仮面ライダーW 『Hの正義』   作:はちコウP

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仮面ライダーWの時系列はTV本編終了後~仮面ライダードライブ・アクセル客演以前

風都探偵以前orパラレルを想定しています。


『Hの正義(前編)/ダブルアイドル&ヒーローズ』②

 

 俺は事務所の隅に置かれた来客用のソファーで、アイドルプロデューサーの青年男性と、その担当アイドル小宮果穂(こみやかほ)と向かい合っていた。

 

 初対面時はその体格の良さから年齢をだいぶ上に見誤ってしまったが、プロデューサーと話す時の声色や言葉使い、目を輝かせながら事務所内を見渡す様、諸々の仕草を見ていると、彼女が十二歳の少女だというのには納得がいく。

 

 しかし、俺の観察眼もまだまだだな。ひでぇ自惚れをしちまったもんだぜ。

 

 心の中で自嘲していると、亜樹子がトレーに飲み物を載せてやってくる。

 

「どうぞお召し上がり下さい。果穂ちゃんはジュースで良かったかな?」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「元気で礼儀正しいのねー。しっかりしてるわ果穂ちゃん」

 

「えへへ、よく言われます」

 

 コーヒーとオレンジジュースをテーブルの上に並べた亜樹子は、果穂の眩しい笑顔を見てしきりに首をうんうんと頷かせる。

 

 まるで近所に住むおばさんみたいな言い草だな、なんて俺はふと思った。

 

 だがそれをうっかり口にすると、いや、勘の良いコイツはこれ以上考えただけでもスリッパで引っぱたいてくるかもしれない。

 

 俺は咳ばらいをしつつ姿勢を正して、依頼人に向き直る。

 

「それで、一体何があったっていうんです?」

 

「はい……昨晩、私達は怪物の集団に襲われたんです」

 

 怪物という単語に俺、亜樹子、奥の部屋に佇みながら大きな本に目を通しているフィリップに微かな緊張が走った。

 

「怪物……ドーパントか?」

 

「え? ドー……パン、ト……?」

 

「あ、その、ですね。ガイアメモリの……つってもわかんねえか。一旦それは置いといて、その怪物ってのがどんなんだか覚えてます?」

 

「それでしたら、昨日警察の方に書いていただいた似顔絵が」

 

 プロデューサーが差し出してきた紙を受けとって目を通す。

 

 そこに描かれていたのは、やたらリアルな造形の骸骨とトカゲのような生き物の顔だった。

 

「……これは、あなたの証言を元に描かれた絵なんですよね?」

 

「はい。正にそういう見た目の怪物達でした」

 

 それは、今まで遭遇したどのドーパントとも違う見た目をしていた。

 

 何となくだが特徴というか雰囲気が全然当てはまらない、そんな感じがする。

 

 今回はドーパント絡みの事件ではないのか、それとも……

 

 いや、考えるのは後だ。まずは依頼人から情報を聞き出すのが先決で、捜査の鉄則だ。

 

「なるほどな……それじゃあ、昨晩何があったのか詳しく話してくれますか」

 

「はい。あれは―――」

 

 

 

 

 彼らが襲われた時の様子のはしりを聞き終えた所で、俺はコーヒーを一口飲んで息をついた。

 

「足の怪我はそのせいってわけか。それにしても、よく無事に逃げられましたね」

 

「助けてくれた人がいたんです。その人は私と同じく襲われた果穂をドクロ頭の怪物から守って、たった一人で他の怪物達とも戦って追い払ってくれたんです」

 

「一人で? そりゃ凄いわね!?」

 

 隣に座る亜樹子が驚きの声を上げた。

 

「一体それはどういう人だったんです? 顔を見たりなんかは?」

 

「それが……その人は怪物達が退散すると、それを追うようにしてそのままどこかへ行ってしまいまして。そもそも私は気を失ってましたので」

 

「それもそうか……」

 

「あたし知ってます!」

 

「えっ?」

 

 と、果穂が身をグイっと乗り出してくる。心なしかその瞳はキラキラと輝いているように見えた。

 

「あれは仮面ライダーです!」

 

「か、仮面ライダー!?」

 

「ええっ!?」

 

 果穂が放った思いもよらない一言に、俺と亜樹子は目を丸くした。

 

「私聞いてない! 昨日の夜に仮面ライダーが戦いに行ってたなんて!」

 

 驚きの声を上げた亜樹子は俺の方に顔を向け

 

「ちょっと、翔太郎君どういうこと!?」

 

 凄まじい剣幕で問い詰めてくる。

 

「ちょ、おい! 亜樹子……!」

 

 俺は口元に人差し指を当てる身振りで亜樹子に意図を伝えようとする。 

 

 何事かと訝しむ亜樹子だったが、すぐに俺の真意に気づいたようで、しまった!、と言わんばかりの表情で慌てて口元を手で押さえる。

 

 今更手遅れだけどな!

 

「あ~……ちょ、ちょっと失礼しますね~」

 

 俺は亜樹子の腕を引いてソファーから数メートル離れ、依頼人の方に背を向けてヒソヒソと話し始めた。

 

「ごめん、翔太郎君つい……!」

 

「ったく、気をつけろよな! ……まあ、なんとかしてみるけど」

 

「ほんとゴメン! ……それはそうと、昨日の夜に戦いに行ったの?」

 

「違げえよ。さっき言ったろ、フィリップが徹夜で動画に夢中になってたって。それに俺だって夜は出歩かなかったしよ。もしかして、照井のやつじゃねぇのか?」

 

「それは無いよ。昨日の夜は竜くん定時で上がって、私と家で晩御飯食べてたもん」

 

「だったら誰が?」

 

「あのー……左さん、所長さん? どうかしたんですか」

 

 プロデューサーが俺らの様子を訝しむようにしてに声をかけてくる。

 

「あ、あははは……」

 

「こっちの話ですからお気になさらず。オホホホホ……」

 

 と誤魔化すようにして俺らは席に座り直した。

 

「えーっと、果穂ちゃん。君らを助けてくれた人ってのは、本当に仮面ライダーだったのかい?」

 

「はい!」

 

ハッキリと元気溢れる声で言った果穂だったが、思い直したかのように視線を少し泳がせ、頬をかきながらややトーンを落とした口調で喋り出す。

 

「あ、その……暗くってハッキリとは見えなかったんですけど、あの後ろ姿は絶対に仮面ライダーだったと思います。首に付いたマフラーがパタパタしてましたし、影の形が動画で見たことある仮面ライダーにそっくりでしたから」

 

 そう言って果穂は取り出したスマホの画面を俺らに見せてくる。

 

 そこでは一つの動画が再生されていて、ドーパントと戦う俺ら、すなわち仮面ライダーダブルの姿が小さく映っていた。

 

 その映像は俺らの戦いを、ある程度離れたビルから野次馬が撮影したものなのだと思われる。

 

 時代の流れか、近頃はこの手の動画が投稿サイトにアップされることが増えてきている。

 

 撮っている人間が近づいて来て戦いに巻き込まれないかだとか、厄介な場面を見られないかだとか、その類の警戒が必要だ、なんてのがみんなとの話題に上ることも珍しくはなかった。

 

 まったく、街の平和を密かに守るのも楽じゃない。

 

「へぇ、果穂ちゃんはこれで仮面ライダーを見たんだな」

 

「はい、そうなんです!」

 

「けど……昨日君たちを助けたのは仮面ライダーじゃあないな」

 

「え……どうしてわかるんですか?」

 

「実はな、何を隠そう……」

 

 俺はちょっともったい付けて一息置いて、親指を自分の顔に向けて突き立てるようにして言った。

 

「俺達は仮面ライダーと友達なんだ」

 

「え……え~っ!? 本当ですか!?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 仮面ライダーに希望を見出す子供にそう答える。似たようなことは既に経験済みだ。

 

 二人の様子から、さっきの亜樹子の発言を気に留めた様子は見られなかったが、念には念を入れてだ。それに亜樹子に貸しを作っておくのも大事だしな。

 

「探偵の仕事をしている時に助けてもらったりすることが度々あってな。あとは……時々情報を交換しあったりもするんだ。それでな、たまたま昨日連絡したら、今日は事件に出会わなかった、休日みたいな感じだよ、って言ってたんだなこれが」

 

「そうだったんですね! ……す、凄いですっ! 仮面ライダーと、本物のヒーローと友達だなんてっ!」

 

 立ち上がった果穂は、その目をますます輝かせて息を荒げていた。誰が見ても興奮しているとわかる状態だ。

 

「あのっ! 仮面ライダーのお話、もっと聞かせてもらえませんか!? どうやって出会ったんですか!? 仮面ライダーって秘密基地とかあるんですか!? 怪人たちと戦うところ見たことあるんですか!?」

 

 テーブルに手をついてグイっと身を乗り出して、早口で果穂は捲し立ててくる。

 

 そんな彼女の勢いに俺、そして亜樹子は思わずたじろいでしまう。

 

 ちょっと効果覿面過ぎたかな、こりゃあ……

 

「こら、果穂。お二人にご迷惑だろう?」

 

「あ……そうでした。すみません、つい興奮しちゃって……」

 

 プロデューサーの一言に果穂は我に返って、申し訳なさそうにソファーへと座る。

 

「僕でよければ話をしようか?」

 

「フィリップ?」

 

 と、いつの間にやらソファーの後ろに相棒が立っていた。

 

「いいんですか!?」

 

「ああ、僕も彼とは少なからず交流がある。君の好奇心を満たせるぐらいには話が出来ると思うよ」

 

「そ、それじゃあ! ……あ、あの、プロデューサーさん」

 

「大丈夫だよ、行っておいで」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

「決まりだね。とりあえずあっちの方へ移動しようじゃないか」

 

 フィリップが果穂を伴って奥の部屋の椅子の方へと歩いていく。

 

 悪いな、と声には出さずに身振りで意思を伝えると、フィリップは

 

「小宮果穂については閲覧を済ませた。彼女の興味を惹く話題は準備済みさ」

 

 軽く小声で答えて笑みを浮かべた。

 

 そうして果穂をフィリップに託すと、俺らは改めて依頼人の方へと向き合った。

 

「申し訳ありません。彼女は大のヒーロー好きでして、いつもはもう少し落ち着いているんですけど、風都へ来てからは些か興奮気味でして……」

 

「構いませんよ。あんだけ憧れられてるときたら仮面ライダーも、友人の俺らも悪い気はしませんよ」

 

「そう言っていただけると助かります。しかし、昨日の人が仮面ライダーじゃなかったとすると、一体誰だったんでしょう」

 

「う~ん……それは俺にも何とも言えません。けど少なくとも悪い人物じゃあなさそうなのは確かですし、ひとまずは置いといては?」

 

「そうですね。気にしても仕方ありませんし。もし次会った時の為にお礼の言葉でも考えておきます」

 

「それがいいでしょう……さて、それはそうと依頼内容に関して詳しいお話をさせてもらえますか?」

 

「はい。警察の方に勧められたのですが、あなた方にG.R.A.D開催期間中の護衛を依頼させていただきたいと思いまして」

 

 やっぱりそうか、と俺は心の中で納得する。

 

 きっと照井が鳴海探偵事務所に行くようにとアドバイスしたのだろう。

 

 となると次に聞くべきは……

 

「推察するに、恐らく昨日襲われたのは偶然じゃない。あなたはそう考えている」

 

「流石ですね、その通りです」

 

「で、その根拠は?」

 

「……はい……実は」

 

 プロデューサーが懐から一通の封筒を取り出してテーブルの上に差し出した。

 

 彼の目配せを受けて、俺はそれを手にして中の手紙を開く。

 

「こいつは……」

 

「なになに?」

 

 横から覗き込んでくる亜樹子。手紙を見た瞬間、彼女は眉をひそめた。

 

「いかにも、って感じだな……」

 

 それは新聞の切り抜き文字が張られた脅迫文だった。

 

【283プロダクション小宮果穂は直ちにG.R.A.D出場を辞退せよ さもなくば命の保証は無い!!】

 

 文章の内容もこれ以上ない程に分かり易い。

 

 ここまでストレートだといっそ逆に清々しさまで感じてしまうくらいだ。

 

「ご想像がつくかもしれませんが、我々の業界では嫌がらせの手紙やメールが送られてくるという出来事は珍しい話ではありません。ただ、ここまであからさまな脅迫文が送られてくるというのは、ウチの事務所としては初めてのことでして……しかも果穂に対してなんて」

 

「果穂ちゃん恨みを買うような子じゃなさそうだもんね」

 

 亜樹子の言葉に俺も頷く。

 

「ええ、その通りです。手前味噌な発言だとは思いますが」

 

「けれど、そうして不安を感じながらもG.R.A.D出場をあんた方は辞退しなかった」

 

「はい……。脅迫文が送られてきたのも、ご覧の一通限り。更なる嫌がらせの類も見られない。そして事務所としても、果穂の更なるステップアップの為に、この大きなチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。全てを考慮して社長とも十分に話し合って結論を出しました。ですが、今となってはそれが正しかったとは……」

 

 弱々しい声色のプロデューサーは、テーブルの上に組んだ拳を置いて俯いていた。

 

「……まあ、そう悲観するもんじゃないさ」

 

「え?」

 

 俺の一言にプロデューサーが顔を上げる。

 

「脅迫文を送ったヤツと昨日あんたらを襲撃したヤツらが同一とは限らない。ただのイタズラが昨日の出来事と偶然一致したってのも可能性としちゃ十分在り得る」

 

「た、確かにそうかもしれませんが……」

 

「まあ、同一犯であるってことも否定は出来ないが」

 

「ええ……」

 

「けどまあ、結局のところどっちにしてもやることは一つだ」

 

「え?」

 

「何にせよ、万が一の時はアンタや果穂は俺達が守ってみせる。こういった依頼には慣れっこだしな。だから安心して下さい」

 

「左さん……!」

 

「翔太郎君の言う通り! まあ、彼だけじゃ頼りないかもしれませんけど、至らない点は私やフィリップ君でサポートもしますので!」

 

「誰が頼りないだと、ああ!?」

 

 亜樹子の余計な一言に噛みつく俺をよそに

 

「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」

 

 プロデューサーはテーブルに手をついて深々と頭を下げていた。

 

「これまでの果穂の頑張りを無駄にしたくない。彼女には全力でオーディションを戦い抜いて貰いたいんです! 重ね重ねになりますが、果穂が安心してG.R.A.Dに挑戦出来るように、どうかよろしくお願いします!」

 

 熱心に何度も頭を下げるその姿に、俺の抱いたささやかな苛立ちはたちまち掻き消されてしまった。

 

「頭を上げて下さい。もう十分に気持ちは伝わりましたから」

 

「あ、はい。……それと一つだけお願いします。実は果穂には脅迫文のことは秘密にしているんです。変に気に病んで欲しくはないので……その点を秘密にしていただけると……」

 

「わかりました。無暗に不安を煽る必要はないですしね」

 

 俺は軽く頷いた。隣の亜樹子もまた同様に。

 

 そこでふと奥の部屋に目を向けてみれば

 

「彼の主な戦闘スタイルは徒手空拳だが、時には特別製の銃、特殊金属製の棒なんかを駆使して戦うこともある」

 

「敵に合わせて色んな戦い方が出来るってことですね! それで、どういう風に戦ってきたんですか!?」

 

「では僕が見たとある一つのケースをお話ししよう」

 

 フィリップの話を太陽みたいに眩しい笑顔で聞いている果穂の姿があった。

 

 ふっ、こんな眩しい、綺麗な太陽を曇らせるのは男が廃るってもんだよな。

 

 

 

 

 

 

「へーっ、こいつは豪華だなあ」

 

「うわ~っ、スゴイです!」

 

 湾岸の野外イベント広場に設置された特設会場、そのステージに俺らはすっかり目を奪われていた。

 

 大物ミュージシャンのライブ会場かと思っちまう程の意匠や設備、風都一のコンサート会場を上回る観客席の数、オーディションの予選会場としては豪華すぎるんじゃないのかコレは。

 

「うひゃ~っ! こりゃたまげるわ~」

 

「ははっ、私も完成予想図は目にしてましたけど、実物を目にすると圧倒されますね」

 

 俺と果穂の後ろでは車椅子に乗ったプロデューサーと、それを押す亜樹子が感嘆の声を上げていた。

 

「リハーサルは一時間後にスタートだったよな?」

 

「はい、そうです。あたしは五番目の順番なんです」

 

「そうか。頑張れよ果穂」

 

「ありがとうございます。翔太郎さんや所長さんにも楽しんでもらえるように頑張ります!」

 

 腕をグッと曲げて気合たっぷりに言う果穂の姿に亜樹子が

 

「私も果穂ちゃんみたいな元気な子が欲しいな~」

 

 なんて呟きながら顔を綻ばせていた。

 

「さてと、それじゃあ俺はちょっくら行ってくるぜ。二人を頼んだぜ亜樹子」

 

「了解、任せといて」

 

 そうして俺は会場内の見回りに向かった。

 

 敵が潜んでいそうなポイント、いざという時に依頼人を逃がすための経路、その他諸々の重要な情報を集めて把握しておくのは護衛の鉄則だからな。

 

 仕事としちゃ派手さも優雅さもない地味なもんだが、こういった事こそ存外大切だったりするもんだ。

 

「っと、コイツにも活躍してもらわねえとな」

 

 俺は懐からデジカメを取り出すと、横合いから一本のメモリースティックを差し込んだ。

 

≪バット≫

 

 電子音声が鳴ると同時にそれはコウモリの形に変形し、俺の手元から飛び立っていった。

 

 これは探偵道具の一つ、メモリガジェットのバットショット。

 

 コイツで空撮すれば情報収集は更に捗るってもんだ。

 

 

 

 

 

「ふぅ……今日も良い風が吹くぜ」

 

 一通りの見回りを終えた俺は、会場の片隅から遠目に見える港の風景を眺めて一息ついていた。

 

 この風都では小さな幸せも大きな不幸も常に風が運んでくる。そして今この時に感じる風は間違いなく良い風だ。きっと幸運を俺の元に運んで来てくれるに違いない。

 

「今日は最高の一日になる予感がするぜ。俺にとっても依頼人にとっても。幸運の女神が祝福のキッスをぶっ!?」

 

 俺のハードボイルドな語りが突然遮られた。顔面に貼り付いてきた何かによって。

 

 手で掴み取ってみるとそれは……

 

「あ? ビニール袋?」

 

「す、すみませーん!」

 

 聞こえてきた声に目を向けると、一人の男が慌てた様子で走り寄ってくるのが見えた。

 

「それ僕のなんです」

 

「この袋がか?」

 

 俺が差し出したそれをビジネススーツ姿の男は申し訳なさそうに受け取る。

 

「はい、ゴミ拾いをしてたんですけど、持ってた袋が風にあおられて飛んでっちゃいまして」

 

「げ、ゴミ袋かよ……」

 

 思わずしかめた顔を手で払う。そして貼り付いていた何かを指で摘まんで引っ張った。

 

「痛てっ! ……こりゃシール、いやテープか?」

 

「あ、どうぞこちらへ」

 

 男が差し出してきた袋の中へとそれを丸めて放り込む。

 

「本当にすみませんでした」

 

 そう言ってペコペコと頭を下げる男はがっしりとした体格をしていて、身長は俺より頭一つ分高いくらい。スポーツ選手に例えるならラガーマンといった感じだろうか。

 

 しっかし、見かけによらず腰が低いんだな。

 

「別にもう気にしちゃいないよ。アンタはイベントの関係者か何かか?」

 

「まあ、そんな感じです」

 

「ふ~ん」

 

「あ、いた! 厚志(あつし)さん!」

 

 と、今度聞こえてきたのは女の声。

 

 駆け寄ってくるのは、セミロングの茶髪を束ねたポニーテールをなびかせる一人の若い女性だった。

 

 切れ長の瞳が印象的な、どこか凛々しさを漂わせる容貌。その手足はスラリと長く、それでいて程良く鍛えられ、美しく引き締まっているように感じられた。

 

「ああ、雄子(ゆうこ)。どうしたんだい?」

 

「どうしたじゃないわよ。スタッフさんが呼んでるの、ステージの件で確認したいことがあるって」

 

「わかったよ。けど、それならわざわざ探しに来なくても携帯に連絡をくれれば」

 

「さっきからずっと鳴らしても出ないのはどこの誰?」

 

「えっ!?」

 

 男は慌ててスマホを取り出して画面を確認し、即座に頭を下げる。

 

「ゴメン! 全然気が付かなくて!」

 

「もういいわ、とにかく早く行きましょう」

 

「ああ。……と、それじゃあ失礼します」

 

 そうして男は俺に向けて軽く頭を下げる。

 

 女性の方も俺を一瞥して会釈をする。

 

 と、目が合った一瞬、その眉がピクリと動いたように見えた。

 

「あの、俺の顔に何か?」

 

「……あ、うん……髪の所に付いてる」

 

「髪?」

 

 指差す彼女の仕草に従って右耳後ろの辺りを手探りすると、カサッとした感触が。

 

 摘まんでみるとそれは紙片のようなゴミだった。

 

「こ、これはまた失礼!」

 

 男が慌てながら再び差し出してきた袋へとその紙片を放り込む。

 

「ああ、もういいからさっさと行きな」

 

 俺が促すと男は女性と一緒に小走りにその場を去っていった。

 

「……さて、俺もみんなのとこに戻るとするか」

 

 

 

 

「あ、翔太郎さ~ん!」

 

 ステージ近くに設営された控室へとやってきた俺を真っ先に出迎えたのは果穂だった。

 

「おう、それが今日のステージ衣装か。なかなかカッコいいな」

 

「えへへ、ありがとうございますっ!」

 

 果穂が着ていたのは、胸元の校章のようなワッペンと右脇腹付近にプリントされた大きな星が印象的なシャツ、緑っぽいチェック柄のスカート、左右の袖の色が白黒と異なる、ジャージのような上着が特徴的な衣装だった。

 

 左右で色が違う、しかも白黒って所に妙な親近感を覚えてしまう。

 

「ほんとに良い衣装よね。カッコいいジャージみたいな感じで」

 

「所長さんの言う通りこれはジャージがモデルの衣装なんです。ブレイブヒーロージャージって名前なんです」

 

「さっすが放課後クライマックスガールズって感じね。それ見てたら私も学生時代に戻りたくなってきちゃった」

 

「お、良いじゃねえか。お前の体型と子供っぽい顔なら中学校にそのまま入っていってもバレねえだろうしな。今すぐ行って来いよ」

 

「よ~し! それじゃあ制服を実家から持ってきて……って誰がガキんちょ幼児体型じゃい!」

 

 スパーンという軽快な音と共に俺の頭に衝撃が走る。

 

「ってぇ! 誰もそこまで言っちゃいねえだろ!」

 

「わぁ、ノリツッコミですね。さすが所長さん、本場大阪の人って感じです!」

 

「いや、別にそこ褒めるところじゃ無いぞ」 

 

 なんて漫才にも似たやりとりをしていると、コンコンと扉がノックされた。

 

「はい、どうぞ」

 

 プロデューサーが促すと、ドアが開かれて一人の人物が控室に入ってきた。

 

「失礼します」

 

 入ってくるなり礼儀正しくお辞儀をしたのはスーツ姿の男。

 

「ああ、どうも久留瀬(くるせ)さん、ご無沙汰しています。調子はどうですか?」

 

「ええ、相も変わらず元気元気の絶好調で! 283プロさんは……言わずもがなですよね」

 

「ははは、見ての通りですよ。けど見た目ほど酷くはないので。打撲と捻挫で骨には異常は無いですし」

 

「スタッフさんから話は聞きました。何でも暴漢に襲われたとかで……クソッ! どこの誰だ、許せないな」

 

「まあ、無理をしなければ早く治るとお医者さんも言って下さってますので。それに不幸中の幸いで果穂はなんともありませんでしたから」

 

 そうしてプロデューサーは目くばせをし、俺達へとその人物を紹介する。

 

「所長さん、左さん、彼は私の知り合いのアイドルプロデューサーでして」

 

「初めまして! わたくし、こういうもので……え?」

 

「アンタは……」

 

 名刺を差し出してきたその男と俺は互いに顔を見合わせる。

 

「先程はどうも失礼しました!」

 

「奇遇だな。また会うなんて」

 

「翔太郎君の知り合い?」

 

「いや、さっきちょっとな」

 

「あ、そちらの女性の方も。よろしければ」

 

 そうして男は亜樹子にも名刺を差し出してくる。

 

「これは丁寧にどうもです。じゃあ、私も……」

 

 亜樹子もまた取り出した名刺を男へと手渡して、サラリーマンさながらに交換し合う。

 

「え~と、古碌(ころく)プロダクション、プロデューサー、久留瀬厚志(くるせあつし)

 

「はい、どうぞよろしくお願いします! あなた方は……鳴海探偵事務所?」

 

「ええ、この風都で探偵をしています。私が所長の鳴海亜樹子で、こっちが猫探しをさせたら右に出るものはいない、我が事務所の誇る所員の左翔太郎君です」

 

「猫探しは余計だっての! ……ともかく、これも何かの縁、よろしくどうぞ」

 

「はい!」

 

 そうして俺らは親睦の印に握手を交わす。

 

 見た目通りに久留瀬厚志の手は大きく力強く、握り返された際に思わず顔をしかめそうになってしまった。まあ、そこは鉄のハードボイルド精神で耐え抜いたのだが。

 

「こんにちは厚志さん」

 

「果穂ちゃん、こんにちは! 大丈夫だったかい?」

 

「あたしは平気です。仮面ライダー……じゃなかった、親切な人が守ってくれましたから!」

 

「親切な……人?」

 

 果穂の曖昧な物言いに小首を傾げる久留瀬プロデューサー。

 

「最初は仮面ライダーが助けてくれた、って思ったんですけど何だか違ったみたいで。その人の顔とかよくは見えなかったんですけど、すっごく強い人でした!」

 

「そうかそうか! 何はともあれ果穂ちゃんが無事で何よりだ! はっはっは!」

 

 豪快な笑い声を上げる久留瀬プロデューサー。

 

「やっほ~」

 

 と、ドアの方から聞こえてくる新たな声。その主の姿もまた俺の知る人物だった。

 

「あっ! 雄子さーん!」

 

 部屋へと足を踏み入れた女性へと笑顔を浮かべて駆け寄る果穂。

 

「果穂ちゃん元気そうで良かったわ。襲われたって聞いた時は凄く心配だったわ」

 

「あたしは大丈夫です! もうへっちゃらですし!」

 

「ふふっ、果穂ちゃんは強いなあ。……あなたは……ねえ、こちらの方々は?」

 

 俺らの方に目を向けた女性へ、果穂のプロデューサーと厚志プロデューサーとが代わる代わる事情を説明する。

 

「なるほど、ボディーガード……あ、申し遅れました。私は古碌プロダクション所属アイドルの英田雄子(あいだゆうこ)です。初めまして……でもないか、そちらの帽子の探偵さんは」

 

 溌剌とした声で挨拶し、微笑を浮かべながら会釈をする英田雄子。

 

「まあ、そうっすね」

 

 そう言いつつ改めて俺達も挨拶と自己紹介の言葉を返していった。

 

「風都にこんな頼もしそうな人達がいたなんて、私知りませんでした。よろしくお願いします、果穂ちゃんのこと」

 

「ははは、言わずもがなですよ。加えてあなたのような素敵なレディに危機が迫った時もお守りさせていただきますよ」

 

「な~にカッコつけてんだか……」

 

 亜樹子の蔑みの声が聞こえてくるが、俺は気にかけることなく雄子さんの方へと視線を向け続ける。

 

「ありがとうございます。けど心配いりません」

 

 と、鋭い風切り音と共に、俺の眼前に雄子さんの拳が突きつけられた。軽い風圧が俺の顔を撫でつけた。専門でなくとも見事とわかる正拳突きだった。

 

「私、結構腕に自身ありますから」

 

「は、ははは……いい技をお持ちで……」

 

 思わず軽く後ずさりする俺。聞こえてくる亜樹子の軽く噴き出す声。一言文句を言いたい衝動を我慢して、俺は努めて冷静にズレた帽子を被りなおした。

 

「さて、それはそうと……果穂ちゃん、何があっても私は全力で戦うからね。覚悟しててよ」

 

「それはあたしもです! ヒーローはどんな事があっても絶対に挫けないで、一生懸命に戦いますから!」

 

 そう高らかに言い放つと果穂は、掲げた右腕を斜めに大きく振り下ろし、両手をクロスさせ、腕を力強く曲げるという一連の動作でポーズを決めた。

 

「おっ! 今日もキレッキレだ! それじゃあ私も!」

 

 英田雄子も果穂に負けず劣らずキレのある動きで同じポーズをやってみせる。

 

 そして顔を見合わせた二人は、微笑み合ってから互いの拳を軽くぶつけ合ったのだった。

 

 う~ん……それにしても、さっきのポーズなんかどこかで似たようなのを見たことあるような……

 

 なんて考える俺をよそに二人は会話を続ける。

 

「そういえば雄子さん、この前のジャスティスⅤ見ましたか!?」

 

「うん、もちろん! グリーンがとってもカッコよかったね」

 

「はい! 敵との一対一の戦い、必殺技を絡めた連続攻撃、カッコいいキメ台詞! もう全部がスゴかったです! 雄子さんはどのシーンが良かったですか?」

 

「そうだね……グリーンと出会ったあの女の人が夢に向かって歩き出す決意をしたところ、そのシーンが感動的だったなぁ……」

 

「最後のシーンですね。あそこは一緒に見てたお母さんも感動したって言ってました。あたしもなんだか胸が熱くなる感じがしました」

 

 特撮番組の話題に花を咲かせる二人は、完全に自分達の世界に入ってしまっていた。

 

「ねえ翔太郎くん。二人って何だか仲のいい姉妹みたいだと思わない?」

 

「そうだな」

 

 耳打ちしてくる亜樹子の言葉に軽く頷く。

 

「雄子さんは事務所も歳も違う、言わばライバルと言える人なんですが、色々と縁があって打ち解けまして。今じゃ果穂とは歳の離れた良い友人関係になってるんですよ」

 

 果穂のプロデューサーが言う。

 

「なるほどねえ。しっかし、ひと周りくらい歳が離れてる感じなのに、果穂に引けをとらないくらいに特撮のこと夢中で話してるんだな」

 

「そりゃあそうです。彼女はヒーローアイドルですから!」

 

 俺らの隣に久留瀬厚志がやってきて得意気に語ってくる。

 

「えっ? それってキャラ被りってやつじゃあ?」

 

「まあ、そう言えなくもないです。けれども所長さん、実はヒーローや特撮ファンというのを推し出しているアイドルは結構多くいるんですよ」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。近頃売り出し中のアイドルだと346プロダクションの南条光や765プロの大神環、男性アイドルになりますが315プロの天道輝、この辺りがヒーロー好きを公言しつつ、グングン知名度や人気を上げてきています。876プロからも期待の新星がデビューとの話が出てきましたし、まだまだこれからも増えてくるかもしれませんがね」

 

「へぇ。意外と激戦区なんだな、ヒーローアイドルってのは」

 

「ええ。ですがこのフィールドにはそれだけの価値と可能性があるのも事実なんです! ファンや業界の人々に注目されれば何らかの形で番組に携わるチャンスに繋がりますし。ウチも周りに追い付け追い越せで頑張っているんです!」

 

 熱っぽく語る久留瀬プロデューサーの目は、夢見る少年のように輝いている。その様は向こうでヒーローについて語り合う果穂や雄子さんに負けず劣らず、俺にはそんな風に見えた。

 

 そうこうしているうちに、やってきた会場スタッフからスタンバイするようにとの声がかかった。

 

「さあさあ二人とも! お話はその辺にしてリハーサルだ! 気張っていこう!」

 

 久留瀬プロデューサーが声を張り上げ、283プロのプロデューサーも果穂にスタンバイを促した。

 

「それじゃあ、行ってきます!」

 

「いってらっしゃい果穂ちゃん。頑張ってね」

 

「おう、客席の方で見てるからな」

 

「失礼します皆さん。行きましょうか果穂ちゃん」

 

 英田雄子と並び歩いて果穂は、ステージの方へと向かっていく。

 

 そして亜樹子は283のプロデューサーの車椅子を押してその後についていく。

 

 久留瀬プロデューサーもまた部屋を後に。

 

「さて、俺も行くとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 ポップで軽快な音楽が鳴り響き、リズムに合わせるようにしてピンクやオレンジ色といった蛍光色の多数のライトが明滅を繰り返す。

 

 舞台上では、フリルの付いた華やかな衣装を身に纏ったアイドルが、笑顔を振りまきながら歌とダンスを繰り広げている。

 

 リハーサルとはいえアイドルにもスタッフにも、緩んだ空気は微塵も感じられない。

 

 本番にも引けを取らないパフォーマンスの連続に、観客席後方に立つ俺は感嘆の声を思わず漏らしていた。

 

「見事なもんだな」

 

 そのアイドルのパフォーマンスが終わったところで、俺は携帯電話を取り出し画面表示を確認する。

 

 特に変わった知らせは無い。周囲に目を向ける。異常は無い。

 

 言うまでもないことだろうが、別に俺はただ呑気にステージを見物しているわけじゃない。

 

 広く会場全体を見渡せるこの位置から、怪しいヤツが現れないか警戒している。

 

 舞台袖にいるプロデューサーには亜樹子が付き添い、目の届かない範囲にはメモリガジェットを幾つか配備して見張らせている。

 

 何か異常があれば俺の所に連絡がすぐに入ってくるようになっている。

 

「それでは次の方、スタンバイお願いします」

 

「はい! 古碌プロダクション所属、英田雄子です! よろしくお願いします!」

 

 続けて現れた英田雄子の溌溂とした声を聞き、俺は再びステージへと目を向ける。

 

 シルバーのチューブトップの上着、同系色のショートパンツを身に纏った彼女の姿は露出が多めにも関わらず、その鍛え抜かれた身体のスタイルのおかげか、色気や艶やかさよりも、爽やかさやスタイリッシュさに溢れる美を強く感じさせられる。

 

 そして、今しがたステージに立っていたアイドルのポップな曲とは対称的な、クールなダンスミュージックが流れ出す。

 

 英田雄子は鋭い眼差しを周囲に向けながら、凛とした歌声と華麗なダンスを披露していく。

 

「……ん? あれは……?」

 

 俺はそのダンスに不思議な何かを感じた。

 

 初めはよく分からなかったが、見ているうちにその感覚の正体を次第に理解する。

 

 「なるほどな、拳法の演武の要素が入ってるのか」

 

 彼女のダンスには所々にパンチやキック、諸々の格闘技のような動きが取り入れられていた。

 

 当初はどこか奇抜に感じられたそれも、彼女の洗練された確かな技量によって、華麗なダンスパフォーマンスへと昇華されていってるように思われた。

 

「へぇ、なかなかにキマってんな」

 

 気がつけば俺は拳を握り締めて軽くリズムを取りながら、彼女のダンスを喰い入るように見つめてしまっていた。

 

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

 パフォーマンスを終えた英田雄子が舞台袖へと戻っていく。

 

 その顔はとても晴々としているように見えた。

 

「では次の方」

 

「はい!」

 

 入れ替わりに元気のいい声が響き渡った。

 

「283プロダクションの小宮果穂です! よろしくお願いします!」

 

 マイク片手に果穂がお辞儀をする。赤茶色のクセッ毛がふわりと揺れた。

 

 そして軽快なギターとハンドクラップの混じった音楽が流れ始め、果穂の明るい歌声が響きだす。

 

「目覚ましに皆勤賞♪ トースターに三ツ星♪ ココロにギュっとスタンプ♪ ひとつずつ♪ はいハナマル♪」

 

 これは果穂の持ち曲で『ハナマルバッジ』というタイトルらしい。

 

 彼女の歌やダンスには、先程の英田雄子のような洗練された技術は無いものの、年相応の溌剌さ、一生懸命さが溢れる様が見ていて強く伝わってきた。

 

 腕や足を大きく動かした、身体から元気を振りまくようなダンスは、見ているこっちにまで元気を分けてくれる。そんな気持ちを抱かせた。

 

 所々に拙い動きが見られても、その姿を応援したくなる、自分も彼女の様に頑張りたいと思わせる、そんな魅力が詰まっているパフォーマンスだと俺は感じたのだった。

 

 

 

 

「ありがとうございましたーーっ!」

 

 激しいパフォーマンスの後でも辛そうな表情を一切見せず、笑顔を振りまく果穂の姿に俺は拍手を送る。

 

 するとそれに気が付いたのか、果穂が小さく手を振ってきた。

 

 俺もそれに応えて手を振り返す。

 

 

 

 

 その瞬間、会場全体に弾けるような爆音が轟き、白い煙が立ち込めた。

 

 

 

 

「っ!? 何だ!?」

 

 漂う白い煙を払いのけながら、俺は即座に身構えて周囲を警戒する。

 

「クケケケケケッー!」

 

 甲高い、何かの生き物の鳴き声を思わせるような声が響き渡る。

 

 白い煙が風に流されていき、周囲が晴れていく。

 

 前方を見据える俺の目に幾つもの人影が映る。

 

「なっ!?」

 

 会場のそこかしこに、全身茶色ずくめの骸骨頭の怪人が現れていた。

 

 そしてステージ上には、トカゲのような頭をした怪人が立っているのが見えた。

 

「クケケケケケッ! オレ様の名はヤモリンゲ! 風都の愚民どもよ、恐れおののくがいい! たった今より我々ヘルダークネスが風都の侵略を開始する!」

 

「もしかしてコイツらが昨日の!?」

 

 ヤモリンゲと名乗ったトカゲ、もといヤモリ怪人の笑い声に合わせて骸骨怪人たちもケタケタと笑う。

 

「行けっ! 下僕どもよ! 破壊の限りを尽くせ!」

 

 それを合図にして骸骨怪人らが一斉に動き出した。

 

 客席や設備を破壊し始め、周囲を逃げ惑うスタッフらへと襲いかかる。

 

 騒ぎを聞きつけた警備員たちがやってきて応戦するも、数の多い骸骨怪人たちに圧されて一人また一人と怪我を負って倒れてゆく。

 

「果穂っ!」

 

 俺はステージ上で立ちすくむ果穂の方へ向かおうと、客席の間を縫うように走り抜けていく。

 

 迫ってくる骸骨怪人を躱して、時には殴り飛ばしていくが、次々に行く手を阻まれてなかなか先に進むことが出来ない。

 

「逃げろ果穂!」

 

「は、はい!」

 

 俺の声で我に帰った果穂が踵を返して舞台袖へ逃走しようとする。

 

「逃がすか! 貴様には人質になってもらうぞ!」

 

 ヤモリンゲが果穂の後を追い駆けだしていく。

 

「させるかっ!」

 

 俺は咄嗟に懐から取り出した携帯電話にメモリを差し込んでステージに向けて放り投げた。

 

 それは空中で形を変えてヤモリンゲへと一直線に飛んでいく。

 

「グギャッ!」

 

 機械仕掛けのクワガタムシ、メモリガジェットのスタッグフォンの顎がヤモリンゲの肌を切り裂いた。

 

 ヤツがたまらず地面をのたうち回っている隙に、舞台袖から飛び出してきた亜樹子が果穂を抱き止めて奥へと一緒に逃走する。

 

 一瞬亜樹子と目を合わせた俺は頷いて合図を送る。

 

 そして舞台とは反対の方向へと走り抜けていく。

 

「グゲゲゲゲッ! 小癪なマネを! 逃がすな! ソイツを血祭りに上げてやれ!」

 

 ヤツらの注意は完全に俺に向かった!

 

 狙い通りだ!

 

 

 

 

 ステージ付近から逃走し、すぐ側の物陰に身を潜めた俺は、懐から取り出したダブルドライバーを装着した。

 

「フィリップ、怪物がうじゃうじゃ会場に現れた! 多分昨日果穂たちを襲ったヤツらだ! 行くぞ!」

 

《ああ、了解した》

 

《サイクロン!》

 

 頭の中に相棒の返事とメモリのガイダンスボイスが響き渡る。

 

 俺はジョーカーメモリを取り出して、そのボタンを押す。

 

《ジョーカー!》

 

「《変身!》」

 

 相棒と声を合わせたのと同時のタイミングでドライバーの右スロットにサイクロンメモリが出現した。

 

 俺はサイクロンメモリを押し込むと共にジョーカーメモリを左スロットに装填。

 

 そしてドライバーのスロットに手をかけた。

 

 その時だった。

 

「ヘルダークネス! 貴様らの野望はこの私が打ち砕く!」

 

 力強く空気を震わすような低い声が辺り一帯にこだました。

 

「な、何だ!?」

 

 思わず手を止めて、俺はキョロキョロと周囲を見渡した。

 

「この声はっ……! またしても貴様か! ええいっ、姿を見せろ!」

 

 ヤモリンゲが甲高い叫び声を上げる。

 

「私はここだ!」

 

 高らかに言い放つその声が上の方から聞こえてくるのに気がついた俺は、物陰に身を潜めたまま顔を上げる。

 

 会場のほど近くにある十階建てのビルの屋上に立つ人影があった。

 

「とうっ!」

 

 その人影は力強く跳躍して、華麗に宙返りをしながら客席の中央付近へと降り立った。

 

 首元に黄金色のマフラーをたなびかせ、朱色の装甲で身体を、銀色の装甲で手足を覆い、頭部と目元をバイザーのような兜で包んだ一人の戦士が高らかに名乗り上げた。

 

「この世の全ての悪を打ち砕く正義の戦士! ジャステリオン!! ここに参上!!!」

 

 

 

 

「ジャ、ジャステリオン!?」




という訳でオリジナルキャラクターがバンバン出てくる第二回でした。
仮面ライダーWとシャニマスの世界観、そこに上手く合わせられるか、溶け込ませられるか、苦心しながら書いていますがお楽しみいただけてるでしょうか?

引き続きよろしくお願いします。

【2025/2/28追記】
連載再開に合わせて加筆訂正を行いました。
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