少し流れが気になり、今話の前半は前話の最終シーンを切り取っています。もちろんそれだけを載せてる訳ではなく、新しい話を追加してるので、億劫でなければ是非お読み下さい。
「……フレイヤ様、オレはまだ納得してないぜ」
「あら、貴方の判断ミスでしょう? 【
バベルの塔、その上層。
人造迷宮攻略から約二週間。かつての暗黒期程ではないものの、オラリオは刺す様な空気に包まれている。それもその筈だ。ロキ・ファミリアの主力メンバー二人、リヴェリア・リヨス・アールヴとガレス・ランドロックは、穢れた精霊を討伐するも苦戦を免れず、重症。
何よりの問題として、ベート・ローガとアイズ・ヴァレンシュタインの死亡。レベル6二人の損失はあまりにも大きい。
幸い敵の問題として筆頭候補に上がっていた
「これでも貴方に配慮したわよ。私個神の欲望は抑えたわ。あの透明な魂がどれだけ染まるか……興味がなかった訳じゃ無い。それを抑えて、
「……だが」
「どのみち、あのままではただ壊れていただけ」
「それでも、彼がアルフィアの血を継いでる事までは言わなくても良かった筈だ」
「……ふふ。そう思う?」
「……?」
フレイヤの意味深な笑みを、ヘルメスは疑問の視線を投げる。答えるつもりはないとフレイヤは立ち上がった。だがヒントだけは残してあげようと言葉を紡いだ。
「ヘルメス、ゼウスの言う通りよ。彼に素質は、本来なら無かった。だってあるなら、ダンジョンに潜ったその日から突出していてもおかしくないもの。怪物祭の時のシルバーバック如き、あのナイフが無くても倒せていたでしょうね」
「……ベル君に何かしらのスキルがあるのは知っていたが」
「彼の強みは成長速度じゃ無い。彼の強さは、その透明な魂が抱く純真無垢な“想い”だけ。
「……! アイズちゃんの横に並び立つ為。それがもし、想いの消失で消えるスキルなら」
「さて、どうかしらね。これはあくまで推測と、お節介。彼のためになっているかは知らないわ」
今までの流れから見れば分かる。ベル・クラネルが持っていたのは、成長補正系のスキル。想いが無ければ失うと言うのであれば、
例えば、
少しでも【英雄】への希望を残すならば、フレイヤの選択は間違いでは無いだろう。何より、ヘルメス自身の責任だと言われればぐぅの音も出ない。リューにも悪いことをしたと、ヘルメスは帽子を深く被った。
───もう、彼が【英雄】を目指しているかも、定かでは無いが。
「……でも、フレイヤ様」
「何かしら?」
「オレは、ベル君を英雄にする事を諦めるつもりはないぜ。いや違うな。それを聞いて、益々英雄への素質を再認識した」
「……ヘルメス。私はあの子に試練を与える事はあっても、決して想いを染める行為はしない。あの子は
ならば敵対関係にならざるを得ない。そうやって目を細め語るフレイヤに、ヘルメスは苦笑して言葉を紡ぐ。
「フレイヤ様。オレも黒いミノタウロスとの戦いに魅入られたクチだ。神意を跳ね除ける殺し愛……アレだけ美しいものはそうそう見られない。
「……そう。納得してあげるわ」
「助かるよ」
ヘルメスはフレイヤの部屋を出て行く。フレイヤはつまらなそうに溜め息を吐くと、ワインの入ったグラスを持ち上げ見つめながら、背後にいる従者へと命令を下した。
「オッタル」
「はっ」
「彼は確か、今日は私のホームでアレン達と訓練中だった筈よね?」
「はい。訓練……と呼べるモノかは不明ですが」
「ホームに居るなら何でもいいわ。オッタル、あの子の心をへし折りなさい」
「……神意を、お聞かせ願えますか?」
フレイヤが興味を抱き続けた結果か、オッタルもベルの事を気に入り始めているのは否定出来ない。ヘルメスを肯定するわけでは無いが、ベルには確かに英雄となれる素質がある。今までの様なベル自身の意思を貫く異端の英雄とは離れた、神工の英雄にならば。
「極論、私は彼が英雄にならなくてもいいのよ。魂の一瞬の輝きは見れなくなるでしょうけど……正直、その点については彼の仲間が死んだ時点で諦めている。彼の
「神ヘルメスが英雄への道を提示すれば、ベル・クラネルの意思での英雄か、神工の英雄かの二択へと迫られる。そしてそれは、破滅の道以外になり得ない」
「ええ。だって彼の中では、もう英雄願望なんて手段でしかないもの。英雄になる気なんてカケラもない。だからこそ今は自由にさせている。自暴自棄な今こそが彼の生存確率は一番高いのだから。……でも英雄への想いがないまま英雄への道を選んだのであれば、彼は必ず死ぬ。そしたら私はあの子の魂を追い掛けるわ」
必ずね、と。そう目を細めながら言うフレイヤの台詞は、まるで「それではオッタル達に不都合があるでしょう」と言わんばかりの言葉だ。
「……御身の望みであれば───」
「ああ、勘違いしないでちょうだい」
だが、何処までも自己中な神が、オッタル達への心配
「それではある意味、私のファミリアがヘルメスにやられたみたいになるじゃない。それが気に食わないのよ」
「……過ぎた真似を致しました」
「構わないわ。貴方達を気に入っているのは間違いない事実よ。そう卑下しなくてもいいわ」
フレイヤはワイングラスを再度手に持ち、縁を唇に這わせ傾ける。一瞬の静寂。オッタルは口を開き、再び問いかけた。
「……方法は如何にしましょう」
「そうね……。彼が強くなる理由を無くしましょう。アルフィアの
「了解致しました」
フレイヤは空になったグラスを静かに置き、溜め息を吐いた。
「強くなる理由を与えてそれを砕くなんて……マッチポンプも良いところね。私にそういう趣味はないのだけれど」
恨むわよ、ヘルメス。そう静かに呟き、グラスにワインを注ぎ始めた。
───強い。それがオッタルの、ベルに対しての評価。フレイヤが認めるだけあって、その強さをしみじみ実感する。成長速度は勿論のこと、深層を経験しただけあって度胸も桁違い。
もちろんオッタルとしては軽々しくあしらえる程度の強さでしかない。獣化の必要もなく、短剣に対して大剣でも対処可能な攻撃。しかし。
「───ッ」
やはり血か。いや、フレイヤの言う通り、その才能を信じる“想い”の力か。かの才能の権化を連想させる、桁違いの吸収速度。オッタルの知るベル・クラネルは、ただ愚直に磨き続けた果ての“努力”と“応用”を冒険に用いる、成長速度と潜在能力が高い
フレイヤが魅入られる魂は、才能さえも生み出すのか。確かにこれを開花させた“神工の英雄”ならば、かの最強と言われる黒竜の片目を奪った英雄アルバートにさえ迫る実力になるかもしれない。これは、レベル6の剣姫アイズ・ヴァレンシュタインの横に並び立つという想いのベル・クラネルではなし得なかった事かもしれない。
しかし、その先は破滅。ただの孤独の英雄と成り果てる。それは推測ではなく、最早確信。何せ今のベルは───
「───【
「……
「【ヒルディス・ヴィーニ】!」
「【
破壊音。衝撃。都市中に鳴り響く轟音で、ホーム内の全てを吹き飛ばす程の熱風。ホームが壊れなかったのが奇跡と思える、階層主を吹き飛ばせる攻撃同士の衝突。
……正確に言えば、ベルの攻撃をオッタルが掻き消した形だが。
「……貴様、身を削るスキルでも覚えたか?」
「……」
「報告を受けるに、貴様のスキルはレベル×1分の畜力だった筈だ。……レベル6の速さに近いが、速さだけならば貴様は一つ上のレベルに匹敵するとも聞いている。ならば貴様がレベル5である事は他ならない。……
「それを知って、どうするんですか」
「何も。強くなる手段など人それぞれだと分かっている。ただ……剣姫に似ていると思っただけだ」
「……っ」
トラウマが呼び起こされたか、能面だったベルの顔が歪む。苦しむ様な表情。だが足りない。心を折るには不充分だ。
ならば予定通り、アルフィアの最後を伝えるとしよう。
「……貴様は何故強くあろうとする?」
「英雄に、なりたいから」
「ほう? それにしては意外だな。貴様が興味なさそうなファミリア内での争いに参加して、その中で命を削る技を使うとはな。それとも、俺を殺したくなる程の恨みでもあるのか?」
「よく喋るんですね」
寡黙そうな見た目なのに。意外そうに、だが能面のまま言葉を紡ぐベルに、オッタルは鼻を鳴らす。
「これでも喋る方だ」
「いや嘘つけ」「何言ってんだこの猪」「言葉足らずの脳筋野郎」「下らない神の真似事か?」
「……」
「……」
「…………そんな目で見るな」
「……いえ。別に」
心折るはずが心折られた。曲がりなりにも味方に。何という四兄弟の連携。
可哀想な人を見る目でベルが視線を送っていれば、余計に心に傷を負ったのか。オッタルは表情を曇らせて訴える。
「……まあいい。俺の観点からすれば、貴様は英雄を目指す振りをしているだけの、破滅願望の持ち主に見えるが」
「っ……」
「いっそ死にたい。だが言い訳もなく、己を想う主神の側を離れたくない。ならば強くなって英雄の所業を成そう
フレイヤとの会話で予想をつけた、ベルの強くなる理由。それの確認工程として言葉を紡げば、ベルは苦渋の表情を見せる。当たっていることの証明。
「曲がりなりにも【英雄】であろうとするのは、【疾風】の遺言か? そして、自分にそれを成せるだけの才能ある“血”が流れているという自覚があってか?」
二つの意思。心の支えとはまた別の、目指す理由。
そしてこれは、もう一つの予測。
「或いは、血の繋がっている本物の“家族”の存在を知れた、少なからずの歓喜か?」
「……」
「血の繋がった両親を知らない貴様にとっては、確かに在る繋がりを新しい支えにするのは当然か。【疾風】の言葉も相まって、より強固になり、剣姫への想いと同格にした……そんな所だな」
「……っ」
「そんな貴様へ残念な知らせだ」
オッタルは躊躇の欠片も無く、かつての結末を伝える。
「【静寂】のアルフィアは、【疾風】によって殺された」
「─────」
「いや、正確にはアストレア・ファミリアにか」
……まあ、実際の所の顛末はオッタルが知る由も無い。彼はもう一人のレベル7であるザルドを相手にしていたので、その場にいた訳じゃないのだ。だが、アストレア・ファミリアによって倒された事は間違いない事実。
「───……ぇ?」
二つの要素を支えに、漸く強くなれる理由が出来たのに。その内の片方が滅ぼした原因で。支えは薄く、言葉の意思は弱る。
「再度聞くぞ」
ただヘスティアと共にいるだけならば、強くなる理由なんてなくて。
「貴様は、何故強くあろうとする?」
───その問いに答える事は出来なかった。
ベル・クラネル Lv.5
力:C611 耐久:D518 器用:S997 敏捷:S988 魔力:A855 幸運:E 耐異常:G 逃走:H 精癒:I
《魔法》
【ファイアボルト】
・速攻魔法。
《スキル》
【憧憬一途】
・早熟する。
・懸想が続く限り効果持続。
・懸想の丈により効果向上。
【英雄願望】
・能動的行動に対するチャージ実行権。
【闘牛本能】
・猛牛系との戦闘時における、全能力の超高補正。
【
・生命消費による能動的限界突破実行権。
【偽才鮮血】
・早熟する。
・効果永続。
・全てに対する直感的会得。