【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼き 作:リレー小説実行委員会
――――また君に会えますように。
ずっと胸に抱き続けた想い。
わたしのたったひとつのたからもの。
七夕にかけた、願い。
けれど……これを叶えるよりも、
『……なにぃ! 見逃したぁ!? 一体何を考えている貴様ッ!!!!』
あの七夕の日、“みっつめのセカイ”に帰還した後、お腹が破れちゃうくらい蹴り回された痛みを、今も憶えてる。
『そのガキはどこだッ! 顔を見られたというガキはッ!! どこにいる!?
すぐに代わりの者を送り、始末させるッ! 言わんかッ!!!!』
縄で括られ、身体を打ち据えられた。長い時間をかけ、何百と叩かれた。
骨が砕ける感触というのを、その時初めて知った。
いつもわたしがやっていた事だけど、骨を砕かれた人はこんな想いをしていたのかって……胸がキュッとなった。
『こやつはシノビに不向きだ。心根が甘すぎる』
『一人しくじれば、里全体が危機に晒されよう。
我らの任務とはそういうモノ、薄氷を踏むが如しよ。
まだ幼き内に
『面倒を起こす前に、いっそ処分してしまうか?
目と腕を潰し、そこいらの獣にでも、くれてやればよい。
または生き試しに使え。幼年組の者達にとり、情けを捨て去る良き訓練となろう』
両腕を縛られ、サンドバッグのようにぶら下がりながら、遠くなる意識の中で、大人達の声を聴いた。
歯が何本も折れているし、口の中もズタズタだったから、決して言葉にする事はなかったけれど……。やるなら早くやってくれ、と思った。
『――――その子の身元が割れたわ。
“ひとつめのセカイ”に住む、マスターPとかいう、6才の男の子よ♨』
けれど、この場にふらっと現れたピンキー様の一言によって、わたしは力なく閉じていた瞼を、限界まで見開く。
『健気じゃないの、男のために尽くすだなんて。……会ったばかりなのに。
この子はシノビより、淫売の素質があるのかもねぇ♨』
おねえっぽい口調で、楽し気に「くっく!」と笑いながら、ピンキー様がミノムシのようになったわたしの前に立ち、上を向かせる為にクイッと顎を持ち上げた。
『いい事を考えたわ、
『貴方が一人殺す度、あの男の子に“三日の猶予”をあげる。
だから、これからも里の任務をこなし、たくさん殺しなさい♨
でなければ、
けれど、貴方がここで
……そうピンキー様が、ニタリと微笑む。
妖艶に、心底愉快そうな様子で。
『いわば“命の貯金”ね。
それが尽きたら殺す、里から逃げ出しても殺す。
精々がんばって任務をこなす事ね♨』
『どう? 見ず知らずの人間の命で、彼の三日分の寿命を買うの♨
その価値は充分にあるんじゃない? 貴方にとっては――――』
誕生日、という物がある。
その人が生まれた日。またひとつ歳を重ねたと、皆でお祝いする日なのだそうだ。
なんの気まぐれか知らないが、ある日ピンキー様が、わたしに教えてくれた。
きっと励みにでもなればと思ったんだろう。……P君の誕生日を。
『おめでとうP君。あれから1年だね?』
『誕生日おめでとう、もう9才だねP君』
『来年から中学ね。12才の誕生日おめでとう』
『……もう高校生になるんだぁ。
立派になったねP君。おめでとう――――』
……それから私は、毎年彼を祝うようになった。
独房のように狭く、暗い部屋で一人きり。呟くように。
毎日まいにち、人を殺しながら。
窓から夜空を見上げ、彼を想う。
それだけは出来た。それしか出来なかった。
日に日にすり減っていく心。慣れていく事への嫌悪。
自分がバケモノになった感覚と、それをハッキリ照らし出す、お月様の光。
“君”という、忘れられない暖かな灯。
あの七夕のように、また同じ星の下、君の顔が見たい。
……
…………
……………………
◆ ◆ ◆
「あっ……これベルセルクのヤツや(察し)」
長い長い落下。
かのゲートに飛び込み、いつ終わるともしれない浮遊感を耐えきった後、マスターPはまるで排泄物のように、ここにボテッと落ちた。
「“蝕”ん時のヤツや……。
あのキャスカのエロシーンには、わいも胸が熱くなったもんだが(正直者)」
大地を埋め尽くす、顔、顔、顔。
憎悪と怨念に染まった人間の顔が、いまP氏の足元に……いや見渡す限り広がっている。たくさん沢山。
いわば、
足を動かし、一歩を踏み出せば、その足元から踏んず蹴られた顔達の「ぎゃっ!?」とか「あ゛ぁ!?」とかの悲鳴。
ただでさえ醜い顔が、さらに憎しみに染まるという、マリオもビックリのグロいステージ構成。
こんなトコ、たとえピーチ姫を助ける為にだって、来たいとは思わないだろう。
そして、空は黒一色。星ひとつ見えない真っ黒な夜空。
だが月だけは
それが無かったら、とても歩くことは出来なかっただろう。……まぁこのグロテスクな人面床を見ずに済んだので、一長一短という感じだが。
「心象風景……心の闇とか言ってたかな、セキゾノフさんは。
これが、あのおっぱい大きい銀髪ねーちゃんの……闇。
“カノジョのセカイ”ってヤツかよ」
何個ある? もう数える気すら起きない。
たとえ美星町の全員が集まろうとも、この眼下に広がる人面の数には、遠く及ばないだろう。
男、女、老人、赤子、わいと同じ年頃のヤツ……。
様々な、だがどれもが苦痛の色に染まっている。生気の無い灰色、
つーか――――いったい何人殺したんだ?
ふとP氏の心に、そんな疑問が湧く。
誰がとも、何でとも思わず、ただただ“何人”と数を問う想い。
いったいどれほどの労力と、時間と、意思があれば、これだけの事が出来るんだろう。
P氏には、これが一人の人間がやったモノだとは、到底思えなかった。
「とてもやないが、こんなトコおれんわ……。
ちょっと失礼しますよォ。あーゴメンネゴメンネー!(軽)」
ワケも分からぬまま、歩を進める。
何かを探し、どこを目指すでもなく、とにかくこの場から動く。
それが最良。こういう場合、同じ所に留まっていても、良い事なんて起きないのだ。
どっかの漫画で仕入れた知識を頼りに、凸凹した歩きづらい人面の大地を、ひたすらヨチヨチと進んでいく。
この無惨で物悲しい光景にも、きっと
「おん? あーそうそう! こういうのですよォ!!
気がききますねェ! ナイスゥ!」
やがて歩く内、P氏は遠く前方に、白い大きな建物があるのを発見。
喜び勇んで、犬のようにそちらへ駆けて行く。「おっしゃー!」って感じで。
「なんか……あの周辺だけ、光に包まれとる。
これがRPGとかなら、セーブポイントなんやが(ゲーム脳)」
建物だけじゃない。その周辺だけが、天から差し込む光に覆われている。
あたかも、その一帯の土地だけが、神の恩恵により邪悪から守られているかのように。
それは、孤独の中で抱く、たったひとつの希望。
真っ暗闇で光る、お星さまの輝き。
いや、耐え難い苦しみの中でも感じる、大切な思い出のぬくもりように……。
「ま! なんか
でもこの際、文句は言えませんねェ! ――――かいもぉぉぉおおおーーん!!!!」
なんとその叫びと共に、ゴゴゴッと音を立てて、城門がひとりでに開いた。
これを怪しいとか、警戒するとか、なんでこんなトコに城があるんだとか……そんなのは一切考える事なく、P氏は躊躇なく突貫。城に駆け込み、扉をバタンと閉める。
ようやくあの狂った風景と、不快な淀んだ空気から開放され、「えがったえがった」一息ついた心地だ。
いまP氏の眼前には、世界ふしぎ発見で見たような、豪勢で広いエントランスがある。
正面の巨大な階段や、よく分からん芸術的な彫刻、美しい模様が入ったクソでかカーペット。
もうまんま「お城!」って感じの、お姫様に憧れる小さな女の子が思い描いてそうな、西洋風の広間であった。
「おうわいやー! マスターPが来たやでー! 出てこーゥい!!」
勢いよく、大股で、我が物顔で。
マスターP氏が元気に侵入して行った。敵の本拠地へと。
◆ ◆ ◆
「いらっしゃいませ。ようこそお越し下さいました♪」
歩き初めて30秒としない内に、とても朗らかな声を聞く。
明るく、優しく、どこかこちらを「ほっ♪」と安心させるような、柔らかいご挨拶。
有り体に言えば“行き届いてる”って感じの。
「……お前っ! あん時のねーちゃん!?
おっしゃい! ここであったが100年m……
「ささ、どうぞこちらへ♪ こういった所は初めてですか?」
ドスドスと足音を立てながら、そちらに詰め寄って行くも、なしのつぶて。
いま目の前にいるラスボス(らしき女)は、ニコニコと人当たりの良い笑顔を絶やさぬまま、こちらの言葉を遮る。
あたかも我関せず……いや“接客マニュアル”の通り、と言った様子で。
「ではP君さま、こちらの
「おん?」
ここはまるで、何かのお店の
二人の間を遮っているカウンターらしきテーブルには、いま爆乳ナイチンゲールこと力石さんが「どうぞ」とばかりに差し出した、メニュー表らしき物が置かれている。
ちょうどファミレスなどの飲食店であるような、カラフルで見ているだけでワクワクするようなデザイン。
「まずはこちらから、
いま空いているのは、この辺の子達になりますね。どの子もカワイイでしょう?」
「ッ!?!?!?」
だが、そのメニュー表の一番上部にデカデカと表示されているのは、
目元を手の平で覆い(目隠しをして)、床にペタンと女の子座りをしている。しかもセクシーな下着姿だ。
――――えっ! どの子もメッチャ可愛いじゃん!! めっちゃレベル高いじゃん!!
マスターP氏は「カッ!」と目をひん剥きながら、そんな事を思った。
メニュー表にゼロ距離まで顔をくっつけ、まじまじと見つめながら。
「この子はSMがOK。この子は赤ちゃんプレイなどが得意ですね。
そしてこの子は“AF”が出来ますけれど……、これにはその日の体調などもありますし。お望みならご確認しますわ♪」
「――――AFって何!? アームズフォートすか?!(フロム脳)」
わいの知らん言葉キタ! 何なのソレ!?
でも知らないのも無理はない。だってマスターP氏はまだ17才。
「え、えっと……じゃあこの子で(小声)」
「はい♪ この真ん中の子ですね。ありがとう御座います♪
この子は今日入った新人で、先ほど来たばかりですので、ちょうど良かったですわ。
女の子に準備をさせますね♪」
とりあえず、ETが指を合わせる時のように、そぉ~っと恐る恐るメニュー表を指さし、希望を伝える。
一瞬、「店員さんにわいの好みがバレる!?」と心配になったが、眼前の女はニコニコと笑みを崩さず、微塵もこちらを変に思っている様子は無い。どうやらいらぬ心配だったようだ。
P氏は改めて「めっちゃ行き届いてるな……」と感心。さすがはプロの人やでぇ。安心。
ちなみにP氏が選んだのは、この中で一番おっぱいの大きい、ほわほわ系の優しい雰囲気がある、緑髪セミロングの女の子である。
この子めっちゃエロいやないかい! 優しくリードしてくれそうやん! うひょー☆
「こちら有料オプションにはなりますが……この子は
犬耳と首輪をつけた主従プレイも、痴漢プレイも、AFでも。
どうぞ貴方色に染めてあげt
「――――いや普通で!!!!
わい今日が初めてなんで、普通のヤツで!!(膝ガックガク)」
「では無料オプションとして、P君さまの
「――――スク水で!! いわゆる“旧スク”でオナシャスッ!!(迫真)
あとすんまそん、ポニテとかも出来ます?
水泳なのにギャルゲーみたいなリボン付けているという、非現実感をですね(にじり寄り)
あと中に“しまパン”穿いてくれたら、マトリョーシカみたいでお得!(美星のエジソン)」
脊髄反射で即答。マスターP氏の大声が、受付カウンターに木霊する。
たとえ初めてであっても、言うべき事は言うタイプであった。
いや“はじめて”というのは、あくまでこういったボス戦とかの事であるが。他意は無い。
「お時間の方はどうなさいます?
60分コースから、丸一日独り占めコースまでお選び頂けますが」
「あ、時間多い方がお得なんスね。じゃあ思い切って、丸一日で」
「ありがとう御座います。きっとこの子も大喜びですわ♪
ではお先にお会計、10万1700円になります」
「あ、ハイ。ちょっと金おろしてきて良いすか? ここらへんATMあります?」
いそいそと受付の端っこにあるATMへ。
艦娘たちを養っている身であるというのに、躊躇なく生活費をつぎ込む。
「では準備をさせますので、あちらの待合室にて、お待ち頂けますでしょうか。
漫画本やゲームなどもご用意しておりますので」
「あざっす。いや~楽しみだなぁ。胸がワクワクするなぁ」
わいこういうの初めてだけど、ボス戦ってこーいうモンなんだね! 自分の好きな敵を選べるシステムなんだな☆(思考放棄)
主人公やってて良かった、ここに来て良かった、最近の悪党は随分気が利いてるなぁ~とか思いながら、P氏はイソイソと指示された待合室へ。その足取りは弾むように軽い。
あたかも、もう暁やHitomiの事なんて、忘却の彼方であるかのように。
そんなこと無いと思いたいし、「もう全部どーでもいーや♪」みたいに思ったりもしてない筈だ。きっと。
これ別に浮気とか責任とか関係ないヤツだし、ぜんぜん大丈夫ですよね? ただのサービス業……いやボス戦っすからコレ♪ ――――間 違 い な い(真顔)
そんな風にP氏は、ルンルン気分でスキップをしながら、力石さんに指示された部屋に向かったのだった。
「……ふぁ? なんすかココ……」
そして、ガチャリと扉を開けて待合室に入室したマスターP氏。
とりあえず置いてあるソファーに腰かけ、テーブルの上に並んでいた爪切り(※大切なエチケット)をひとつ手に取って、パチパチと何気なく爪を整えていたのだが……。
「空気が重い(確信)」
小綺麗な部屋だ。清潔だし、壁紙も明るいし、漫画本がたくさん並んでいる棚や、TVゲームなんかも備わっているし。
けれど……この待合室にただよう空気は、まさに
もうお通夜とか目じゃなくて、アウシュビッツもかくやという絶望感が漂っているのだ。
「っ! っっ!」ガタガタガタ!
「ふぅっ! ふぅっ! ふぅっ!(過呼吸)」
「…………(無呼吸)」
ちなみにこの場には、大きなクマのぬいぐるみ達が(きっとこの世界の住人なのだろう)、P氏と同じく順番待ちのために、何人も待機しているのだが……。
でもその誰もが、この後に自分が行うであろうプレイ(意味深)の事を思い、その身から凄まじい緊張感を発しながら、ケータイみたくガタガタ震えているのだ――――
「ついに、ついにぼくも……この時が!(白目)」
「コワイ……! コワイ……! コワイ……!(俯き)」
「ノウマクサマンダー、バサラダンカン。ノウマクサマンダー(祈祷)」
よくよく見れば、この場にいるのは皆、
きっと人気無いだろうし、誰かに好かれたり、女の子に手に取ってもらった経験など、人生で一度も無かったに違いない。
そんな彼らが今日、
自分を変える為……これまでの自分と決別すべく。そして「もうここで済ますしか無い」という、謎の諦観を以って。
男にとって凄く不名誉な“ナニカ”を捨て去るべく、今この待合室で「深爪しちゃう~!」ってくらいに爪を整えながら、じっとその時を待っているのだ。
これは余人には想像するしか無いのだが……、いま彼らの胸にのしかかっている不安や恐怖は、いったい如何ばかりか?
未知の行為への恐怖……。自分はブサイクだからという悲観と、全部お金で済ませちゃうという敗北感……。でもぼくにはもう無理なんだという諦め……。
そして「これから本物のおっぱい見れる」という、これまでの人生で感じた事がない程の、期待感。
それらが全部ごっちゃになったような感情が、いま彼らの顔を、どんより曇らせているのだった。
だって今日という日は、彼らにとってまごう事なき“人生の岐路”であり、また一生忘れられないであろう、大切な大切な“記念日”となるのだから――――
そりゃー緊張だってするし、ガクガク膝を震わせもするってモンである。
「ごめん! お母ちゃんごめん……! こんな息子でっ……!」
「負け犬がなんだっ! 俺は捨てるっ……! もう決めたじゃないかっ!!」
「お金も払ったろ! いったい何が悪いって言うんだっ!
ぼくはッ……! ぼくはッ……!!」
――――地 獄 や な い で す か(驚愕)
悲しいクマさん達が醸し出す、なんとも言えない切ない雰囲気に、P氏は涙が出そうになる。
一応この場には、なんか良さげなBGM(有線の音楽)もかかっているのだが……それもガン無視するかのように、みんな自分の世界にブツブツ閉じこもっている。まったく場の空気を緩和出来ていなかった。
せっかく用意してくれてるのに、誰も漫画なんか読んでないし、ゲームもしてない。
本当は、せっかく誰かと居るんだし、P氏的には「どんな子を選んだんスか?」とか、「好きなコスプレは?」とか話しかけて、お喋りに花を咲かせたいのだが……。
でもとてもじゃないが、クマさん達はそんな雰囲気ではない。いま彼らの顔は、死刑執行当日の受刑者みたい。
誰もが皆、愛されるために生を受けたハズなのに……一体どこで差が付いてしまったのだろう?
そんな無意味なことを哲学せざるを得ない程、この“待合室”というヤツは、いたたまれない感じの空間であった。
きっと試合前のボクサーだって、こんな悲壮感ない。
ここは決して、自分のような陽キャが来ていいような場所じゃない――――“覚悟の間”なのだ。
わい初めてだわこんなの(白目)
◆ ◆ ◆
「 くそっ! なぜ入れないの!? 」
「 提督ぅぅ!!!! 」
今この場には、流たち美星町の戦士達に加え、ようやく修理を終えて美星町に帰還して来た30名もの艦娘たちの姿が。
「行かなきゃ駄目なのにっ……! 守らなきゃいけないのにっ……!」
「私達は艦娘なのっ! 提督の所に!! おねがいっ……!!」
「これじゃ……私達はいったい何の為に! P提督ぅぅーーッ!!!!」
魔法陣のような模様が描かれた地面から、天にまで届く光の柱が上がっている。
それは自分たちの提督であるP氏が飛び込んだ“ゲート”であり、その事をこの場の者達から聞かされた艦娘たちは、誰もが躊躇なく体当たりを敢行。彼の下へ駆けつけようと。
しかし……これは闇の者が作った、余人を拒む不可侵の扉。
他者を拒絶する
どれほど体当たりしようと、また無理をおして砲撃を打ち込もうと、その悉くが弾き返された。
まるで彼女達の無力さ、そして哀れさを、痛烈に突き付けるかの如く。
貴方たちの提督は貰った。彼は私のモノよ――――そう
「危ないって! もう止めとけよッ! あの人なら大丈夫だって!!」
「イヤァァアア! 離してぇぇ!! 提督ぅぅぅうううーーッッ!!!!!」
勝也を始めとする、この場の心ある者達が、彼女らを止める。時には羽交い絞めにして抑えつける。
だが彼女らの動きは制すことが出来ても、その慟哭が鳴り止むことは無い。
今この公園には、どこもかしこも、いたる所でこのような光景が繰り広げられている。
ゲートに拒まれるばかりか、凄まじい衝撃を伴って、何メートルも吹き飛ばされる。
これに触れようとした者達の身体は、視覚化出来るほどに強力な黒い電気のようなモノが、バチバチと纏わりついており、その身に強烈な痛みを与えているのが見て取れた。
ある者は気絶し、ある者は地面に身体を打ち付けられて負傷。ひとたびこのゲートに触れれば、只では済まない事など、もうこの場の誰もが重々承知している。
けれど、艦娘たちは決して諦めようとせず、やがて力を使い果たすか、気を失うかする時まで、慟哭その物である動きを止めることは無かった。
まあぶっちゃけ、いま君たちの提督は、風俗行ってるけども。
「――――ふむふむ。かの者が作り出した、“心象風景の具現”ですかぁ」
しかし。ふとこの場に……。
「闇の住人だか何だか、知りませんけどぉ……、陰キャ具合では負けませぇん。
私は生まれついての、
さりげなく流の足を「むんず!」と踏んづけて、
◆ ◆ ◆
「うん、予想はしてたんよ。……どうせこんな事じゃねぇかって」
受付でキーを受け取り、喜び勇んで指定された部屋に向かったP氏。
「ウホw いらっしゃいパパw ウホホホww」
「おうHitomi……、元気そうで安心したぞクソが」
――――【悲報】風俗行ったら、スク水のゴリラが出てきた【わいの娘です】
そんな絶対クリックしないタイプのスレタイが、ふとマスターP氏の脳裏に浮かんだ。
「ウホホwww さぁパパwww
お風呂にする? バナナにする? それとも……ゴ・リ・ラ?(うざいテンションで)」
「育て方を間違えたかなぁ。
いや……コレはわいへの天罰か? なぁゴッドよ」
天を仰ぎ、「アンタ残酷やなぁ」とか思いつつも、ちゃんと己を省みる主人公の鑑。
いやぁ~、悪い事は出来ないもんだぁ! 世の中うまい事できてんなぁチキショウ! と反省。ちょうど猿のように。
「抱いてみたら良いと思うウホ。
なんでも試してみたらいいのウホ」
「いつもの“わよ”が、ウホにすり替わってやがる……。
でもあんま違和感ない! 不思議っ☆」
無茶苦茶言いよんなぁこの子、とか思いつつも、冷静に対処。
旧名Hitomi(現Hanako)がウホウホ言いながらチューしようとしてくるが、顔をグイッとやって押しのける。
ちなみにだが、今この子が着ているのは旧スクであり、胸に縫い付けられた白い所には、ちゃんとひらがなで「ごりら」と書いてあるのだ。
せめて名前書けバカ。
「そ、そんなっ……!(ガーン!)
あたしのこと抱けないって言うの!? 娘だから……?」
「
せめて正気に戻れ下さい。それからだぞ話は? 頼むよ頼むよ~」
「えっ……。でもパパお金払ったよネ? 10万1700円。
もったいなくないカナ? ちゃんと中にしまパンも穿いたヨ?」
「おぅ、
これも勉強代だと思って、今月はモヤシ食って過ごす。一袋30円」
さらばPFCバランス。腹が膨れりゃとりあえずOKの精神だ。致し方なし(血涙)
まぁこれ、艦娘たちやランカから見たら、ぜったい「自業自得!」って言われるだろうし、なんか怒られずに済んで良かったまである。よくよく考えたら、Hitomiに救われた形なのかもしれない。流石はわいの娘。
「さぁ帰んぞHitomi。早くお家かえるべ。みんな待っとるから」
「――――やっ! 嫌なのわよっ!
これでもプロわよ! この商売とゴリラキャラで、身を立てていくのわよ!
エッチしてくれるまで、ここを動かんウホ! 抱けウホわよ!」
「混ざってる混ざってる。
お前はホント~に、めんどくさい子だなぁ(しみじみ)」
手をぐーっと引っ張るが、今も「いやいや!」と首を振る彼女は、もう微塵も動く気配が無い。筋力が高すぎるのだ。
流石はゴリr……いやHitomiである。どっちも同じだとか言ってはいけない(戒め)
とりあえず、この度【スク水ゴリラ】という新しい言葉が、めでたくこの世界に誕生した。
某オネショタ小説の投稿者いわく、創作活動とは“新しい価値観の提示”であるらしいので、今回はそれで良しとしようではないか。
『そんなこと言っても良いの? ――――P君』
突然、女の声。
Hitomiとは別の。
『部屋の奥を見てごらんなさいな。
なにか大切なモノがある事に、気付かない?』
「ッ!? あ、ありゃあ!!」
力石だ。
彼女が今、客と嬢以外は不可侵のはずのプレイルーm……いやこの部屋に立ち入り、なんかタンス(高い所)からこちらを見下ろしているじゃないか! あたかもラスボスの雰囲気を漂わせて!
そして、ヤツに言われるがままに、部屋の奥へと目線を向けてみると、
「あ……暁ィ!!!! テメェらぁぁぁあああ!!」
まるで街角に立つクリスマスツリーのように巨大な、笹の葉。
沢山飾られた、色とりどりの短冊。その中心に埋もれるようにして、暁の姿があった。
手足を縛られ、磔にされたキリストのように、ぐったりと頭をうなだれて。
意識を失っている。
咄嗟に駆け寄ろうとするP氏。だがその行く手をHitomiが阻む。
手を横に大きく広げ、通せんぼ。
その目にはもう、先ほどのように光は宿っていない。……意識を支配されている!
「そんなに怒るなんて、よほど大事な子なのね。
少し妬けちゃうな……」
ふわりと宙に浮かび、スタッとこの場に降り立つ。
力石がP氏と対峙。まっすぐその目を見つめる。
「――――さぁP君、
でなければ、その子の命は無いわよ?」
「 なんだその条件!? コレ最終決戦だぞ!!!!! 」
これが無駄に長く続いたマスターP氏の物語の、
綺麗な構成や起承転結など、犬に食わせろである。――――これがお前の物語だ(真顔)
「ウホホw ウホw ウホホホwww」キャッキャ!
「ほら
「いい加減にしとけよアンタ!?!?
つかお前、ホントに見てぇのか!? ゴリラ(娘)とチュッチュしてるわいを!」
「いや、どちらかと言うと……、
ムキムキにしたのも、腹筋バキバキなのも、ゴリラインストールもそう。
これでもHitomiを愛せるんなら、貴方の勝ちよ。潔く白旗を上げるわ……。
でも貴方が、私以外の女に優しくしてる所なんて、見たくはないのよP君」
「お 前 が 分 か ら ね ぇ !!!!(迫真)
包丁持って突っ込んで来たランカが、今はヒヨコに見える! すげぇなアンタ!?」
サイコパスの思考など、常人に理解出来ようハズもないのだ。
けど彼女は先天的じゃなく、色々あって歪んでしまった方なので、同情の余地はあった。
本来はとても優しい子だったのに、どうしてこんな事に……。
憎むべきは、このセカイなのだ! 変態その物ではなく!
「P君は知らないだろうし、
遅くなったけど、ここで自己紹介をさせてね?
私は爆乳ナイチンゲールこと、力石さん。
本名は力石・ノースカロライナ・徹子よ」
「 ノースカロライナどっから出てきたよ!?
お前どーみても、ポン人じゃねーか!! 」
「それじゃあ、とりあえずこの子への愛は、そんなモンだったという事でね(閉廷)
やっておしまいなさい――――Hitomi」
「ッ!!!???」
先ほどまでの空気が一変。
瞳孔を開き、目の色が変化したHitomiが、
「やっ、やめろバカタレ!! わいが分からんのかっ……!?」
「その通りだよP君♪ この子は私のパペット♪
忠実に命令を実行するだけの、
私が作ったの」
きっと、まともにケンカなどした事は無かった。Hitomiはとても優しい子だから。
けれど今の彼女は、真の意味で“人が変わっている”。
野生動物を思わせる鋭い踏み込み。そこから幾度も繰り出される拳、脚、膝、腕、肘。
決して洗練された動きではないが、パワーと速度が桁違い。
いくら北斗神拳を習得したP氏であろうとも、気を抜けば一瞬でやられる。それほどの戦闘力。
スクール水着がはち切れんばかりの胸、剥き出しになった眩しい太もも、女性らしい丸みをおびたヒップ。
だがそんな事に、気を取られている余裕は無い。
色香で惑わすのは、クノイチの常套手段なのだろうが、P氏でなければ視界に留める事も困難なスピードなのだから。
その速度が生み出す打撃の破壊力など、もう言わずもがな。
ガードをしたハズの腕が削れ、鮮血が霧のように飛び散る。
とてもじゃないが、いつまでも受けきれるような甘いレベルじゃない。
伝え聞いていた通り、その見た目以上に――――Hitomiは強い!!!!
「ぐっ……!!」
あまりの猛攻と、その驚異的な戦闘力に、思わず手が出そうになった。
Hitomiの拳を躱した瞬間、そのがら空きの顎にカウンターを入れそうになった。
けれどP氏は、すんでの所でその動きを止める。
そして、無理のある動作をしたツケを、その場で支払う事となった。
身体を硬直させたその隙を逃さず、Hitomiの蹴りが腹に叩き込まれる。
耳を疑うような重い打撃音、そして骨が砕ける鈍い音。
「そうそう♪ 女の子には優しくしなきゃね♪
ヒーローって、そういうモノでしょ? いえ、パパだったかな?」
吹き飛び、壁に激突。
倒れ伏すP氏に向かって、力石が楽し気に語り掛ける。
「安心してP君? 貴方をやっつけ終わったら、
P君を傷付けた悪い子なんて、そのままにしておけないよ。
ちゃんと私の手で、責任を以って潰すね? ――――憎悪を込めて殺すわ」
自分がやらせた、これは命令した事。……きっとそんな事は、力石には関係ない。
いや、
彼女にあるのは「自分にとって都合が良いかどうか?」という、それだけのシンプルな思考。判断基準。
P君を傷付けたヤツは殺す――――
私に嫌な想いをさせたヤツは、それだけで“悪”――――
理由は必要ない。それ以外ない。
かつては確かにあった筈の、倫理や、道理や、常識など、もはや彼女の中には存在しない。
むしろ、それらは上手に
長い長い時を経て、そう
この女はもう――――狂っている。
「ぎっ……!!??」
P氏の身体が持ち上がる。
Hitomiが彼の首を両手で締めあげたまま、ゆっくりと頭上へ掲げる。
この子の剛力、人形のように色の無い目、彼女らしからぬニタリとした嫌らしい笑み。
その全てに驚愕し、受け入れがたい想いが胸をよぎる。どんどん顔がうっ血し、脳に酸素がまわらなくなる。
もう物を考えることが、意思を保つことが、出来なくなっていく……。
「心肺蘇生はお手の物。
これでもナースよ、安心してねP君。おだいじに」
その言葉とは裏腹。今もP氏を攻撃しているヒトガタを、呪い殺さんばかりに睨んでいるという二律背反。決して自覚のない
P氏の胸に、怒りよりも先に、
こいつは何なんだ? 一体どうしてこんな風に。あんなにも可愛い子なのに……と。
そして、ついにP氏の視界がブラックアウトし、意識がだんだん遠くなっていく。
これまで必死に抵抗を続けていた腕が、カクンと力なく落ちようとした……その時。
「――――やめてぇぇぇえええええっっ!!!!!!」
暁だった。
「ふんぬっ!」ブチィ!
縄を引きちぎる。瞬間的に艦娘の力を引き出して。
海ならいざしらず、陸でそんな事をすれば、身体へ負荷がかかる事は免れない。
だがそんな事も気にせず、一気に拘束を逃れ、括られていた巨大な笹から降り立つ。
苦し気にハァハァと吐息を漏らしながら。
「どうしてHitomiさん……? なんでっ……?!」
いま眼前にあるのは、HitomiがP氏の首を締めあげている姿。
たとえ目にしていようとも、それがどうしても理解出来ず、彼女は狼狽えながら声を漏らす。
「あら、お目覚めねおチビちゃん。
無駄よ、その子はもう、貴方の知っているHitomiじゃないの。
ただのキリング・ゴリラよ」
ゴリラはともかくとして(まじめな雰囲気なのでスルー)、まだ幼い暁は、力石の冷たい声にも全く反応をみせず、P氏を殺そうとしているHitomiの方を、ただただ見つめ続ける。
「う゛っ……! うぅぅぅうううーーッッ!!!!」
チラリと暁の方を一瞥。だがHitomiはすぐに、腕に力を込め直す。
ギリギリと音が鳴るほど。P氏の首をへし折らんばかりの力で。
「やめてッ!! どうしてそんな事するのッ……!?」
「っ!!??」
だが、再びこの場に響く、
「――――よく見てよッッ!! 私をッッ!!!! Hitomiお姉ちゃん!!!!!!!!!」
Hitomiの動きが、止まる。
暁の顔を見つめ、時が止まったみたいに……。
「……パパなんだよ……!? お姉ちゃんのパパっ!!
忘れちゃったのッッ……!!!???」
暁が目を潤ませ、ポロポロと涙を流している。
声が掠れるほどの絶叫。だがまっすぐにこちらを見つめ、語り掛けている――――
「……っ!」
その途端、Hitomiの脳裏によぎる、
一緒にお風呂に入った。
オムライスを作って貰った。
アバラ折れてるのに、抱きしめてくれた。
心にある後ろめたい物を、訊かないでいてくれた。
言いたくなったら言えと、待っていると、強く信頼してくれた。
キスをした。攫おうとした。たくさん悪い事をした。
でもいつも「ガハハ!」と笑ってた。
その海みたいにおっきな心で、器で、あたしの居場所を作ってくれた。
抱えきれないくらいの愛で……あったかく、包んでくれた。
「――――パパ???」
Hitomiの目が、
「……っっっ!! パパァァーーーーーッッ!!!!」
今、
「まさかッ! ……そんなッ!?!?」
力石の驚愕の顔。
だがそんなモノに、Hitomiは見向きもしない。
「パパッ……! パパァーーッッ!! ああああああッッ!!!!」
泣く事に、抱きしめる事に、夢中だったから。
力いっぱい、パパの胸に縋りつくのに、とても忙しかったから。
ようやく会えた。寂しかった。辛かった。
でもここに居てくれた。あたしを迎えに来てくれたんだと、子供のように泣きじゃくる。
それに答えるように、P氏も力なく片目を瞑りながらではあるが……そっと抱き返す。
この子を安心させてやるように、そっと包み込むようにして。
乗り切った、……いや“打ち破った”のだ。力石のコントロールを。
Hitomiが今、失われたはずの自我を取り戻し、泣き顔ではあるけれど、元の愛らしい顔を見せている。
だが……。
『――――ひぃぃぃとぉぉぉみぃぃぃいいいい゛ーーッッッッ!!!!!!』
吹き飛ばされる。二人諸共。
突然、二人を切り裂かんばかりの勢いで力石が突進。
その振りかぶった拳でHitomiを殴りつけ、まるでボールのように何メートルも飛ばす。
轟音を立てて壁に衝突し、そこに生々しいヒビを入れた後、ぐったりと床に倒れ込む。
『 逆らうのかッ!! ヒトガタの分際でッ!!!!
お前は私が作ったのッ!! なぜ逆らうッ!!
――――忘れてしまえッ!! そんなクダラナイ記憶などッ!! また消してやるッ!!!!! 』
胸元から機械を取り出し、怒りに任せてスイッチを押し込む。
その途端、この場の者達にも見ることが可能なほどの強烈な電撃が、Hitomiの身体を襲う。
身体が仰け反るほどの激痛、身体がバラバラに砕けそうな程の衝撃。
喉が破れんばかりに叫ぶHitomiの悲鳴が、何秒も何秒も、あたりに木霊する……。
「……そうそう、いい子ねHitomi。それで良いのよ♪」
やがて雷撃は止み、糸が切れたように倒れ伏す。
だがHitomiは即座に、何事も無かったみたいにムクりと起き上がり、生気を感じない機械的な仕草で、力石に向き直った。
未だカクンと首をうなだれたまま、まるで繰り人形の如く。
「さぁ、P君を捕らえなさい。
いえ、それよりも、あの生意気なガキを先に殺……」
それを言い終わる前に、衝撃――――
「……ッ!!?? ……ッ?!?!?!?!」
一息に飛び込み、野球のピッチャーのように振りかぶった腕が、袈裟斬りに力石の胴体を切り裂く。
「ひっ……Hitomiぃ! お前ぇぇぇええええええええええッッ!!!!!!!」
絶叫。今日聞いた誰の物よりも大きな、怒りと憎悪に満ちた。
けれど……。
「貴方は貴方、あたしはあたし……
その狂気に満ちた、おどろおどろしい声を、まったく意に介す事も無く、Hitomiが静かな顔で告げる。
「ごめんね? “ちいさな織姫さん”。
あたし、パパと居たい……。ずっとこのままでいたいの」
「みんなと暮らす。また美星町のみんなで、バーベキューをしたい。
ハロウィンをして、お正月を祝って、桜を見て――――短冊にあたしの願いを書きたい」
「だから、貴方の言うことは聞けないよ。
ここには居られないの――――」
こんなひとりっきりの、真っ暗なセカイじゃなく、お日様みたいにあたたかな美星町に。
あたしの居場所はココ。パパの隣わよ。
そうHitomiは、ニコッと微笑んだ。
◆ ◆ ◆
「ひっ……Hitomiッ!? Hitomiィィィイイイーーッッ!!!!」
「お姉ちゃんッッ!!??」
P氏の叫び。そして暁の。
感情の窺えない無機質な顔をした力石が、手元にあるボタンをおもむろに押し込んだ途端……Hitomiがバタリと倒れた。
こちらにも聞こえるほどの爆発音が、ちょうどHitomiの
「バカが。この出来損ないめ……」
つまらなさそうに一瞥した後、背を向ける力石。
あたかも、踏み潰した汚らしい虫の死骸から、目を背けるみたいに。
「…………パパ?」
仰向けに倒れたHitomiのもとに、マスターPと暁が駆け寄る。
ボロボロと涙をこぼしながら、この子の顔を覗き込み、必死に名前を呼ぶ。
いま、力なく身体を床に横たえ、今にも命の灯が消えそうなのが見て取れるほど、弱々しい姿の彼女を。
「パパ……ごめんネ、あたしひどい事しテ……」
「な、何言ってやがる! わいは全然ヘッチャラですしおすし!? ダイジョブですねェ!
ほら見ろよ見ろよッ! 笑顔ウルトラZやろわいは! 今日もアイアイアイやぞッ!!」
いつものキレが無く、もう泣いているのがバレバレな、酷く震えた声。
それでも必死に、愛娘に語り掛ける。声をかけ続ける。
「あたし……わるい子だったネ。
みんなを傷付けテ、なのに知らん顔しテ……。
だからあの人は怒っタ。いっぱいいっぱい泣いてタ……。
ちゃんと謝るよあたし? たくさんゴメンナサイして、それで……」
「Hitomiッ! もう喋んなって……! お口チャックマンやッ!!」
「Hitomiお姉ちゃんッッ……!!!!」
Hitomiの瞼が、閉じていく。
ゆっくり……ゆっくり。でもとても柔らかく、優しい顔で。
「アカツキちゃん……またバーベキューしようネ?
今度は、艦娘のみんなも。あのハゲた人も、強い人も、ホリコンさんも。
あたしみんなと――――――――ずっと」
眩しく、強い光が、Hitomiを包み込む。
それはこの子の内側から。まるで彼女を構成していた力が、全て外に漏れ出しているみたいに。
何度も彼女の名を叫び、縋り付こうとする暁。
それを押しとどめ、悔しそうに瞼を閉じたまま、ギュッと抱きしめてやるマスターP
この美しいHitomiの最後を、邪魔してはいけない。ちゃんと受け止めなければならない。
そう無理やりにでも自分に言い聞かせているような姿。
堪え切れず、P氏が零した涙が、ポタリと床に吸い込まれて、消える。
それと同じようにHitomiの身体が消失――――まるで最初から何もなかったみたいに。
あの七夕の日に見た“蛍”を思わせる、沢山の光が天に昇っていき……やがて消えた。
◆ ◆ ◆
「よぉ、ノースカロライナ徹子ォ。……命を弄んで、楽しいスか?」
確かにここにあった、命の輝き。
Hitomiのそれを思わせる“赤い宝石”のような物が、ポツンとその場に残っていた。
詳しいことは分からない。……だがきっとこれが、Hitomiにとっての心臓にあたる“核”のような物なのだろう。
音も立てず、厳かに地面に膝を付き、それをそっと慈しむように拾い上げながら、マスターPは問う。
「命……? おかしなこと言うなぁP君。あれはただのヒトガタだよ。
貴方も見てたでしょう? 人間はあんな風に死なない。跡形もなく消失したりはしない。
ばっちぃ血と、不愉快なくらい生暖かい臓物と、バカみたいにモロい骨で出来てるんだもん。
私は沢山たくさん見てきたから、知ってる♪」
少し離れた場所で背を向けていた力石。
茶目っ気のある顔でこちらへ向き直り、ふふっと笑う。
さも当然、何を当たり前の事をと、悪びれもせず。
「あの子は……生きとったやろぅがよ」
「生きてた? 科学と魔力で動いてただけの、
クダラナイよ。P君って結構、感受性が豊かなんだね」
「ざんねん(不合格)
くだらなくねェさ――――Hitomiは
力石の表情が歪む。
余裕を浮かべていた顔が、はっきり見て取れる程に。
誰にも見せなかった心の真ん中を、トンとノックされたみたいに……。
「やってしまいましたねェ(クソデカため息)
お前さんは、“自分の半分”を殺したやで――――大丈夫か大丈夫か?」
怒るでも、突き付けるでもなく、事実を語る。
見たまま、ありのままの事を、そのまま告げた。
「おるのよ、人の痛みが分からんとか、他人の気持ちに共感できんとか……そういうヤツ。
わいはなんとも思わん、ただ“そうなんだな”って。
そういうヤツもいるんだな~って、ただ受け入れとるつもりスわ」
「漫画の主人公みたく、正論パンチかましたり、無理やり正義を示したり……しとぉない。
……ただただ、事実として、
生まれつきとか、疾患とか、トラウマとか、生い立ちとかの理由で」
「悪とかじゃねェんスよ。
そういうレッテルみたいのとは、また別なんじゃねーかな?」
Hitomiの残滓ともいえる赤い宝石を、そっとポケットにしまい、前に向き直る、
「ただ……わいは見てて“可哀想”だなって、思う」
「知らん間に失ってく……。
大切なことを学べず、大事だとも理解できない。
「他人の気持ちを考えず、尊重する事が出来ない以上、誰もかれもがソイツから離れていく。
ソイツの世界っちゅーんは、いつも自分一人だけ。隣に誰もおらん寂しいモンに見える」
あるのは他人に勝つとか、押しのけるとか、利用するとか、欲望とか……そういうのだけ。
自分では平気に思っとるかもしれんけど、わいから見たらそれ、めっちゃ悲しいヤツっスわ。
……そう静かな声で、語り掛ける。
「ほんでお前さん……、ついには
わいが今、アンタをどんな風に見とるか……分かるか?
わいの事が好きなんやったら、わいの気持ちを分かろう考えようって、してくれとるか?」
「もしわいが欲しいなら、お前いっぺん、それ当ててみィ。
シンキングタイム、スタートです(制限時間2秒)」
おれんよ、お前とは――――大事にし合えんよ。
すまんけど、申し訳ないけど、
許してくれ、わい正義とかやない。口だけ優しい人にすらなれん。
こちとら破天荒の、正直者で生きとるんじゃよ。冷たいヤツっすわマジで。
もしわいに力っちゅーモンがあるなら……、それはわいの“大切な人”に使いたい。
その為にこそ、捧げたい。
お前やないんスわ――――力石よ。
「 うるさい!!!! うるさいうるさいうるさいッッ!!!!
P君に何が分かるのっ!?!? ……普通の国で生まれた、普通の子のP君に!!!!!!! 」
激高――――
「 言ってごらんよ! 知ったかぶりッ子のP君ッ!!
眩しくて……、素敵で……、みんなに好かれてるP君ッ!! 」
あ、これ駄目なヤツですね(笑)
正論パンチせんとか言って、おもいっきりしとるがな……女の子泣かせとるがな。
そうP氏は白目を剥く。うわぁ……やっちゃった~ってなモンだ。
ついカッとなってやった。今は反省してる(少年P17才)
「 じゃあいらないッ! P君なんかいらないッ……!!!!
誰もやさしく無い! いい人なんて居ない! 汚いよッッ!
里の人も、みんなも、P君も、私もォォーッ!!!! 」
“そら来た”……と思った。
予想は付いていた。絶対こういう展開になると。
駄々っ子ってゆーのはそういう物。道理も理屈も全てかなぐり捨てて、喚き散らすのがお仕事です(時給850円)
ネット小説を書き続け、これまで散々
なんでいつも、上手い事やられへんねやろな……?
ただ“なぁなぁ”で済ませて、最悪ブロックユーザーしたら良いだけなのに……。
ぶっちゃけ、こんなんばっかりですよ?
わい、よーお見掛けするんスわ。よー絡まれるんスわ。なんでか知らんが(類友の業)
ハッキリ言うけど、わいが戦場にしてる場所なんてモンは、まぁ
こんな闇の世界とか目じゃないってくらい、ドロドロした場所なんよ。
なんか鬱屈あって物を書いてる人や、人にイチャモン付けてマウント取りたいだけの暇人とか、そんなん腐るほどおるからね?
むしろ大半ちゃうかな? ちゃんと良識を持ってる人なんか
もちろん、これはわいも同じ。わいも含めての事や。フキダマリの住人よ。
でも……そん中で必死こいて頑張っとるのよ。いつも血反吐はいとるし、身体壊しながら書いとる。
人からみたらば、金にもならん、原作パクっただけの、ホンマ何の価値もないモンを。
自分からしても、小説を書くことって、「これ排泄行為と何がちゃうんやろか?」って、そう思うからね?
出すのがウ〇コなのか、それとも日々頭の中にポコポコ浮かんでくる、しょーもない妄想なのか。……違いはそれだけなんスわ。
でも、なんとかちょっとでも輝けんもんかな~、誰が笑かしてやれんもんかな~って、そう思いながらやっとる。
なんやかんや言うても、これ
たまにだけど、感想くれる人もおるし、読んでくれてるっぽい人もチラホラおる。
そんだけでわいは、充分や。なら今日も頑張れる。
失敗しても、ドえらい目に合わされても、なんだかんだあっても――――
まぁ……無茶をしすぎて
「 P君なんかッ……! P君なんかにッ……! 私のォォォ!!!! 」
そして、P氏(?)が己の内側に現実逃避している内に、この状況に変化が現れた。
なにやらハリウッド映画よろしく、この部屋の壁だの天上だのが、ガラガラと崩れだしたではないか。何このお約束? 絵に描いたようなラストバトル感?
あ、これアカンやつですね(確信)
……とばかりに背を向けて駆け出し、急いで部屋を出る。
道すがら、この部屋だけじゃなく、
あの非モテクマさん共は、今どーしてんだろうな? とか思いつつも。
「うん……わいこーゆーの求めてなかったわァ(震え声)」
なんとか城から抜け出すと同時に、建物が全壊。ガラガラドゴーン! ってなモンだ。
そして……まるでその瓦礫の中から産まれるかのように、ガラガラと音を立てながら
もうホント、さっきのお城なんて比べ物にならんくらい、物凄いデッカイ“ロボット”が。
『P君……エッチなの好きだよね? 大好物だよね?
いつもおっぱいばっかり見てるもん』
スピーカーから発せられる、力石の声。
そのロボットは、まるで力石という女の子を模したかのように、ちゃんと女の子型のデザインをしている模様。
『なら……
触りたいんなら、おっぱい触ったらいいじゃん。お好きなだけどうぞ?(はぁと)』
まぁ有り体に言えば……、
ちょっとカラーを白に変えて、爆乳になっとる以外は、もうまんまですやんコレ。
あ、一応頭部はAVのナースキャップみたいに、赤十字のマーク書いとる! 無駄に!(大発見)
『でもP君ちんまいし、触る前に踏み潰しちゃうかも。
もしそうなったらゴメンね?』
殺す気マンマンやないですかヤダー!
あ、いま誰か“まんまん”って言いませんでした?(エロに食い付く能力)
この後に及んで、またそんなしょーもない事を考えるP氏。これを現実逃避と言います。本日二度目の。
『そだね……いっそあの時、P君を殺しちゃえば良かった。
そうしたら私、穏やかでいられた。
殺戮のてぇ~んしーで、いられぇーたぁ~♪』
「 お前実は元気だろ!?!? そして古いッ!!!! 」
せめてマジンガー歌ったれ、アフロダイAやろお前。
そんな事を喚き散らしつつも、P氏は必死こいて逃げる。
今もドゴンドゴン地響きを鳴らしながら、アフロダイAが「えいえい!」とこちらを踏んづけようとしてるから。容赦無しである。
足の裏でもいいから、貴方と合体したい……ってやかましいわ。
「本日二度目になるが、生身でどーしろってんだボケェェェ!!」
『ここは私のセカイだよP君っ!
なんでも好き勝手に出来る、私だけのセカイなの!
往生せぇやぁPくんんんん~~ッッ!!!!(ヤンデレ感)』
先ほどのシリアスなど無かったかのように、ただいま力石さん絶好調。嬉々としてP氏を追い回す。
だが、しかし……。
「――――本当ですかぁ? なんでも好き勝手にできるとぉ?
突然、ゴゴゴゴッっと大気が振動する音と共に、この場に鳴り響いた声。
「闇の中にいるのはぁ、貴方だけじゃありませぇん♪
そして闇の中でも――――
ひゃっふー♪ 不幸き゛んもてぃー☆ ふ・こ・うっ! ふ・こ・うっ!(三三七拍子)
そう言わんばかりに轟く、
今ビニール袋をハサミで切るようにして、空を大きく縦に割り、その姿を現す!!
あたかも、闇の住人である力石と、
「裏秋月・参の
力石のロボに匹敵するほどの、巨大な漆黒の化け物が、発砲スチロールを叩き割るように“空”を破壊し、大気すら震わせるメリメリという音を立てながら、ここ“カノジョのセカイ”に侵入する。
その肩に「アハハハ! ……げほっ! ゲホゲホ!」とか言いながら乗っているのは、眼帯のようにして顔の左半分に包帯を巻いている、東雲であった。
「すいませぇ~ん! もっと青汁持って来て下さぁ~い!
おつむがクラクラしますぅ~!!」
「無理すんな東雲っ! お前さっきまで死にかけてたんだぞ!?!?」
その隣に立つポン助に、栄養ドリンクやら青汁やらを渡され、グビグビいきながら術を継続。
この【逆天の鬼札】という秘伝は、術者の身すら食い殺しかねないほどに危険な術。それはもうエゲツナイ程の身体的な負荷が、いま東雲の身体にも降りかかっている筈。
けれど彼女は今、まさに絶 好 調 ☆ たいへんご機嫌な様子で、鼻血とか血涙とかを垂れ流しながら「ぐぎぎ……!」と頑張っているのだ。
うんまじゅい! 青汁まじゅい! もう一杯っ!
「あ、この包帯のことなら、心配ご無用ですぅ。
「 不幸慣れも大概にしとけ!?!?
ジブリのヒロインでも、もうちょっと凹むよ!! 」
仲間であるポン助の苦労は、推し量るにあまりある。きっと苦労人属性に違いなかった。
そして、とっても元気な
「ますたーPぃー! こっちを向くポポー!」
「えっ……お前さんは、プリキュアさんトコの!?」
あまりに唐突な出来事に ( ゚д゚)ポカーン… としていると、きっと東雲たちと共にやって来たのであろうポルン(※マスコットさん)が、嬉しそうにピョンピョン跳ねながら、マスターP氏のもとへ駆け寄ってくる。
「ではいくポポ☆ ――――光のパワーを、受け取れポポー!!」
「 やだよッッ!!!!(即答) 」
ポルンの身体から発射された光線みたいなヤツを、スゥエーバックで必死こいて躱す。
「なっ……なんでポポ!?
「たくねーんスよ!! わいパイロットやらせてもーてますやで!?(必死)」
「これを避けた人を、はじめて見たポポ! 女の子の夢をなんだと思ってるポポ!」プンプン!
「それはすんまそん!! でも分かって下さいポルンさんっ……!!(土下座)
けしてプリキュアさん達を、悪く言うつもりないんでッ!!
わい17の男っス! キツイ!!(心の叫び)」
プリプリと怒るポルン先輩に、頑張ってペコペコ。誠意を込めて謝罪。
「では私の出番ですね提督っ? キラキラッ☆
――――グレートマジンガー
「ッ!!??」
そしてまたしてもこの場に轟く、突然登場してきた女の子の声。
明石ちゃんだ! 工作艦の艦娘であり、マジンガー絶頂のオペレーターも務める彼女が、
「パイルダーをそちらに向かわせますっ!
操作は身体で覚えて下さいね! うふ♡」
「いつも思うけど、マニュアルは? 訓練とかは?
わい常にぶっつけ本番やが……ユーザーフレンドリーをプリーズ!!!!」
ここは闇の空間、カノジョのセカイ。
今ここに「パイルダー・オン!(ずにゅ♪)」という、高らかなんだか気が抜けるんだか分からないマスターP氏の声が、雄々しく響いた。
闇を払う日輪の如く――――