仮面ライダーW 『Hの正義』   作:はちコウP

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仮面ライダーWの時系列はTV本編終了後~仮面ライダードライブ・アクセル客演以前

風都探偵以前orパラレルを想定しています。



『Hの正義(後編)/夢のHERO・誰かのHERO』⑤

 

 湾岸にほど近いイベント会場には、多くの人々が集まってイベントの開始を今か今かと待ち望んでいた。

 

 かつてのイベント初日と同じように整えられた会場。

 

 そこに集まったアイドルファンの数は流石に以前よりは少ない。

 

 その穴埋めをするかのように、警備員や警察官の姿がそこかしこに見られる。

 

 観客席の外側から会場を見回していた俺の肩が不意にポンと叩かれた。

 

「よう、翔太郎」

 

「おう、刃さんか」

 

 振り返ればそこにはお馴染みの刃さんのニヤケ顔があった。

 

「しっかし、見事なもんだな。たったの二日で会場の準備を整えちまうなんてよ」

 

「前々からいつでも動けるように手は回してたみたいっすね、あの議員サマは」

 

「伊達にイベント運営会社の社長してるわけじゃなかったってことだな」

 

「まあ、ウォッチャマンなんかは殆ど徹夜で準備やらされたもんだから、あそこでグッタリして。スタッフとしちゃたまったもんじゃねえっスよね」

 

 俺が目を向けた先では、関係者用の観覧席で精魂尽き果てた試合後のボクサーのように、うなだれているウォッチャマンの姿があった。

 

「ワハハハ、昔の漫画みてえになっちまってまあ」

 

「それと、ありがとな刃さん。おかげでG.R.A.Dが再開できた」

 

「ったく、とんだ大仕事だったぜ。署長と遠藤議員を説き伏せるのはよ。イイトコの菓子折りやら酒やら準備するのも持ってくのも苦労したんだぜ」

 

「ははは、でもこればっかりは照井には任せらんないんで、刃さんのネゴシエーターぶりには感謝感謝で。おかげさまでこうして警備も万全、イベントも盛大に開催されたわけで」

 

「まあ、事件解決の一助になるってんなら、頭下げておべっか並べるくらい朝飯前だけどな」

 

 文句を言いながらもその口ぶりは軽やかで、表情もどこか誇らしげだ。

 

 飄々として警察官らしい生真面目さとは縁遠い刃さんだが、根っこのところは風都の平和を愛する人間なのを俺は良く知っている。

 

「それはそれとして……翔太郎、こんだけ骨折ったんだから……わかってるよな?」

 

「ああ、是非とも今度奢らせてもらいますよ」

 

「そうそう。けど、いつもの居酒屋レベルじゃダメだからな。サイコーの店でサイコーのチャンネーとの目くるめくひと時を、だからな?」

 

「ははは……約束するよ」

 

 キツイ出費になるが、こればっかりは反故にはできねえな。

 

 経費で落としてなんとか……亜樹子の顰めっ面と怒鳴り声が頭に浮かぶが……どうにか交渉するしかねえな。ポケットマネーで済ますには流石に……

 

「ところで、課長はどこ行ったんだ?」

 

「あー……警備の確認とか打ち合わせとかで色々あるっぽいぜ?」

 

「そうか。んじゃ俺も警備に戻るとすっかね。それと真倉のヤツがアイドルにうつつ抜かさねえように見張らねえと。じゃあな、犯人逃すんじゃねえぞ」

 

「ああ。そっちもよろしくな」

 

 後ろ手にヒラヒラと手を振りながら去っていく刃さんの背中を見送る。

 

 と、丁度スタッグフォンに着信が入った。

 

《竜くんの準備万端だよ、フィリップ君もスタンバイオッケー!》

 

 出てみれば亜樹子の溌剌とした声がした。

 

 そして間も無く、軽快なBGMと共にステージ上に立ったMCの掛け声を皮切りにG.R.A.D風都予選会ファイナルステージの幕が上がった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「続いては……古碌プロ所属! ファイティングアクションとダンスの融合! 勇ましさと麗しさを兼ね備えたダンサーアイドル! 英田雄子の登場だ!」

 

 ステージ向かって右手側から登場する雄子さんの姿を、俺は反対側の舞台袖から見る。

 

 パフォーマンス前の意気込みを語るその姿に、迷いや憂いのようなものは見られない。

 

 そして披露されたパフォーマンスも見事の一言に尽きた。

 

 今までに見た彼女の歌、ダンス、魅せ方、その全てを凌駕した最高の姿。

 

 それに会場中から惜しみない拍手と声援が送られた。

 

 俺も思わず大きく手を鳴らしてしまっていた。

 

 満足げな笑みを浮かべて一礼した雄子さんは、観客席へ大きく手を振りながら舞台袖へと捌けて行く。

 

 その先には次のパフォーマーにしてトリを飾る果穂の姿があった。

 

 雄子さんと果穂は軽く言葉を交わし合ったかと思うと、ヒーローポーズからのハイタッチを決め合う。

 

 競い合うライバルとは思えないほどの仲睦まじさに、思わず口の端が緩んでしまう。

 

「遂にこの時が来てしまった! このウィンディシティをステージとしたG.R.A.D予選会もフィナーレ! ファイナルパフォーマンスも盛り上がって行けるかー!?」

 

 MCの声に会場中が大きな歓声で答える。

 

 団扇やライト、タオルや旗まで、様々なグッズが観客席で波を起こすように大きく揺れ動いた。

 

「OK! ハイヴォルテージなステージに立つのは熱いハートを持ったこのアイドルこそ相応しい! 283プロ所属! ジュニアヒーローアイドル小宮果穂!」

 

 その声を受けて、舞台袖から果穂が駆け出して、ステージ中央でヒーローポーズを決めた。

 

「ホットでクールなポーズで登場してくれた果穂ちゃん、早速だけど意気込みを聞かせてくれるかい?」

 

「はい! でもその前に、ちょっといいですか?」

 

「ん? 構わないぜ」 

 

「ありがとうございます。えっと、動画でも言ったんですけど、心配かけてしまってすみません。それと、はげましの言葉ありがとうございました」

 

 大きく頭を下げる果穂に対して

 

「大丈夫だよー!」

 

「こっちこそありがとー!」

 

 観客席のファンからの声援が送られる。

 

 思わずはにかんだ果穂が一呼吸置いて言葉を続ける。

 

「あらためて言わせて下さい。あたしはヒーローが大好きです。だから今回のことは全然気にしてないし、仮面ライダーを信じてます。ヒーロー同士がケンカするのも、それを見た人たちがケンカするのも悲しいって思います。だから―――」

 

 そんな果穂の言葉を遮るようにして、突如として破裂音が鳴り響き、白煙がステージ上に立ち込めた。

 

 会場中が困惑の声に包まれる。

 

 程なくして煙は晴れ、ステージ上には恐竜のような姿の怪物が姿を表していた。

 

「ワタシハ、へるだーくねすノ最強ノ戦士、ティーレッグズ、ダ。コノ会場ハ、我ラガ占拠スル。手始メニ……」

 

 大きな頭をグルリと動かした恐竜怪人は、近くにいた果穂の姿を捉えてその腕をグッと掴んで引き寄せた。

 

「コノ娘ヲ人質トサセテモラオウ」

 

「わぁっ!? た、助けてー! ジャステリオン! 仮面ライダー!」

 

 恐竜怪人の腕に捕えられた果穂が大きく叫ぶ。

 

 俺は怪人出現と同時に舞台袖で混乱するスタッフ達を即座に逃していた。

 

 そして誰もいないのを確認して懐から取り出したドライバーを腰に当てる。

 

 巻きついたドライバー、その片方だけに取り付けられているスロットにガイアメモリを差し込んだ。

 

《ジョーカー!》

 

「待て! 果穂から手を離せ! 恐竜野郎!」

 

 ステージ上に飛び出した俺は怪物に向けて指を突きつけた。

 

「何者ダ、貴様ハ」

 

 その問いに俺は手首を軽くスナップさせて宣言した。

 

「仮面ライダー……ジョーカー。行くぜ、バッドダイナソー」

 

 漆黒の仮面ライダーとなった俺は怪物に向けてパンチを繰り出す。

 

 それは横に身体を逸らされて避けられる。続けて出した回し蹴りも予定通りに避けられる。

 

 怪物が伸ばしてきた両手を俺は真正面から受け止めて、押し合い、力比べの体勢にもつれ込む。

 

「なかなかサマになってるじゃねえか、照井」

 

 小声で呟く俺に対して、大きな口の奥から覗く瞳がギロリと睨みつけてくる。

 

「無駄口を叩くな。ヤツを誘き出すのに失敗は許されんのだぞ」

 

「へいへい、んじゃアドリブは程々に、台本通りに進めてくぜ」

 

 ゴツゴツとした見た目に反して、ソフトな素材で出来ている手をバッと振り解いて、俺はハイキックを繰り出してみせる。

 

 それに合わせてグルリと一回転した着ぐるみの尻尾が俺の足に当たる。

 

 派手にすっ転んで見せたところで果穂が大きな声を上げた。

 

「仮面ライダーがやられちゃう! ジャステリオン! 早く来てー!」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 イベント会場に特設された控え室のひとつ、そこに一人佇んでいた人影は、興奮で火照る身体を立ち上がらせ、ゆっくりと部屋の出口へと向かう。

 

ドアノブに手をかけようとした時、ガチャリと音を立てて先にドアが空いた。

 

「おっと……雄子、どうかしたのか?」

 

「っ!? 厚志さん」

 

 不意に立ちはだかるような形になった筋肉質の体躯に、雄子は思わず身体をビクつかせる。

 

「ちょっと出かけてくるわ」

 

 そう告げて脇をすり抜けて部屋を出ていこうとする雄子の腕を厚志が掴んだ。

 

「いや、行くってどこに? まだイベントは終わってないんだぞ」

 

「大丈夫、すぐに戻るから」

 

 手を振りほどこうとする雄子。だが、彼女の腕を掴む手には一層強い力が込められて、動こうにも動くことが出来なかった。

 

「っ……痛い、離してよ」

 

 苦悶の声を漏らす雄子。それを無視するように厚志は、グッと彼女を部屋の中へと無理やりに引き戻した。

 

 突然のことにバランスを崩し、よろけた雄子は部屋の中央にあるテーブルへと、したたかに上半身を打ち付けてしまった。

 

「っ!? 痛たた……」

 

 テーブルの淵にぶつかって、痛む腹を押さえながら振り向く雄子。

 

「そうだ、イベントはこれから始まるんだ。真のヒーローがその力を知らしめる、最高のショーが幕を開けるんだ」

 

 俯き気味にブツブツと呟きながら、ゆっくりと近づいてくる厚志の姿が目に入る。

 

「な、何……?」

 

 その姿に得も言われぬ恐怖を抱き、背筋に悪寒を走らせた雄子はジリジリと後退していく。だが……

 

「っ……!」

 

 部屋の端へと追いやられ、壁に背中を打ち付ける形となってしまう。

 

「ああ、今度こそ、今度こそ、最強のヒーローが仮面ライダーを打ちのめすんだ……」

 

 いつの間にか彼の手の中にはメモリースティックのような道具が握られていた。

 

 その中心付近には、アルファベットのような刻印があった。それは見ようによっては、向かい合う二つの人型が蹴りをぶつけ合っているようなデザインだった。

 

 厚志はそれに付いているスイッチへと指をかけ、力を籠める。

 

 だがその瞬間、咆哮のような電子音声が響き渡った。

 

 そして彼の背中に勢いよく何かがぶつかってきた。激しい衝撃を受けた身体がよろめいた。

 

「ぐっ……!」

 

 苦悶の声を漏らしながら振り返った彼の目に飛び込んできたのは、水色の小さな恐竜のような形の機械だった。

 

 恐竜は身体を左右にブルッと揺らして、天を仰ぐようにして咆哮した。

 

「どうやらベストタイミングだったみたいだね」

 

 厚志が部屋の入口を見やると、そこには緑がかったロングパーカーを纏った、クセ毛の少年の姿があった。

 

「雄子さん大丈夫!?」

 

 その後ろの方から顔を覗かせるようにしてやってきたのは亜樹子だった。

 

「所長さん!」

 

「く……何なんだ、お前は」

 

 安堵した様子の雄子に続いて、忌々し気に声を震わせる厚志。

 

「君たちと顔を合わせるのは初めてだったね。僕はフィリップ。鳴海探偵事務所のもう一人の探偵だ」

 

「探偵? ……あの黒帽子の探偵、左翔太郎の仲間か」

 

「その通り。さて久留瀬厚志、君が今回の事件の黒幕にして真犯人だということは既に明らかになっている。大人しく投降した方が身のためだ」

 

「厚志さんが……犯人?」

 

 目を瞬かせた雄子がフィリップと厚志とを交互に見やる。

 

 対して厚志は、ギリリと音を立てて歯嚙みする。

 

「君はヘルダークネスという組織が暗躍しているように見せかけ、風都を混乱に陥れた。そのガイアメモリを使ってね」

 

「ガイア……メモリ。街のみんなが噂している……」

 

「ああ、そして……」

 

 ポツリと呟いた雄子の方にフィリップが目を向ける。

 

「英田雄子、君をジャステリオンというヒーローに仕立て上げたのも彼の仕業さ」

 

「…………え?」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「はっ! たあっ!」

 

「ナンノ……コレシキ……!」

 

 恐竜と化した照井と一進一退の攻防を繰り広げつつ、俺はちらりと控え室のある方向を見やる。

 

 今頃フィリップたちは犯人、久留瀬厚志を追い詰めていることだろう。

 

 そして、俺達がどうしてこんなことをしているのか。そのきっかけとなった二日前の事が頭をよぎった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ヒーローショー、それが今回の事件を引き起こしたメモリの正体だ」

 

「ヒーローショーって、あの遊園地とかデパートでやったりするアレ?」

 

「その通り。このメモリの特徴はその名の通り、ヒーローショーを具現化するかのような能力の数々にある」

 

「そのうちの一つが、コレってわけだ」

 

 俺の掲げた物。病院の屋上で果穂が見つけたテープのような物体を亜樹子がまじまじと覗き込む。

 

「これ……ビニールテープ?」

 

「これはドーパントの体組織の一部さ。見ての通りテープのように粘着性を持っている。これを貼り付けた地面の上に怪人を出現させる、それが第一の能力だ。出現させるタイミングも即時、時限式と選択が可能なね」

 

「って、そんなの持ってて大丈夫なの? あのガイコツ怪人とかが出てきたりしない?」

 

「そいつは心配ねえ。どうやら一度地面から剥がれちまったヤツからは能力が失われちまうらしい。あと効果を発動した後にテープは自動で消滅するみたいだな」

 

「は~、証拠隠滅まで完璧とはね……」

 

 亜樹子が目を細めて、道端のゴミを拾うかのようにテープを摘まみ取った。

 

「メモリの持ち主、久留瀬厚志は会場のゴミ拾いをするように見せかけて、あらかじめ袋に忍ばせておいたテープを会場に貼って回っていたようだね。それを任意のタイミングで起動。騒動を引き起こしたわけさ」

 

「真面目で仕事に真剣な人だって思ってたのに、とんだ裏があったのね」

 

 善良な人物という仮面の下にある、犯人の真の顔。それが暴かれる時はいつだってやるせない気持ちになってしまう。

 

 だが事件が解決するまでは、暗い気分に浸るのはお預けだ。

 

「次に第二の能力。それは隠密能力だ。マントのような布を羽織って、頭部に付いているベールを下げることにより、視認、サーモセンサーをはじめとした、あらゆる観測を無効化することが可能となる。見た目とその性質的にはこの前に亜樹ちゃんの言っていた黒子というのは当たらずも遠からず、ってところだね」

 

「いい線ついてたみたいだけど、当てきれなかったのは何か悔しいわね」

 

「フィリップ、見た目はともかく性質ってのはどういうことだ?」

 

「歌舞伎や能といった舞台演劇において黒子というのは、見えていても見えないふりをするのがお約束というものだろう? またそれに似たようなモノ、舞台スタッフやテレビ番組のADといった裏方は目に映っても無視、いないものとして扱われる。そういった性質、概念を持った隠密能力、ということさ」

 

「えっと、つまり……どういうこと?」

 

 いまいち理解が追いついていないのか、亜樹子が小首を傾げる。

 

「そこにいても見えない、存在しない、という概念を身に纏わせる能力。ニュアンスは少々異なるけど、催眠術のようなもので“見えない”と周りに思いこませているようなものだと思ってくれ」

 

「なるほどな。とはいえそこに存在してはいるわけだから、俺らの攻撃は通ったし、光の粒子での探索も有効だったってことだ」

 

「その通り。そして彼はこの能力を利用して逃亡したり、戦闘の最中にテープを貼って回りながら戦力を次々と補充していたというわけだ」

 

「だから倒しても倒しても湧き出てきたってわけだ。ったく、仕事熱心な裏方サマだぜ」

 

「けどホントに反則だよね。怪人生み出し放題なんてさ。いっぺんに強いヤツとか大量に出されてたらヤバかったよ」

 

「いや、それはメモリの特性的にほぼ不可能なんだ」

 

「え?」

 

 亜樹子がキョトンとしたような表情を浮かべる。

 

「ヒーローショードーパントが一度に生み出して動かすことの出来る怪人の総量には限りがあるんだ」

 

「それって、出せる人数が決まってるってこと?」

 

「いや、人数に明確な制限はない。具体的に説明してみようか」

 

 フィリップは手にしていた本を閉じて小脇に抱えると、ホワイトボードの一角に図を書き始める。

 

 大きな丸を一つ描いて、矢印を伸ばしたその先に中ぐらいの丸を一つと小さな丸を複数描いていく。

 

「仮に怪人を呼び出すのに使えるリソース、エネルギーの量を100としよう。これを注ぎ込んだ量に応じて怪人の強さは決まる。指揮官的怪人、先のヤモリンゲのような怪人に50のリソースを割いたとする。そして残りのリソースを5ずつ配下のガイコツ怪人に分け与える。この場合10体でリソースは残量0となり新たな戦力を補充することは不可能となる。呼び出した怪人が消え去るまではね」

 

「あー、何となくわかったかも。ガイコツ100体! とかやっても1体1体はめちゃ弱になって、パワー100のめちゃ強いヤツを出そうとすると1体しか出せない、みたいな感じよね?」

 

 合点がいったとばかりに亜樹子がポンと手のひらを拳に打ち付ける。

 

「質より量か、量より質か、ってわけだな」

 

「更に言えば、どう頑張ってもヒーローショードーパントには仮面ライダーを、ともすれば強力な戦闘力を有したドーパントを圧倒するような怪人を生み出すことは出来ない。スペック上のエネルギー、リソース量から見ればね。怪人に付与した強力な能力だって実際のところ数回で打ち止めさ」

 

「にしてはギャックアーみたいな幹部級のやつは結構手ごわかった気がするけどな」

 

「僕の推測になるけれど、恐らく強い力を持つ怪人は攻撃に特化させた分、防御面や持久力の面で劣るのだと思う。活動時間が数分間のみ、強い攻撃をまともに受けてしまえば一度でアウト、みたいにね」

 

「言われてみれば、ギャックアーは戦いの途中から現れるか奇襲をかけるか、そういう感じだったな。性格、キャラ付けも能力に合わせてたってわけか。凝ったことしやがるな」

 

「そんなヒーローショードーパントだけど、唯一仮面ライダーに匹敵するような力を持つ存在を生み出す能力が備わっている」

 

 マジックペンを置いて、フィリップは再び本を手にした。

 

「エネルギーを直接注ぎ込むことによって、他者をヒーローに変化させることが出来る能力」

 

「それによって生み出されたヒーローが……ジャステリオン。ドーパントに操られた雄子さんってわけだな」

 

「何やて!?」

 

 衝撃的な事実に亜樹子は目を丸くして大声を上げる。口から思わず関西弁が飛び出してしまうあたり結構な驚きだったんだろう。

 

「操られた、というのは些か正確さに欠ける表現だ」

 

「どういうこと?」

 

「まず、設置したテープによって生み出させる怪物たちに関してはドーパントの力、思念のようなもので操作することが可能だ。台詞を喋らせる、特定の能力を使用させる、といった具合にね。ただ一度に操作出来る人数には限りがある。その対象になっていない怪人に関しては単純な行動を自動で行うのさ。闇雲に暴れ回る、といった感じにね」

 

「なるほどな。イブクロ横丁で怪盗野郎が闇雲に突進してきたのはそういう理由でか」

 

 あの時、久留瀬厚志は世話谷社長と一緒に逃げていた。だから変身することが出来なかった。それで怪人どもは制御不能で暴れ回っていたわけだ。

 

「一方、他者を変化させたヒーローに関しては完全自律行動が可能だ。自ら考え自ら動く。ヒーローに与えられた設定に沿う形でね」

 

 ドーパントによって生み出されながら、ヒーローとして振舞う。

 

 ジャステリオンは嘘偽り無く、正義のヒーローとして戦っていた。俺の抱いていた、彼が嘘をついていないという感覚は間違っちゃいなかったみたいだ。

 

「変身したヒーローは、素体となった人物の生体エネルギーを活動の源とする。だから怪人に割くリソースの制約には引っかからないんだ。そして出現させるヒーロー、怪人に関してはドーパント本人のイメージによって無限大に作り出すことができるんだ」

 

「ホンマにズルやんけそのメモリ! 何でもアリすぎやろ!」

 

 亜樹子の怒声に俺も思わず頷く。

 

 複数の能力や特性を持ったメモリ、ドーパントとはこれまでも数多く相対してきたが、ここまで多彩で多様な力を持つメモリは珍しい。ウェザーなんかといい勝負だ。

 

「とはいえ、それだけの能力を十全に発揮するのは非常に難しいことなんだ。生半可な使い方では生み出すヒーローも怪人も並のドーパント以下の戦闘力に収まってしまう」

 

「どういうことなんだそれは?」

 

「怪人の能力の強さはメモリ使用者のイマジネーションの強さに比例するんだ。仮に既存のヒーローや怪人のコピーを作り出しても元々のイメージが邪魔をして自由な動きが出来なくなってしまう。メモリ使用者本人の、本物ならこう動くはず、こんなことはしないはず、といった想いが無意識に邪魔をしてね」

 

「つまり……理想と現実のギャップがあると能力に制限がかかってしまう、みたいなもんか」

 

「加えてメモリの適合率にも大きく左右される。翔太郎のジョーカー、僕のサイクロンに匹敵するくらいの適合率をもって初めてヒーローショーメモリはフルスペックを発揮できる。今回の事件のようにね」

 

 メモリと使用者の相性。それは良くも悪くも互いの運命を左右する。俺達が骨身に染みてわかっていることだ。

 

「そんなメモリ使用者自らがヒーローや怪人の力を心の底から信じることが出来れば、そのポテンシャルは高く引き上げられる。メモリの性能にマッチするように自ら考え作り出したオリジナル、それを操れる者だけがヒーローショーメモリを完全に使いこなすことができるんだ」

 

「だから久留瀬厚志はジャステリオンや怪人どもの設定を考えて書き留めていた。自分の持つ手帳に」

 

 本来なら彼の胸の内にだけ存在するヒーロー達、それを目にしたのが283プロの天井社長だった。

 

 久留瀬厚志が持つ手帳と天井社長の愛用する手帳が偶然にも同じブランドのものだったのだ。

 

 以前にあったという飲み会の席で、ひょんなことから彼らの手帳は取り違えられた。

 

 中身を確認して間違いに気づき、即座に交換したとのことらしいが、天井社長の脳裏には確かにジャステリオンなどの記憶が刻まれていたのだった。

 

「イマジネーションを高めるための久留瀬厚志の行動が、皮肉にも真実への道を僕らへと示してしまった、というわけさ。メモリの適合率から割り出した真犯人候補は二人、彼と英田雄子だった。天井社長の証言が特定の最後の決め手となってくれたわけさ」

 

「どっちにしてもG.R.A.Dが再開されなければ二人は確実に街を出ていく。生憎と時間は無い。とはいえ、このままダイレクトに久留瀬のヤツをとっ捕まえるわけにもいかねえ」

 

「どうして? ……ってアレか、メモリを隠されて、しらばっくれちゃうかもしれないからか」

 

「それも無くはねえが、下手に追い詰めたら能力フル活用でまた逃げられる危険がある。周囲に被害が及ぶ可能性も高い。迂闊なことをしてこれ以上街に被害を出させるわけにはいかねえ」

 

「それじゃあどうするってのよ」

 

フィリップが亜樹子の疑問に対して、人差し指を立てるジェスチャーを交えつつ答える。

 

「逆に考えるのさ。街に被害が及ばないよう彼の行動範囲を限定させてしまえばいい」

 

「つまり、G.R.A.Dを再開させてしまえばいいってことだ。そうすればヤツを風都に留め置ける。そして会場にヤツを誘き寄せ、行動を起こした所を抑える。イベントに集中せざるを得ない状況を用意すれば今までみたいに街中で騒動を起こされる可能性を限りなく低くさせられるはずだ」

 

「なるほど! って、そんなに思い通りにいくのかなあ?」

 

 その時、ガレージの入口が開いて大きな段ボール箱を抱えた照井が姿を現した。

 

「左、一体こんなものを運ばせてどういうつもりだ」

 

 眉間に皺を寄せた照井が苛立ち混じりに近づいてくる。

 

「竜くん、それって何?」

 

 照井が無言で差し出したその箱の中には、怪獣の着ぐるみが入っていた。

 

「おっ、流石店長だ。サンタ時代のツテは相変わらず健在だな」

 

「それじゃあ始めるとしようか」

 

 フィリップがどこからともなく取り出したデジタルビデオカメラを亜樹子に手渡す。

 

 キョトンとする亜樹子、眉を顰める照井をよそに俺たちはメモリを取り出した。

 

「バッチリ撮ってくれよ。俺たちの挑戦状を」

 

「これが彼の行動を縛るための最初の一手さ」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 控え室の空気はグッと張りつめていた。その沈黙を破ったのは震え気味の雄子の声だった。

 

「ちょっと待って、私がジャステリオンだなんて……冗談はやめてよ」

 

 困惑の表情を浮かべながら首を左右に振り、受け入れがたい事実を否定する雄子。

 

「では質問しましょう。ジャステリオンが戦っていた時、あなたは何をしていたか覚えていますか?」

 

「それは……気を失って、倒れていたって……」

 

「もう一つ。あなたはジャステリオンの戦いが終わった時、どうしていましたか?」

 

「……目が覚めたら、厚志さんに解放されていて」

 

 ポツリと呟きながら、彼女は己の傍らに立つ男へと目を向ける。

 

 男は口を真一文字に結んで、いつもの彼からは想像できない程の氷のような無表情、冷たい目でもって眼前の少年を見据えていた。

 

 その視線を全く意に介することなく少年は言葉を続ける。

 

「ヒーローショーメモリの力によってヒーローとなった者は、著しいエネルギー消耗の反動で、変身中、前後の記憶を失ってしまう。正にそれが君の身に起こったことさ」

 

「……厚志さん、本当なの?」

 

「…………」

 

 雄子の質問に答えることなく黙し続ける厚志。だがその態度は言葉以上に雄弁に真実を語っていた。

 

「ちなみに、久留瀬厚志が丁寧に貼って回ったテープは警官やイベントスタッフの手で回収済みだよ。これで君の目論見通りにショーの幕を上げるは出来ない」

 

「ゴミ拾いは完璧や。アンタの企みもここまで、観念しいや!」

 

 フィリップの隣に立つ亜樹子が【年貢の納め時や!】と書かれたスリッパを、ズバン!という効果音が聞こえそうな程に勢いを付けて突き出した。

 

「厚志さん……どうして、どうしてこんなことをしたの?」

 

「…………」

 

「……答えて!」

 

 無表情で黙する厚志へと雄子は声を張り上げた。

 

「……俺はさ、ヒーローになるのが夢だったんだ。話したことあるだろう?」

 

 厚志の表情がふっと緩んだ。遠い何処かを見つめるような目をし、静かな口調で語りだす。

 

「え、ええ……」

 

 その突然の変化に雄子は困惑する。

 

「結局は怪我のせいでヒーローショーの怪人止まり、それからは無気力で怠惰な毎日を送るばかり。あんなに好きだった特撮番組だって見るのが苦しくなって、すっかり距離を置いてしまっていたよ」

 

 そうして彼は語り続ける。

 

 世話谷社長が新たな道を指し示してくれたことを、新たな可能性見つけたことを。ヒーローのような存在を自らが作り出し、手助けする夢を手にしたことを語る。そして微笑を浮かべる。

 

「そんな俺が雄子と出会えたのは運命だと思った。同じ道を歩む無二の相棒を得たと思った。それから二人でヒーローアイドルを極めるために色々やったな。作品や本を読み漁り、特撮関係者への挨拶回り、ロケ地巡り、それから様々なヒーローアイドルの活躍を見て回ったり……」

 

「ええ、覚えているわ。ひたすらに勉強した。参考にするために何度も何度も足を運んだり、映像を四六時中ってくらいに見ていった」

 

「そんな頃だった。あの小宮果穂のステージを目にしたのは」

 

「うん。あのステージを見て私は―――」

 

「あのステージを見て俺は絶望した」

 

「えっ?」

 

 思いもがけない厚志の言葉に雄子は目を見開いた。

 

「俺は俺だけの道を、夢を照らしてくれる太陽に出会ったと思っていた。だけど、俺は小宮果穂にそれ以上の輝きを見出してしまった。俺の隣に立つそれよりも、ステージの上で輝くそれは眩しすぎた」

 

「厚志……さん」

 

「せっかく手に入れた希望が、夢が音を立ててひび割れていく。そんなイメージを、気持ちを抱いてしまった自分を嫌悪した。世界が再び暗闇に包まれていくような感覚に押し潰されそうな日々。それに耐えられなくなりかけていた時、俺はこのメモリに出会ったんだ。風都へと初めてやってきたその時に!」

 

「やっぱり、そうだったんだね」

 

 入口の方から聞こえて来たか細い声に一同が視線を向ける。

 

 ゆっくりと部屋に足を踏み入れてくる人影があった。

 

「社長……」

 

「厚志くん……」

 

 哀愁のこもった眼差しで世話谷社長が厚志を見つめる。

 

「社長さん、危ないからそれ以上近寄らないで」

 

 亜樹子が近づこうとする世話谷社長を手で制する。

 

 だが社長はゆっくりと被りを振って、その手をそっと払いのける。

 

「彼がそのガイアメモリを手にしてしまったのは、そのきっかけは……私に責任があるんです」

 

 そう告げて社長は背広のポケットから取り出した拳を開いてみせる。

 

「それは……インビジブルメモリ!?」

 

 驚くフィリップが目にした物、それは透明人間を模したようなアルファベットの意匠が刻まれた、青みがかったガイアメモリだった。

 

「しゃ、社長さんもドーパントだったってこと!?」

 

 亜樹子が目を丸くして大声を上げる。

 

「はい……とはいえ、使ったのは一回こっきりですが。襲われる子供を見ておれず……」

 

(一回だけ……もしかしてそれは、この前のイブクロ横丁での)

 

 そうして世話谷社長は静かに語り出した。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 事は数ヶ月前。G.R.A.D風都予選の開催が決定されるよりも前の話。

 

 雄子さんをヒーローアイドルとして売り出し始めてしばらく経った頃、世話谷社長は風都に久留瀬厚志を連れて来た。

 

 ヒーローに縁深い街として名が知れていると噂に聞き、プロデュースの参考になればという想いからだった。

 

 数日の滞在を終え――仮面ライダーや事件には遭遇しなかったが――アイデアや情報の収集を済ませて帰る前日、彼らは飲み屋街で晩酌をしホテルへの帰路にあった。

 

 そんな折、ふとしたことで二人は人混みではぐれてしまう。

 

 酔いもあってか、フラつき気味に路地裏を彷徨う世話谷社長に怪しげな人物が近づいてきた。

 

 それはガイアメモリの密売人だった。

 

 その誘いを断りきれずに、せめてお試しだけでも、とメモリの力を体験することになってしまった世話谷社長は、身体にコネクタを埋め込まれ、渡されたメモリを起動しようとした。

 

 その瞬間……

 

「そこで何をしている!?」

 

 パトロール中の警察官が取引の現場に踏み込んできた。

 

 慌てて逃げ出す売人と世話谷社長だったのだが、どういうわけか警官は売人のみを追いかけて共々どこかへと行ってしまった。

 

 どうやらその場でも生来の存在感の薄さが影響したらしい。

 

 ヘトヘトになりながら表通りに出てきた世話谷社長は、彼を探していた久留瀬厚志と再会する。

 

 そうしてホテルへと戻ろうとしたところで、世話谷社長は騒動の際に財布を落としてきたことに気がついた。

 

「だったら僕が拾ってきます。社長は休んでいて下さい」

 

 そう言って路地裏へと向かった久留瀬厚志を見送り、ふとポケットに手を入れた社長は先程のガイアメモリが入ったままであるのに気がついた。

 

 警察に届けるべきか否か迷っていると

 

「お待たせしました! 見つかりましたので帰りましょう!」

 

 晴れやかな表情をした久留瀬厚志が戻ってきた。

 

 そそくさとメモリをポケットに戻し、財布を受け取った社長はそのままホテルに戻り、翌日風都を後にしたのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「君はきっと、その時に落ちていたガイアメモリを拾ったのだろう」

 

「……はい、その通りです」

 

 久留瀬厚志がゆっくりと頷いた。

 

「厚志くん……すまない」

 

「社長?」

 

「私があの時きっぱりと誘いを断っていれば……いや、この街に連れてこようとしなければ、君はこんな悪事に手を染めることも無かったろうに……私は二度も君の人生をダメにしてしまった……本当に、申し訳ない」

 

 世話谷社長が深々と頭を下げる。

 

「……頭をあげて下さい、社長」

 

「…………」

 

「謝るだなんてとんでもない。逆にこっちから社長に言うべきことがある。ありがとうございます」

 

「厚志くん……」

 

「貴方のおかげでこんなに素晴らしい力を手に入れることが出来たんだ! 感謝してもし足りないくらいですよ! おまけに実験にだって付き合ってもらったのだから!」

 

「え……?」

 

 久留瀬厚志が目をギラつかせながら満面の笑みを浮かべて、大きく手を広げた。

 

「風都から戻って僕はメモリの力を試しまくった。何を隠そう初めてヒーロー役に選んだのは社長でした! 色々考えましたが初めては社長以外に考えられなかった! 残念ながら適性が合わず力を発揮しきれませんでしたが、ムリをさせるのは身体に良くないですからね。結果的には良かったのでしょう」

 

「厚志、くん?」

 

「その後は事務所のスタッフの方々に協力していただきました。だがやはり結果は振るわなかった。しかしながらご協力いただけたこと大変感謝してます。皆さん覚えてはいないでしょうが」

 

 饒舌に語っていく厚志。その声色、表情、仕草、全て嘘偽りなく本当のことを言っているのは誰の目にも明らかだった。

 

「おかしいよ、あんな怖い事を平気で言うなんて」

 

「確実にメモリの力に吞まれている。既に危険な状態だ」

 

 亜樹子とフィリップが小声で言葉を交わす。その間も厚志の言葉はとめどなく紡がれていく。

 

「だが究極の相性を誇る人が身近にいた。僕の考えたヒーローを僕の想像以上に体現する存在。それが雄子、キミだったのは本当に幸運だった!」

 

「…………」

 

 歓喜の声で語りかける厚志に対し、雄子は目を伏せ黙し続けていた。

 

「この力が、キミがいてくれれば本物の、最高のヒーローが思いのままに顕現する。それに感じているだろう? 動きのキレが増していることを。メモリの力を使い始めて以降、キミの身体能力は著しく向上し続けている。メモリのヒーローの力が宿り始めているんだよ」

 

「フィリップ君、そんなことってあり得るの?」

 

 亜樹子が小声で問いかける。

 

「確かにガイアメモリ使用者には、メモリの能力だけでは説明のつかない力を行使する者も時折り存在する。だが彼の言うことを鵜呑みにするのはどうかと思うけどね」

 

 疑念を抱く二人をよそに、厚志は恍惚の表情を浮かべ朗々と語り続ける。  

 

「ヒーローショーメモリがあればキミはヒーローアイドルとしてだけじゃなく、ダンサーとしても最高になれるんだ。時にはダンサーとしてアイドルとして、そしてヒーローとして活躍する。そんな最高な存在が他にあるだろうか?」

 

 厚志は視線を世話谷社長の方へと移して更に続ける。

 

「この力を使えば臨場感のあるショーだってやりたい放題だ! 今回の活動を通して使い方はマスターしました。かつて事務所が隆盛を極めた時以上の映像体験を、最高のショーを人々に提供が出来る! 事務所の広告塔にジャステリオンを起用すればイメージだって鰻登りだ! 社長が手にしたそのインビジブルとかいう力だって存分に振るえます! 全て僕に任せてくれればみんなを幸せにしてみせますよ!」

 

「一つ質問させてもらいたいんだけど、風都へとやってきた小宮果穂をキミが襲ったのは偶然かな?」

 

 突然挟まれたフィリップの質問。話の腰を折られたことで厚志は顔に明らかな不快感を浮かべる。

 

「その通りだよ。あれは完全なる偶然の出来事さ」

 

「やはりね。キミが彼らのスケジュールを、不慮のアクシデントによるものまで計算に入れてまで、把握していたとは思えなかった」

 

「しかし俺は僥倖だと感じた。小宮果穂がジャステリオンに心酔してくれれば箔がつくとな。風都で仮面ライダー以上に名を上げれば真のヒーローへの道は一気に開ける」

 

「だから仮面ライダーを応援する者は邪魔だった。だから一般の人まで襲った、というわけだね」

 

「そうだ。仮面ライダーを崇拝し、ジャステリオンを認めようとしない者は邪魔だった! 小宮果穂だって同罪だ。仮面ライダーとジャステリオンが手を取り合う? あり得ない。ジャステリオンこそが仮面ライダーを打ち倒すヒーローだ!」

 

 忌々し気に吐き捨てた厚志は再び傍らの雄子へと視線を向け、諭すように優しく語りかけていく。

 

「だからこれからも二人で頑張っていこう。夢を叶えるために。最高のパートナーとして」

 

 厚志はゆっくりと手を差し伸べる。

 

 次の瞬間、乾いた音と共にその手が強く払いのけられた。

 

「……けな……で……」

 

「え?」

 

「ふざけるなっ!」

 

「……雄子?」

 

「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!」

 

 雄子が叫ぶ。

 

 手のひらに指が食い込み貫かんばかりに拳を握り、片足で床をドンと打ち鳴らし、首を左右に振り乱し彼女は差し伸べられた手を、言葉を拒絶する。

 

「私の実力がそんな馬鹿げた道具の、力のおかげだって? ざけんじゃねえ! ダンスが、歌が、あらゆるパフォーマンスが上達したのは私が頑張ったからだ! 死に物狂いでトレーニングをした! ライブで経験を積んだ! ライバルと競い合った! その全てが今の私を作った! それを、この道に私を引き込んだお前が否定するんじゃねえ!」

 

 厚志は目を白黒させるように戸惑いを顔全体に浮かべる。今までの饒舌さが嘘のように、口はわなわなと震えるだけで言葉を発せなくなっていた。

 

「アンタの言う通りその力で私の実力が上がってたとしても、そんなの嬉しくも何ともない! 何が本物のヒーローアイドルだ! 人を悲しませて、傷つけて、夢をメチャメチャにして、そんなヒーローなんていらない! 私は認めない!」

 

 肩を上下させ、荒く息をする雄子。その瞳には涙が浮かび出している。

 

「……私は碌でもない女だ。グレて、家を飛び出して、夢見たダンサーにもなれなくて、そんな私に光を見せてくれたのはアンタだ、厚志さん。そして連れられていったヒーローショーで果穂ちゃんって太陽に出会えた。私は憧れたんだ、あの姿に。私も心からなりたいって思ったんだ、果穂ちゃんみたいに。だからアンタが私を、果穂ちゃんを否定しないでくれ。そんなの悲しいよ……」

 

 雄子の瞳からこぼれ落ちた雫が床に染みを作る。

 

「厚志くん……」

 

 黙していた世話谷社長が一歩踏み出した。

 

「プロデューサーはアイドルを信じて導いて見守るものだ。たとえその道行きが思い通りにならなくともヤケになっちゃいけないよ。遠回りでもいい、一歩一歩進んでいけば夢に近づいていけるはずだよ」

 

 いつしか厚志は俯いて、その肩を微かに揺らしていた。

 

 社長は更に一歩距離を縮める。

 

「君が憧れた、好きだと言ってくれたヒーローたちは子供たちを悲しませる事は決してしなかった。果穂ちゃんのような真っ直ぐな子供を守ってこそのヒーローじゃないか。罪を償ってやり直そう。キミの罪は私が一緒に背負う。そしてもう一度本当のヒーローを目指そう」

 

 世話谷社長が更に距離を縮めようとした時、呟くような声が漏れ出した。

 

「……本当のヒーロー」

 

「ああ、そうだとも。だから―――」

 

「ジャステリオンこそ! 俺の作ったヒーローこそが本物のヒーローなんだ! どいつもこいつも何でそれが分からないんだ!? ふざけやがって!」

 

 厚志が叫んだ瞬間、破裂音と煙が立ち込めて、一体のガイコツ怪人が出現した。

 

 その衝撃で世話谷社長は尻餅をついて倒れ込む。

 

(時限式のバミリ、ここにも仕込まれていたのか!)

 

 厚志の手にメモリが握られているのを見たフィリップは、それを阻止するため即座に駆け出そうとした。

 

 だが、ガイコツ怪人が世話谷社長へと拳を振りかざそうとしているのが目に入った。

 

「マズい! ファング!」

 

 咆哮と共にファングメモリが突進、身を翻してガイコツ怪人の腕を切り飛ばした。

 

 フィリップは世話谷社長に飛びつき、その身体を入口の方へと引き寄せた。

 

 その時

 

≪ヒーローショー!≫

 

 ガイダンスボイスが響き、灰色のガイアメモリが厚志の首筋へと吸い込まれてゆく。

 

そして、たちまちのうちに黒ずくめのドーパントが姿を現した。

 

 ドーパントは片腕から垂れ下がる帯の束を雄子へ向けて伸ばし、その身体を絡め捕ると自分の元へと引き寄せた。

 

「きゃあッ!」

 

「そうなんだ、やっぱりアイツのせいだ、あのガキがいるから全てが上手くいかないんだ! こうなったら消してやる、ジャステリオンのその手で、何もかも!」

 

「や、やめて……」

 

 雄子の懇願を全く意に介することなくドーパントが高らかに叫びをあげる。

 

「最高のショーの始まりだぁ! ジャステリオン変身だぁぁぁっ!」

 

 ヒーローショードーパントがその腕に捕らえた雄子の頭を鷲掴みにする。

 

「いやあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 明滅するオーラがドーパントの腕から雄子へと伝わり、瞬く間にその全身を覆っていく。

 

「雄子君!」

 

「しゃ、しゃちょ……あ、ああ、あ……」

 

 眩い光に包まれた雄子のシルエットがその形を変えていく。

 

 細くしなやかな手足は直線的な意匠のパーツで構成された強靭なる剛腕、剛脚に。

 

 丸みを帯びた女性的な胴体は、朱色の騎士の鎧の如き堅固な装甲へ。

 

 その端正な顔は目元を覆うバイザーが特徴的な、銀色のマスクを被った姿へと変化を遂げる。

 

「ほ、本当に雄子さんが変身しちゃった……」

 

「この場合、変身というよりも肉体の強制変化の方が正しいだろうけどね……」

 

 冷静に返すフィリップであったが、その表情には焦りと警戒の色が薄らと浮かんでいる。

 

 ドーパントの傍らに出現した戦士は顔を俯かせるようにして直立していた。

 

「さあ、名乗るんだ! お前の名前を、高らかに轟かせろ!」

 

 ドーパントの声を受けて、戦士は正面へと顔を上げ、バイザーの奥の目を赤く光らせて両腕を大きく振り上げてポーズをとった。その勢いで首元の黄金色のマフラーが揺れ動いた。

 

「悪を挫く正義の使者! ジャステリオン参上!」

 

「ジャステリオンよ! 我らの正義を示すため、仮面ライダーとその一味を倒すのだ!」

 

「おぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!」

 

 拳を握りしめた両腕を胸元で交差させて雄叫びを轟かせるジャステリオン。その身体が光り輝き、空気が震えると共に膨大なエネルギーがその周囲へと集まっていく。

 

「危ないっ!」

 

 フィリップが叫ぶのとほぼ同時に、眩い光が溢れ、轟音が響き渡った。

 

 

 




ヒーローショーメモリ能力説明

①隠密能力
“存在しない” “見えない”という概念を纏う能力
肉眼による視認、カメラ等の映像機器による撮影、サーモセンサーなどに観測されなくなる。
ただし存在そのものを消すわけでは無いので身体を無視して先の景色などを見通すようなことは不可。
見えていても“見えない”と周囲に思い込ませるようなものである。
また、直接の接触を防ぐこともできない。
加えて発する音を消すことは不可能なので音響による探知には無力である。
額にあるベールのような布を下ろし、身体に付いたマントのようなものを羽織ることにより能力を使用する。
上記のいずれかが破損した場合、能力は解除され再度変身するまでは使用不可となる。

②怪人生成能力
自らの思い描いた怪人を出現させる能力
能力の発現には以下のプロセスが必要となる。
1.腕に付いているテープのようなものを特定の形式で地面に貼り付ける。
2.念じることで任意の怪人を即座に出現させる。(ドーパント変身時のみ)
3.テープ設置時に出現までに要する時間を指定。一定時間経過後に怪人を出現させる。(非変身時にも発動可)
4.思念を送ることで怪人の動きを制御、任意の台詞を喋らせることが出来る。
また、リソースが尽きている状態で指定時間を過ぎた、貼り方が不正確、能力発現前に剥がれる、などをしたテープは消滅せずにその場に残り続ける。

③ヒーロー生成能力
第三者にエネルギーとイメージを注ぎ込むことにより任意のヒーローに強制変身させる能力
ヒーローの肉体構成に要するエネルギーは怪人生成に割くものとは完全に独立している。
ヒーローの活動に要するエネルギーはヒーローに変身した人物に依存する。
適性の無い者をヒーローに変身させた場合、数分でエネルギーは枯渇し変身は解除される。
ヒーローショーメモリとの適合率が高い者ほど強力なヒーローの能力を使いこなすことができる。
変身したヒーローはメモリ使用者の植え付けたイメージに従い完全自律行動をする。
ヒーローに変身させられたものは副作用として変身中、その前後の記憶を失う。

また、怪人生成、ヒーロー生成能力の使用において以下の複数の制限が存在する。
・メモリ使用者がドーパントに変身していない場合、呼び出した怪人は単純な行動をとるのみとなる。
・怪人を任意に操れるのはヒーローショードーパントが怪人を視認可能な範囲に存在する場合に限られる。
・怪人に割り当て可能なエネルギー、リソースの量には制限がある。
 リソースを注ぎこんだ量が多い程、基礎的な身体能力は向上し特殊能力も使用可能となる。また、一定時間の自律行動も可能となる。
 ただし最高値のリソースを注ぎ込んだ場合でも怪人の戦闘力は、上級メモリ使用のドーパントに及ばない。
 最低値のリソースで出現させた怪人は子供の体当たりで消滅するほどに貧弱となる。
・怪人、ヒーローの能力はメモリ使用者の想像力の影響を多大に受ける。
 想像力の乏しい者が生み出した怪人はその能力を十全に発揮することができない。
 既存の怪人、ヒーローなどを生み出した場合、メモリ使用者の持つ元々のイメージに無意識に引っ張られ、完全に制御することは困難を極める。
(例:MOVIE大戦フルスロットルにおいてメガヘクスが再現した駆紋戒斗のような行動を取る可能性がある)

総括
ヒーローショーメモリは基本的にはヒーローショーのような舞台を再現するに過ぎない非戦闘系のメモリである。
メモリの力を十全に発揮するには怪人やヒーローを生み出す想像力、隠れながら状況の変化を見極める対応力、戦場をひたすらに動き回る体力が必要不可欠。
想定された運用をするだけでもメモリ使用者及びヒーロー変身者の二人に高い適合率が求められるため非常に扱いにくいガイアメモリである。
加えて戦闘用として使いこなすためには過剰適合レベルの人間を二人揃える必要があり、その実現はほぼ不可能と判断され失敗作として扱われていた。
刻印アルファベット『H』のイメージは対峙したヒーローのキックがぶつかりあう様子。


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