風都探偵以前orパラレルを想定しています。
一日の営みを終え、多くの人々が安寧の時を過ごす頃にあって、ネオン輝く繁華街は一層にその賑わいを増していた。
だが光り輝く所あれば深き闇に包まれる所があるのもまた事実。華やかなる街中にうち捨てられた廃ビルは、周囲の煌びやかさとは対照的に、その不気味さを強く際立たせていた。
吹き抜ける夜のビル風がヒビ割れたガラス窓から入り込み、放置されたままの事務机や棚に積もった埃を舞い上がらせた。
常人であれば顔をしかめるであろうその現象を意に介することなく、そこに佇む人影は真っ直ぐに前を見据えていた。瞳の内に負の感情を滾らせながら……
「仮面ライダー……仮面ライダー……仮面ライダー……」
暗がりに反響する、低く唸るような声。それは地獄に住まう鬼や悪魔の如し。
「忌まわしい存在……消え去れ……貴様は……違うッ!!」
解き放たれた感情。人影が蠢き、その腕を大きく振るう。
次の瞬間、その正面に在ったV字の触角を額に携えた戦士の影が、乾いた音と共に砕け散った。
宙を舞い、散らばり落ちゆく幾多の欠片。
前へと歩み出でた人影は、床上に落ちたそれらを憎々し気に踏みしめる。
「―――――こそが真なる――――なのだ……!!」
邪悪なる呪詛は吹き荒ぶ風に乗り、夜の闇へと溶けてゆく……
「大丈夫か果穂、疲れてないか?」
ビジネススーツを身に纏った青年男性が、運転席から後部座席へ向けて声をかける。
「はい! 大丈夫です!」
そこに座した少女の明るく屈託のない声が帰ってくるのを聞いて、青年は口の端を軽く綻ばせる。
「ははは、なら良かった。……と、もう八時になるか。流石にお腹空いただろう? ホテルに着く前にファミレスにでも寄って晩ごはんにしよう」
「ファミレスですか!? だったら食べてみたい料理があるんです!」
「それは……仮面ライダープレートだな?」
「そうです! よくわかりましたねプロデューサーさん!」
「この風都の新しい名物だって聞いたからな、絶対果穂が食いつくと思ってたよ」
「はい! ネットで写真を見た時からずっと楽しみにしてたんです!」
満面の笑みを浮かべた少女――小宮果穂――の手にしたスマホに映し出されているのは一つの料理。
オムライスやロールキャベツ、トマトなど色とりどりの具材を巧みに使って作られたヒーローの顔を中心に、これまた様々な具材で形作られた武器などを模したおかず類が散りばめられている、豪華なお子様ランチのような物。
その見事な様相は、子供ならず大人までも思わず魅了されてしまう程だ。
「そうかそうか。でも折角風都に来たんなら本物の仮面ライダーに会ってみたいよな」
プロデューサーと呼ばれた男性が何の気なしに口にした言葉に対し、果穂は小さく首を横に振った。
「いいえ、あたしは会えなくても平気です」
「えっ、そうなのか? どうして?」
「ヒーローは困った人を助けたり、悪の組織と戦うのに忙しいんです。あたしがワガママ言ったりしたらそのジャマになっちゃいますから」
果穂の落ち着いた物言いに、青年は数度目を瞬かせる。
「そっか……うん、果穂の言う通りかもしれないな。会えなくてもそれは決して悪い事じゃない」
そう応えるのに続けて
「……何もないに越したことはない。その方が良いんだろうさ、きっと」
彼は小さな呟きを漏らした。
一方で果穂はそれに気付いた様子もなく、明るく元気に言い放つ。
「はい。だからあたしはその代わりに仮面ライダープレートを思いっきりまんきつしたいです!」
「……うん、そうだな! じゃあレストランに急いで向かおう。これから俺達はG.R.A.Dっていう戦場に挑むんだからな。その為に仮面ライダープレートで勇気と元気をフルチャージしよう!」
「はい!」
283プロダクション所属アイドルの小宮果穂と、その担当プロデューサーは【Grand.Repute.AuDition】通称【G.R.A.D】の予選会が開かれる風都へやってきていた。
彼女らはこの街に滞在しつつプロモーション活動を行い、数日後に開かれる、本選出場者を決める予選会へと挑むこととなる。
特撮番組を愛好し、ヒーローに憧れる小宮果穂にとってこの風都への遠征は心躍るものがあった。
この街には仮面ライダーと呼ばれる本物のヒーローがおり、平和を守るために日夜戦っていると噂に聞いていたからだ。
実際プロデューサーに対しては、あの様に言った果穂だったが、心の奥底では仮面ライダーと出会う事を誰よりも期待していたのだった。
プロデューサーはカーナビの案内に従い四車線の大通りから脇道に逸れて、レストランへの最短経路へとハンドルを切る。
(少しでも早くご飯食べさせてあげなきゃな)
彼は微笑を浮かべると共に、長時間運転した疲れを吹き飛ばすように深呼吸して気合いを入れた。と、その時。
「……っ!?」
不意にプロデューサーの目が驚愕に見開かれた。同時に彼はブレーキペダルを踏みしめる。
「きゃあっ!」
上がる果穂の悲鳴。響き渡るタイヤの激しい摩擦音。ガクンと車体が揺れると共に急停止する。
果穂の身体は慣性でシートに強く押し付けられる。その衝撃に彼女の表情は微かに歪みをみせる。
「っつつ……大丈夫か果穂!?」
プロデューサーは慌てた様子で後部座席へと振り返る。
「は、はい。あたしは平気です。一体どうしたんですか?」
「何かが急に飛び出してきたみたいで……」
そうして前方に向き直り、プロデューサーが車外の様子を窺おうとした瞬間、ドスンという音と共に衝撃が走り、車体が大きく揺れ動いた。
ボンネットの上に立つ人影があった。それはフロントガラスを今にも突き破らんとする勢いでもって、首を小刻みに動かしながら車内を覗き込んでいた。
「うわっ!」
「えっ!?」
人影が何者かと一言で言い表すのならば“怪人”と呼ぶのが相応しいだろう。
ガイコツのような容貌、全身タイツを思わせるような焦げ茶色の身体には、所々に蛇の鱗のような模様が刻まれていた。
更に怪人は一人だけではなかった。車を取り囲むそれらはざっと見て十数人程度。
暗がりの中、街灯の光に照らされながら首を小刻みに動かし、奇妙な踊りをするかの如く両手を上下にユラユラと動かす様は、正に異様、不気味であると言う他にない。
得体の知れない恐怖に身を強張らせて息を呑むプロデューサーと果穂。
そんな中、どうにか気を取り直したプロデューサーは意を決してアクセルペダルを踏む足に力を込め、車を発進させようとした。
だがその瞬間、運転席のドアが乱暴に抉じ開けられ、ぬめりのある何かに絡め捕られたプロデューサーの身体が外へと引きずり出される。
「うわあっ!」
「プロデューサーさん!」
路上に投げ出されたプロデューサーの前に、人影が立ちはだかる。
彼は苦痛に顔を歪めながら首を上向ける。
そこにいたのは爬虫類じみた顔をした青緑色の怪人だった。
「クケケケケケ! シャァァッ!」
その怪人は、口から舌を瞬時に伸ばすとプロデューサーの足に巻きつけ、頭上で彼の身体をひと回しして放り投げた。
「うわぁぁぁぁっ!」
プロデューサーの身体はアスファルト上をゴロゴロと転がり、近くの建物の壁へと勢いよく叩きつけられた。
その様を見たガイコツ怪人らは、プロデューサーの方を指差して、嘲笑うかのように不気味な声を上げた。
「プロデューサーさんッ!」
果穂が悲痛な叫びを上げながら車外へと飛び出す。
「果穂……逃げ……ろ」
朦朧とする意識の中、倒れ伏しながらも顔を上げ、手を伸ばしながら途切れ途切れに声を絞り出すプロデューサー。
だが程なくして彼は力なく倒れ伏してしまう。
「あ、ああ……」
恐怖に足がすくみ、喉の奥がつかえたような感覚が襲う。思うように声が出せない。果穂の鼻の奥にツンとした痛みが走る。
一方で倒れ伏したプロデューサーを見て、一層大きな笑い声を上げる怪人たち。
程なくしてその首が一斉に、ゆっくりと、ギギギときしむ音を立てる人形のようにして果穂の方へと向いていった。
「ひっ……!」
果穂の顔が恐怖に引きつる。
プロデューサーさんを助けないと、彼女の心の声が命ずる。
彼の元へ駆け寄るべく足を前へ出そうとするが、身体が震えて思うように動かない。
そんな彼女の元へと怪人たちはジリジリと近寄ってくる。
竦む足にどうにか力を込める。足が動く。前ではなく後ろの方へ向かって。彼女は後ずさりをする、一歩、二歩と。
プロデューサーの声が、逃げろ、という声が頭の中にこだまする。
「……っ!」
果穂は歯を食いしばり、踵を返して全力で走り出した。
「逃がすな! 捕まえろーっ! クケェーーーッ!」
爬虫類怪人の命を受けてガイコツ怪人たちが一斉に果穂を追いかけ走りだす。
懸命に足を動かし、息を切らせながらも全力で走り続ける彼女だったが
「はぁはぁ…………あっ!」
歪んでいたアスファルトの一部に足を取られ、バランスを崩して転んでしまう。
迫りくる足音、痛みを訴える膝と手、震える身体。
恐怖を懸命に堪えながら果穂は立ち上がり、再び駆けださんとする。が……
「シャアァァッ!」
甲高い叫び声が聞こえたかと思うと、果穂の眼前へと一台の自転車が落下してきた。
「わあっ!」
すんでのところで急停止し直撃を避けた果穂だったが、たたらを踏み転倒し尻もちをついてしまう。
と、聞こえてくる不気味な息遣い、異様な気配。
果穂は転んだままの体勢で上半身を捻るようにして後方へと顔を向ける。
そこには彼女を見下ろすようにして立ちはだかるガイコツ怪人の姿があった。
「ああ……あ……」
果穂の顔が恐怖に歪み、目の端には涙が浮かびだす。
彼女へ向けて伸びていく怪人の魔の手。
「た……助けてーっ!仮面ライダー!」
思わず叫んでいた。この街の平和を守るヒーローの名を。助けを求める魂の叫びがこだました。
しかし、それはただただ虚しく響き渡り、程なくして痛いばかりの静寂が訪れる。嘆きの声は完全に夜の闇に吸い込まれ消えてしまった。
……かに思われたその時
「とうりゃぁっ!」
「グギャアッ!」
「……え?」
勇ましい声、悲鳴、殴打音。突然のことに目を瞬かせる果穂の視界の先に、ガイコツ怪人が路上をゴロゴロと転がってゆく様が見えたのだった。
そしてもう一つ目に映るは、彼女と怪人らの間に立ちはだかる人影。
首元に付けたマフラーを風にたなびかせたそのシルエット、身に纏った気高さと勇猛さを感じさせる雰囲気は、果穂のよく知る大好きな何かを思わせた。
その人影はゆっくりと、しかしながら洗練された動きでもって構えをとった。
それを目にし、果穂を捕える為に集ったガイコツ怪人たちが困惑の様を見せる。
僅かな逡巡の後に怪人たちは意を決し、謎の人影に向かって一斉に飛びかかっていった。
相対する人影もまた
「とあぁぁぁぁぁぁっ!!」
気迫のこもった声を張り上げて、アスファルトを力強く蹴り前方へと跳躍。
ガイコツ怪人の群れへと臆すること無く突撃していったのだった。
コーヒーを片手に、ブラインドの間へと指を滑り込ませて窓の外を覗く。
今日も外は晴れ渡り、吹き抜ける風が街路樹を揺らめかせている。
そんな景色を素早い動きで横切る藍色の影。最近事務所の軒先に住みついたツバメの親だ。
生まれた子供達にエサを届けるために、ここ数日ひっきりなしに飛ぶ姿をよく目にする。
正直、ハードボイルドなこの俺の探偵事務所には似つかわしく無い気がするが、追い払うのも野暮ってもんだ。
俺は広い心で新たな居候を受け入れていた。
雛達のさえずりが響く爽やかな朝。この穏やかなひと時がいつまでも続けば良いと、ついつい考えてしまう。
だが油断してなんかいられない。こういう時は決まって厄介な事件に巻き込まれた依頼人がやってくるもんだ。
俺は自分のデスクに着き、コーヒーを一口飲む。
その時、ドタドタという足音が響き、事務所のドアが勢いよく開かれた。ほら、新たな依頼人のお出ましだ。
「おっはよー!」
「って亜樹子かよ!」
ドアを開けて入ってきた喧しい女。鳴海探偵事務所の所長、亜樹子が口を尖らせ、不機嫌そうな表示を浮かべる。
「何よ、朝一発目からその口の利き方は。所長様の出勤よ、もっと敬いの気持ちを込めて出迎えなさいよね」
「はいはーい、おはよーございますー」
「言うたそばから、何て口の聞き方じゃい!」
駆け寄ってきた亜樹子が、俺の頭をどこからともなく取り出した――“教育的指導ッ!!”と書かれている――スリッパでひと叩き。スパーンという小気味いい音が事務所内に響き渡った。
「いってえ! 何すんだ亜樹子ォ!」
「あんたの態度が悪いからでしょうが!」
「んだとコラァ!」
「何よぉっ!!」
「あーもう! 静かにしてくれたまえ! 集中して見られないだろう!」
部屋の片隅に置かれたソファーに座っていた相棒、フィリップが声を荒げて立ち上がった。
その手にはノートパソコンとヘッドホンがあった。
「「ご、ごめんなさい」」
俺と亜樹子は声を揃えて軽く頭を下げる。
「まったく……」
嘆息したフィリップは、ソファーに腰をかけ直して、ヘッドホンを再び装着してパソコンの画面を食い入るように見つめ出した。
「翔太郎くん、フィリップくん今度はどうしちゃったの?」
「ん? ああ、いつものヤツだよ。今度は特撮ヒーロー番組に御執心だ。ここ一週間依頼が無かったからな。寝る間も惜しんで新旧あらゆる番組を鑑賞中だ。今だって昨日の夕方からずっと、徹夜までして動画を見続けてる」
「へーっ。でも特撮ヒーロー番組って子供向けのモノでしょ? フィリップくんとか大人が見て楽しいものなの?」
亜樹子が小首を傾げる。
「聞き捨てならないね」
「ってうわぁ!」
いつの間にやら亜樹子の傍に立っていたフィリップ。
その様相に嫌な予感を感じ取り苦笑いをする亜樹子。彼女が何か言おうとするより早く、フィリップの口が凄まじい速さで動き出した。
「特撮ヒーロー番組の歴史は古く、しかしながら現代にまで長く続き日々進化をしてきた。最新鋭の撮影技術が常に取り入れられ、脚本作りには時代背景を反映した匠の業が生き、いかに映像リアルに見せるかが追及され、飽きっぽい幼い子供達を虜にし続けるための創意工夫、それら諸々の知恵が随所に盛り込まれている。そしてそれは時に目の肥えた大人をも唸らせるほどの作品が生み出すこともあり、一概に子供向けと切って捨ててしまうのは軽率と言う他ない。更には僕らの戦いのような動きを映像にて実現してみせるスーツアクター達の妙技や撮影スタッフの使う映像トリック。その数々は見事なものだ! 特撮ヒーロー番組は正に人間の英知の結晶だよ! 実に素晴らしい! 加えてテーマパークなどで催されるショーもまた見事なもので、こちらもまた演出、脚本、パフォーマンス、全てが日々進化を遂げている。例えば狭い舞台を所狭しと駆け巡るバイクアクション、空中戦を表現するワイヤーアクションなども取り入れられ、映画さながらの迫力が」
「わ、分かったよフィリップくん! 私が悪かった。だから私達に構わずに君は思う存分動画を見てていいからさ! ほらほら座って座って!」
「亜樹ちゃん?」
たじろいだ亜樹子がフィリップの背中を押していってソファーに座らせた。
フィリップは軽く首を傾げつつも、テーブルに置かれていたヘッドホンを手に取って動画の続きに目を向けていった。
「ふぅ……」
「流石の所長サマもフィリップのアレには敵わねぇのな」
「うるさいわね。あんただって同じでしょうに。と、そうだ。軒先に出来たツバメの巣の下、フンでいっぱいだったわよ」
「は? ……マジで?」
「ええ。ていうか全然気付いて無かったの? ったく、どこに目をつけてるんだか」
呆れ気味な声を出しつつ、亜樹子は洗面所からバケツを持ってきて、グイっと俺に差し出してきた。
「だから今から掃除してきて」
「はぁ!? 何で俺がそんな事しなきゃなんねぇんだよ!」
「ここ一週間ずっと依頼が無くってヒマしてるんだから、これぐらいしなさいよね!」
「お前がやりゃ良いだろうが!」
「じゃあ私の代わりにアンタがやりなさいよね、経費の精算!」
そう言うや否や、亜樹子は俺の机の上に分厚い帳簿と領収書の束をドスンと置いた。
「ただし! 一円でも間違ってたら次の給料は無しよ! それじゃ私はお掃除に――」
「はい! 左翔太郎、今から軒先の掃除に行って参ります!」
「よろしい。んじゃよろしく~」
俺は亜樹子に差し出されたバケツを受け取って、そそくさと玄関のドアを開けて外へ出る。
「そういえば竜くんが、お客さ――」
後ろから亜樹子が何か言ってるような気がしたが、俺はそれを無視して駆け出していった。
「ひっでえなこりゃ」
俺は白黒の落し物が散らばった軒先のアスファルト上の惨状を見て、肩をすくめて溜息を吐いた。
ツバメのヤツめ、宿を貸してやった恩を仇で返しやがって。
俺は近くの水道からバケツに水を汲んできてアスファルトの上にぶちまける。
そして物置から取ってきたデッキブラシで汚れを擦り始めた。
「うっし! こんなもんかな」
粗方の汚れをこそぎ落として、すっかり綺麗になった軒先。
それを見て、俺は不覚ながら一種の達成感を得ていた。
額に浮かんだ汗を腕で拭う。
吹き抜けるそよ風が肌に当たって、何とも言えない心地良さを俺に味わわせる。
「ん?」
その時、道路の方から車のブレーキ音が聞こえてきた。
俺が振り返ると、そこには一台のタクシーが。
そして中からビジネススーツを着て、松葉杖を付いた一人の――俺よりも……いや、俺に負けず劣らずハンサムな――若い男と女の子が降りてきた。
女の子の方は背丈、体格から察するに中高生といったところか。俺は長年の経験から培った観察眼ですぐさま分析をした。
男は俺に気がつくと、軽く会釈をしてこっちに近づいてきた。
女の子は男の傍に寄り添うようにして、歩幅を合わせてゆっくりと歩いていた。
「すみません、鳴海探偵事務所はこちらでしょうか?」
俺の前へとやってきた男が問いかけてくる。
「ああ、そうだけど。もしかして依頼か?」
「はい。警察の方からこちらを訪ねるようにと勧められまして。と、申し遅れました、私はこういうものでして」
男は懐から一枚の名刺を取り出して俺に差し出してきた。
「283プロダクション、プロデューサー……芸能事務所の人間か」
「はい。この度、仕事で担当アイドルの小宮と共に風都を訪れたのですが……と、その前に。ほら、果穂も挨拶だ」
「はい!」
プロデューサーを名乗る男に促されて、女の子が元気よく返事をして俺の方へと進み出てきた。
「小宮果穂、十二歳! 小学六年生です! ヒーローみたいなアイドルを目指しています!」
「そうかそうか。最近の学生にしては随分と礼儀正しく元気で……って小六!?」
爽やかな風と共に俺らの元に舞い込んだ依頼と天真爛漫な少女。
この出会いが、風都における仮面ライダーの存在をも揺るがす事件の幕開けとなる事を、この時の俺達はまだ知る由もなかった……
新連載スタートです。
仮面ライダーW本編の空気感をどこまで再現できるか、探偵モノとしての側面をどれだけ描けるかが課題ではあります。
未だ手探りな部分もありますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
なお今話はTV本編におけるアバンを意識した構成となっています。
読み終えた後には『W-B-X 〜W-Boiled Extreme〜』をお聴きいただいて余韻に浸って下さるのをおススメします。
【2025/2/28追記】
連載再開に合わせて加筆修正を行いました。