仮面ライダーW 『Hの正義』   作:はちコウP

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仮面ライダーWの時系列はTV本編終了後~仮面ライダードライブ・アクセル客演以前

風都探偵以前orパラレルを想定しています。



『Hの正義(後編)/夢のHERO・誰かのHERO』④

 

「果穂!」

 

「翔太郎さん!」

 

 病院の中庭のベンチに座っていた果穂が笑顔で手を振ってきた。

 

「動画見てくれましたか?」

 

「おう、果穂の想いがグッと響いてきたぜ」

 

 俺は自分の胸元を拳で軽く叩いてみせる。

 

「えへへ」

 

「ここで撮ったのか?」

 

「はい、プロデューサーさんに撮ってもらいました。緊張して何回か撮りなおしちゃいましたけど……あっ、プロデューサーさんは今退院の手続きをしてて」

 

「知ってる。あの人に果穂はここにいるって聞いて来たからさ」

 

「そうだったんですね」

 

 そうして俺は一つ気がかりだったことを尋ねる。

 

「なあ果穂。もしかして見たのか? 動画を……」

 

「……はい」

 

 果穂の声がワントーン落ちる。

 

「すごく……悲しかったです。あたしのせいでみんなが、仮面ライダーとジャステリオンのことでケンカして。それに二人だって、あんな風に戦って……」

 

「それは果穂のせいじゃない」

 

「プロデューサーさんもみなさんもそう言ってくれました。でも、このまま何もしないで黙ってるの、すごく嫌で……あたしだってヒーローみたいに、平和のために何かしなくちゃって。みんなを仲直りさせなきゃって……そう、思って」

 

 果穂の口調は静かで、気落ちした様子がひしひしと感じられた。けれど、その心の奥、その瞳には確かな強い光が宿っているように見えた。そしてそれは、俺の胸の内に深く入り込んでいく。

 

 ああ、そういうことか……何となく理解していたつもりだったけど、心から感じ取った。

 

 雄子さんが言っていたのはこういうことだったんだな。

 

 俺は俯き気味の果穂に合わせ少し腰を落として、その目をしっかりと見据えた。

 

「果穂。お前は立派なヒーローだ。その気持ちは仮面ライダーにだって負けちゃいないぞ」

 

「翔太郎さん……」

 

 若干潤んだ目を瞬かせて果穂は言う。

 

「あたしの気持ち、みんなに伝わりますか? みんな仲良くしてくれますか?」

 

「もちろんだ。果穂の気持ちはみんなに伝わるさ」

 

「……」

 

 僅かな沈黙の後、果穂は軽く目元を擦って

 

「ありがとうございます翔太郎さん! おかげで勇気と自信が湧いてきました!」

 

 相変わらずの、太陽のような眩しい笑顔を浮かべてそう言った。

 

「俺も果穂のおかげで元気が出たよ。ありがとうな」

 

 そうして俺は姿勢を正し、帽子を軽く被りなおす。

 

「じゃあ行くか。プロデューサーさんもそろそろ用事が終わった頃だろうしな」

 

「はい!」

 

 果穂と連れ立って病院の中へと向かおうとした、その時

 

「うわぁっ!?」

 

 果穂の驚きの声が上がり、その身体に触手のようなものが巻きついた。

 

「果穂っ!?」

 

 俺が伸ばした手をすり抜けるようにして遠ざかっていく果穂の身体。

 

 その行先に立っていたのは……

 

「ドーパント!」

 

 例の黒ずくめのドーパント。ヤツは引き寄せた果穂をその腕に抱いていた。

 

「はな……してっ……!」

 

「貴様は、許しておけん」

 

 その手から逃れようともがく果穂に対して、ドーパントは低い声で言い放つ。

 

「果穂を放しやがれ!」

 

「邪魔をするな!」

 

 駆け寄る俺の身体へヤツの腕から伸びた平たい触手のような物が巻きついた。

 

「ふんっ!」

 

「うおっ!?」

 

 ヤツの腕の振りでバランスを崩した俺の身体が、そのまま数メートル転げ飛ばされた。

 

 少しくらくらする頭を押さえつつ、よろけながらもどうにか起き上がり顔を上げる。

 

 目に映ったのは果穂を抱えたドーパントが触手を伸ばしながら病院の壁を昇っていく様だった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ううっ……!」

 

「暴れるな、落ちたくなければな」

 

 もがく果穂はドーパントの声に思わず下へと目を向ける。

 

 そこは建物の五階程の高さ。その光景に果穂は思わず身震いする。

 

 程なくしてドーパントは屋上に到達。すると再び果穂の身体に触手を巻きつけ、向かい合わせの形で足場の縁に立たせた。

 

「ど、どうしてこんなこと」

 

「素直に言うことを聞けば助けてやる。何、簡単なことだ……例の動画を消せ」

 

「え……?」

 

「そして新たにこう言うんだ。仮面ライダーに殺されかけた。自分は仮面ライダーを絶対に許さない、とな」

 

「…………」

 

「何を迷う必要がある。死にたくは無いだろう。さあ、言う通りにしろ」

 

「……嫌だ」

 

 果穂が答えると同時、ドーパントはその身体を軽く付き飛ばす。

 

 足場を踏み外し、落ちかけた果穂は、ドーパントの触手に支えられる形で宙に吊り下げられる。

 

「もう一度だけチャンスをやる。私の要求を吞め」

 

「…………」

 

「さっさと返事をしろ! 死にたいのか!」

 

「嫌だ!」

 

 自分を見下ろすドーパントをキッと果穂は睨みつける。その目には恐怖の色は微塵も浮かんでいなかった。

 

「あたしは悪いヤツの言うことなんて聞かない! 仮面ライダーは正義のヒーローだ! あたしたちみんなを助けてくれる本物のヒーローだ!」

 

 毅然と、力強く言い放つ果穂の言葉に、その眼差しにドーパントは一瞬尻込みをした。

 

 だがすぐに怒りの感情が煮えたぎり、その腕がわなわなと震えだす。

 

「だったら……望み通り死ね! 愚かなヒーローを庇った報いだ!」

 

 吐き捨てるように言い放ったドーパントはもう片方の手の小刀で紐を切り裂いた。

 

 その瞬間、果穂の身体が宙に投げ出される。

 

 落下する果穂の口から悲鳴が漏れる。みるみるうちにその身体は地面へ向かって落下していく。だが……

 

《ルナ! ジョーカー!》

 

 地面へと激突する直前、上空から伸びてきた月光色の腕が果穂の身体を絡め取った。

 

 それに引き寄せられた果穂は、腕の主の胸に抱かれていた。

 

「……っ!? ……仮面ライダー!」

 

 仮面を付けたヒーローの顔がそこにあった。その悠然たるヒーローの姿に果穂は目を輝かせた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

(ふぅ……間一髪だ)

 

 ハードタービュラーの上から伸ばした腕は、何とか果穂を救い出せた。

 

 今、仮面の下の俺の顔には冷や汗が浮かんでることだろうな。

 

「仮面ライダー!」

 

 果穂の安堵と歓喜の入り交じった声と眼差しを受けて、俺はグッと気を引き締めて努めて冷静に声を出す。

 

「大丈夫だったか、リトルヒーロー?」

 

「えっ? あ、はい! あたしは大丈夫です!」

 

《翔太郎、ひとまず小宮果穂を安全な所へ。そこの左手の部屋がいいだろう》

 

 頭に響くフィリップの声に従ってその方向を見ると、丁度窓が開け放たれている部屋があった。どうやら倉庫か何からしい。

 

 ハードタービュラーをそこに横付けして果穂を窓から中へ入らせる。

 

「ここからなら安全に逃げれるはずだ。気をつけて行けよ」

 

「あの、仮面ライダー……さん」

 

「仮面ライダーで構わないぜ」

 

「あ、じゃあ、仮面ライダー! あたし仮面ライダーを信じてますから、頑張ってください! あと! 助けてくれてありがとうございます!」

 

「ああ、こっちこそありがとうな。お前の気持ち、ちゃんと届いたぜ」

 

「っ……!」

 

 声にならない喜びを表情と身体に浮かべる果穂にサッと手を振って、俺はハードタービュラーを屋上へ向かって飛ばす。

 

 あのドーパント、今度という今度は逃しはしねえ。ここは先手必勝だ!

 

《トリガー!》 《ルナ! トリガー!》

 

 屋上にマシンが飛び出すと同時にトリガーマグナムの引き金を引く。

 

 曲線の軌道で光弾がドーパントへと向かっていく。

 

 必中の攻撃が炸裂した、と思ったがそう甘くは無かった

 

 破裂音、続けて白煙が立ち込めて、それが晴れた時に見えたのは、ドーパントの代わりに弾丸を受けて倒れた数体のガイコツ怪人の姿だった。

 

 俺は屋上に降り立って、ドーパントを見据える。

 

「やっぱりコイツらと繋がってたみたいだな」

 

「黙れ! ここでお前さえ消えてしまえば……!」

 

 ドーパントがわなわなと拳を震わせるそばから、新たにガイコツ怪人が何体も出現し俺らを取り囲んでいく。

 

「はっ! 怒ってるのはお前だけじゃねえぞ! 果穂を殺そうとした事、絶対に許せねえ!」

 

 飛びかかってくるガイコツ怪人をルナの右腕で跳ね跳ばしながら、トリガーマグナムで離れたドーパントを撃ち抜いていく。けれどもドーパントには弾丸が届かない。

 

 放った弾丸のことごとくをガイコツ怪人が盾になって阻んでいく。

 

 だが俺は決してドーパントから目を離しはしない。

 

 姿を消されてしまえば厄介なことになる。

 

 その前にチャンスを見極めて倒してやる!

 

「ガラ空きだ! 後ろがよ!」

 

「ぐっ!? 何っ!?」

 

 後ろから声がすると共に、背中に衝撃が走った。

 

 よろけつつ振り向くと、そこには大剣を振りかざした黒い騎士の姿が。

 

「ギャックアー!」

 

「おっと、少し立ち位置がズレてたか。運の良いヤツだなあ。もうちょっと近くにいたら直撃、真っ二つだったのによ」

 

「はっ! それはお前の腕がショボいからだろ。剣道部の中学生の方がもっと鋭い太刀浴びせてくるだろうよ」

 

「ヒャハハハ! ……ほざけぇ!」

 

 ギャックアーは大剣をがむしゃらに振りかざしながら攻撃してくる。

 

 周りのことなんてお構いなしのその太刀筋にガイコツ怪人が何体か巻き込まれていく。

 

 俺は攻撃をかわしながら周囲を見渡す。

 

「チッ! ドーパントのヤツ姿を消しやがった!」

 

 周囲にはガイコツ怪人の姿ばかり。

 

 こっちが倒したりギャックアーの攻撃に巻き込まれたりしても、ガイコツ怪人は次から次へと現れて、その数が減ることは一向に無い。

 

「よそ見してんじゃ……ねえぞぉ!」

 

「うおっ!?」

 

 咄嗟に身を投げ出すと、今まで自分の立っていた位置に剣の軌跡が走る。

 

 また背後からの攻撃だ。ほんの一瞬目を離した間にギャックアーが回り込んでいた?

 

《翔太郎、やはりアレを使うのが最適解だと思う。幸いにして雲が太陽を覆い隠している。チャンスは今しかない》

 

「だな! と、くれば……!」

 

 俺は一気に跳躍してガイコツ怪人どもの包囲を抜け出す。

 

 その間に右腕がダブルドライバーから引き抜いたルナメモリを腰のスロットに挿入する。

 

《ルナ! マキシマムドライブ!》

 

 ルナメモリの力で右手に淡い光を放つ光球が出現する。

 

 俺は右手を高く上げて力を込める。

 

「「トリガーシャインフィールド!」」

 

 砕け散った光球が淡い光となって周囲に散らばった。

 

「何っ!?」

 

 漂う光に驚いたギャックアーの声が響いてきた。

 

「……はっ! 何かと思えば、ただのこけ脅しか!」

 

 再びダブルの周囲を取り囲んだガイコツ怪人。その群れのどこからか聞こえるギャックアーの鼻で笑うような声。

 

「それはどうかな?」

 

 俺は周囲を軽く一瞥すると、右後方のガイコツ怪人の方へとルナサイドの腕を鞭のようにしならせて振るった。

 

「ぐあっ!」

 

 確かな手応えを感じて振り向くと、地面に這いつくばるギャックアーの姿があった。

 

「ど、どうしてわかった、俺様の能力が……」

 

 その下半身は近くのガイコツ怪人の影の中に埋もれているようだった。

 

「この光は隠れてコソコソ悪戯するやつの動きを見極めるのに最適でね。お前の周囲で変な揺らぎ方していたもんで手を出させてもらった。なるほどね、影に潜り込んで動き回って、今まで色々と悪さをしてたってわけか」

 

「おのれ……」

 

 影から完全に姿を出そうとしているギャックアーを尻目に、今度はトリガーメモリをマグナムへと挿入する。

 

「そして、コソコソ隠れてるヤツはもう一人」

 

《トリガー! マキシマムドライブ!》

 

 トリガーマグナムの銃口を上へと向けて引き金に手をかける。

 

「「トリガーフルバースト!」」

 

 銃口から解き放たれた光弾の群れが飛翔し、やがて方向を転換して屋上へと降り注ぐ。

 

 着弾の衝撃で巻き起こった煙が風に流されて晴れた時、そこには尻餅をついて唖然とした様子のドーパントの姿だけがあった。

 

《どうやら直撃は避けられてしまったようだね。メモリブレイクには至ってない》

 

「なら、これから撃ち抜いてやるよ」

 

 そうして銃口をドーパントへと向ける。

 

「くっ!」

 

 ドーパントは腕から触手を伸ばす。その方向は屋上の外側。近くに立つ別の建物に狙いを定めていた。

 

 飛び移って逃げるつもりだろうがそうはいかねえ!

 

 俺は引き金を連続で引いて光弾を複数発射する。

 

 屋上の縁から飛び出そうとしているドーパントへとそれが当たる瞬間、ドーパントの足元から黒い影が伸び出てきた。

 

「ぐあぁぁぁぁっ!」

 

「何!?」

 

 ドーパントの盾となったギャックアー。その漆黒の鎧をまとった身体がコンクリート上に倒れ伏す。

 

 そうしてガイコツ怪人のようにその身体は霧散して消えていく。

 

 その僅かな間にドーパントの姿は屋上から完全に消え去っていた。

 

「チッ! また逃げられちまった!」

 

《だが小宮果穂は守りきれた。更に敵の戦力を削ぎ、新たな情報を得ることができた。悪くない結果だ》

 

「まあ、それで良しとするしかねえか」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「果穂」

 

「翔太郎さん!」

 

 屋上から直接地上へと降り立って変身解除した俺は、正面玄関から病院へと入っていった。

 

 その先の一階ロビーには果穂とプロデューサーの姿があった。

 

「あの、大丈夫でしたか!?」

 

「俺は平気だ。ドーパント……いや、怪人も仮面ライダーが追い払ってくれたよ」

 

「良かったです……翔太郎さんが仮面ライダーを呼んでくれたんですよね?」

 

「ん? ああ、そうだな。果穂をよろしくとも頼まれたよ」

 

「左さん、ありがとうございました。私の知らないうちに大変なことになっていたなんて……」

 

「いや、落ち込まないで下さいよプロデューサーさん。果穂も無事だったことですし、ね」

 

 肩を落とすプロデューサーを慰めつつ、俺はスタッグフォンを手にする。

 

「今から迎えを呼びますんで、それでホテルに向かって下さい」

 

「あれ? 翔太郎さんはどうするんですか?」

 

「俺はこれから屋上に行こうかと。犯人の手掛かりが残ってるかもしれないんで」

 

「現場けんしょーってことですか?」

 

 果穂が小首を傾げながらこちらの顔を覗いてくる。

 

「まあ、そうだな」

 

「…………あのっ! あたしにも手伝わせてもらえませんか!?」

 

「えっ?」

 

「あたしも翔太郎さんや仮面ライダーの役に立ちたいんです! だから、お願いします!」

 

「私からもお願いします。果穂もそうですけど、私自身もこのまま何も出来ないっていうのは気持ちが……」

 

 二人が頭を下げてくるのを手で制する。

 

「二人の気持ちは十分にわかりました。だから頭を上げて。じゃあ、こっちこそよろしくお願いします」

 

 顔を見合わせて頷く二人。その少し誇らしげで嬉しそうな顔に、俺はふと昔を少し思い出す。

 

 ……誰かの力になれるってのは、まあ嬉しいことだよな、うん。

 

 

 

 

「ここで縛られて、おどすようなことを言ってきたんです」

 

「それはどんな風にだ?」

 

「えっと、仮面ライダーのことを悪く言えって、あと動画も消せって」

 

「そうか……」

 

 屋上に戻った俺達は手始めに果穂の話を聞くことにした。

 

 果穂が襲われた原因、それは例のサラリーマン達が襲われたのとほぼ同じことだった。

 

 それを聞いたプロデューサーが怪訝な表情を浮かべる。

 

「どうしてそんな要求を……?」

 

「俺らの推理だと、犯人の正体は仮面ライダーに恨みを持ったヤツ。そして果穂を快く思ってないヤツって目星を付けてるんですけど……プロデューサーさんは何か心当たりは?」

 

「うーん……やはり例の脅迫じょ……」

 

 プロデューサーは果穂が傍にいると気付いて、出しかけた言葉をいったん飲み込む。そして果穂には聞こえないくらいの小声で呟き出す。

 

「いや、手紙くらい……だとしてもそれと仮面ライダーとは関係は無いでしょうし……すみません、思い浮かばないです」

 

「まあ、仕方ないです。じゃあ次は周りを見てまわりましょう」

 

 とは言っても元々特に物らしい物も置いてない、ただのコンクリート打ちっぱなしの屋上。

 

 パッと見、手掛かりらしき物は見当たらない。

 

 とりあえず、とばかりに下を見ながら歩いて回る。と……

 

「おっと、すみません」

 

 プロデューサーの上着のポケットから着信音が鳴り出した。

 

 彼はそれを取り出そうとして

 

「あっ!」

 

 手が滑ってしまったのか、スマホが転がり落ちていってしまう。

 

「あたしが取ります!」

 

 転がったスマホを丁度いい位置に立っていた果穂が拾い上げる。

 

「……あれ?」

 

「どうしたんだ果穂?」

 

「何か付いて……あ、取れました。はいどうぞプロデューサーさん」

 

「ありがとうな果穂。じゃあちょっと質問します」

 

 軽く頭を下げたプロデューサーは通話をするために少し離れた場所へと駆けて行った。

 

「何かあったのか果穂?」

 

「スマホにこんなのがついてて」

 

 果穂が差し出してきたそれは、×印のシール、というよりもビニールテープのようなものだった。

 

 実際触ってみると、裏面は確かに粘着性のある感じがした。

 

 周囲を見渡してみると、コンクリートの色とほぼ同化していてわかりにくいが、剥がれかけたテープが幾つか風になびいてパタパタと揺らめいていた。

 

「あっ、翔太郎さんの服にも何かついてます」

 

「えっ?」

 

 果穂が指差した所を見ると、そこには数センチの長さの、テープと同じような紐状の物がくっついていた。

 

「あ、そういえば……」

 

 果穂はポケットの中に手を入れて、くしゃくしゃの塊を差し出してきた。

 

「さっきのあの怪人、ドーパント? って言うんですよね? ドーパントが巻きつけてきたものと似てる気がします」

 

「これは……果穂の身体に付いてたやつか……確かに似てるな」

 

 何か引っ掛かる。

 

 ×印のテープ、それも同一の物だろう。

 

 何の意味があってこんな形に……

 

「これって何だか……アレみたいですね」

 

「アレ?」

 

「バミリです」

 

「バミリ……」

 

「はい。ステージの立ち位置に貼るテープです。あたしもこの前のステージでそれを見ながら動いていたんです」

 

「……!?」

 

 その瞬間、あらゆる光景が頭の中にフラッシュバックする。

 

 あらゆる出来事が、点と点が一気に線で結ばれていく。

 

 即座にスタッグフォンを取り出し電話をかける。

 

「フィリップ! 検索を頼む!」

 

《その様子だと決定的な何かを見つけたようだね、翔太郎》

 

「ああ、最後のキーワード……バミリだ!」

 

《なるほど、その発想は新しいね。早速検索をしよう》

 

 それから程なくして、フィリップの確信に満ちた声が聞こえてきた。

 

《ビンゴだ。例の黒ずくめのドーパントが使うメモリが絞り込めた。メモリの名は―――》

 

 フィリップから聞かされるガイアメモリの正体とその特性。

 

 それは確かに今回の事件を引き起こしうる、何とも厄介な、それでいておあつらえ向きとも言えるようなものだった。

 

 事件の概要が頭の中で一気に明らかになっていく。

 

《今回の事件の関係者の中でこのメモリに高い適性を持つ者は二人いる。そのどちらかが事件の黒幕だ》

 

「チッ、厄介だなそいつは。だとすると、悠長にしている時間はねえな」

 

《更に先程の戦いを経て犯人の警戒度はかなり高まったと思われる。そう簡単に尻尾を掴ませてはくれないだろうね》

 

 迂闊に探りを入れるとかえって遠ざかりかねない。かといってのんびりしていたら捕まえるチャンスは無くなってしまう。

 

 一か八かで当たるのもリスクがある。

 

 何か決め手になる手掛かりが欲しい……

 

「あの、左さん」

 

 と、プロデューサーがこちらの顔を窺うようにして申し訳なさげに声をかけてきた。

 

「え? ああ、どうかしましたかプロデューサーさん」

 

「お電話中すみません、例の手紙についてうちの事務所の者がお話したいことがあると。他にも少々気になることがあるとのことで」

 

「わかりました。と、フィリップ。すまねえ、後でまたかけ直す」

 

《ああ、了解した》

 

 スタッグフォンを懐に仕舞い込み、入れ替わりにプロデューサーのスマホを受け取って耳元に当てる。

 

「もしもし、お電話代わりました」

 

《はじめまして》

 

「っ!?」

 

 その声を聞いた瞬間、何故だか身体に震えが走った。思わずスマホを取り落しそうになる。

 

《283プロダクション社長の天井努です。うちの者が大変お世話になっているようで、まずはお礼を。……どうかしましたか?》

 

「……あ、ああ。何でもないので、お気になさらず」

 

 ふと頭に浮かんだ懐かしい顔。色々と溢れそうな想いに蓋をして、努めて冷静に口を開く。

 

「それと、こっちの方が年下だと思うので、丁寧語は無しで大丈夫です。逆に何となく調子狂うんで」

 

《なるほど。ではそのように》

 

 電話口の声がふっと笑みを帯びたように感じられた。

 

《まず結論から話すと、例の脅迫状を送った者が逮捕された》

 

「えっ?」

 

《悪戯目的で多数の芸能事務所に脅迫状を投函していた郵便局員が逮捕され、ウチに対する犯行も自供したらしいと警察から先程連絡があった》

 

「なるほど、郵便屋なら怪しまれずに手紙を直接投函できる。納得だ。にしても人騒がせな……」

 

《まったくだ》

 

 これで脅迫状の件は今回の事件と関わりが無いことが明確になった。まあ、更に一歩前進だな。

 

「それで、他にも何かあるって話ですけど」

 

《先日今回のG.R.A.Dの開催に先駆けて、他の芸能プロダクションの方々との会合があった。とはいっても平たく言えば飲み会のようなものだったのだがね。その席での話なのだが―――》

 

 

 

 

 通話を終え、スマホをプロデューサに手渡した。

 

「ありがとよ。最高の情報を手に入れることができた」

 

「お役に立てたのならなによりです」

 

「……いい社長さんだな」

 

「はい、自慢の上司で、俺の憧れです」

 

「そうか……大切にしろよ、その人も、一緒にいられる時間も」

 

「え? ……はい」

 

 社長さんの情報は正に渡りに船。運命的に完璧なタイミングで決定的な情報を俺に与えてくれた。 

 

 おかげで犯人を完全に絞り込むことができた。

 

 あとは犯人に逃げられないよう、いや、逃げるわけには行かなくなる状況をお膳立てしてやる必要がある。

 

 となれば……

 

「果穂」

 

「はい、何ですか?」

 

「犯人を捕まえるための作戦を立てる。協力してほしい。仮面ライダーとの共同作戦だ」

 

「!? ……はいっ!」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 その日の夜。動画サイトに二つの動画がアップロードされた。

 

《ワタシは……へるだーくねすノ、サイキョウノセンシ、てぃらのどんダ! マモナク、フウトノマチハワレワレガ、ハカイシツクス。フルエテネムリニツクガイイ!》

 

 恐竜に似た容姿の怪物が、たどたどしい言葉遣いで次なる襲撃を予告する動画だった。

 

 そして……

 

《ヘルダークネス! お前たちの野望は俺が止める! これ以上は何があってもお前たちにこの街を、この街にいる人々を泣かせはしない、絶対にだ!》

 

 仮面ライダーダブルが高らかに宣言する動画が、怪物の動画の内容を受けるようにして投稿された。

 

《それと……ジャステリオン! ここんところ全然姿を見せねえが何やってんだ? 寝てんのか? もし怖気づいてんなら、この街の危機を見逃すってんならヒーロー失格だな。ま、俺にとってはどうでもいいけどな。ともあれ風都はこの仮面ライダーが守る。みんな、安心してくれ》

 

 黒い影が部屋に佇んでいた。

 

 その手の内にある画面に映る仮面ライダーの姿が、軽い音と共にひび割れる。

 

 怒りに震える黒い影の拳が近くの壁へと打ちつけられた。

 

 様々な想いを飲み込んで、夜の闇は更けていった……

 

 

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