彈丸雨飛の 間にも 二つなき身を 惜まずに

 

進む我身は 野嵐に 吹かれて消ゆる 白露の

 

墓なき最期 とぐるとも 忠義の爲に 死ぬる身の

 

死して甲斐ある ものならば 死ぬるも更に (うらみ)なし

 

我と思はん 人たちは 一歩も後へ 引くなかれ

 

 

敵の亡ぶる 夫迄(それまで)は 進めや進め 諸共(もろとも)

 

玉ちる劔 拔き連れて 死ぬる覺悟で 進むべし――――

 

 

 

※雨のように、弾丸が降り注いでいる。

 だが決して命を惜しむことなく、我らは戦おう。

 

 たとえ死体は野ざらしとなり、無残に朽ち果てる事になろうとも、構わない。

 忠義の為に、身を捧げること。それはただ死ぬのでは無く、真に意味のある死だ。

 

 ならば、たとえ命を失おうとも、悔いなどあろうハズもない。

 この国が為、我こそはと思うのならば、一歩も後へ退くな。戦い続けろ。

 

 敵の滅びるそれまでは、進めや進め、諸共に。

 氷のように煌めく、美しき日本刀――――武士の魂を持ち、死ぬ覚悟で進め!

 

 

 

『――――チェェェリャァァァアアアアアッッッッ!!!!』

 

 まるで、いま口ずさむ“抜刀隊”の歌を体現するかのように、ファンキー爺さんが軍刀を振り下ろす。

 目の前に立ちふさがる、世界の敵――――賊を誅殺する。

 

『――――チエストォォォォオオオオオーーーーッッッッ!!!!』

 

 嵐のような、暴風のような剣撃が、眼前の敵を打ち倒していく。

 ある者は胴体が二つに分かれ、またある者は吹き飛ばされ壁に激突し、赤い花を咲かせる。

 最新鋭の装備を持つ兵士たちが、時代遅れの日本刀(やまとがたな)を握る老人を止められない! 太刀打ち出来ない!

 

 その姿を目で捉えることも無く、己が斬られたことを理解する間も無く、斬り倒されていく!

 たった一人の、ファンキーな爺さんの手によって!!

 

「な……なんだコイツは!? いったい何なんだこれは……ッ!!!!」 

 

 山田総統は、いまモニターに映る理解不能な光景を前に、ただ立ち尽くしていた。

 動くことも出来ず、この場から逃げろと言われたことも忘れて。

 それが……彼の命取りとなった。

 

「――――どっせぇいッッ!!!!」

 

「うわぁぁぁああああッッ???!!!」」

 

 扉を突き破り、ファンキー爺さんがこの場に推参。

 山本総統は床にひっくり返り、もうアワアワと爺さんの方を見つめるばかり。

 

 よく見れば、さっき「逃げて下さい!」と忠告しに来た部下は、爺さんがドアを吹き飛ばした余波によって、グッタリのびていた。

 もうこのビルに、総統である山本を守る者は居ない。

 

「なっ! ななな……何者だぁ!! なんなんだお前はぁぁあああーー!!」

 

「自分は、元大日本帝国陸軍、船木一等兵。

 人は我を、ファンキー爺さんと呼ぶ」

 

 尻もちを着いたまま、ビシッとファンキー爺さんを指さす。

 もうその手はガタガタと震えているが、なんとか世界征服を企む組織の総統として、気絶するのだけは堪えた。

 

「貴様、味のヤマモト(有)の総統だな?

 大義のもと、誅殺するであります――――」

 

「ぬおぉぉぉぉおおおおっっっ!!!???」

 

 爺さんがチャキっと軍刀を構えたのを見た途端、山本総統は叫びを上げ、ちょっとだけオシッコが漏れた。

 

「なっ、何が望みだ!? ……ちくわか?! ちくわのレシピかッ?!」

 

「いらぬ。貴様はただ、命をおいていけ――――」

 

「ぬわぁぁああああーーーーッッ!!!!」

 

 もうなりふり構わず、土下座。

 涙も、鼻水も、オシッコも垂れ流して、山本総統は必死に命乞いをする。どうか命ばかりは。

 

「貴様は、世界の崩壊を目論む組織……その長と聞いた。

 異世界に干渉し、世界間の移動を可能とする技術を持つ。

 それに相違ないな?」

 

「はっ……はいぃぃッ!! でももうしませんっ! 二度と悪事は働きませんッ!!

 これからは消費者のみなさまの為、誠心誠意! 美味しいちくわを作っていきますッ!」

 

「ふむ……」

 

 なんとファンキー爺さんは、ビシュッと血糊を落とす動作をして、その刀を鞘に収めた。

 彼の身体から、闘気や威圧感が薄れ、その表情が元の優しい顔に戻っていく。

 

 この【味のヤマモト】は業界最大手なので、もしかしたらファンキー爺さんも、この会社の作る美味しいちくわを、食べたことがあったのかもしれない。

 ちょうど今、おでんが美味しい季節だ。練り物は欠かせない存在である。

 

「ひとつ訊ねるが、貴様は異世界に干渉することが出来るのだな?

 ならば、わしを元いた世界に戻すことは出来るか?」

 

「はいッ! 出来ます!

 我が組織の保有する技術で、すぐにでも戻して差し上げます!

 いつも世界の垣根を越えて、あらゆる場所にちくわ出荷してますから!」

 

「ふむ……ならばいま、元いた世界の様子を確認することは出来るか?」

 

「出来ますッ! 今すぐにでも、そこのモニターに映すことが出来ますッ!!

 私達が元々いた世界の観測は、現在もずっと続けていますからッ!!」

 

 もう大急ぎで机に飛びつき、モニターのリモコンをポチポチする山本。

 やがてこの場にある巨大モニターの映像が移り変わり、そこに美星学園……流たちの姿が映し出された。

 

「ぬ? あの少年は……たしかヤングストリートで見かけた……」

 

「はい! この者は“秋月流”という、我々の監視対象として、最重要人物の一人!

 えも知れぬ不思議な力を持つ、17才の青年なのですっ!」

 

 聞けばこの少年自身は、少しばかり身体能力に優れた、心優しいちょっと馬鹿な青年に過ぎないらしい。

 ……だがそのバックにいるらしき、彼を守護する存在がヤバい。

 下手をすると、世界を改変しうる程の(・・・・・・・・・・)、強大な力を持つ存在なのだという。

 

「確かに、これはわしがいた世界の映像に相違ない。

 謀ることなく、ちゃんとわしをこの世界に送り届けるのであれば、貴様の命はとらぬ」

 

「はっ! ははぁーーーっ!! ありがたき幸せに御座いますッ!!」

 

 ちくわ作ろうっ! 今後はもう脇目もふらず、余計なこと考えないでちくわ作ろう!

 山本はそう、決意を固める。だって物凄く怖かったんだもん。死ぬかと思ったもん。

 

「ん? ……あの坊主、どうやら仲間達と共に、“新しい組織”を立ち上げるらしいのう」

 

 その様子を見届けたファンキー爺さんは、山本に指示を出し、すぐに元の世界に帰ることが出来るよう、手配をさせる。

 すぐさま山本総統は電話機に飛びつき、別のビルにいる化学部門の者達を呼び寄せ、機材の準備をおこなった。

 

 

(婆さん……いま帰るぞぃ。

 じゃがワシらの住む世界のため、少しやる事が出来たわ――――)

 

 

 

 

 ………………………………

 ………………………………………………………………

 

 

 

「諦めるもんか。

 こう見えてさ? 俺――――すごく怒ってるんだよな」

 

 ところ変わって、美星学園。

 いま流は、燃えるような怒りをその瞳に宿し、裏秋月四天王の一人である東雲と向かい合っている。

 

「覚悟しろ東雲ッ!!

 お前は必ず、この俺とお地蔵様が……………………って、ん?」

 

 だがその時、突然この場にドゴーンという音が響き、しばし辺りが土煙に包まれた。

 

「おー! 流とかいう坊主! ひっさしぶりじゃのう~!!」

 

 今、次元の壁を越えて……天高く空から降り立ったファンキー爺さんが、流たちの前に現れた。

 

 

「――――VUM(ヴァム)に入れてくれ!

 わしもベリーユニ・マージに入れてくれ! 一緒に戦わしてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流と東雲たちがポカンとする中、目をキラキラさせたファンキー爺さんの声が、この場に響いた。

 

 

 

 

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