仮面ライダーW 『Hの正義』   作:はちコウP

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仮面ライダーWの時系列はTV本編終了後~仮面ライダードライブ・アクセル客演以前

風都探偵以前orパラレルを想定しています。



『Hの正義(後編)/夢のHERO・誰かのHERO』⑥

 

「はっ! たあっ! やあっ! どうした!? お前の力はそんなもんか!?」

 

 仮面ライダージョーカーとなってステージ上に立つ俺は、着ぐるみ恐竜の腹部にワンツーパンチのコンボをキメる。

 

 もちろん本気での打ち込みなんかじゃない。軽く着ぐるみボディにめり込むくらいに抑えた打撃だ。

 

「グッ……オノレ、コレデモクラエ……!」

 

 くの字に体を曲げて苦しむような素振りを見せていた恐竜、もとい照井はドタドタと足音を響かせながら体当たりを仕掛けてくる。

 

 俺はそれを真正面から受け止めて、相撲の取っ組み合いのような姿勢をとる。

 

 暫くの間、力比べを演じてみせてからの上手投げ。恐竜の着ぐるみがゴロゴロとステージ袖の近くまで転がっていく。 

 

 突然の乱入に最初は戸惑っていた観客たちだが、戦いの熱気に当てられてか、いつしか大きな歓声を上げだしていた。

 

「いいぞー仮面ライダー!」

 

「ヘルダークネスの怪物なんてぶっ倒せ!」

 

「ライダー! ライダー! ライダー!」

 

 会場のボルテージは今までアイドル達のステージに引けを取らない程に最高潮に達していた。

 

「頑張れ仮面ライダー! 負けるなー!」

 

 ステージ上、俺らの戦いを少し離れた位置から応援している果穂も声を一層強く張り上げる。

 

 心なしか楽し気な雰囲気を漂わせているその様を見て俺は仮面の下で苦笑する。

 

(もう少し緊迫感があった方が“らしい”んだけど……まあいいか。もっと盛り上げてやるぜ)

 

 なんて気を良くしていた俺だったが……

 

 爆音が轟いて、会場全体が小刻みに震え出したのを察知した瞬間一気に気が引き締まる。

 

 突然の事に驚きつつ、観客たちと果穂は何事かと周囲をキョロキョロと見回している。

 

 やっとのことで起き上がった着ぐるみ姿の照井も警戒しているのが雰囲気から伝わってくる。まあ、シリアスさが似つかわしくない姿、ってのは言わぬが何とかってやつか。

 

 と、予感を抱いて俺は音の響いてきた方角、控え室のある小屋の方へと顔を向ける。

 

 銀色の輝きが混じった煙。その中から空中へと飛び出して来る影が見えた。

 

 その影は放物線を描くようにしてこっちに向かってくる。そして天井を突き破り、ステージの上に三点着地の姿勢で降り立った。

 

 落ちてきた位置は偶然にも照井のすぐ近く。衝撃でバランスを崩した着ぐるみがステージ袖の向こうへとゴロゴロ転がっていった。

 

「ヒュウ、見事なスーパーヒーロー着地、流石だなジャステリオン」

 

「…………」

 

 俺の軽口に対してジャステリオンは一切答えることなく、スッと直立し顔をこっちへと向ける。そのマスクの奥から冷たく鋭い視線が向けられているのをひしひしと感じる。

 

「ジャステリオン……?」

 

 ステージ上の果穂はその姿に違和感を覚えたのか、怪訝な様子でこっちを見ていた。

 

「おおおおっ! いいぞージャステリオーン!」

 

「やっちまえー! 仮面ライダーも!」

 

「熱いバトル見せてくれー!」

 

 それに対して観客たちは、もう一人のヒーローの登場に腕を振り上げて歓声を飛ばしてくる。

 

「オーディエンスのボルテージも最高潮だな。さて、こっからは――」

 

 語りかける俺の言葉が全て吐き出されるより早く、ジャステリオンの拳が俺の眼前に迫ってきた。

 

「んなっ!」

 

 防御のため咄嗟に両腕をかざそうとする俺だったが、一瞬の差でヤツの拳が俺の頬を打ち据えた。

 

 予想以上の衝撃で思わず倒れそうになるのを、俺は必死で踏ん張った。

 

「おい! いきなり何を――」

 

 間髪入れず素早く繰り出されたアッパーカットが俺の顎に炸裂した。

 

 衝撃で浮き上がった俺の身体がステージの上に転がり落ちる。

 

「……っ!」

 

 ふらつく頭、鈍い痛みに耐えながら起き上がろうとする俺の眼前に、ジャステリオンが立ちはだかっていた。

 

 速く鋭い回し蹴りが繰り出される。両腕を横にクロスさせて構えガードをするが、その上から激しく叩きつけられた力を受けて、俺の身体は呆気なく吹っ飛ばされる。

 

 観客席に突っ込んだ仮面ライダージョーカーの身体は、何人かの観客と椅子を巻き込みながら転がっていく。

 

「きゃあぁぁぁぁっ!」

 

「うわぁぁぁぁぁっ!」

 

 そこかしこから上がる悲鳴。

 

 倒れたまま、起き上がるより先に俺は声を張り上げる。

 

「全員逃げるんだ! 早く! アンタらは誘導を!」

 

「お、おうっ! みんな逃げろ! 固まらないで出来るだけ散らばって!」

 

 偶然近くにいた刃さんがそれに応えて、近くの警察官やスタッフと協力して観客たちを避難させていく。

 

(痛っつつ……前に喰らった攻撃よりパワーがダンチになってやがる……)

 

 ヨロヨロと立ち上がった俺はステージへと向き直る。

 

 ステージから降りてゆっくりと、だが威圧感溢れる足取りで近づいてくるジャステリオン。

 

 俺は拳を構えて相対する。

 

(そう何度も喰らってたまるかよ……!)

 

 ヤツが次の攻撃を繰り出すより速く、俺は仕掛けた。

 

 顔面を狙った左右の拳のコンビネーション、続けざまにさっきのお返しとばかりに回し蹴り、そして再び拳の連打。

 

「…………」

 

「くっ……!」

 

 けれどもそれらは全てヤツの手で軽くいなされる。押してるのはこっちのはずなのに完全にペースを持ってかれてしまってる感じだ。

 

「なら……コイツはどうだっ!」

 

 俺は足を大きく振り上げて、顔面を狙ったかかと落としを繰り出した。

 

 ヤツはそれを身体を僅かにずらすようにして避けた。

 

(狙い通り!)

 

 振り下ろした脚が地に着くと同時に俺は身体を素早く回転させて、顔面を狙った裏拳を叩き込んだ。

 

 俺の拳に伝わる確かな手ごたえ。放った拳は見事にジャステリオンの頬を打ち据えていた。

 

「なっ!?」

 

 しかしヤツは何事も無かったかのように立ち尽くしていた。

 

 それどころか俺の拳を掴み取り、背負い投げの要領で投げ飛ばしをかけてきた。

 

「うおぉぉぉっ!?」

 

 俺の身体はまたしても宙を舞う。そして地面へと激しい勢いでぶつかる瞬間、腕で受け身を取って身体を転がして勢いに乗ったまま素早く立ち上がる。

 

「ならコイツで決める!」

 

 ベルトのスロットからジョーカーメモリを素早く抜き取り、腰に付けられたマキシマムスロットへ装填する。

 

《ジョーカー! マキシマムドライブ!》

 

「ライダーキック!」

 

 ダッシュからのエネルギーを込めた飛び蹴りが、ジャステリオンの胸元に突き刺さるようにヒットする。

 

 観客席の椅子を薙ぎ倒しながら吹っ飛んでいくジャステリオン。

 

 だが、ヤツは空中で身体を一回転させると足を地面に食い込ませるようにして激しくブレーキをかけ、程なく静止した。

 

「マジかよ……」

 

 ジャステリオンには一切のダメージが通っていないように見えた。

 

「一体どうしたってんだ、ジャステリオン!」

 

「…………」

 

 俺の問いに答えることなく、ジャステリオンは黙したまま直立していた。

 

「やめて! どうしちゃったのジャステリオン!?」

 

「それはだね……」

 

 果穂の悲痛な叫びに答えるようにして、何処からともなく聞こえてくる低い声。

 

 同時に果穂の身体がふわりと浮かび上がった。

 

「えっ!? うわぁぁぁっ!」

 

「果穂!?」

 

「俺がジャステリオンを意のままに操っているからさ。渾身のエネルギーをたっぷりと注ぎ込んでな」

 

 果穂の背後から黒ずくめの人影、ヒーローショードーパントと化した久留瀬厚志が姿を現した。ヤツは果穂を片腕で拘束し、もう片方の手に握られた刃物を果穂の頬に突きつけながら声を上げる。

 

「仮面ライダー! 妙なマネしやがったらこのガキを殺してやる! 大人しくしてるんだな!」

 

「テメェ! 人質を取るなんて汚ねぇぞ!」

 

「何とでも言え! さあジャステリオン! 仮面ライダーをぶっ殺してやれ!」

 

「……グオォォォォォォォォッ!」

 

 獣のような咆哮を上げて突進してくるジャステリオン。

 

「こ、のおっ!」

 

 俺は両腕を身体の正面で構えて連続で繰り出される攻撃を耐える。

 

 果穂の命を守るため、今の俺にはそれしか出来なかった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

【殺せ! 殺せ! 殺せ!】

 

 頭の中に声が響く。

 

【仮面ライダーを倒せ!】

 

 その声に従うようにして私は猛突する。

 

【我々の敵を抹殺せよ!】

 

 目の前に立つ敵へと攻撃を繰り出し続ける。ただひたすらに。

 

【お前が最強だと証明するのだ! ジャステリオン!】

 

 渾身の力を以て拳を振りかざす。腕のガードを突き崩して拳が黒い仮面ライダーの顔を打ち据える。

 

「グハッ!」

 

 よろめいた相手へと更に攻撃を繰り出していく。

 

「ははははは! いいぞ! いいぞジャステリオン! それでこそ俺の生み出したヒーローだ!」

 

 舞台の上に立つ黒い人影が高笑いをする。

 

「もうやめて―――――これ以上悪いやつの――――――ないで!」

 

 抱えられている人間が何かを叫んでいる。その顔には靄のようなものがかかって表情は見えない。しかし、今の私には関係ない。

 

 私の使命は、仮面ライダーを、邪悪なる存在を抹殺すること。

 

 肩で息をするようにしてふらついているライダーへと私は必殺の一撃を繰り出した。

 

 我が身を高速回転させながら敵を蹴り飛ばす。

 

 それを受け、地面を転がり倒れ伏した仮面ライダー。その装甲が搔き消えて、一人の人間が姿を現した。

 

「え……翔太郎さんが……仮面、ライダー?」

 

「ははははは! そうか! お前が仮面ライダーの正体か! うん、良いことを思いついた。これを動画に収めて世に知らしめてやろうじゃないか! タイトルは『仮面ライダーの最後!』」

 

【殺せ! 倒せ! 潰せ! 消せ!】

 

 頭の中に響く声が大きくなる。

 

 私の身体に力が溢れだしてくる。

 

 ゆっくりと、一歩一歩倒れ伏した人間へと近づいていく。

 

「くっ……そぉ……」

 

 口の端から血を流し、起き上がろうとする人間……無駄なことだ。

 

「ダメ! ダメーーッ!」

 

「なっ!? この、暴れるな!」

 

「ジャ―――もうやめてーーっ!」

 

 その瞬間、電子音のようなものと共に何か小さな影がひらめき、黒い人影に衝突した。

 

 身体がよろめいた隙に拘束を振りほどいた人間が駆けてくる。

 

 だが、私には関係ない。

 

 眼前へと倒れ伏す人間へ向けて、大きく上げた手刀を振り下ろす。

 

 その瞬間、人影が私と敵との間に割入ってきた。

 

「やめてーーっ! ジャステリオン! 悪い奴になんかに負けないで!」

 

《駄目! あの子を傷つけるのは!》

 

 二つの声が頭の中に響き渡った。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「果穂っ!」

 

 俺とジャステリオンの間に割り込んできた果穂の背中が目に映る。

 

 どうにかして彼女を庇おうと手を伸ばすが、身体が言うことを聞かない。

 

 銀色の手刀が迫りくる様が俺には酷くゆっくりに見えた。

 

「っ……!」

 

 そして果穂の身体が打ち据えられた……ように思われた

 

「……あ?」

 

 けれどそうはならなかった。俺の口から気の抜けたように声が漏れた。

 

「……ジャステリオン?」

 

 小さく呟く果穂の眼前でジャステリオンの手はピタリと止まっていた。

 

「……私……は?」

 

 ジャステリオンのバイザーの奥の赤い禍々しい光が消えていた。

 

「……ああ、そうか」

 

 そう小さく呟いたジャステリオンは指で果穂の目元を軽く拭う。

 

「どうやら私はキミを悲しませてしまったようだね。すまない、果穂ちゃん」

 

「元に戻ったんだねジャステリオン!」

 

「な、なんだとーーーっ!?」

 

 果穂の歓喜の声、そしてヒーローショードーパントの驚愕の声がこだました。

 

「どうやら君にも多大な迷惑をかけてしまったようだ。申し訳ない」

 

「へっ、どうってことねえよ」

 

 差し出された手を取って俺はグッと立ち上がる。

 

「何故だ! どうして私の言うことを聞かないジャステリオン!?」

 

「私の正義の心をその少女が呼び覚ました。それが貴様の支配を打ち破ったのだ!」

 

「あ、ありえない……そんなことは認めないぞ!」

 

 ドーパントが身体をわなわなと震わせて叫んだその時、電子音の鳴き声と共に機械仕掛けの鳥が飛来して、緑色の光を発した。

 

「キミは言っていたよね、自分の想像以上にジャステリオンの力が体現されている、と。つまりはそういうことなんだろう」

 

 光の中から現れた声の主、俺の相棒が相変わらずの冷静な声色で告げる。

 

「変身者の強い想いがヒーローに影響を与える可能性がある。ヒーローショーメモリの特性の一つさ」

 

「貴様! 爆発に巻き込まれたはずでは!?」

 

「僕らには頼れるボディーガードがいてね。彼らがすんでの所で助けてくれたのさ」

 

 フィリップが視線を向けた先を見てみれば、そこには大きく手を振る亜樹子と肩を貸されるようにして立っている世話谷社長の姿があった。

 

 そしてその傍らでは、ステージ上から舞い戻ったファングメモリが小さく咆哮して、その上をエクストリームメモリがひらりと旋回をしていた。

 

「どこまでも小賢しいヤツらだ……! こうなったらお前たちを始末して、俺の作った全てが最強だと示してやるっ!」

 

 ヒーローショードーパントが激昂すると同時に爆発音と煙が立ち込めた。

 

 ステージ上に多数のガイコツ怪人が出現した。その集団は俺達に相対するようにして奇妙な動きをしている。

 

「やれ! お前たち! そのガキどもを抹殺しろ!」

 

 ドーパントの声を受け、襲いかかってくるガイコツ怪人に対し俺達は身構える。

 

 と、その時

 

「はあっ!」

 

 舞台袖から走り出てきた――着ぐるみを脱いだ――照井が数体のガイコツ怪人を蹴り飛ばした。

 

 更に手にしていた照明器具を振り回して敵を弾き飛ばす。

 

「照井!」

 

「どうやらヤツは完全にメモリの力に飲まれてるようだな」

 

 ステージを駆け降りてきた照井が俺達の隣に並び立った。

 

「ああ。ヤツにはしっかりと教え込んでやらねえとな、本当のヒーローの戦いってやつをよ」

 

「ところで大丈夫かい翔太郎? 万全でないのならファングジョーカーでいくことを推奨するけれど」

 

「バカ言うな。ここで踏ん張って立ち向かってみせるのがヒーローってもんだろ?」

 

「愚問だったね。確かに僕の見た作品のヒーローたちもそうだった」

 

 そうしているうちに、いつの間にか俺達の周囲で連続した破裂音が鳴り響き、白煙が立ち込めだす。

 

「次から次へと湧き出やがって。果穂を人質にとる前にコソコソと準備してやがったな。まあ、ともあれ……行くぜ、相棒」

 

 俺は取り出したダブルドライバーを腰にかざして装着した。

 

「ああ」

 

 同時に相棒の腰にもダブルドライバーが出現する。

 

 白煙に包まれながら俺達はそれぞれのメモリを手に取った。

 

《サイクロン!》

 

《ジョーカー!》

 

メモリの音声が響き渡り、俺達はWの文字を描くように腕を構える。

 

「「変身」」

 

 スロットに転送されてきたサイクロンメモリを押し込んで、ジョーカーメモリを差し込む。

 

 そしてスロットを倒すようにして展開した。

 

《サイクロン! ジョーカー!》

 

 一陣の風が巻き起こり、俺の身体は仮面ライダーダブルへと変身した。

 

「よっと!」

 

 いつの間にやら駆けこんできていた亜樹子が倒れるフィリップの身体を受け止めていた。

 

「さあ……振り切るぜ」

 

《アクセル!》

 

 隣に立つ照井もまたドライバーを装着し、メモリを起動させた。

 

「変……身ッ!」

 

 メモリが装填されると同時に激しいエンジン音が轟いて、照井の身体が赤い装甲に包まれた。

 

「刑事さんも……仮面ライダーだったんですね!」

 

 果穂が目を輝かせて興奮する様を照井、もとい仮面ライダーアクセルが一瞥して

 

「フッ」

 

 と声を漏らす。

 

「所長、その子を安全な所に」

 

「了解! 竜君もしっかりね! ほら、行こう果穂ちゃん!」

 

「はい! 頑張ってくださいみなさん!」

 

「おう!」

 

 軽く手を上げてそれに応えると、俺達は敵へと向き直った。

 

「ヘルダークネス! ……いや、悪の権化たるドーパントよ! 貴様の悪行を私は絶対に許さない!」

 

「ぐぬぬぬぬ……」

 

 ジャステリオンの言葉に対し、忌々し気に唸り声を上げているドーパント。暗い影の差したその顔は、心なしか歪んでいるようにも見えた。

 

 そして俺達も指を突き付けながら、一つの言葉を投げかける。

 

「……さあ、お前の罪を数えろ」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 真正面から突撃してくるガイコツ怪人を右ストレートで吹っ飛ばす。

 

 同時にアクセル、ジャステリオンも近くのガイコツ怪人を打ち倒し、全てのガイコツ怪人が消え去った。

 

「どうした、もう打ち止めか?」

 

 ステージ上に立つヒーローショードーパントが後ずさる。

 

 俺らが速攻で敵を潰したせいか、隠れてコソコソ動き回るヒマも無かったみたいだな。

 

「こうなったら……出てこい! ギャックアー!」

 

 跪いたヒーローショードーパントが、テープのような帯を地面に貼り付けて乱暴に切り裂いた。

 

 同時にその場には、すっかりお馴染みの黒いトゲトゲ鎧のヤツが現れた。

 

「よお、この前はよくもやってくれたなぁ。今度はお前ら全員ぶった切ってやるぜ」

 

「ギャックアー!」

 

 ジャステリオンが睨みつけるかように視線を向けた。

 

「それだけじゃないぞ……コイツもだ!」

 

 ドーパントが新たに呼び出した怪人、それはギャックアーの倍以上の巨体のデカブツだった。

 

 「ブルルルッ! 俺の名はヒードゥー、お前ら全員グチャグチャに轢きつぶしてやる!」

 

 ヒードゥーと名乗ったヤツは、両サイドに牛のような大きな角がついた頭を大きく振るわせて、対戦相手を威嚇するプロレスラーみたいに両腕を高く掲げていた。

 

「ヤツもヘルダークネス四天王の一人、凄まじい怪力の持ち主だ気をつけろ!」

 

「忠告ありがとうよジャステリオン。けどまあ、そのぐらいのヤツじゃないと張り合いが無いってもんだ」

 

「余裕をこいていられるのも今の内だ。かかれぇっ!」

 

 ドーパントの一声で二体の幹部怪人が襲いかかってくる。

 

闘牛のように脚で地面を蹴ってから突進してきたヒードゥーが跳び上がり、俺達の頭上からボディプレスを仕掛けてくる。

 

俺達は三方に飛び退ってその攻撃を躱す。

 

巨体の激突の衝撃で地面が揺れ、砂煙が舞い上がる。ボディプレスの下敷きになった椅子の部品が砕け、あるいはひしゃげて散乱した。

 

「ふぅ、見た目通りのパワーファイターだな。けど動きは読みやすそうだ」

 

「隙ありだ! オラァ!」

 

 背後からくぐもった、いきり声が聞こえてくる。

 

《メタル!》《サイクロン! メタル!》

 

 けどそんなのは予想済みだ。俺は既に握っていたメモリを差し替えた。背後に衝撃が走り金属音が鳴り響く。

 

 だが強靭になったダブルの装甲には大したダメージは入らない。

 

「何っ!?」

 

「お前の戦いはワンパターンなんだよ! うぉらっ!」

 

 俺はメタルシャフトを手にして背後へ向けて振り抜いた。

 

 そこにいたギャックアーの剣とシャフトとがぶつかり合って火花が散る。

 

「この野郎!」

 

「はっ! タネが割れたお前の攻撃なんざ大したことねえんだよ!」

 

 多分さっきのデカブツのボディプレスに紛れて影を渡って来たんだろうが、真っ昼間じゃあ影のできる場所なんざ限られてる。今の状況じゃあ俺の背後にしか影は出来ねえからな。動きはバレバレだ。

 

「コソコソ隠れ周るしか能のない臆病モンは、お部屋にでも引きこもってな」

 

「ほざきやがれ!」

 

 激昂したギャックアーが滅茶苦茶に剣を振り回してくる。それを俺達は軽くいなしていく。思った通り、力自体はそれ程でもねえな。

 

「危ない! 仮面ライダー!」

 

 ジャステリオンの声が聞こえたと同時、凄まじい地響きが。

 

「ブモォォォォォォッ!」

 

 巨体が猛烈な勢いで突っ込んでくる。

 

 俺はそれを飛び退って避ける。

 

 目の前を通り過ぎたそれは、その先にあったオブジェや看板の類を跳ね飛ばし急ブレーキをかけ停止。身体をブルブルと震わせた。

 

「いいタイミングだ、ヒードゥー!」

 

「次は轢きつぶしてミンチにしてやる!」

 

 また足を数回後ろに蹴り上げるような動作をして力を溜めるヒードゥー。

 

「へっ、こうなりゃコンビネーションでぶっ潰すまでだ」

 

 飛び退って俺との距離をとるギャックアー。だが……

 

「はっ!」

 

「んなっ!?」

 

 近場にあった物陰に潜りかけていたギャックアーに向けて、駆けこんできたアクセルのエンジンブレードが振り下ろされる。剣をかざして直撃を避けたギャックアーだったが、その身体は数メートル先に弾き飛ばされていた。

 

「さっき左が言っていただろう。貴様の動きはワンパターンだと。学習能力の無いやつだな」

 

「んだよどいつもこいつも、鬱陶しいんだよぉ!」

 

「ナイスだぜ照井!」

 

 俺が親指を突き立てた時、再び地響きが。

 

「おっと」

 

 またしても突っ込んできた巨体を俺らはさらりと躱す。

 

「グモモモッ! 今度こそ潰してやる!」

 

「はっ! なら、このシチュエーションにおあつらえ向きのメモリを使ってやるよ」

 

《ヒート!》《ヒート! メタル!》

 

 ダブルの右半身が緑から赤色に変わり、ヒートメモリの力が漲ってくる。

 

「マタドールのお出ましってな」

 

 そうして俺はメタルシャフトを身体の脇から横倒しにして構えた。

 

「ブモッ!?」

 

「さあ、かかってこい猛牛ちゃん。赤い色はこっちだぜ」

 

 右腕をひらひらと動かしてヒードゥーのヤツを挑発する。

 

「俺は牛じゃないっ!」

 

《翔太郎一つ言っておくけど、牛の目には色を判別する能力は無い。闘牛士の持つマントは観客が見やすくするため、そして闘牛士本人の気持ちを高ぶらせるためのものだよ》

 

「えっ、そうだったのか?」

 

《更に言えば牛が突進してくるのはマントがたなびいたのに対する攻撃反応だ。だからこの状況においてはメタルシャフトを振ってみるのを推奨するよ》

 

「そうか、なるほどなあ」

 

 フィリップの助言を受けて俺はメタルシャフトを上下に軽く振るってみせた。

 

「だから俺は牛じゃあなーーーいっ!」

 

 怒声を上げてヒードゥーが突っ込んでくる。それを軽やかにターンをしてかわしてみせる。

 

「効果覿面だな。ほれほれ、こっちだこっち」

 

 俺は軽やかなステップで動き回りながらヒードゥーを翻弄し続ける。

 

「さあさあ、俺はここだぜ。ブルブルボーイ」

 

「ブモォォォォォォッ!」

 

 バカの一つ覚えに突っ込んでくるヤツの巨体を例の如くかわし、横合いから足元にメタルシャフトを差し伸ばした。

 

「ブモォッ!?」

 

 シャフトに躓いたヤツの身体はつんのめる様にして浮き上がる。そして、その先には……

 

「照井! 後ろに飛べ!」

 

「!?」

 

「あん?」

 

 鍔迫り合いをするアクセルとギャックアーが。

 

 アクセルは俺の声に即座に反応して後方へ飛び退ったが、ギャックアーは勢いあまって前の方に倒れそうになり……

 

「んなあっ!?」

 

「ブモォォォォォォッ!?」

 

 ヒードゥーの巨体がその上に覆いかぶさったのだった。

 

「う、ううん……あ、ギャックアー、悪い」

 

 押しつぶされたギャックアーはその腕をピクピクと動かしていたが、やがてその身体は完全に霧散して消え去ってしまった。

 

「ブモモモモッ! もう許さない! 今度こそ轢きつぶしてやる!」

 

 立ち上がったヒードゥーが俺の方を睨みつける。

 

「悪いが選手交代みたいだぜ?」

 

「何?」

 

「四天王ヒードゥー!」

 

 高らかな声と共にジャステリオンがヒードゥーの前に躍り出てきた。

 

「貴様はこの私が倒す!」

 

「ブホッ! ブホッ! お前の技は俺には効かないぞ、忘れたのか?」

 

「私は以前の私ではない! トウッ! ハッ! ヤアッ!」

 

 ジャステリオンはパンチとキックのコンビネーションを浴びせかけていく。

 

 だがヒードゥーはガードすらせずに、余裕たっぷりといった様子で攻撃を正面から受けていた。

 

「痛くも痒くもないぞ。無駄なことはやめた方がいいぞ~」

 

「イヤアッ!」

 

 ジャステリオンの両手から繰り出される掌底攻撃がヤツの腹部にヒットした。

 

「だから無駄だって言ってるだろう。それじゃあ、今度はこっちから――」

 

「ハアァァァァァッ! ジャステリオンヴァイヴレーション!」

 

 その瞬間、ジャステリオンの手のひらが超高速で震えだした。それと接しているヒードゥーの身体もまた小刻みに震えだす。

 

「ブ、ブモモモモモモモモモッ! な、ななななな、なにを、ををををを」

 

「トウッ!」

 

 ジャステリオンが素早く跳躍。ヤツの頭上数メートルのところで足を大きく振り上げた。

 

「ジャステリオンクラッシュ!」

 

 銀色の踵がヒードゥーの脳天に突き刺さる。

 

 首を肩にめり込ませるように沈めて、左右にフラフラと動いたその巨体が大きな地響きを立てて地面に倒れ込んだ。

 

 それから間もなくしてその身体は音もなく消え去った。

 

《超振動で敵の堅牢な防御を弱めてからの強烈な一撃。面白いコンビネーションだ》

 

「ヒュゥ、やるなジャステリオン」

 

「君のおかげさ仮面ライダー。君の繰り出した技にヒントをもらった」

 

「ああ、ジョーカーだった時のアレか。お前にゃ完璧にかわされちまったがな」

 

「正気を失ってはいたが覚えている。アレは紙一重だった。流石だよ」

 

「そうか。へへっ、まあ悪い気はしねえな」

 

 褒められて思わず得意気になっていた俺に対して、相棒の呆れ交じりの溜息が聞こえてくる。

 

 その時だった。またしても破裂音と煙が立ち込めてきたのは。

 

「あ?」

 

「まだ終わりでは無いようだな」

 

「そのようだ」

 

 ジャステリオンとアクセルが身構える。

 

 煙が晴れるとそこには数体のガイコツ怪人と新たな敵の姿があった。

 

「僕の名はガンゴー、四天王の一人さ。最強のね」

 

 魔法使いを思わせるようなローブと帽子を身に着けた怪人がそう告げる。

 

「あたいの名はソンフゥ。あいつらみたいなショボいやつらと一緒だと思ってたら痛い目みるよ」

 

 槍を手にした女性的なチャイナドレス風のシルエットの怪人が挑発的に言う。

 

「今度は雑魚も一緒に出してきやがったか。懲りねぇな」

 

「それじゃあ、始めようか。殺戮のショータイムを!」

 

 ガンゴーとかいうやつの一声でガイコツ怪人達が一斉に襲いかかってくる。

 

 そうして乱戦状態に陥る中で、フィリップが冷静に状況を分析する。

 

《翔太郎、このままドーパントが呼び出す怪人たちと戦い続けても、いたずらに消耗するだけだ》

 

「そうだな。流石にこいつらの相手をするのも飽きてきたところだ」

 

 言いながらメタルシャフトで迫るガイコツ怪人を殴り飛ばす。

 

 その消滅と同時に何処からか破裂音と白煙が立ち込めた。

 

《ならばこちらもコンビネーションといこうか。ジャステリオン! 協力してほしい》

 

「ああ、どうすればいい!?」

 

 ソンフゥの繰り出す槍による連続突きを躱しながらジャステリオンが応答する。

 

《以前僕たちを空高く吹き飛ばした大技、いけるかな?》

 

「勿論だとも!」

 

《よし。照井竜! 目くらましを!》

 

 フィリップの声に軽く頷いたアクセルは、ガンゴーの飛ばしてきた光球を剣の一振りで弾き飛ばすと、即座にエンジンブレードにエンジンメモリを差し込んだ。

 

《スチーム!》

 

 メモリの音声が発せられると共にブレードから高温の蒸気が周囲にまき散らされる。

 

「くっ!」

 

「ウザっ!」

 

 四天王らも堪らず苦悶の声を上げた。

 

《サイクロン!》《サイクロン! メタル!》

 

 フィリップの意思でメモリが差し替えられ、ダブルの身体は再びサイクロンメタルへとチェンジする。

 

《ジャステリオン、こっちへ》

 

「ああ!」

 

 跳躍したジャステリオンがダブルの眼前へと着地した。

 

《さあ、やってくれたまえ》

 

 フィリップの指示を受け、ジャステリオンがその身を高速で回転させる。加速していくと共に周囲の空気が渦巻き出した。

 

《翔太郎、彼をアシストするよ》

 

「おう!」

 

 メタルシャフトを正面に構えプロペラのように回転させる。サイクロンメモリの力により風の力が増幅され、空気の流れがさらに勢いを増していく。

 

《今だ!》

 

「ジャステリオントルネード!」

 

 フィリップの合図で竜巻と化したジャステリオンが地上を猛スピードで滑りだす。単体でも強力な彼の技にサイクロンメタルの巻き起こす風の力が加わったことで、周囲のあらゆるモノが――アクセルのまき散らした蒸気も含め――凄まじい勢いで巻き込まれていく。

 

「こ、れは……ぐわぁぁぁっ!」

 

「ざっ、けんなぁっ!」

 

 ガイコツ怪人はもちろん、ガンゴーとソンフゥも竜巻に成すすべなく吸い寄せられ、空高く巻き上げられていく。

 

 そして……

 

「なあぁぁぁぁぁっ!」

 

 コソコソと姿を消して動き回っていたドーパントもまた例外じゃあない。

 

《後は一網打尽にするだけだ》

 

「おう。それじゃあ、コイツで決まりだな」

 

 俺は二本のメモリを手にしてドライバーへと差し込んだ。

 

《ヒート! トリガー!》

 

 ヒートトリガーにチェンジした俺は、すかさずトリガーメモリをトリガーマグナムに挿入した。

 

《トリガー! マキシマムドライブ!》

 

 両手で銃を構え、上空に放り出されて宙を泳いでいるヤツらへと狙いを定める。

 

「「トリガーエクスプロージョン!!」」

 

 銃口から発射された高熱のエネルギーが一直線に敵の群れへと迫っていった。

 

「この、僕がぁぁぁぁっ!」

 

「いやぁぁぁぁっ!」

 

 四天王の二人、ガイコツ怪人たちが高熱のエネルギーに貫かれ、あるいは余波を受けて爆散、そして消え去っていく。

 

 やがて……

 

「ぐぎゃあぁぁぁぁぁっ!」

 

 絶叫が響き渡り、程なくして大きな音と共に黒ずくめの人影が地面へと落下してきた。

 

「が、あああ……」

 

「……ん? メモリブレイクしてねえぞ」

 

「どうやら直撃はしなかったようだね、他のヤツの爆風に弾き出されたか、タイミングよく誰かしらが盾になったか」

 

「悪運の強い野郎だぜ、ったく」

 

 地面へ這いつくばっているドーパントの元へ俺らは近づいていく。

 

 と……

 

「私に話をさせてくれないか?」

 

「ジャステリオン?」

 

 ジャステリオンが前へと歩み出てきた。

 

「ああ、わかったよ」

 

 迷うことなく俺はその申し出を了承する。

 

「感謝する」

 

 軽く頭を下げたジャステリオンがヒーローショードーパントへと向き直った。

 

 ドーパントは、やっとこさといった具合で上体を起こしてジャステリオンへと目を向ける。

 

「ヒーローショードーパント……いや、久留瀬厚志さん。もうやめにしましょう」

 

「…………」

 

「ヒーローとしての優劣を決める、ヒーローの座を奪い取るようなマネをするなんて間違っている。そんなことをしなくても私と仮面ライダーは並び立つことができる」

 

「…………」

 

「あなたが私を生んでくれたこと、感謝しています。ですがこれ以上悪事を重ねるのを私は見過ごせない。お願いです、メモリを渡して、そして罪を償って下さい」

 

 ジャステリオンがそっと右手をドーパントへと差し伸べた。

 

「……くっ」

 

 黙していたドーパントが身体を震わせて顔を俯かせる。

 

 その様をジャステリオンは黙って見つめている。

 

 俺と照井もまた、その様子を離れたところから見守っていた。

 

「…………な」

 

「え?」

 

「ふざけるな!」

 

 絶叫したドーパントがジャステリオンの右手を払いのけた。

 

「認めない! 俺は認めないぞ! 俺の生み出したヒーローこそが最強! 唯一無二! そうじゃなくちゃならないんだ!」

 

「久留瀬さん!」

 

 ジャステリオンの悲痛な声が響く。

 

「最早説得は無駄だろう。あそこまでメモリに精神が汚染されていては最早手遅れだ」

 

「メモリブレイクするしかねえか」

 

《致し方ないね》

 

 照井と俺たちはそう結論付けて、ドーパントの元へと歩み寄っていく。

 

「ジャステリオン、お前はもう俺の理想のヒーローなんかじゃない! そんなもの……そんなもの……」

 

 声を荒げ、被りを振ったドーパントがその両手を自らの頭へと押し当てた。

 

「仮面ライダーごと、この街ごと、全部全部壊しつくしてやるっ!」

 

 その瞬間、ドーパントの手のひらから、どす黒い光が発せられた。

 

 それは瞬く間にドーパントの全身を覆いつくしていく。

 

「くっ!」

 

 ジャステリオンがその場から飛び退る。

 

「何だ、このオーラと威圧感は!」

 

「やべぇ感じがする。一体何が起きてやがるんだ?」

 

《あれは……ヒーローショードーパントが英田雄子をジャステリオンへと変化させた時の光に酷似している。まさか自らにその能力を使うつもりなのか?》

 

 驚き戸惑う俺らの視線の先で、黒い光に包まれたドーパントの身体が大きく膨れ上がっていく。

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 ドーパントの絶叫の声が低く唸る。それは人のそれに近いものから、大地を揺るがすようなこの世のものとは思えないものへと変化していく。

 

 見上げるほどに巨大化した光が突如として弾け飛んだ。そして……

 

「フ、フフフフフ、ハハハハハハハッ!」

 

 漆黒の巨人が、いや、魔人が姿を現した。

 

 刃物みたい鋭利な突起が腕や足、胴体にまで生えている。腹には西洋の神話なんかに出てくるデーモンを思わせるような禍々しい顔のような意匠が。無数の牙、大きく吊り上がった深紅の目、そして額にも不気味な瞳が付いた頭部、それは見ているだけで背中に悪寒が奔るようだった。

 

「何なんだアイツは」

 

「我こそがヘルダークネス。地獄大帝ヘルダークネスなり……我に歯向かう愚か者どもよ、消え去るがいい!」

 

 魔人が上に向けて手をかざした瞬間、空にいきなり暗雲が立ち込めた。そして黒い雷が周囲一体に降り注いだ。

 

「んなっ!」

 

「くっ!」

 

 咄嗟に防御の体制を取った俺らの周りの地面が弾け飛んで、直撃こそしなかったものの、その余波で身体に痺れが走る。

 

「あれこそがヘルダークネスの首領にして全ての元凶だ……」

 

 拳を握りしめ、微かに震わせながらジャステリオンは魔人を見上げている。

 

「自らラスボスになりやがったってことかよ!」

 

《これはメモリの特性には無い現象だ。適合率の高さと野望への妄執が新たな能力を引き出したのか……》

 

 分析するフィリップの声にも微かな驚愕の色が浮かんでいた。

 

「だがどうであれ、ヤツは倒すべき敵。それに変わりないだろう」

 

 アクセルがエンジンブレードを構えて進み出た。

 

「確かに。ショーの舞台からご退場願ってさっさとエンディングを迎えようぜ」

 

 俺もまたトリガーマグナムを一回転させて銃口を敵の方へと向ける。

 

「ヘルダークネス、貴様の野望はこの私……いや、私たちが打ち砕く!」

 

 ジャステリオンが高らかに言い放つと共に俺達は一斉に突撃した。

 

「全てを破壊し尽くすべし……蘇れ、我が下僕たちよ!」

 

 ヘルダークネスが大きく腕を振り上げた。その瞬間、コンクリートの上に亀裂が走り出し、それを突き破る様にして無数の腕が飛び出してきた。

 

 やがてそれら、ガイコツ怪人どもは地面からずるずると這い出るようにして姿を現す。

 

「うへぇ、まるでゾンビ映画みてえだ」

 

「翔太郎、あれは」

 

 フィリップに促されて視線を向けると、そこにはついさっき倒したはずの四天王の姿があった。いずれも力なく腕をだらりと下げたようにして、フラフラと身体を揺らすようにして立ち尽くしている。

 

「四天王まで復活させるとは……いや、生気は感じられない。動く躯と化したのか」

 

 苦々しい口調のジャステリオン。その様子からして敵ながらヤツらに憐みの感情を抱いているように俺には感じられた。

 

「油断するな、来るぞ」

 

 アクセルがそう口にすると同時、敵の一団がこちらに向かって一斉に襲いかかってきた。

 

「なっ、こいつらいきなり素早くなりやがった!」

 

 さっきまでのゾンビっぽい挙動とは打って変わって、前に戦った時と同じ位の速さでヤツらは飛びかかってくる。

 

 ヒートトリガーの弾丸で片っ端から撃ち抜いていく。だが倒しても倒してもガイコツ怪人どもは執拗に起き上がってくる。

 

 アクセルとジャステリオンも全力で応戦している。それでも敵の数は一向に減っていかない。

 

「どういうことだこりゃ!」

 

《メモリによる強化の影響が生み出す手下にまで反映されているようだ。これは厄介だね》

 

「こうなりゃ生半可な攻撃じゃなくてマキシマムで一層するしかねえな!」

 

《ルナ! メタル!》

 

 俺はフォームチェンジをして即座にメモリをメタルシャフトに装填した。

 

《メタル! マキシマムドライブ!》

 

「「メタルイリュージョン!」」

 

 振るわれたメタルシャフトの先端から黄色い円盤状のエネルギーが次々に射出されていく。

 

 それらはガイコツ怪人どもに立て続けにヒット、ヤツらは地面に倒れ伏していった。

 

「決まったな」

 

《翔太郎、右だ!》

 

 フィリップの声を受け俺は即座に向きを変えてメタルシャフトを眼前にかざす。漆黒の剣が振り下ろされて、火花を散らす。

 

「ギャックアー!」

 

 現れた闇の剣士は無言で剣を押し当ててくる。その膂力は今までとは比べ物にならない程に強くなっていて、油断すれば押し返されてしまいそうに思えた。

 

「へっ! ちったあやるようになったじゃねえか」

 

 俺の言葉に対してヤツは何一つ反応することなく、連続で剣を振るってくる。

 

「何とか言ったらどうなんだよ、あ?」

 

《どうやら言語機能は喪失しているようだね。最早完全なる殺戮マシーンだ》

 

「交渉の余地なしってか。まあ、元々話の通じるようなヤツらじゃなかったけどな」

 

 俺は飛び退って間合いを取ると、ルナの力を込めたシャフトを振るう。鞭のように柔らかくしなった先端が何度もギャックアーの身体を打ち付ける。

 

 そしてヤツの身体にそれを巻きつけると、大きく腕を振るってそれを遠くへと投げ飛ばした。

 

《次、来るよ!》

 

 フィリップの警告と同時に飛来する光弾。地面を転げるようにしてそれを避けながら、俺はメモリチェンジを行う。

 

《トリガー!》《ルナ! トリガー!》

 

 立て膝の姿勢から銃を連射し、立て続けに飛んでくる光弾を撃ち落としていく。

 

「今度は魔法使いもどきか。忙しいったらありゃしねえ」

 

 ちらりと横目で周囲を見てみれば、アクセルは槍使いのソンフゥと、ジャステリオンは怪力のヒードゥーの相手をしているのが見える。

 

「ともあれこいつらを片づけねえと、ボスキャラと戦うのもおぼつかねえ」

 

 俺は走りながらトリガーマグナムを連射し、ガンゴーとの撃ち合いを続けていく。

 

《何かがおかしい……》

 

「どうした、フィリップ?」

 

《ガイコツ怪人たちの姿がやけに少ない》

 

「そりゃあ、俺やみんなが倒したからじゃ……」

 

《だとしても……》

 

 そんな時、近くに倒れていたガイコツ怪人の一体が立ち上がり、フラフラと動き出すのが見えた。

 

 飛びかかってくるのかと警戒してみれば、そいつはあさっての方向へ歩いていく。

 

《そうか! しまった! アイツらの狙いは!》

 

 フィリップの至った考えに少し遅れて俺も気づく。

 

 そして振り向いてみれば、ガイコツ怪人の集団がイベント会場を後にしていくのが目に入った。その先には……

 

「避難した人達と街が!」

 

 あれだけの集団に襲いかかられたら戦う力を持たない一般人はひとたまりもない。

 

「クククク……ようやく気づいたか」

 

 余裕たっぷりといった具合にヘルダークネスがこっちを見下してくる。その表情は嫌らしく歪んでいるように見えた。

 

「クソッ! このままじゃ……照井! 街に向かったヤツらを頼む!」

 

「ああ、了解だ」

 

 相対していたソンフゥに背を向けると、アクセルは飛び上がってバイク形態に変形。凄まじい速度で敵を追いかけていく。

 それを追いかけようするソンフゥに対し、俺は連射して牽制。注意をこっちに引き付ける。

 

「やれやれ、二対一か。骨が折れそうだ」

 

《翔太郎、ここはエクストリームを使用して乗り切ろう。複数のメモリの力を引き出せば対応は可能だ》

 

「その方が良さそうだな」

 

 俺はドライバーのメモリを二本同時に交換する。

 

《サイクロン! ジョーカー!》

 

 サイクロンジョーカーにフォームチェンジすると同時、甲高い電子音の鳴き声が響いてきた。

 

 そして俺がドライバーを閉じると共に空に二本の光の柱が伸び、エクストリームメモリはそこへ向かって飛来してきた。そしてダブルの最強フォームへと俺達はチェンジする。

 

「そうはいかん……」

 

 だがその時、ヘルダークネスがエクストリームメモリへ向けて左の手のひらを広げて見せた。そこに収まっていたもの、禍々しい様相の瞳が見開かれ、妖しい光を放った。

 

《あっ!》

 

 その瞬間、光を受けたエクストリームメモリの動きがピタリと止まり、そのままの状態で地面へと落下した。

 

「おいっ!」

 

 慌ててエクストリームメモリを拾い上げる。見た目の上では傷も無く、正常であるように見えたのだが、何をどうやっても動き出す様子は無かった。

 

「どうしたってんだよ!」

 

「我の魔眼の力により動きを封じた。もうそれが動き出すことは永遠にない」

 

《何だって!?》

 

 フィリップの驚きが伝わってくる。

 

 この状況はマジでやべえ。エクストリームメモリの中にはフィリップの身体が収められている。何としてでもメモリを元に戻さねえと!

 

「ハッ! どうせお前を倒せば動き出すってオチだろ!?」

 

「出来るものならな」

 

 ヘルダークネスがこっちに向けて左手を広げてきた。手のひらの瞳が徐々に見開かれていくのが見えた。

 

「危ねえっ!」

 

 俺は跳躍してその視線から咄嗟に逃れる。

 

 だがそこを狙いすましたかのように飛んでくる無数の光弾が。

 

「なっ!」

 

 その直撃を受けた俺は地上へと落下する。

 

「くっ……!」

 

 どうにかして上体を起こしかけた所へ聞こえてくる風切り音。

 

 俺は咄嗟に身を捩って転げさせる。俺のいた所へ槍の先端が突き刺さった。

 

 地面に身を投げ出した姿勢で見上げてみれば、そこにはゆらゆらと身体を揺らしながら佇むソンフゥの姿が。

 

 そんな様子には不釣り合いなぐらいに素早く、間髪入れず繰り出される連撃を俺は身を捩ってかわしていく。 

 

「これでも喰らいな!」

 

 そしてブレイクダンスの要領で身体をコマのように回し、足払いを仕掛ける。

 

 だが、それより速くヤツは跳躍した。身体を捻りながら高速で回転し、その勢いを乗せた槍の石突による薙ぎが繰り出される。

 

「がはっ!」

 

 鋭い衝撃を脇腹に受けると共に、俺の身体は凄まじい勢いで地面を転げていった。

 

「仮面ライダー!」

 

 ジャステリオンの声が響く。

 

 程なくして起こる大きな地響き。

 

 ジャステリオンと相対していたヒードゥーが地面に両手のひらを連続で激しく叩きつけていた。

 

 凄まじい地揺れによろめいたジャステリオンの身体をヒードゥーは掴み上げ、強力な力で締め上げた。

 

「ぐ、ああああああっ!」

 

 苦悶の声を漏らすジャステリオン。

 

 程なくしてその身体は勢いよく放り投げられ、俺のそばへと落下してきた。

 

「ぐはっ……!」

 

「大丈夫か、ジャステリオン!」

 

「な、なんの……これしき」

 

 よろけながらどうにかして立ち上がろうとするジャステリオン。

 

 俺も痛む身体に鞭打って立ち上がっていく。

 

「滅びるがいい」

 

 頭上から、まるで地獄の底から響くような重低音の声が発せられ、それと共に黒い雷が降り注いでくるのが俺の目に映った。

 

 そして視界は真っ白に染められた。

 

 

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