風都探偵以前orパラレルを想定しています。
「仮面ライダー……ジャステリオン……」
イベント会場の入口付近から更に先、大規模駐車場まで避難していた果穂は、不安げな表情で倒壊したステージの方を見つめていた。
暗雲立ち込める空の下、巨大な魔人が佇んでいる。
その足元ではヒーローたちが決死の戦いを繰り広げているのだが、衝撃で舞い上がる粉塵や煙などに阻まれ、この場所からはその全容を窺い知ることは出来ない。
「果穂」
「プロデューサーさん……」
プロデューサーが片足を微かに引くような、おぼつかない足取りで果穂の元へとやってくる。
「心配か?」
「……いいえ、大丈夫です。あたし信じてます。正義のヒーローは絶対に負けないんだって」
「そうだよ。仮面ライダーはこの街の危機を何度も救ってきたヒーローなんだもん。あんなやつら、けちょんけちょんにやっつけてくれるよ。……あ、もちろんジャステリオンもね」
果穂に付き添ってきていた亜樹子が笑顔を見せる。それに釣られるようにして二人もまた微笑を浮かべる。
「お、おい、何だあれ?」
と、周囲の観客が口にする。
その指差した方角にはこちらへと向かってくる一団が。力なく上半身をだらりと下げるようにして歩いてきたそれは、不意に顔を一斉に上げ、歯をけたけたと鳴らすかのような動きで笑い出した。
避難してきた人々がにわかにどよめき出す。
そして程なくして、その動きをピタリと止めたガイコツ怪人達は、先程までの緩慢な動作とはうって変わって素早い動きで人々の元へと突撃してきた。
そこかしこで悲鳴が上がり、観客やイベント関係者が一目散に逃げ出していく。
周囲に控えていた警官たち十数名が前に進み出て銃を構える。
「止まれ! 止まらなければ撃つぞ!」
無論警告など意に介さずガイコツ怪人たちは、そのままの勢いで突っ込んでくる。
「撃てーっ!」
声がかけられると共に一斉に発砲音が響きだす。
「果穂っ!」
「っ!?」
プロデューサーが果穂の身体を抱くように引き寄せた。同時に彼の持っていた小さなバッグが落ちて中身が地面に散らばる。その音はけたたましい銃声にかき消される。
そして銃撃を受けたガイコツ怪人が一体、また一体と倒れていく。
しかしながら警官隊に比してその数は圧倒的で、突撃の勢いは止まることを知らない。
「散開! 散開ッ!」
直近まで迫られて状況が不利だと判断した警官隊のリーダーが命令を発する。
それに従い散らばる警察官へと、ガイコツ怪人が次々と群がっていく。
銃で応戦する警官の一人がガイコツ怪人の群れにまとわりつかれて地面に組み伏せられる。
「くっ! このっ……がっ、ああああ……た、助けっ……!」
勇ましい声が勢い削がれ、絶望、命を乞う悲鳴へと変わっていく……その時
「おりゃあっ!」
ガイコツ怪人に繰り出される蹴り、手にした角材による殴打、ダメ押しに投擲されたツボ押し器がスコンと音を立て顔面に命中した。
「お、お前ら! こんなマネしてタダで済むと思うな!」
歳若い刑事の若干へっぴり腰気味の姿勢から放たれた銃弾が、ガイコツ怪人の一体の額に命中。周囲の怪人を巻き込みながら将棋倒しに倒れていく。
「大丈夫か、ほれ」
「た、助かりました……」
手を差し伸べられた警官が立ち上がった。そしてその背中をバンと叩かれる。
「一息つくのは後だ。他の奴らと一般市民を助けに行ってこい」
「は、はい!」
警官は感謝の敬礼もそこそこに回れ右をして全力で走っていく。
「刃野刑事!」
「おう、亜樹子ちゃん」
呼びかけられた刃野刑事が亜樹子の元へと小走りで近づいていく。
「大変なことになっちまったなあ」
「ほ、本当ですよ。一体何なのコイツら」
息を荒げながら、どうにか近くのガイコツ怪人を一掃した、真倉刑事もまたやってくる。
「ゆっくり話してる暇は無く……って、またこっちに来た!?」
新たなガイコツ怪人の一団が近づいてくるのを見た亜樹子が甲高い声を上げる。
「オイオイオイ、ちったあ休ませろよ」
「とにかくこの二人を避難させるの手伝って! ほら、マッキーは私と一緒にプロデューサーさんの肩持って」
「ええっ? ったく、人使いが荒いんだから」
「つべこべ言わない! 警察でしょ!」
亜樹子にどやされて真倉刑事がプロデューサーの左半身を支えるように並び立つ。
「申し訳ありません」と頭を下げるプロデューサーに対し、真倉刑事は苦笑いを浮かべていた顔を微かに引き締める。
「殿は俺が務めるからよ、行った行った……と、兄ちゃん、このライト借りるぜ」
「あ、はい」
刃野刑事はその場に落ちていたプロデューサーのバッグから零れ落ちていたコンサートライトを二本拾い上げる。
そして同じく落ちていた携帯の充電ケーブルと、何処からともなく取り出した紐とを起用に結びつけて両端にライトを取りつけた。
そしてそれを軽く振り回して脇に挟むようにして構えを取った。
「俺の必殺カンフー第二幕の幕開けってなあ!」
意気揚々と飛び出した刃野刑事はお手製のヌンチャクでガイコツ怪人の頬を殴り飛ばす。
続けざまに身体の周りをグルリと回転させ、背後から近づいていた二体にヌンチャク攻撃をお見舞い、振り向きざまに別の一体の脳天へとその先端を叩きつけた。
「ホアァァァーーッ!」
往年のアクション映画スターのような声を発してポーズをキメた刃野刑事は、突進してくる一体のガイコツ怪人に応戦すべく走り出し、すれ違いざまに姿勢を低くしヌンチャクの足払いを仕掛けた。
すっ転んだガイコツ怪人の腹部へとライトの先端を突きつけ
「ホアタタタタタタタタタタタタタタタタタタアッ!」
連続で突きを繰り出した。突きが当たるたびにライトの色が次々に変わっていく。
程なくしてガイコツ怪人はぐったりとしてその動きを止める。
「お前はもう死んでいる……なんつってな!」
上機嫌の刃野刑事が高笑いをしていると、視界の端に動く何かが映る。
「次の相手はお前かっ!」
すかさずヌンチャクを振るって先手必勝とばかりに攻撃を繰り出す。
だがしかし、パシッという乾いた音と妙な感触が伝わってくる。
「んん?」
首を捻ってその方向を見てみれば、そこには先端のコンサートライトを手で受け止めた漆黒の鎧を着た怪人が立っていた。
「どわあっ!?」
鎧の怪人に掴まれたヌンチャクを手放して、慌ただしく後退りする刃野刑事。
鎧の怪人はライトを粉々に握り潰し、片手に持っていた大剣を振り上げる。
「ちょっ、タンマタンマ!」
手をかざして相手に訴えかけるが無情にも剣は振り下ろされた。
「ギャーッ!」
と、その瞬間、彼は足を滑らせて盛大に尻もちをついた。
「っ痛ててて」
痛みに顔を歪めた刃野刑事が目を開くと、目の前のアスファルトの地面が両断されていた。それを見た彼の目が一段と大きく見開かれる。
そして聞こえる足音。間合いを詰めた怪人は再び剣を振り上げる。一度は運よく躱せたものの、今度ばかりはそう上手く行くはずもない。
彼の脳裏に数々の思い出が蘇りだす―――
かに思われた瞬間、猛烈な駆動音を轟かせながら一台のバイクが突撃してきた。
その赤きバイクは鎧の怪人を跳ね飛ばし、刃野刑事の前で人型へと形を変えた。
「赤い、仮面ライダー!」
「ヤツは俺に任せてここを離れろ」
「は、はい! ご苦労様です!」
刃野刑事は慌ただしく敬礼をして、勢いよく回れ右。全速力で去っていったのだった。
「貴様がこっちへ来ていたとはな」
アクセルの視線の先で鎧の怪人、ギャックアーがゆっくりと起き上がる。
それと共に刃野刑事に倒されたガイコツ怪人らも次々と起き上がりだす。否、それだけではない。警官たちが倒したはずのガイコツ怪人らも同様だった。
そうして程なくして、アクセルは敵の大群に完全包囲される形となった。
「ここ一帯の敵が全て向かってきてるようだな」
小さく呟いたアクセルはエンジンブレードをゆっくりと、水平に構えた。
「むしろ好都合だ。さあ……振り切るぜ」
彼がそう告げるのと敵が突撃してくるのは完全に同時だった。
最初に飛びかかってきたガイコツ怪人を横薙ぎの一撃で両断、続けざまに身体を捻って別の怪人によって振るわれた拳を避けると、ブレードの振り上げで腕を切り飛ばし、返す刀で袈裟切りに。
そして勢いを乗せたまま身体を一回転させ、円形に包囲せんと迫っていた怪人の群れを弾き飛ばす。
《エンジン!》《エンジン! マキシマムドライブ!》
一瞬のうちにエンジンブレードに装填したメモリの力を解放したアクセルは、次に迫りくる一団へ向けて必殺の一撃を繰り出した。
“A”の字を描くような軌道で振るわれたブレードが一度に複数体のガイコツ怪人を葬り去った。
そして次なる敵が三体、フラフラとした足取りで近づいてくるのを認めた彼は、エンジンブレードを構え直し一閃を繰り出す。
「……!?」
刹那、ガイコツ怪人らの身体が横一閃に両断され、漆黒の刃がアクセルへと襲いかかった。
漆黒の刃はアクセルの眼前で火花を散らし、その動きを止める。エンジンブレードの腹が刃を受け止めていた。
彼は攻撃の瞬間に不吉な予感を覚え、振り抜きかけた剣を胸元へと引き寄せていたのだった。
「味方の身体ごと攻撃してくるとは、左たちの言った通り手段は選ばんようだな……」
相対するギャックアーに言葉を投げかけるも、反応が帰ってくることはない。
そして新たなガイコツ怪人が近づいて来ると共に、その姿は影に潜り込むようにして消えていった。
(影に潜んでの奇襲、対応は不可能では無い。だが相手のペースに乗ってやる理由も無い)
アクセルは距離を取り、ヒット&アウェイ戦法を仕掛けるべく動き出そうとする。
だが、その瞬間……
「何ッ!?」
彼の脚に何かが絡みついた。足元に視線を向けてみれば、そこには先程両断されたはずのガイコツ怪人が上半身だけの状態で這いずり動いている様だった。
「くっ!」
右脚に組みついているガイコツ怪人へとエンジンブレードを突き立てる。
グシャリという音と共にその身を潰されるガイコツ怪人。腕の力が緩み、アクセルがそれを振り払おうとする。
だが今度は別の怪人の上半身が左足へと、更にまた別の怪人がブレードを持つ腕へと絡みついてきた。
「このっ!」
もがいて逃れようとするアクセルへと近づいてきたガイコツ怪人が、次々にその身を絡みつかせて来る。
やがて身動きが完全に取れなくなったアクセルへと、影から這い出てきた悪逆の戦士による刃が振り下ろされた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「フフフフフフ、クククククク、ハーッハッハッハッハ!」
襲撃を受けた場所を更に離れた所まで避難してきた人々の耳に、地の底から響くような重低音が聞こえてくる。
そしてイベントステージの上空に、暗雲をスクリーンのようにして、一つの映像が浮かび上がった。
仮面ライダーダブルが槍撃の猛攻をその身に受けて膝をついていた。
背を地につけて倒れ伏しているジャステリオンの下半身が巨大な猛牛のような敵に踏み潰されていた。
無数の敵に絡みつかれた仮面ライダーアクセルの装甲が切り刻まれていた。
「人間どもよ、恐れおののき絶望するがいい! 貴様らの希望たるヒーローどもは強大なる我々の力の前に敗れ去るのだ! そして貴様らの命もそれまで……」
魔人の宣告に人々は成すすべなく立ち尽くしていた。逃げる気力さえも奪われ、その心を絶望に支配されつつあった。
「みんなが……」
小宮果穂の心にもまた暗雲が立ち込めていた。憧れるヒーローの痛めつけられる様、強大な力を持つ悪の所業を目にして恐怖の感情に押しつぶされそうになっていた。
「果穂……」
彼女の傍らに立ち、手を握るプロデューサーに微かな震えが伝わっていた。
「ふざけたこと抜かすなーっ!」
そんな時、一際大きな声を張り上げる人物がいた。
「仮面ライダーはね、どんな時でもどんな絶望的な状況でもこの街を、みんなを救ってきたのよ! あんたらみたいなのに負けるわけないんだから! 頑張れ仮面ライダーッ!」
鳴海亜樹子が「正義は勝つ!」との文字が刻まれたスリッパを大きく振り上げながら叫んでいた。
「所長さん……」
その姿を目にした果穂の目に、幾つもの光景が浮かんできた。
「どういたしまして。君のような純真な気持ちを持つ子の声は私に勇気を与えてくれる」
ヒーローが自分の声に力を貰っていたということ。
「はい。戦ってる姿がすーっごくカッコいいですし、何よりあたしやプロデューサーさん、スタッフの人達を助けてくれましたから。あっ、もちろん仮面ライダーだってあたしは好きです!」
自分がそのヒーローに憧れを抱いたこと。
「だったらその気持ち、みんなにも伝えてあげましょ、ね?」
同じくヒーローを愛する女性が気持ちを伝えることの大切さを説いてくれたこと。
「……そうだ……そうするんだ!」
果穂は大きく息を吸い込んで、ありったけの力を込めて叫んだ。
「ジャステリオーン! 仮面ライダーッ! 頑張れーっ!」
そして隣のプロデューサーへと目を向ける。
「プロデューサーさんもジャステリオンと仮面ライダーを応援してください! お願いしますっ!」
「果穂……わかった! ジャステリオンも仮面ライダーも頑張れーっ!」
プロデューサーの叫びが果穂と亜樹子の声に重なった。
更に果穂は周囲の人々の前に躍り出た。
「みなさん、お願いしますっ! 仮面ライダーとジャステリオンに声を、パワーを送り届けてくださいっ! 悪の声なんかに負けないで!」
イベントの観客、スタッフ、アイドル達は突然の果穂の申し出に目を瞬かせる。戸惑い、諦観、嘲り、様々な想いの混じったざわめきが起こりだす。
「お願いしますっ! みなさんの応援が必要なんですっ!」
果穂はなおも懇願する。そして……
「が……頑張れっ! 仮面ライダー!」
恐怖を目に浮かべていた一人のアイドルが、震える声を張り上げた。
「……負けるな! みんな!」
身体に多数の擦り傷を負った一人のスタッフが痛みに耐えながら叫んだ。
「そんなやつらぶっ飛ばせーっ! ジャステリオン!」
土に汚れた推しアイドルのTシャツを着た一人の観客が咆哮した。
人々の声は連鎖し、その規模を増していく。やがて辺りにはヒーロー達への強い想いが、願いが溢れだした。
「やったな、果穂!」
「はい! でも、まだまだですっ!」
そうして果穂は新たな提案をプロデューサーへと申し出る。
即座にそれを了承したプロデューサーは、スマホを構えて果穂に向けた。
「準備OKだ!」
「はいっ!」
自らの頬をぱちんと叩いて気合いを入れた果穂が精一杯の気持ちを込めて喋り出す。
「画面の向こうのみなさん! 小宮果穂です! 今風都では悪の軍団とヒーローたちが戦っています! ヒーローたちはピンチになってます! だけどいっしょうけんめいにがんばっています! だから、みなさんも応援を、パワーをヒーローたちに届けてください、お願いします! 仮面ライダーッ! ジャステリオーン! がんばれーっ! 負けるなーっ!」
「これって……生配信ってやつ!?」
亜樹子がタブレット端末を表示させてみれば、果穂の公式チャンネルにて今正に彼女の訴えが配信されていた。
「……みんなにこの声、届けてあげなきゃ!」
そうして亜樹子はフィリップから預かったスタッグフォンを手にして駆けだした。
程なくして一台の巨大装甲車が戦場を走り抜けていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「がはっ!」
ヒードゥーの巨大な脚に蹴り飛ばされ私の身体は木の葉のように宙を舞い、地面へと転がり落ちた。
立ち上がらねば……ヤツらの野望を打ち砕き、世界を守らねば……
だが気持ちとは裏腹に、身体には上手く力が入らない。全身が鉛のように重い。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
聞こえてくる悲鳴。どうにかして頭を上げ目を見開いてみれば、仮面ライダーへとガンゴーの放った光弾が次々と襲いかかっていた。
幾つかの直撃弾を受け、膝から崩れ落ちそうになるのをどうにかして彼は耐えていた。
「しぶといヤツらだ……だが、今度こそ終わりだ」
ヘルダークネスが腕を上げると共に、ヤツの頭上の暗雲に稲妻が走り出す。
今直撃を受けてはマズイ。思考が警告を発する。だがしかし、限界を迎えつつある身体は亀のようにゆっくり動くので精一杯だった。
それでもどうにかして立ち上がったところへ
「待ちなさーいっ!」
地面を震わせながら巨大な装甲車が近づいてくるのが見えた。
「亜樹子!?」
仮面ライダーの驚愕する声が響く。
「これを見てーっ!」
装甲車の、目を模したような窓から半身を乗り出した女性が何かを持った手を大きく振っている。
「邪魔をするなっ!」
ヘルダークネスが左の手のひらを装甲車へ向けてかざし、その内にある目を見開いた。
その瞬間、装甲車は駆動をピタリと停止させ、慣性のままに前へとひっくり返る。
「うぎゃあぁぁっ!」
「亜樹子ッ!」
装甲車から投げ出された女性を仮面ライダーが、その落下点に滑り込みながら受け止めた。
「死ねいっ!」
ヘルダークネスの声と共に黒い稲妻が降り注ぎ、私の身体を貫いた。
意識が遠のき視界がぼやけていく。視界の端には――女性を守るように覆いかぶさって――稲妻を受けて倒れ伏している仮面ライダーの姿が映る。
ヤツらを倒せる者はもう……
私の意識と視界は段々と黒く塗りつぶされていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
《―――れっ! ――――オン! ―――ライ―――!》
聞き覚えのある声がした。
《負け――――でっ! 立ち上が――!》
私が守った、守るべきモノ……
ぼやけた視界、倒れた私の顔のそばにある何かから声がする。
《悪いヤツらなんかに負けないでジャステリオン!》
這いつくばりながら顔を上げると、そこには一台のタブレット端末が落ちていた。
その画面の中では
《頑張れーっ! ジャステリオン! 仮面ライダーッ!》
赤毛の少女が目に涙を浮かべながら精一杯に声を張り上げていた。
《仮面ライダーッ!》
《ジャステリオン!》
彼女の背後にいる多くの人々もまた大声で叫んでいた。
「…………」
ボロボロで限界を迎えたはずの身体に力が、ほんの僅かに溢れてきた。
「私は……」
手のひらを地面につき、膝を立てていく。ゆっくりと、ふらつきながらも力強く大地を踏みしめて立ち上がる。
「貴様……まだ動けたのか」
ヘルダークネスの憎々し気な声。
「私は……」
「死にぞこないめが。今度こそ引導を――」
それをかき消すように、私は咆哮した。
その時、風都からは離れたとある場所で……
とあるお団子髪の女子高生が、仲間の懸命に叫ぶ姿に呼応して声を上げた。
とある着物姿の少女が、祈るようにして声を張り上げた。
とある金髪の少女が、着物の少女の傍らでヒーローの名を叫んだ。
とある女性が、傍らの愛犬の咆哮と共に拳を突き上げてエールを送った。
そして、ヒーローを愛する少女が天にも届かんばかりの声を上げた。
「負けるなーっ!! ジャステリオーーーン!!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「私はジャステリオン! 悪を倒す正義のヒーローだっ!」
気を失いかけていた俺の頭に凄まじく大きな、心を震わせる、声が響き渡った。
「翔太郎君っ!」
「ん? ああ」
手をついて身体を起こしてみれば、下の方に半べその亜樹子の顔が見えた。
「大丈夫だったか?」
「おかげさまで。それよりも、あれ」
一緒に立ち上がって亜樹子の指差す方を見てみれば、そこには黄金色に全身を輝かせる戦士の姿があった。
「あれは、ジャステリオンか?」
「私、聞いてない……」
俺達は驚きのあまりその場に立ち尽くしていた。だがそれは敵も同じだったようで……
「な……何なのだ貴様! その姿は!」
「これこそが私の真なる力、姿……ジャステリオンゴールドフォーム!」
「ジャステリオンゴールドフォームだと!? ……小癪な! 喰らえ!」
激昂したヘルダークネスが再び雷を放った。
「危ねぇっ!」
俺は亜樹子を守ろうと咄嗟に身構えた。
「ジャステリオンイージス!」
だが降り注ぐ雷は右手をかざしたジャステリオンが作り出したドーム状のバリアで完全に防がれていた。
「何だとっ!」
驚きのあまり大きく目を見開くヘルダークネス。
「ジャステリオンサーチ!」
続けざまにジャステリオンは左手を開いてヘルダークネスへ向けてかざす。
それと共に拡散する光が発せられ、やがて収束してヘルダークネスの左手を指し示した。
「そこかっ!」
次にジャステリオンは開いた左手のひらに右の握り拳を押し当てて叫んだ。
「ジャステリオンソード!」
手と手の間から銀色に輝く光が溢れ出した。ジャステリオンは合わせた手をゆっくりと横に引き離していく。それはまるで鞘から刀を引き抜くような仕草に見えた。
「はあぁぁぁぁぁっ!」
ジャステリオンは間髪入れずに右手に現れた銀色の光の剣を構えてヘルダークネスに突撃していった。
「させるか!」
ヘルダークネスが左手をジャステリオンに向けて開いた。エクストリームメモリやリボルギャリーを停止させた視線を浴びせかけるつもりだ。
手のひらにある禍々しい目が開かれた。
だがその瞬間、銀の光がヤツの左手を貫通していたのだった。
「ぐおぉぉぉぉぉぉっ!!」
ヘルダークネスは身を捩らせながら悶え苦しんでいる。
そして、俺の耳に電子音声のさえずりが聞こえてきた。
「エクストリームメモリが!」
《ヤツの能力の要である目が破壊されたことにより呪縛から解き放たれたようだね》
「ああ、おかげでやっと究極の力を振えるってもんだ!」
俺は展開した状態のダブルドライバーを両手で閉じる。それと共に挿入されているメモリから二本の光の柱が空へ向けて伸びていく。
そして飛来したエクストリームメモリが光に沿うように降下してダブルドライバーと合体した。
俺はメモリを左右に展開する。
《エクストリーム!》
凄まじい光がダブルの身体の正中線から溢れ出してくる。
光の溢れ出てくる胸元の隙間に手を差し込み、身体を左右に割り開いた。
全身を包み込む光が消え去った時、俺達は究極のダブルに姿を変えていた。
「な、何だその姿は!」
「それじゃあ、ジャステリオンにならって俺らも名乗らせてもらおうか」
驚き戸惑っているヘルダークネスに指を突きつけ、相棒と共に宣言した。
「「これこそが究極のダブル、仮面ライダーダブルサイクロンジョーカーエクストリームだ!」」
ヘルダークネスが口元と目を不愉快そうに歪めていた。
「どいつもこいつも小賢しい……! だが、我と蘇りし最強の四天王の敵ではないわ!」
ヘルダークネスの声に呼応するようにしてヒードゥー、ソンフゥ、ガンゴーがその前に並び立つ。
「敵戦力の全てを閲覧した」
唐突に発せられたフィリップの言葉にヘルダークネスは意味不明とばかりに眉間に皺を寄せていた。
「ヘルダークネス。その力はあくまでもヒーローショーメモリの進化系であり、その範疇を大きく逸脱するものではない。従って能力には穴がある」
「何を言うか! 我こそ絶対! 最強の存在――」
「一つ具体的に言うと、君はそこから一歩も動くことが出来ない」
「!?」
フィリップの決定的な一言にヤツの眉間の皺がますます深くなった。
「生み出した怪人たちを使役する事に特化したが故の制約と弱点。何度もチャンスはあったのに四天王と連携して直接攻撃してこなかったのが何よりの証拠さ」
「…………」
「へっ、どうやら図星みてえだな。部下に命令するのと雷を落とすだけが取り柄の口だけ上司ってやつかね」
俺の軽い挑発を受けてヘルダークネスは牙の生えた歯をギリギリと鳴らす。
「黙れ! 我をコケにする者は生かしておけん! 四天王よ、ヤツらを血祭りに上げるのだ!」
「っと、怒らせちまったか?」
「何を今更。元々そのつもりだったんだろう?」
「まあな。じゃあ、こっからはマジで決めさせてもらうか」
「「プリズムビッカー!」」
俺達の声に呼応して身体の中央から盾のような武器が現れる。
《プリズム!》
起動したプリズムメモリを盾の中央にある剣の柄へと挿入して引き抜く。
プリズムソードとビッカーシールドを構えて俺らは迫り来る四天王に相対した。
「行くぜジャステリオン。クライマックスのスタートだ」
「ああ! 最高のエンディングを迎えて未来へのバトンを繋いでみせよう」
どこか口調が固かったジャステリオンが小粋な返しをするようになったのに親しみを覚えた俺の口元はマスクの下でちょっぴり綻んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
時を同じくして……
「くっ……」
仮面ライダーアクセルは大量のガイコツ怪人に絡みつかれ地面に倒れ伏していた。
ガイコツ怪人たちはアクセルもろともギャックアーの刃に切り刻まれ続けたため、損壊が激しくその様はバラバラ死体の如く、異様なものとなり果てていた。
そして黙するギャックアーが最早何度目か知れない斬撃をアクセルへ浴びせかけんと剣を大きく振り上げた。
刹那……
エンジン音が轟いた。更に二度三度と唸るように。それに伴って爆発的な高熱が発声した。ガイコツ怪人らの表皮がグズグズと音を立てて変質していく。
そして……
「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ベルトのスロットルを回して膨大なエネルギーを纏ったアクセルが、飛び跳ねるように起き上がった。
それと共に解放されたエネルギーの衝撃により、ガイコツ怪人の群れとギャックアーが跳ね飛ばされた。
「地獄の果てまで……振り切るぜ」
アクセルは手にした大型のガイアメモリを起動させた。
《トライアル!》
ドライバーに装着されたトライアルメモリがシグナル音をもってカウントダウンをする。
それに伴ってアクセルの装甲が赤から黄色へ、そして青い軽装のボディへと変化し、高速の闘士アクセルトライアルへとフォームチェンジを果たした。
アクセルはドライバーからメモリを取り外し、タイマーを起動させて宙へと放った。
超高速で走り出したアクセルトライアルの蹴りが、起き上がりかけているガイコツ怪人へと炸裂する。更に目にも留まらぬ速さで別の怪人へと蹴りが、続けてまた別の怪人へと拳がぶつけられる。
残像を伴って戦場を駆け巡るアクセルトライアルは、敵の群れへと次々に攻撃を繰り出していく。
だが、周囲の敵の総数はおよそ百体程度。メモリの制限時間である10秒以内に倒しきることは、トライアルの超高速を以てしても不可能であるように思われた。
そして、宙を舞っていたアクセルメモリがアクセルの手元へと落ちてくる。
タイマーストップと同時に表示されたタイムカウントは……9.9秒。
メモリから特殊な効果音が鳴り響き、タイムカウントが再び始まった。
トライアルメモリを放り、アクセルは再び戦場を疾走する。
全ての攻撃を終えたアクセルが手にしたトライアルメモリのカウントは……8.9秒。
《トライアル! マキシマムドライブ!》
「絶望が、お前たちのゴールだ」
その瞬間、周囲一帯に存在していた全てのガイコツ怪人たちは塵一つ残さずに消滅したのだった。
今やこの戦場に在るのは仮面ライダーアクセルと、隠れる影を失い特殊能力を実質封じられたギャックアーの二人のみ。
次にアクセルメモリを取り出した仮面ライダーアクセルは、銀色の拡張装置を合体させた。
《アクセル! アップグレード》《ブースター!》
アクセルドライバーにそれが装着され、瞬く間にアクセルは黄色い姿へと変化。
ジェットエンジンのようなアーマーを装着した飛行形態、アクセルブースターが顕現した。
アクセルは全身の飛行装置を稼働させ上空へと飛翔する。
そして手にしたエンジンブレードへとエンジンメモリを挿入した。
《エンジン!》《エンジン! マキシマムドライブ!》
ブレードを両手で構えたままアクセルブースターは猛然と急降下する。
上空を見上げるギャックアーの足元に影が差す。その大きさは徐々に増していく。
作り出された影へとその身を足元から沈めていく闇の戦士。だが……
「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
影に完全に溶けるより早く、その半身をアクセルのブレードが切り裂いた。
地面すれすれから反転上昇したアクセルは背後を振り返ることなく言葉を口にする。
「光と闇の狭間、そこがお前のゴールだ」
地上では音もなく漆黒の鎧が霧散し、手から零れ落ちる剣もまた地面へと突き刺さる前に消失したのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
とんがり帽子の魔術師が掲げた右腕。その先には無数の光弾が出現していた。
それらはヤツが腕を振り下ろすと同時にダブルへと変幻自在の軌道で襲いかかってきた。
だがそれより速く
《サイクロン! マキシマムドライブ!》《ヒート! マキシマムドライブ!》《ルナ! マキシマムドライブ!》《メタル! マキシマムドライブ!》
「「ビッカーファイナリュージョン!」」
俺は四本のメモリによるマキシマムを発動させていた。
ビッカーシールドを中心として現れた光の盾が光弾を全部受け止めた。エネルギーが弾け飛んで爆煙が目の前に立ち込める。
「今だジャステリオン!」
「とあぁぁぁぁぁっ! ジャステリオンスラッシュ!」
合図を受けて、爆煙を突き破る様にして跳躍したジャステリオン。すれ違いざまに降り抜かれた光の剣が、ガンゴーの身体を上下に両断する。
それは地面に落ちることなく、宙空で消え去った。
ジャステリオンが着地すると同時、猛烈な地響きが。角を振り乱しながら、彼目掛けてヒードゥーが突進してくる。
けれどもその巨体は間に割り入ってきた巨大なマシン、リボルギャリーに阻まれた。
リボルギャリーがエンジン音を轟かせて、ヒードゥーが両腕の筋肉を盛り上がらせて、互いを押し合っている。
せめぎ合う二つの力は完全に拮抗していた。
けれども猪突猛進の力押しだけじゃあリボルギャリーは倒せやしないぜ。
リボルギャリーがタイヤをスピンさせてその場でターンをした。
突然取っ組み合いから解放されて勢い余ったヒードゥーの巨体が前方へとつんのめって転倒する。
《サイクロン! マキシマムドライブ!》《ヒート! マキシマムドライブ!》《ルナ! マキシマムドライブ!》《ジョーカー! マキシマムドライブ!》
再び四本のガイアメモリを装填して、起き上がりかけているヒードゥーに向けて狙いを定める。
ビッカーシールドはただの盾じゃない。メモリの組み合わせによって様々な能力を発揮する攻防備えた万能の兵装だ。
「「ビッカーファイナリュージョン!」」
シールドから七色の光が溢れ出して拡散する。やがて収束したそれは一筋の光線になってヒードゥーの巨体を貫いた。
光が完全に収まった時、ヤツの巨体は見る影も無く消え去っていた。
「たあっ!」
聞こえてきた声に目を向けてみれば、ジャステリオンが残る四天王の一人、ソンフゥと交戦してその槍の先端を切り飛ばしている姿が見えた。
ソンフゥが柄だけになった槍を投げ捨てて回し蹴りを繰り出す。けれどもジャステリオンはそれを飛び上がって回避。空中で一回転して着地したジャステリオンは、振り返ることなく背中越しに、翻した光の剣を突き刺した。
背後から背中を刺し貫かれたソンフゥの身体は、程なくして霧散したのだった。
「後は貴様だけだ、ヘルダークネス」
佇む悪の首領に剣の切っ先を向けてジャステリオンが言い放った。
「……はは、はははは、はっはっはっは!」
だがヘルダークネスは余裕たっぷりといった具合に高笑いをする。
「我が下僕どもを倒した程度でいい気になるな! 我が軍勢は無限の軍勢! 何度でも蘇るのだ!」
ヤツが叫びを上げると共にその目が大きく見開かれて、額の瞳がとりわけ派手にギョロりと回った。
「ジャステリオンサーチ!」
同時にすかさず放たれた光がヘルダークネスの額の瞳を指し示した。
次の瞬間、目にも留まらない速さで投げられた光の剣がその瞳を刺し貫いていた。
「グ……グオォォォォォォッ!」
頭を振り乱してヘルダークネスが悶絶する。
「な、何故だ! 何故知っている! この瞳に亡者を操る力があることを……!」
「そのようなこと、私は知らない」
「何……だと!?」
「ジャステリオンサーチは次に繰り出すべき最善の一手を指し示す能力。私はそれに従って攻撃をしたに過ぎない」
「馬鹿な! そのような能力、私は知らない! 作ったことも考えたことも無い! 出鱈目を言うな!」
「そうなのだとしたら……これはこの身体の持ち主が、その心が与えてくれた力なのだろうな」
「なっ……」
驚愕して歪むヘルダークネスの表情。わなわなと全身を震わせたヤツは
「認めん……認めんぞぉ! そのような、そのようなことはっ!」
稲妻を呼び寄せるため右手を掲げようとする。
だが……その動きは俺の予想の範疇だ。
《サイクロン! マキシマムドライブ!》《ヒート! マキシマムドライブ!》《ルナ! マキシマムドライブ!》《ジョーカー! マキシマムドライブ!》
再度装填されたガイアメモリを起動させてダブルは跳び上がった。
そして、一旦シールドに収めたプリズムソードを引き抜いて振り払う。
「「ビッカーチャージブレイク!」」
ガイアメモリのエネルギーを纏ったプリズムソードがヘルダークネスの右手首を切り飛ばした。
「ギャアァァァァァァァァァァッ!」
手首を押さえて激しく身悶えするヘルダークネスへ向けて
「ヘルダークネス、これで終わりだ!」
指を突きつけてジャステリオンが高らかに言い放った。
「ま、待てジャステリオン! 分かっているのか! 私が、この力が消滅すればお前もこの世から消え去るのだぞ! それでもいいと言うのか!」
「愚問だな。私の使命はこの世の悪を、貴様を倒すこと。それを果たせるのならば、この身がどうなろうと構わん!」
「……貴様……貴様……ふざけるなぁっ!」
苦し紛れに残る左手を振るうヘルダークネス。それをジャステリオンは軽やかに跳び退ってかわしてダブルの隣に並び立った。
「仮面ライダー、今度こそヤツとの決着をつける。その為に力を貸してくれないか?」
「ああ、お安い御用だ」
「君の覚悟に僕らも相乗りさせてもらおう」
俺とフィリップ、ジャステリオンの気持ちは完全に一つになっていた。
ヘルダークネスに相対してエクストリームメモリを閉じて再度展開した。
《エクストリーム! マキシマムドライブ!》
エクストリームメモリから緑と黒の竜巻が巻き起こり、ダブルとジャステリオンの身体を上空へと持ち上げていく。そして……
「「ダブルエクストリーム!」」
「ジャステリオンゴールデンキック!」
ヘルダークネスへ向けて必殺の、最後の一撃を俺達は繰り出した。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!」
咆哮するヘルダークネスの胸元の悪魔のような意匠の顔に攻撃が炸裂した。けれども俺達の勢いはそこで止まらない。
胸元の顔を踏み砕いてヤツの体の中を突き抜けていく。
そして背を貫いて外に飛び出した時、俺達の脚はヒーローショードーパントの身体を捉えていた。
ドーパントの身体は地面にぶつかって激しくバウンドし転がっていき、同時に俺達の背後の巨体は爆散。上空に展開されていた立体映像と暗雲は消え去って、晴れ渡る青空が広がった。
「これで本当に終わりだな」
「そのようだね。今回は色々な意味で苦しい戦いだった」
「まったくだ……っと、そうだ、ジャステリオンは?」
「彼ならあっちに」
そう頭に響く相棒の声に従って視線を巡らせてみれば、ドーパントの転がっていた方へ歩み寄っていく背中が見えた。
その後に俺らダブルも付いていく。
「……く……あ、ああ……」
息も絶え絶えで虚ろな目をした久留瀬厚志が地面に背をつけて倒れていた。
そこへしゃがみこんだジャステリオンが久留瀬の上半身を抱き起こす。
「ヒーロー……を……最強の……誰も……が……認める、本……物……作っ……て」
「もういいんです」
語りかける声は今までに無い程の優しさと暖かさに満ちていた。
「これ以上頑張らなくても大丈夫です。耳をすませてみてください」
ジャステリオンがそっと久留瀬の耳元に手を当てる。
柔らかな風が声を運んできた。微かに聞こえるそれは人々の歓声。ヒーローの名を称える声だ。
「あなたが生んだヒーローは人々の希望になりました。私は本物のヒーローになることが出来ました。ですから安心して眠って下さい」
「……ああ……ジャス、テリ……オン……俺は……俺……は……」
一筋の涙を流す久留瀬の身体からガイアメモリが抜け落ちて、地面に落ちると共に砕け散った。
「さようなら……私を生んでくれて、ありがとう」
ジャステリオンは意識を失った久留瀬をそっと地面に横たえると、立ち上がって俺らの方に振り返った。
「仮面ライダー、ありがとう。そして、数々の非礼を詫びたい。すまなかった」
「別に気にしちゃいねえよ」
「ああ、翔太郎は一時期激しく取り乱してはいたが今は見ての通りだ」
「おいフィリップ!」
「ははは。君たちは実に仲が良いな……と」
その時、ジャステリオンの身体の輪郭がぼやけて薄くなり始めた。
「どうやら時間が来たようだ」
「そうか、アンタとは色々あったけど、何だかんだ楽しかったぜ」
「君のようなヒーローらしいヒーローと会えたのは実に興味深く刺激的だったよ」
「ヒーローらしいヒーロー、か……いや、私はやはり紛い物だよ。さっきはああ言ったが、本物のヒーローとはやはり君らみたいな者のことを言うんだよ、仮面ライダー」
「ジャステリオン……」
「最後に頼みがある。聞いてもらえるだろうか?」
「何だ?」
「この身体の持ち主、彼女が私であったということは秘密にしておいてもらいたい。彼女の未来にとって私の存在は邪魔でしかないだろうから」
「……ああ、大丈夫だ」
「それと小宮果穂ちゃん、彼女には私は遠くへ旅立ったと伝えてもらいたい。真実はあの子を悲しませてしまうだろうから」
「わかってる」
そして更にその姿を薄れさせたジャステリオンが手を差し出してくる。俺は否応もなくそれを握り返す。
「ありがとう、仮面ライダー。この街の、世界の平和を……頼む」
「勿論だ。ありがとな、ジャステリオン」
「さようなら、ジャステリオン。君との出会いは貴重な体験だった」
バイザーと首元のマフラーが特徴的な顔が力強く頷いた。
次の瞬間、彼の身体は光の粒子となって空へと溶けていった。
その後に残された、意識の無い雄子さんの身体を抱きとめて、俺は呟いた。
「お前は紛れもなく、真のヒーローだったよ。ジャステリオン」
一陣の風が吹いた。それは一人の英雄の旅立ちをそっと後押しするかのようだった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回最終話、エピローグとなります。
補足
玩具版のトライアルメモリにはゾロ目でタイムを止めるとタイムカウントがリセット、カウントがリスタートするという仕掛けがあります。
今話ではその要素を戦闘に取り入れさせてもらいました。