【リレー】今日もカオスなもんじゃ焼き 作:リレー小説実行委員会
「……チッ! ゴミが」
装着していたイヤホンを取り外す。
そして苛立たし気に、地面に投げ捨てた。
「やってくれたわねぇ、小娘。
育ててやった恩も忘れ、裏切りやがって。淫売め」
彼(彼女?)の内心を表すかのように踏み潰されたイヤホンが、バキリと矮小な音を立てて砕ける。
そしてもう見向きもせず、ピンキー忍者は憎悪の籠った目で空を睨みながら、ガリガリと爪を噛む。
「……親方様、村の掃討が完了いたしました。
森に逃げ込んだ者共も、あらかじめ配置に着いていた部下達が、すでに殲滅しております」
「あ~ら、そうなのぉ~う♨」
機嫌が悪そうな様子。それをおして配下の一人が、ビクビクしながら報告を行う。
この人の機嫌ひとつで、自分の命など瞬く間に消える。玩具のように潰されてしまう。
それを嫌というほど理解しつつも、己の役目を全うしているのだ。
ここは、彼らに敵対する勢力、そのアジト
刀と、火と、数多の構成員、そして毒や火薬といったあらゆる道具を使い、すでにピンキー忍者の手によって壊滅した後ではあるが。
たとえ草の根をわけて探そうが、もうここには人っ子ひとり残ってはいないだろう。
つい昨日までは、おそらく平凡ながら豊かな営みがあったであろう村。
けれど、今この場の家々は炎によって轟々と燃え盛り、煙で辺り一帯を包むどころか、空までもを赤く染めている。
「んじゃ、もう指揮の必要はないわね~?
後は、無能なお前でも出来るでしょう。ここは任せるわぁ~♨」
「はっ! 委細承知っ!!」
気だるげに手をフリフリしながら、背を向けて歩き出す。
たった今、敵対勢力を討ち果たしたというのに、その感慨も無い。
いくら手練れが多かったとはいえ、このような小さな村ひとつを、自分の手を借りなければ片付ける事も出来なかった、無能な部下達。
ただただ、その使えなさに、嘆息を吐くばかりだ。
「どいつもコイツも、ゴミのような者ばかり。ほんと嫌になるわ~。
退屈すぎて、首を括ってしまいそうになる♨」
無能に、弱者に、淫売の小娘。
特に、先ほど死んだらしき力石の存在が、ピンキーの心を苛立たせる。
せっかく、多少なりとも目をかけてやったというのに……と。
正直な話、優秀な科学者であり、里でも屈指のクノイチでもあった彼女を失った事は、酷い痛手だった。
まぁそもそもの話……彼女の生きる意味でもあったマスターPを捕らえろと、過去にした約束を反故にするような命令を下さなければ、あの子を失う事はなかった。
惚れた男の為、躊躇いなく自爆スイッチを押させるような羽目には、ならなかっただろう。
けれど、ピンキーに「自分のせいだ」などという思考は無い。
己以外の人間など、須らく“自分の役に立つため”に存在する。
その人生、身体、命すらも……私に使われる為にこそあるのだから、と。
「いいけどね、部下がひとり死んだ程度。
多少、今後の仕事の手間が増える、ってだけの話よぉ~♨」
ヤツを手に入れる。そしてこの世界全ての“女王”になる。
それは自らの望みであり、決定事項であり、既に確定した未来だ。
「ひとまずは、“お見事”と言っておくわぁ~。
曲がりなりにも、うちの幹部を退けるだなんてぇ~、やるじゃな~い♨」
誰に見せるでもなく、何気なく手を叩く。
今違う空の下、“ふたつめのセカイ”にいる、17才の物を知らない少年に向け、パチパチとやる気のない賞賛を贈る。
ヤツに潜在的に備わる力を手に入れ、秋月の“徳”を変貌させ、世界を頂く――――
かの地蔵、
丁度ピンキーの歩く進路に横たわっていた、背に矢を受けて倒れたらしき、幼い子供の遺体。
それを道すがら、おもむろに踏み付ける。軽く靴の泥を落とす為、カーペット代わりに。
小さな背骨が折れる感触が足に伝わり、ゴキリと鈍い音が響いたが、それにピンキーが表情を変える事は無い。
見つめる先は、前。ただ己の未来のみ。
血と、快楽と、欲望に塗れたセカイだ。
「次はどの
せいぜい、束の間の平和を謳歌するがいいわ、マスターP♨」
◆ ◆ ◆
「よっし、平熱ね。
つらい所はある? 動悸とか呼吸は?」
「ううん、ダイジョウブです♪」
看護師の女性が、うんうんと満足気に頷きながら、体温計をポケットに仕舞う。
「経過は順調よ。
前の手術から、もう結構経つけれど、このぶんなら問題なさそうね」
「はい、ありがとうございます、設楽さん♪」
朝の検温と共に、今日の体調の質問や、「でも油断は禁物よ?」という軽い注意を受ける。
けれど看護師さんの表情は、とても穏やかで明るい。
以前の、この病院にいる誰もがそうだった“どこか無理をしている顔”じゃない。同情や憐れみを隠すための、作り笑顔じゃない。
今の元気な小雪を見て、心底安心してくれている事が、伝わってきた。
「栄養士の香田さんも、最近小雪ちゃんがいっぱい食べてくれるようになった~って、すごく喜んでたよ?
三田先生も、堀部先生も、小雪ちゃんとお喋りするのが好きみたい。
いっつもあの人達、暇さえあればコーヒー飲みながら、小雪ちゃん小雪ちゃん言ってて煩いの。もうファンクラブでも作るんじゃないか~って勢いよ♪
自分の嫁や娘の話はしないクセに。ロリコンかっつのホント!
あっ……これ内緒にしといてくれる? 私の首飛んじゃう」
「あはは、わかりました♪ わたしと設楽さんのヒミツ」
そんな風に軽く雑談に興じた後、看護師さんは病室を後にした。
すぐに食事が来るからね、今日は冷えるからあったかくしててねと、こちらを優しく気遣いながら。
小雪の方も、ベッドで身を起こしながらではあるが、にこやかな笑みで手をフリフリして、彼女を見送った。
その様は、気の知れた友人同士がする、とても仲良さげな物。
「……」
けれど、バタンと扉が閉まり、病室に静寂が訪れて暫くすると、小雪の顔からさっきまでの笑みは消える。
代わりに、どことなく物憂げな、あまり元気のない表情に変わった。
「やっぱり、こなかったな……」
本当は、いつもなら紅茶を入れたり、本を手に取ったりしている時間帯。
けれど小雪は、未だにじっとベッドに腰を降ろしたまま。
何をするでもなく、ただそこで佇むばかり。
別に嫌なことがあったとか、先ほどのナースさんがキライだとか、そういうのでは無い。
ただ……あの人は違う。いつも朝になればこの病室を訪れ、小雪に優しく「おはよう」の挨拶と笑顔をくれていたのは、自分を担当してくれていたナースさんは、
小雪はその事を思い、なにか切ないような寂しいような、悲しい気持ちでいる。
小雪は自分の気持ちを隠したり、人知れず何かを我慢することが、とても上手な子である。だから設楽さんと居た時は、表面上は完璧に取り繕っていたが……でも胸に込み上げる感情までは、如何ともし難かった。
小雪は、彼女のことが大好き。心から慕っている。
あの力石という女性は、いつも「でゅふふwww」と笑いながら薄い本を持って来たり、小雪に変なことやエロい事ばかり教える、ぶっちゃけ変人だったのだが……。
でも病院暮らしばかりで、あまり俗世に染まっていない小雪にとって、力石はまごう事無く“やさしい人”。
綺麗だし、あったかいし、傍にいるとすごく安心できる。そんな“姉”のような存在だった。
以前、ナースコールを押すことも出来ないままで倒れてしまった時も、真っ先にここへ駆けつけてくれたのが彼女だ。
慌てふためきながらも、必死に「大丈夫!?」と声をかけてくれた。
そして手術の時も、集中治療室にいる時も、ずっと手を握ってくれていた事を、小雪は憶えている。
たとえおぼろげな意識の中でも、その優しさはしっかりと、届いていたのだ。
この二年ほどの間、病気で身体がつらい時も、学校に行けずひとり寂しい時も、傍に居てくれた。一番近くで守ってくれた。
呼べばすぐに、ピューッと駆けつけてくれた。
ドア越しでもバタバタ煩いくらいに、ガン走りで廊下を駆けてくる音が、いつも聞こえていた。
その大きくて必死な足音こそが、どれだけ力石に想われているかという証のように思えた。
だからこそ信頼したし、力石といるのが楽しかった。
彼女が傍に居てくれるだけで、いつも嬉しい気持ちになれた。幸せを感じたのだ。
けれど……もう居ない。
もう二度と、力石さんがこの病室に来てくれる事は無い。
それは知っていた。でも嫌だった。認めたくなかった。
もしかしたらって。
何かの間違いだって。
これもひょうきんな力石さんの、ちょっとしたイタズラなんだって、信じたかったのに……。
でも今日、力石ではなく設楽さんが朝の検温に来た時……小雪は柔らかく笑みを返しながらも、悟った。
もう力石さんとは、二度と会えないんだと。
「……」
思考に沈んでいた意識を戻し、ふいに視線を横へ。
部屋の角のあたりに詰んである、4つほどの大きなダンボール箱が、視界に入った。
小雪はゆっくりとした動作で、ベッドから足を降ろし、床のスリッパを履く。
そしてダンボール箱の所までトテトテと歩き、その上に置いてある一枚の便箋を、そっと手に取った。
……
…………
……………………
【これあげる。私が頑張って集めた、
【オネショタが5割、BLが4割、近親相姦もあるぞなもし。でゅふふwww】
【私ね、ここを辞めるの……。やんなきゃいけない事が出来てね? 行かなきゃ駄目っぽい】
【本当は、貴方が起きてる時に、ちゃんとお別れを言うのが筋なんだろうけど……。でも湿っぽくなっちゃうのは嫌だし、私きっと泣いちゃうからね】
【だから、このまま逃亡します。許しなさいwww 許しなさいwww】
【これから季節の変わり目になるし、身体には気を付けてね。体調が良いからといって、アホみたいにハッスルしちゃ駄目よ?】
【喜んでるトコ悪いんだけど、貴方はまだ“病人”なのよ。それは変えられないわ】
【なんで元気になったのかは、訊かない。……でもね?
【私には隠してたみたいだけど、あの“白いヤツ”とはもう関わるな。二度とバカな真似はするな】
【地獄への道は、
【蜘蛛の糸なんて、無いのよ。突然シンデレラのように、優しい魔女が助けに来たりはしない。……私は知ってる】
【だから、安易な救いに飛びついては駄目。それは“卑怯者”のする事よ】
【どんなに辛くても、目を開いて真っすぐ立ち向かいなさい。貴方は強い子でしょう?】
【貴方を本当に救ってくれるのは……流くん。貴方のお兄ちゃんなのよ】
【迷惑をかける事を恐れ、一人で解決しようとするな。貴方を大切に想ってくれている人をこそ、想え】
【それを忘れないでね。愛してるわ小雪ちゃん。 力石 徹子】
……
…………
……………………
分からない。
理由は分からないのだけど……ずっと“シンパシー”を感じていた。
いつもニコニコしている力石が纏う、まわりとは違う独特の空気。決して人には見せない奥の部分。
それを小雪は、なんとなしに感じ取っていた。
ふとした瞬間に、彼女の目に宿る“孤独”、そしてどこか寂しそうな表情に、小雪だけが気付いたのだ。
これまでの人生で、常に人の顔色を窺い、迷惑をかけないよう嫌われないようにと生きてきた。他人の感情の機微や、思っている事を敏感に察する事が、処世術だった。
それに加え、形は違えど同じ“悲しみ”を抱えている小雪だからこそ、力石の特異性に気が付くことが出来たのだろう。
だからこそ、あの力石をしても「一緒にいたい」と思った。心地よいと感じた。
それは当然、小雪も同じ気持ち。
小雪と力石。悲しみを背負う歪な者同士。
彼女達はお互いにとって、まるで奇跡のように得難い“理解者”だったのかもしれない。
いま手元にある便箋、その中に一緒に添えられていた、一枚の綺麗な押し花。
前に作り方を教えてくれた。力石と一緒に色んな花を摘んでは、押し花の栞を作ってきた思い出が、小雪の胸をよぎる。
「たとえば、“もういちど力石さんにあいたい”。
そんなキセキをねがうのも、いけないことなのかな……?」
もうズルはしない。“心のお姉ちゃん”が言ってくれたから。
立ち向かう。縋らない。お兄ちゃんと一緒に戦ってく。己の運命と。
でも。
「マスターP――――」
ふと、いつかあの人から聞いた“初恋の男の子”の名前が、口を突いて出た。
◆ ◆ ◆
目覚めれば、ボロボロの天井板……そして沢山の艦娘たちの顔。
「提督っ……! 気が付かれたんですかっ!?」
「もう三日も眠ってたのねっ! 良かったのね提督ぅ!!」
目を開けた途端、爆発したかのように、この場が沸き立つ。黄色い声とは言えない……彼女達の涙ながらの歓声が、いつもの6畳間に溢れ返った。
「死んじゃうかって思ったっ……! 提督いなくなったら、どうしようって……!」
「このクズッ! なんでそんな無茶したのよっ! 私達がどんな想いでっ……!!」
「でも良かった無事で! あぁ、提督ぅ……! 提督だぁっ……!!」
泣いてるんだか、笑ってるんだか、もうよく分からない顔。
でも心から喜んでくれてる。誰もがP氏の傍に駆け寄り、布団の周囲はギュウギュウ詰。ワーキャー騒がしい。
起きたばかりの、寝ぼけ頭。今だボーっとする意識。
それでも……「帰って来たんだ」という事を実感する。
自分が居るべき場所、いつもの日常に――――――――
「あ、あのっ……提督っ!」
団子状態になった人込みをかき分け、明石ちゃんがP氏の前にやって来る。
その顔は、どこかうかない表情。明らかに周りの子達とは違う。
「私っ! そのっ……ごめんなさい!
何にも、何にも知らないで……ただ戦え戦えって、提督に……」
当然だ。明石この場でただ一人、P氏の戦いを見守っていた子だから。
オペレーターとして、あの一部始終を見ていたんだから。
「その……あの“力石”って人は、どういう?
いったい提督と、どんな関係で……」
……。
…………。
……………………。
少しばかりの間、沈黙に包まれた。
明石はもとより、この場の子達も不思議な雰囲気を感じ取ってか、ただ黙ってP氏の方を見ている。
重い静寂が、この場を支配。
「――――」
立ち上がる。布団から。
無言のまま、艦娘たちの中心で、P氏はどこでもない方を見つめながら、じっとその場に佇む。
息が詰まる雰囲気。この場の誰も言葉を発する事無く、ただP氏の顔を見るばかり。
一瞬かもしれない。だが明石にはこの時間が、永遠のように長く感じられた。
そして……思わず訊ねてしまった“余計な事”を、心の底から悔いた。
なぜ今の、傷心の彼に、そのような事を言ってしまったのかと――――
「少し出てくる。
すまんが、今日の執務は無しだ。
大淀、後を頼めるか?」
「えっ!? ……あ、はい! もちろんです提督っ!」
秘書艦の一人であり、皆のまとめ役である彼女に声をかけ、そのままゆっくりと人込みをかき分けて、部屋を出ていく。
明石の問いかけ、それに答えぬまま……。あっけに取られた顔をする皆にも構わぬままで。
「…………提督」
ありえない、他ならぬ彼が……そう我が目を疑う。
彼が通り過ぎた時、明石は彼の目尻に、涙の雫が光っているのを見た。
◆ ◆ ◆
「よーお、P提督」
アパートを出て、すぐ。
近くにある児童公園。そこへ何気なく足を運んだ時、とつぜん眼前から声がかかった。
「ずいぶん遅いお目覚めだなぁオイ。いい気なもんだぜ全く……提督さんよぉ」
彼女はまるで、P氏を待っていたかのように、遊具のポールに背中をもたれながら、じっと腕組みをして立っていた。
「こちとら散々待たされたんだ、御託はいらねぇ。単刀直入にいくぜ?」
向き直る。まっすぐこちらへ歩き、すぐ目の前へ。
「んで?
なんでアンタ一人なんだよ、提督」
先の件の負傷は、すでに完治している。
艦娘である彼女は、特殊な装置による治療を受け、既にいつも通りの姿を見せている。
何事も無かったかのように。いつもの日常そのもの。
……まるで、
「のこのこ帰って来やがって。なんで一人なんだ~って訊いてんだよ。
……ほら、早く会わせてくれ。
オレぁHitomi付きの護衛なんだ。アイツがいなきゃ、役目を果たせねぇ」
顔を突き合わせ、まっすぐ向かい合う。
天龍の軽薄な笑み。へへっと声が聞こえそうな、嘲りの顔。
対してP氏の表情に、色は無い。
ただ彼女の目を見て、立ち尽くすのみ。
「――――ッッ!!!!!!!!」
重い打撃音、そして彼が倒れ込む音が響いた。
突然カッと目を見開いた天龍が、氏の胸倉を掴み上げ、殴りつけたのだ。
「 何やってんだよお前ッ!! 父親だろッ!! 護り手だろうがッッ!!!!!! 」
そのまま飛びつくように駆け寄り、馬乗りに。
今度は両手で氏の胸倉を掴み、激しく前後に揺らす。
怒りのまま。癇癪を起した子供のように。
「 アンタともあろう者が、なんて様だッッ!!!!
何故しくじったッ……!? なぜ助けなかったッ……?!
腕をもいででも、足を引き千切ってでも、連れ帰らなかったんだッ!! 」
すぐ真上から零れる涙が、ポタポタとP氏の顔を濡らす。
グシャグシャになった天龍の泣き顔が、目の前にある。
「オレぁ……! オレぁ、
何があろうが、どんな時だろうが、絶対アンタなら何とかしてくれるってッ!!
そうッ!! …………いつもッッ……!!!!」
分かっているんだ。この人のせいじゃ無いと。
彼はベストを尽くし、力の限りやったと。でもその上で、救えない命もあると。
だが天龍は、言わずにはいられなかった。
想いをぶつけずには、誰かに縋らずには、とてもいられなかった。
この言葉は、怒りは、P氏に対してではない。
本当に大切な時に、アイツの傍にいられなかった。一人のうのうと気を失っていた、自分自身への怒りと悔しさだった。
そのせいでHitomiを失ったという、耐え難い悲しみの慟哭だった。
「なんでっ……なんでアイツがっ!
この町が好きって言ってたじゃねぇか! ずっとオレらと一緒にって!! そう言って……!」
「なのにっ! なんでそのHitomiがッ……!! Hitomiがぁぁあッ!!!!
――――なんでだよぉぉぉぉおおおおおーーっっ!!!!!!!!!!!」
やがて、怒声は嗚咽に代わり、全ての言葉は、その意味を失くした。
子供のように縋り付き、声を殺して泣き続ける天龍。
地面に横たわったまま、感情の無い目で、ただ空を見るP氏。
青空。透き通るような空。あたたかく柔らかな日差し――――太陽。
その全てが、二人には無意味。
彼には、何の価値も無く、また意味の無い物のように映った。
◆ ◆ ◆
美星町は、今日も平和。
はっちゃけた人々が繰り広げる、多少のドタバタはあれど、誰もが笑顔と平穏の中で暮らし、面白可笑しい人生を歩んでいる。
「……」
ポタリと、今なんか頭頂部に、生暖かい感触がした……。
たった今「カァー!」という鳴き声が空から聞こえたから、きっと真上を飛んでいたカラスに、フンでも落とされたのだろうと思う。
思わず「ストライク!」と叫んでしまいそうな程、ちょうど
いつもなら、「ギャー!」だの「わー!」だのと大騒ぎする。涙目でグジグジしたりもする。
テンションだだ下がりになって、しゅんとしちゃう所。どうせ私なんて……とネガティブな気持ちになる筈だった。
けれど、今日はどこか趣きが違う。
東雲はたった今起きた不幸の事など、ぜんぜん意に介すこと無く、それどころか頭頂部をハンカチで拭うことすらもせぬまま、トコトコと美星町を歩く。
もうやるならやれ! とばかりの無駄に漢らしい(?)姿ではあるが……残念ながらそんなつもりは無い。
今の東雲は、ただただ“そんなの気にしてる余裕は無い”というだけの話。
次々と自らに襲い来る、いつものプチ不幸などに、構ってる暇は無いのだった。
「へいらっしぇー! 新鮮な魚だよぉー! 今日はデカい鯛が入ったよぉー!」
「クレープどうっすかぁー! 苺や桃やチョコバナナ!
生クリームたっぷりのクレープ如何っすかぁー!」
「はいよっといでー! ヴァイキング的な両刃の斧だよぉー!
クッソ重たい、何に使うのか分からない、バトルアックスの実演販売だよぉー!
ほら奥さん! トマトもレンガも鶏肉も、この通りスパッと真っ二つ!」
ヤングストリートにある店から、活気に溢れた声が聞こえる。
店員さんが元気な声を張り上げ、そこに多くの人達が集まる。
誰もが笑顔で、楽しそうな様子。まさに美星町といった明るい光景が、そこに広がっていた。
「……」
けれど、東雲がそれに目線をやることは無い。足を止める事も、耳を傾ける事もしない。
ただただ、急ぎ足で歩き去っていく。
途中でガムを踏んづけたり、排水溝のドブに足を突っ込んだりしたけれど、それすら意に介さずに進んでいく。
トコトコ、トコトコ、ヒールが固い音を立てる。
継続して、同じリズムで、ずっと鳴り続ける。
この場の賑やかな声には耳を貸さず、人々の幸せな光景など我関せずと言ったように、ただただ歩き続ける。
だって、いま彼女の脳裏にあるのは、
おおらかで、明るくて、人懐っこい。そんな“おっきい妹”とも言うべき、愛すべき女の子の姿だけが、繰り返し繰り返し、頭に浮かんでいた。
今日も、美星町は平和。
誰もが幸せな日常を謳歌し、おもしろおかしく暮らしている。
けれど闇の住人であり、裏秋月の当主である彼女には、あまり関わりのない事。
ゆえに、今はただ、前だけを見て一生懸命に歩き続ける。
悲しみや後悔ではなく、“決意と覚悟”の滲んだ目で。
シノノメちゃん大好き――――
あの花のような笑みと、愛らしかった声を、道しるべに。
◆ ◆ ◆
「まったく……ひでぇ男だぜ。
まさか“他の女”の墓作りを、オレに手伝わせるなんてよ」
いくら部下って言ったって、オレの立つ瀬がねぇ。一応これでも女だぞ?
そうグチグチ言いながら、帰路を歩く。
提督と二人並んで、泥まみれになった服のまま。
「そっか……Hitomiの母親か。
今回の一連の騒動は、ソイツの企てだったってワケだな」
戦いを終え、昏睡状態状態から目覚めてすぐになるが、P氏が最初におこなったのは“Hitomiと力石”の墓を作る事だった。
自分自身でもよく分からない感情、娘であるHitomiへの愛情、そして自分にとって“初恋”だった人の思い出を、全部いっしょに供養するように。
といっても、そこに何を埋めたワケでも無い。ただ見様見真似の墓標的な物を作り、それを見晴らしの良い所におっ立てて花を添えただけだ。
力石の名前すら刻まなかったのだから、きっと他の者が見れば、なんのオブジェだか意味が分からない事だろう。
でも、それで構わないと思った。自分だけでもしっかり憶えていれば。
最初は天龍も黙って見ていたのだが、やがてP氏の不器用さを見かねたのか、「しょうがねぇなぁ」って感じで手伝いをしてくれた。男である彼に代わって花を選んだのも彼女だ。天龍も意外と乙女なのか、花言葉とかも知っていた事には少し驚いた。
二人とも、基本的には黙々と作業をしていたが、その途中、何気なく心から漏れ出すように、P氏から力石という女性の事を、語られたのだった。
もう10年も前になる、七夕の思い出と共に。
「よぉ提督? オレは武骨だし……荒くれの艦娘さ。
だから、『なに言ってんだコイツ?』って、思われるかもしれねぇけどよ……?」
沢山泣いたからか、どこか清々しい表情をしながら、天龍が頬をポリポリとかく。
「きっと力石は――――報われたと思う。
欲望とかじゃなく、心の底で本当にアイツが願ってた物を、アンタがあげたんだ」
慰めとかじゃねぇぜ? ただオレだったらって……そう思うだけさ。
照れ臭いのか、P氏と目を合わせないまま、前を向いたまま告げる。
「思い出したろ? 忘れてなかったろ?
容姿が違っても、どんだけ時が経っても、ちゃんと『あの子だ』って見つけたじゃないか。
だから提督は……約束を守ったよ。
アイツが七夕にかけた願いを、叶えてやったんだ――――」
詳しい事情は分からない。力石は何も語らなかったから。
けれど、きっと力石は嬉しかったんじゃないかって、天龍は思う。
P君は殺せないと、彼女が自ら死を選んだ事も、なんとなく分かるような気がした。
同じ女性として。同じ人を想う女として。
「つーか、どんだけ女泣かせなんだアンタは。10年前に一度会ったきりって……。
もし他に心当たりがあんなら、今のうちに言っとけ? 大人しく白状しやがれ。
自分の提督が、色恋沙汰で刺されて死ぬなんざ、オレは御免だぜ?」
まぁそれを言ったら、
そんな怖い想像をしつつも、「へへっ」と笑い合いながら、アパートまでの道を歩いた。
……
…………
……………………
「あっ、提督! おかえりなさいでち!」
「おかえりなのね!」
天龍と並んで帰宅すると、すぐに沢山の艦娘たちに囲まれた。
みんな、どこかほっとした顔。きっといつもと違うP氏の雰囲気を感じ、心配してくれていたのだろう。
余裕がなかったとはいえ、この子達を不安にさせてしまった事を、P氏は内心で反省。
「提督ったら、食事も摂らずに行ってしまうんだもの……。
三日も寝込んでいたんだし、お腹空いてるでしょう?」
「そうだよ提督! ごはん食べよ! そーすれば元気出るよ!」
「じゃあ私、なにか作って来ますね♪
よーし! 吹雪抜錨しまーす!」
「ぼくも手伝うよ。お米とお味噌汁はまかせて」
和気あいあいとした空気。先ほどとは違って柔らかな笑みを見せているP氏の姿に、きっとみんな安心したんだろう。
いつもの美星鎮守府、いつも通りの日常があった。
あの地獄のような闇のセカイと、忘れがたい悲しみの面影は、そこには無い。
「すいませぇん。
和んでる所、たいへん申し訳ないのですがぁ、“あの宝石”をお持ちですかぁ?」
「おん? ああ持ってるスけど」
ゴソゴソとポケットを探り、かのセカイで拾った赤い宝石を取り出す。
それを言われるまま、ポンと手渡した。
「ありがとうございますぅ、ではちょっとお借りしますねぇ」トテトテ
「えっ」
Hitomiの形見とも言うべき、大切な物。
それを受け取った
というか……なんでアンタいるの? いつ来てたの? なんで言わなかった?
いくつもの疑問符が、P氏の頭に乱舞。
「よっし! じゃあ皆さん、注目して下さぁーい。
アテンションプリーズ、ですぅ」
部屋の中心……というか明石ちゃんに「よいしょ」と肩車をされながら、東雲が大きな声でみんなを呼ぶ。
「すでにある程度は、お聞き及びの事と存じますがぁ。
実はPさんには、娘さんがいらっしゃるのですぅ。
でも先日、少しばかり不幸な出来事がございましてぇ……。
今はこの赤い宝石の中に、
わいわい、ガヤガヤ。艦娘たちが無邪気に色めき立つ。
提督の娘? それどんな子だろ!? きっとメッチャ可愛い子だよっ!
そんな風に誰もが、今ワクワクした顔で東雲を見ている。
この場でたった二人……彼女が言った言葉の意味が分からずに、絶句しているP氏&天龍を除いて。
「こんな小さな宝石の中に、人の命が宿っているだなんてぇ、ちょっと荒唐無稽な話かもしれませんがぁ……そこらへんは『まぁ美星町だし』という事で、いったん置いといてくださぁい」
「ようは、何が言いたいのかと言うと……『家族がふえるよ! やったね○○ちゃん!(お好きな艦娘の名前をどうぞ)』って事なの。
私の科学力と、東雲姐さんの家の秘術があれば、ちゃんとした一人の女の子として、この家に生まれる事が出来るって寸法!」
「「「おおおおーー! すごーーい!」」」
肩に乗っている東雲の言葉を、明石が引き継ぐ。
数日家を空けており、Hitomiを知らない多くの艦娘たちは、ただただ無邪気に「提督のお子さんに会える!」と喜び、大きな歓声を上げている。
「でもみんな……覚悟しといてね?
ぶっちゃけこの女の子は、メチャメチャ可愛いし、暫くは提督も鎮守府も、子育てにかかりっきりになる事が予想されるから!」
「きっとこの場にはぁ、Pさんを慕う(狙う)数多くの子達がいらっしゃると思いますがぁ……暫くそういった事は出来ませぇん。ご遠慮くださぁい。
なんたって、Pさんはパパになるのですからぁ♪
ちゃんとこの子のお姉さんとして、育児や教育にご協力下さいますかぁ?」
「も……もちろんよ! たくさん愛してみせるわっ!」
「うん! あたしオムツ代える! ミルクも!」
「なら私は遊び相手! ずっと一緒にいるよっ!」
「抱っこしたい! 赤ちゃんだっこしたいよっ! 提督の赤ちゃんんん~~っ!!」
みんな元気よく「はーい!」と手を上げる。
普段は肉食系の鹿島やイクすらも、「ほわわ~ん♪」と喜びに満ちた顔をしており、まだ見ぬ提督の赤ちゃんに想いを馳せているのが分かる。
はやく会いたい、抱きしめたいと、みんな胸いっぱいに希望を膨らませ、とても嬉しそう。
やんややんやと囃し立て、パチパチと拍手が鳴り響く。
どんな子だろうねー。早く顔が見たいなーと、やがてこの場は歓談ムードに。
そんな中……未だポカンと呆けたままでいるP氏のもとへ、先ほどの二人がテクテクと寄って行く。
「提督……さっきはゴメンナサイ。
貴方の気持ちも考えず、あまりにも不躾なことを言っちゃいました……」
よいしょと東雲を床に降ろし、明石がペコリと深く頭を下げる。
「そのお詫びと言ったらなんだけど、明石は頑張りますっ! キラキラッ☆
必ず提督の娘さん……Hitomiさんにもう一度、会わせてあげますからっ!!」
心からの謝罪と、沈痛な面持ちから、一転してハツラツとした笑顔。
その目はメラメラと使命感に燃え、「提督の役に立つんだ!」という気合に満ちている。
「あは♪ 勝手に決めてしまい、申し訳ありませぇん。
Pさん、どうかご容赦下さぁい」
そして、P氏に内緒で事を進めた片割れ、東雲がP氏の前に立つ。
ちょっとすまなさそうに、でも強い意思の宿った瞳で、まっすぐPの目を見て。
「私の蟲獣使いの
本来これは、決して褒められた物ではない、邪法とも言うべき秘術ですがぁ……」
命を作り出すという、神にのみ許された行為。
それを人の身で行い、しかも己の意のままに操るという、東雲の力。
それに忌避感や嫌悪を持つ者も、いるかもしれない。
汚らわしい邪法だと、そう罵られても仕方ないのかもしれない。
「けれど、『ずっとみんなといたい』と言っていた……」
東雲が、そっとHitomiの宝石を胸に抱く。
子を慈しむように。その命ごと抱きしめるように。
「私はあの子の願いを、叶えてあげたい――――
その為なら、神をも貶めてみせますぅ」
それを、どうか許して欲しいのですぅと、ペコリと頭を下げた。
「……なぁ、東雲さん?」
ふいに、これまで黙り込んでいたP氏が、口を開く。
「それでもし、アンタが地獄に堕ちるんなら……、そん時は
神さんに拝み倒して、なんとかしてもらうから」
なんといっても、自分はマスターPだ。
英雄と呼ばれる(予定の)、美星町のヒーローなのだ。
これから人々を救い、世界を救い、沢山“徳”を貯めるから。
たとえ神様にだって、文句は言わせない。……むしろ無理を通して道理を捻じ曲げてみせる事こそが、英雄の条件だ。
だから安心してくれと、P氏も東雲に、深々と頭を下げる。
「会いたい……今度こそ全力で守る。
わいの持ってるモン、全部Hitomiにやるわ――――」
わい、パパやからさ?
そう涙を零すマスターP氏が、ニコッと笑った。
◆ ◆ ◆
あれから、少しばかりの時が流れた。
「うわぁ……! ちっちゃい!
こんな可愛くなってまぁ……!」
無事怪我が治り、東雲に付き添われながらP氏のアパートを訪れた“のどか”が、小さな赤ん坊がいるベビーベットを覗き込む。
そっと。宝物を見つめるように。
「なんて愛らしいんだろう……。
ごめん、私泣きそうだぁ……。
なんかもう、色々な感情が『わー!』ってなっちゃって……」
長い入院生活を終え、ようやく退院した彼女は、いの一番にここを訪れた。
何を置いても、どうしても待ちきれず、会いに来てくれたのだった。
「ちっちゃな手……すごく柔らかい。
もう私、なんでもしてあげたいって気持ちだよ……。愛しさが込み上げて来るもん……。
これが赤ちゃん……。“命”なんだね」
思わず零れてきた涙を、メガネをずらしてクシクシ拭いながら、のどかはまるで母親のように柔らかく笑う。
とびっきりの笑顔を、この子に見せる。
「はじめまして、じゃないよ?
私はのどか、貴方の友達♪
やっと会えたねHitomi……またいっしょに遊ぼうね」
……
…………
……………………
「来んなぁ! あっちいけロリコン!」
「Hitomiちゃんには近付けさせないのですっ! ぜったいなのですっ!」
アパートの玄関の前で、第六のロリっ子艦娘たちが、わーわー騒いでいる。
「なっ……何故ですか!?
私はただ、皆さんにボルシチのおすそ分けを……!」
「そんなこと言って、Hitomiちゃん目当てだろう?
あの子を見に来たに決まってるよ!」
「それにかこつけて、隙あらば攫っちゃうつもりねっ!
だってロリコンだもんっ! ロリコンならやりかねないわっ! ロリコンはクズよ!!」
ディーフェンス! ディーフェンス!
そんな風にみんなで肩を組みながら、壁を作ってセキゾノフさんをインターセプト。部屋への侵入を防ぐ。
「くっ、致し方ない……!
実はねみんな? 私はロリコンじゃなく、
だからHitomiちゃんを見t……じゃなかった、部屋に入れてくれないかな?
ボルシチも美味しく出来たんだよ……」
「あ、そーなの? だったら大丈夫ね!」
「ロリコンじゃないなら安心なのですっ!
ホモの通行を許可するのですっ!」
「ハラショー」
内心で「うう……!」と血の涙を流しながら、なんとかお部屋に入れて貰えたセキゾノフさん。
まだ幼いHitomiちゃんでも食べられるよう、しっかり柔らかくなるまでボルシチを煮込んだので、きっと喜んで貰える事だろう。
苦労人だし、なんだかんだあるが、彼も幸せにやっているようだ。
……
…………
……………………
「信じられん……ワイは夢を見とんのか?」
P氏のアパートにお邪魔し、のほほんと茶をしばいていたチョコ太郎。
「すごい……
「ありえないですぅ。天変地異の前触れですぅ」
驚愕に目をひん剥く裏秋月の二人。
それを余所に、いま胡坐をかいて座るチョコ太郎のお膝に、ハイハイで近寄ってきたHitomiちゃんが、うんしょとよじ登って見せたのだ。
そのままチョコおじさんのお膝に居付き、機嫌良くキャッキャと笑っているではないか。すんごい懐かれているのだ。
「確かに“嫌悪の業”は、力を持つ者には効かないよ。
でもHitomiちゃんは……」
「この子は通常の何十倍ものスピードで、すくすくと育ってますがぁ、でもまだ2~3歳児ほどの子ですぅ。
とても“業”を跳ねのけるような力はぁ……」
「っ!? っっ?!?!」
チョコおじさんの胸元にしがみ付き、顔を見上げてにぱーっ☆ と笑っている。
まるで「おじさんあそぼ♪」と言っているかのような、無邪気で愛らしい姿だ。
「すまん二人共、席外してええか……?
ワイちょっと家帰って、
「――――なんでだよ! いま享受しろよチョコ太郎!」
「せっかくの幸せですよぉ!? 感涙する前に、だっこなさぁい!」
男性の中ではだが、実はHitomiはパパの次くらいに、チョコ太郎を好いている。
いつも彼が遊びに来た時は、キャッキャ言いながらヨチヨチと寄って行き、そのお膝を占領。
彼の方もアワアワしながら、本を読んでやったり、一緒におままごとをしたりと、いつも忙しい様子。
なんの自覚もなく、むしろ「あん時は悪い事してもうたな……」と罪悪感を抱いているチョコ太郎は、とつぜん降ってわいたような物凄い幸せに、戸惑いを隠せないのだった。
……
…………
……………………
「いや悪いけど、Hitomiちゃんはウチに入るから。
手を出さないでくれるかな? 胡散臭いじゃんお前の所」
「何を言ってるの? ComeTrueに決まってるでしょ。
オールインワンみたいな落ち目の組織、彼女が可哀想だよ」
「あぁコラ? おお?」
「?」
某所の喫茶店。
テーブルを挟んでガンを付けるハセ・ガワ氏と、それを平然と受け流すミスター慧眼人くんの姿があった。
「いやだからぁ! もうちょっと大きくなったら、ウチでスカウトするって!
オールインワンには魔法少女の子達もいるし、友達には事欠かない! 安心だろうが!」
「君には、人材を活用する能力が皆無だよ。宝の持ち腐れさ。
それに、人をまとめる力も全然足りないもの。
見なよ?
人を見る目も無いクセに、誰でも信用してホイホイ入れちゃうから、あんな酷い事になるんだ」
「――――表出ろゴラァ!! 膝叩き込んだるわショタっ子ぉぉぉーーッッ!!!」
ひとり我関せずでパフェをつつくテンジクボタンちゃんの、「なんならアタシ引き取ろっか?」という声を余所に、今日もわーわー喧嘩し合うのだった。
……
…………
……………………
「おっ! Hitomiちゃん、おつかいか?
もうひとりで出来るんだな~! えらいなぁ~」
「野菜はいらないか? いっぱいオマケしちゃうぞ?
今日な? 手の平よりデッカイ椎茸が入ったんだ! スゲェだろぉー!」
「あ~らHitomiちゃん、こんにちは♪
うちの人がHitomiちゃんの為にって、新作のシュークリームを作ったのよ~。
ほら、明るい緑色で、すごくカワイイでしょ? ひとつ試食してみて♪」
商店街の人達が、Hitomiを見かける度に、朗らかに声をかけてくれる。
誰もが優しい笑みを浮かべ、心から彼女を愛してくれてる。とても大切にしてくれている。
ちなみにであるが、P氏はあの騒動の後、無事に美星町の町長に
なんか美星町のアイドル的な存在というか……、むしろもう「美星町のみんなで育てちまおうぜ!」みたいな雰囲気すらあったりする。真面目に。
市役所や消防署のポスターに、Hitomiが登場していたりもするし、駐車違反だの万引きだのを注意するポスターに出れば、その効果で件数が激減したとかなんとか。
あれか、「この子の前で悪事は出来ん」みたいな事か。
美星町の住人は、みんなバカというか、単純というか……。
彼女の持つ、まるで新緑の葉のような、明るい緑色の髪。
もしかしたらそれが、町の人々に安らぎや癒しの印象を、与えているのかもしれない。
とりあえず、いま美星町は【Hitomiちゃんフィーバー】なのであった。
◆ ◆ ◆
「いけるかHitomi? 届きそうか?」
そして、ある日の晩。
「気を付けろよ付けろよ~。
まぁしっかり支えてっから、のんびりやりましょうねェ! そうしましょうねェ!」
アパートの前で、大好きなお父さんに肩車をされている、Hitomiの姿があった。
「しっかり結ぶんだぞ? 後でおっこちないよう、キュッってやるやで。キュッって」
「うんっ」
二人の前にあるのは、長門にひとっ走りして採って来てもらった、大きな笹。
そしてHitomiの小さな手にあるのは、短冊の紙だ。
今日は7月7日――――待ちに待った七夕の日。
パパの肩に乗ったHitomiが、よいしょと一生懸命に腕を伸ばし、枝に自らの短冊を括り付けている。
家族である艦娘たち、背丈が近いので姉妹のように仲が良い第六駆逐隊の子ら、そして沢山の美星町の友人たちと一緒に、織姫と彦星にあてて願いを届ける。
今この場の誰もが、厳かで神聖な儀式を見るようにして、P氏とHitomiという親子の姿を見守っている。
「おっ、でけたか?
しっかり結べとるやないかHitomi! やりますねェ!
どれどれ、わいの娘は何を書いたのかなっと……」
「あっ、だめー!
パパみたらだめーっ! えっち!」
「うおっ……!?」
ポカポカと頭を叩かれ、狼狽える。
この子はまだ5歳児くらいの大きさなのだが、すでに力は成人男性と同じレベル。
しかもちょっとしたアスリートにも引けを取らない筋力を誇るので、ぶっちゃけマジで痛い。
北斗神拳のP氏でなければ、脳震盪くらいは起こしていたかもしれない。
「だれかに、みられたら、おねがい、かなわなくなる。
パパ、めをとじてて」
「えっ、そんな縛りあった……!? わい聞いた事ないぞ!?」
「そんなきがする。
というか、あたちが
「 ――――全部お前ルールかHitomiッ!! この家も美星町も、七夕すらも!?!? 」
父親の威厳? そんな物ここには存在しない。
こいつら全員デレッデレだからね? Hitomiの言う事は絶対なのだ。少なくともこの町においては。
「なに書いたんだよーう。言えようHitomiィー。ほら来いよ来いよー」
「だめ。ないしょ。
ぐたいてきに、いうと、らいねんまでないしょ」
「来年なったらええの? それも今決めたんかHitomi?」
「あたらしいねがい、かくまで。
でもあたち、たぶんまたおなじこと、かくから。
じっしつ、ずっとないしょの、システム」
「もう墓まで持っていくつもりだな。
七夕ってそんな重かった? わいの知ってるヤツと違う」
ちっちゃなおててで、ギューっと目隠しをされながら、P氏が「うーん……」と首を傾げる。
その様子を東雲が、慈愛に満ちた表情で、微笑ましく見守る。
ヘルキャットの二人も凄くはしゃいでるし、のどかなんてさっきからパシャパシャ写真を撮りまくってて、とても忙しそう。
でもきっと、これも良い思い出になるハズ。
「どうせアレだるォ?
大きくなったら天龍と結婚してェとか、共産主義をこの世から撲滅してェとか、おにぎりせんべいを腹いっぱい食いてェとか、そんなだるォ?
パパにはお見通しだぞォ~?」
「ばか、ちがう。ばか。
アホのさんかいきゅうせいは。どうてい」
「まぁ安心しろ。少なくとも将来、“大統領秘書”にはなれっからさ?
なんたってわいは、チュニジアをどげんかする男だかんなァ!
Hitomiも手伝ってくれよな!」
「うん、それはやる。
おっぱいのおおきい、びじんひしょになるね?」
「おうっ! いいですねェ! 頼むよ頼むよー」
……
…………
……………………
二人は手を繋ぎ、住み慣れた家へと帰っていく。
仲間たちもゾロゾロと後に続き、やがてアパートの方から、とても賑やかな笑い声が聞こえてきた。
今、この大きくて立派な笹に飾られているのは、色とりどりの短冊。
美星町に住むみんなの願いが詰まっているかのように、沢山たくさん飾られていてカラフル。まるでクリスマスツリーみたい。
その中で一番たかい枝にあるのが、パパに肩車をしてもらい頑張って括りつけた、Hitomiの短冊だ。
あの子の髪と一緒で、緑色。
覚えたばかりのひらがなで書いた、まるっこくて愛らしい文字――――
【ぱぱやみんなと、ずっといっしょ(かくしん)】
――fin――
・原作、ストーリー構成参考
【天地無用! 真夏のイヴ】
【マジンガーZ】
【艦隊これくしょん】
【アーマードコア4】
・キャライメージ曲
マスターP 【JUVES】(Diggy-MO')
Hitomi 【Lovin' You】(Minnie Riperton)
力石 徹子 【蛍】(鬼束ちひろ)