ある日の図書館
「幻想体の制圧?」
唐突に言われた言葉にゲブラーは少し意外そうにしている
「ああ、館長様がもう成長させてもいいってよ」
と少し厚めの紙束片手にローランは言う
「ってことは、また司書が解放されるのか… 四人だと接待が厳しい場面もあったから、私のチームの面子が増えることに越したことはないな」
頭数の少なさで、最近の人差し指の接待で半壊した言語の階では割と切実な事情だった
「お、そうか じゃあさっそく制圧しちまってくれ これが幻想体の資料な」
とローランから幻想体の見た目や能力が書かれた資料を渡されるが
「…なんだこいつ? 資料を見せられても全く見覚えがないんだが…」
その幻想体にゲブラーはまったくといっていいほど見覚えがなかった。仮にもL社の時に懲戒チームを率いていたゲブラーがだ
「ああ、アンジェラが追加で言ってたけど支社産の幻想体だってよ」
崩壊した際に本になった幻想体は本社のものだけではなく、支社からのものもいた。TT2の都合上、支社と情報のやり取りはしていなかったためゲブラーが知らなかったのも無理はなかった。
「なるほどな… 道理で」
「おっ、伝説の赤い霧様もさすがに初見の幻想体だと分が悪いかあ?」
と揶揄するような顔をするローラン
「ぬかせ、初見だって程度で私が失敗するかと思うか?」
それに対し、好戦的な笑みでゲブラーは返していた 戦る気十分である
「冗談だよ まあ、さっさと制圧してきてくれ」
肩をすくめ、ローランは見送りの言葉を投げかける
「ああ、行ってくる」
そういって、司書補とともに本の中に吸い込まれていった。
十分後
本が光ると同時に、やや気落ちした顔のゲブラーが司書補とともに戻っていた。当然だが本の外に出たため当然傷などは治っていた。が司書補の顔もどこか暗い
「ありゃ、ずいぶんと早く戻ってきたな しかもその顔、まさかほんとに…?」
と驚くローラン しかしそれに対してゲブラーは首を横に振りながら答えた
「いや普通に制圧終了したぞ… したんだがな…」
と何かを思い出したのか、さらに気を落とした顔をするゲブラー しかもどこか不憫なものをした表情が混じり始めた
「じゃあなんでそんな顔を…?」
あの赤い霧がこんな表情をするとはよほどのことがあったのだろうかとますます興味津々になるローラン
「資料にある程度追い込むと変身するって書いてただろ… たしかにしようとしたんだよ変身」
「それがどうしたんだ?」
「しようとしたよ変身
「えっ?」
普通であればあり得ないだろう あの赤い霧が大きく振りかぶっている目の前でそんな見え見えの隙を晒すなんて 元フィクサーのローランは嘘だろとでもいいたげな表情を浮かべていた
「それで?ブラフだったりしたのか?こう攻撃を受けたら超反撃みたいな」
先日解放した哲学の階がそんな感じの特徴だったと思いだし、ローランは聞いてみた が
「いや? 変身しようと力を割いていたんだろうな キョトンとした顔をしながら場外にまで吹っ飛んでいったよ」
「………」
どんな状況か思い浮かべてしまったんだろう ローランは何とも言えない顔をしていた 無論ゲブラーもだ
いつの間にか聞きに来ていたアンジェラもいた
がそのアンジェラでさえも何とも言えない表情を浮かべていた
司書補も含め皆が一様に何とも言えない顔をしている
「あれは幻想体だ… だから同情なんか普段はしないし楽に鎮圧できるのに越したことは確かにないんだが… さすがにちょっと不憫だったな」
「……そいつ何がしたかったんだろうな…」
「さあな…」
「「「「「…………」」」」
「ゲブラーさん、解放していただき助かりましたよ! 厄介だったでしょうあいつ! ってあれ、皆さんどうしてそんな顔を?」
何とも言えない空気が漂う中、こうして言語の階は新たな司書を迎えて五人態勢となった… なってしまった…