風都探偵以前orパラレルを想定しています。
翌日
「ワン! ツー! スリー! フォー! ファイブ! シックス! セブン! エイト!」
「ワン! ツー! スリー! フォー! ファイブ! シックス! セブン! エイトッ!」
自然公園の一角で果穂と雄子さんがダンストレーニングに励んでいるのを、俺は遠巻きに眺めていた。
本来なら予選会場のステージ、もしくは併設されたレッスン場で、出場アイドルらは諸々の練習をする予定だった。
しかし、昨日の騒動によってそれは不可能となった。なので別の場所を使うことを余儀なくされた。
こんな場面でも事務所の力が大きく影響する、というのは283のプロデューサー談。
設備の整ったスタジオ、利用料がお手頃なダンススタジオなどは早々に他の大手事務所に抑えられてしまっていた。
そんなわけで小さな事務所である283プロと古碌プロは――予算の都合もあり――公園にてトレーニングをすることとなったわけだ。
そんな環境でも果穂と雄子さんは、芝生に置かれたラジカセから出る音に真剣に耳を傾け、懸命に、それでいて楽しそうに踊っている。
彼女らにとっちゃ、事務所のパワーバランス、練習場所の違いなんて大した問題じゃないみたいだな。
ちなみに踊っているのは次の審査の課題である共通のダンスらしい。雄子さん曰く、シンプルで踊りやすい故に技量の差がハッキリと現れる、ある意味厄介なダンスとのことだ。
「果穂ちゃん、そこの手の動きはもっとこう、捻る様にしてから伸ばすの」
「ええっと……こう、ですか?」
「うん、良いわよ。あと果穂ちゃんの身体に合わせるなら、脚の動かし方も調節して……」
文字通り手取り足取りといった具合に雄子さんは果穂のダンス指導をしていく。
一度通しでやったばかりだというのに雄子さんは果穂の修正すべきポイントを的確に見抜いているようだった。
素人目の意見ではあるのだが、パッと見た感じで果穂のダンスは上手くできていたように見えた。けれども雄子さんの指導を受けて修正したダンスは一回りも二回りも良くなったように思えた。
雄子さんの観察眼とダンスに関する知識と技量は確かなモノなんだ。
と、そんな風にしてダンスの練習を続ける二人を横目に、俺はスタッグフォンを取り出して通話をする。
コール音は数度で鳴り止み、入れ替わりに向こう口から声が聞こえてくる。
《もしもし、翔太郎》
「おう、フィリップ。どうだ、何か進展はあったか?」
《検索のワードを何度も入れ替えて試してはみたが、案の定めぼしい情報には行き当たらなかったよ。昨晩から一切進展は無しだ》
「そうか。流石に手がかりが足りな過ぎるよな」
昨日のうちに俺とフィリップは、敵の情報を可能な限り洗い出そうとした。
ヤモリンゲとジャステリオン、両者の言っていた事を総合すればヘルダークネスはかなりの大組織だと考えられる。昨日の感じからすればその活動だってド派手なもんだろう。
なら絶対に何かしらの痕跡は残っている。そして惑星の本棚からはその情報を得られるはず。
そう目論んでいつものように調査を始めた俺らはいきなり壁にぶつかった。
ヘルダークネスというキーワードに引っ掛かるのは、ゲームやアニメ、マンガなんかの創作物に登場する名詞がチラホラと。しかもどれもこれもがマイナーで、ヤツらとの関連性は全く見られなかった。
それはジャステリオン、ヤモリンゲに関しても同様だった。
《ヘルダークネスは世界征服を企む謎の組織、ジャステリオンはそれと戦う謎のヒーロー。彼の言っていたこと以上でも以下でもない、それが今のところの結論だ。特撮番組の設定としてはよくあるものだけれど、鵜呑みにするのはどうにも抵抗を感じるね》
「まったくだ。なんか薄気味悪いものを感じるぜ」
その時、俺の視界の端に入ってくる人影があった。
と、それはコンビニのビニール袋を手にやってくる久留瀬プロデューサーの姿だった。
今日のレッスンには彼が付き添っている。ちなみに283プロのプロデューサーは今病院で治療と検査を受けている。
久留瀬プロデューサーは俺が電話中だと知ると会釈だけして、雄子さんと果穂の方へと駆けていった。
《翔太郎?どうかしたのかい?》
「ん? いや、何でもねえ。取り敢えず検索は一旦中止。手元の情報を整理しなおしてみっか」
《了解した。さて、現状分かるヘルダークネスの戦力、ヤモリンゲという怪人に関して言えば、戦闘力はダブルの脅威になる程ではないと思われる。名前から察するにヤモリを元にした生物だと思われるが、舌を伸ばす、火炎放射をする、というのは実際のヤモリの生態とあまりにかけ離れた特徴だ。どちらかと言えばカメレオンだとか架空の生物になるがドラゴンといった類のものが近いね》
「そうだな。あとはガイコツ野郎たち、これも大して強くは無かった。どんなに高く見積もってもマスカレイドのヤツら程度の戦闘力だな。でもって一番の問題、謎は、ヤツらがどうやって会場に現れたのかだ」
《君や他の人の目撃証言によれば、文字通り煙のように出現したと》
「ああ、正に瞬間移動って感じだったな。バットショットの画像にも不審なヤツらが潜んだり、入ってくるような様子は写っていなかった」
《そんな芸当が当たり前のように出来るのなら警戒のしようが無い。今回は君やジャステリオンが即座に駆けつけて被害は最小限に食い止められたが、次もこう上手くいくとは限らない。何か対策を講じたいところだけど……》
「さっき現場を隈なく見て回ったが、さっぱり手掛かりは無いときた。照井の情報によると警察も有力な手がかりを得られていないって話だ」
≪そういった現象を引き起こせる道具、ないしは能力の使い手が存在すると考えるのが打倒だろうけど、憶測の域を出ないね≫
(これがガイアメモリ絡みの事件ならアプローチのしようがあるんだが、生憎と俺達の専門外だからな。参っちまうぜ)
《であれば……ここはその道のスペシャリストに教えを請うのが一番かもね》
「スペシャリスト?」
《ジャステリオンさ。ヘルダークネスと因縁のあるらしい彼のことだ、何かしらの情報は持っていると考えて然るべきだ》
「確かにそうだな。……けどジャステリオン自体もどこにいるのかわかんねぇしな。これに関しても手掛かりはゼロだ」
《となると、待ちの一手をとる他無いね。次のヘルダークネスの襲撃があるのを。彼に問い質すのはその時だ》
「だな。とはいえ被害は出さねえようにしねえとな」
そうして俺は通話を終わらせる。
それに気が付いたのか、久留瀬プロデューサーが俺の方に近づいてきた。
「お疲れ様です左さん。これ差し入れです」
「あ、わざわざどうも。じゃ、いただきます」
受け取ったペットボトル入りのブラックコーヒーに軽く口をつける。
向こう側では果穂と雄子さんがスポーツドリンクを手にして、近くのベンチに腰掛けて一息ついていた。
談笑する彼女らの声はここからじゃよく聞こえないが、楽しげに会話をしているのは分かる。
果たしてそれはパフォーマンスについてなのか、例の如くヒーローに関する話なのか……
「いやぁ雄子のやつ、やっぱりいつも以上に楽しそうでコンディションも良いなあ。風都に連れてきて良かった良かった。聞いていた通り、いつも気持ちいい風が吹いてて、僕も毎日気分爽快ですよ。ハッハッハ!」
「よそから来た二人が風都が気に入ってくれたのは、俺としても嬉しい限りですよ」
「あ、僕に関して言えばよそ者ですけれど、雄子はそうじゃないんですよ」
「ん? えーっと……あっ、ひょっとすると雄子さんって……」
「はい。彼女は風都出身なんです。中学卒業と同時に親御さんの仕事の都合で街を出て、それ以来ご無沙汰だったみたいなんですけどね」
「へぇ……なるほどねえ」
「実はここに来る前の雄子はどこか覇気が無くて、仕事でも奮わない日々が続いていたんです。いくら励ましても発破かけても効果無しで。そんな時、G.R.A.Dが風都で行われるという話を耳にしまして、思い切ってエントリーさせてみたんですよ。故郷の空気を吸えば何かが変わるかと思って」
「んで、その目論見は見事に当たったと」
「はい! 会心の一発! 必殺キックで怪人を一発ノックアウト! みたいなスマッシュヒットで!」
溌溂と笑いながら久留瀬プロデューサーは綺麗なフォームのハイキックを繰り出して見せた。が……
「っ!? 痛ッた!」
蹴り上げた方の足を押さえて蹲ってしまう。
「お、おい! 大丈夫か!?」
彼の傍に近寄ってその様子を覗き込む。彼は心配いらないとでも言わんばかりに手を突き出して俺を制してきた。
そして数回深呼吸をしてからゆっくりと立ち上がった。
「ははは、お見苦しい所をお見せしました」
「脚でもつっちゃった感じっすか?」
「いえ、古傷がちょっと。昔事故でやっちゃいまして、激しく動いたりすると今でも時たま、ね」
「へぇ……にしても良い蹴りでしたね。格闘技かなんかやってました?」
「実は僕、元アクション俳優でして」
「ああ、なるほど」
それを聞いて合点がいった。彼のガタイの良さの理由もそれだったのか。
「翔太郎さーん!」
その時、果穂がこっちに向けて手招きをしてきた。
俺と久留瀬プロデューサーは揃って彼女らの方へと向かっていく。
「どうした果穂?」
「見て下さい翔太郎さん、ほらっ!」
果穂は手にしたスマホの画面を差し出してくる。
そこには動画投稿サイトにアップされた動画が映っていた。その内容は……
「これは、昨日のやつか」
予選会場をヤモリンゲ達が襲った時の映像だった。
スマホで撮ったと思われるそれには俺ら、もといダブルとジャステリオンが戦う姿が小さく映っていた。
大分離れた所から撮影されたであろうそれは、辛うじて戦いの様子が映っているといった具合で、お世辞にも見やすいものではなかった。
「おおっ、コレが噂の仮面ライダーとジャステリオンか。カッコいいねえ……出来ることなら生で見たかったなあ」
「厚志さんってば、呑気なんだから。実際怪我人も出てたっていうのに、もう……」
「けど雄子だって、少しくらいは見てみたいって思うだろう?」
「私は……流石に怖い、かな? 特撮番組を見るのとは訳が違うんだし」
「おいおい、ヒーローアイドルらしからぬ発言だなあ。本物のヒーローが見れる滅多に無いチャンスだってのに」
「だとしてもよ。危険な目に遭って取り返しがつかなくなってからじゃ遅いんだから」
その澄ました様子から察するに、どうやら思いのほか現実的な性格らしい雄子さんは。
ヒーローアイドルならばもっと果穂のように目を輝かせて夢中になるのかと思ったが、そういう訳でもないらしい。
まあ、子供と大人とじゃあ視点や感性が違っても無理はないか。
「他にもたくさん動画が……あれ? この動画、他のとは何だかちがうみたいです」
「ん? どれどれ」
俺が果穂のスマホを覗いてみると、やたら凝ったテロップの入ったサムネイルが目に入った。
「風都に現れた新ヒーロー! ジャステリオンの雄姿! ……か。再生数も段違いだな」
「再生してみますね」
果穂がタップするとスマホから燃えるような熱く激しいリズムの曲が流れ出した。例えるならヒーロー番組のオープニングみたいな。
その動画ではジャステリオンの姿が鮮明に映っていて、戦いの様子がダイジェスト形式で次々に切り替わっていた。
「わぁ……!」
「やたら凝った編集してんなあ」
俺と果穂は思わず感嘆の声を出す。
久留瀬さんと雄子さんもジッと画面を見つめていた。
こんな映像が撮られていたなんて、昨日戦っていた時には全く気が付かなかった。
余程高性能なカメラを使ったんだろうか、遠くから撮られたであろうそれはズームで画質が荒くなるようなことも無く、俺らの戦う姿がハッキリとアップで映っていた。正に臨場感に溢れるって感じだ。
多角的なアングルで映し出されているそれは、恐らく複数台のカメラを利用して撮られたのだろう。ったく、モノ好きな人間も居たもんだ。
「カッコよかったですね! ジャステリオン!」
「そうだね! いやー迫力あったなあ!」
果穂と久留瀬プロデューサーが興奮した様子で語り合う。
その傍らで声には出さないものの、雄子さんもどこか感心したような表情をしていた。
「あっ、コメントもいっぱい付いてます。ジャステリオン強い。メチャクチャかっこいいぞ。投稿者の編集センスがやばい。ジャステリオンの戦い生で見たかったー! ……ですって!」
果穂の読み上げるジャステリオンを称賛する言葉を聞いて、俺はちょっとだけ胸の奥がモヤっとする。
あそこにゃダブルもいたんだけどなあ。ちょっとは仮面ライダーを称える言葉があっても……
「仮面ライダーの方がカッコいいに決まってんだろ」
そうそう! って……え?
「何だ?」
俺が顔を上げると、少し物憂げな果穂の表情が目に入った。
何事かと思って画面の方に目を向けると……
【仮面ライダーの方がカッコいいに決まってんだろ。ジャステリオンとか見た目なんだか古臭い感じするし、ぶっちゃけダサい。投稿者も見る目無いな】
そんなアンチコメントが書かれていた。
更にはそれに対する反論、批判が巻き起こり、コメント欄はちょっとした炎上状態になっていた。
「どうして、こんな……」
落ち込んだ様子の果穂の肩にポンと触れる手があった。
「あ、雄子さん……」
「気にしちゃダメよ果穂ちゃん」
「でも、こんな酷いこと言う人がいるなんて、あたし何だか悲しいです……」
「私も気持ちは分かるわ。こういうのは見てて良い気分しないもの」
諭すように言う雄子さんが自分のスマホを取り出して操作を始める。
「果穂ちゃんはジャステリオンが好きで、カッコいいって思うのよね?」
「はい。戦ってる姿がすーっごくカッコいいですし、何よりあたしやプロデューサーさん、スタッフの人達を助けてくれましたから。あっ、もちろん仮面ライダーだってあたしは好きです!」
最後の一言に俺は思わず背中がむず痒くなる。
一方で雄子さんは果穂と同じように動画の再生ページを表示させて、果穂に見えるように差し出した。
「だったらその気持ち、みんなにも伝えてあげましょ、ね?」
【ジャステリオン、みんなを助けてくれてありがとう!】
雄子さんの打ったコメントがそこには表示されていた。
「雄子さん……はい! 分かりました! あたしもメッセージ、書きます!」
それから暫くして
【みんなを守ってくれてありがとうジャステリオン! カッコよかったです! 大好きです! 仮面ライダーも凄かったです!】
というメッセージがコメント欄に投稿された。
「ははっ、そんじゃあ俺も」
と、携帯電話を取り出して動画サイトを開いた。
さて、何て書いたもんかな。
考えながら、ふと俺は視線を横に向けた。
すると俯き気味の久留瀬プロデューサーの背中が目に映る。
どうやら彼も俺らと同様に、携帯を操作しているようだった。無言で一心不乱にコメントをしているのかその腕は小刻みに揺れている。
ぼやぼやしていられないと思い、俺は再び視線を画面に落として、頭の中で言葉をこねくり回していった。
風都警察署超常犯罪捜査課の照井竜警視は、バイクに乗り夕焼けに染まる街を走り抜け家路へと向かっていた。
彼はここ暫く定時で仕事を終える日々が続いていた。
鳴海探偵事務所へのガイアメモリ絡みの依頼が近頃ないのと同様に、彼の部署もまた業務量が大幅に減少。
部下である刃野刑事は署内にいる時間が増え、愛飲している昆布茶の消費量が増大。
無くなったそれを買いに行かされる真倉刑事がボヤく、などという光景をここ数日で何度も見かけていた。
ミュージアムが壊滅して以降、ガイアメモリ犯罪の件数は減少してはいる。
やっと下火になってきたかと安堵した様子で言う者も署内にはチラホラと存在していた。
しかしながら、ガイアメモリ犯罪が完全に撲滅されたわけではない。
今でも密売人が集めたガイアメモリを売り捌き、街に悪意をバラまき続けているのは事実なのだ。
一時的に鳴りを潜めようとも、それが気を緩める理由になどなりはしない。
平穏な日々の中にあっても、ガイアメモリ犯罪を憎む彼の警戒心は決して変わることは無い。
「……ん?」
だからであろうか、バイクのエンジン音や街の喧騒に紛れて聞こえてきた微かな音に彼が違和感を抱けたのは。
照井竜はバイクを路肩に停車させ、周囲を見渡した。
ヘルメットを外して耳をすます。
「……この先か?」
バイクを壁際に寄せてエンジンを切ると、彼は路地裏に続く細道へと足を踏み入れていった。
「はぁ、はぁ……た、た、た、助けてくれっ!」
転がるゴミ袋を蹴散らし、誰とも知れない者に助けを乞いながら逃げ惑うスーツ姿の男性。
何度も転んだり、壁に身体を擦ったりしたおかげで服や肌には所々傷みがみられた。
やがて足をもつれさせて、小さな空き地へと倒れ伏す男。程なくして彼の首筋に手が伸びてきた。
その手の主はスーツの男を引き摺り歩き、壁へとその背を押し付けた。
「貴様のような奴は生かしておけん」
野太く、しわがれたような声が、影の差す黒い顔から聞こえてくる。
「お、お、おお俺が、な、何をしたって言うんだよ!」
スーツの男が声を震わせる。鼻先にまでずり落ちかけた眼鏡がカタカタと揺れている。
「自分の胸に聞いてみるんだなぁ」
謎の人影がもう片方の手を男の顔に近づける。
その手の先にはナイフのような短くも鋭い刃物が。
「ひっ……!」
閃いた刃が息を呑む男の首筋に突き立てられる。
「痛てっ!?」
かに思われた瞬間、謎の人影の背に鋭い痛みが走った。
何事かと振り向くと、高速で飛ぶ小さな何かが、そこにいるのが分かった。
スーツの男を地面へと投げ捨て、身をよじり、突撃してくるそれを間一髪で避ける。
空中でUターンする機械仕掛けのカブトムシ、ビートルフォン。それはいつしか現れていた真紅のライダースーツを着た男の手に収まった。
「……ドーパントか?」
真紅の男、照井竜はサラリーマン風の男性を襲っていた人影を目にし眉をひそめる。
その人影の特徴を一言で言い表せば“黒”だ。
ある程度の濃淡はあれど、その全身はほぼ黒一色であるように見えた。
もっとも、それは路地裏の薄暗さのせいもあるだろう。明るい場所で見ればもっとハッキリと特徴を掴めるかもしれない。
だが、これだけは確信を持って言えた。あれはドーパント、ガイアメモリの力を宿した悪しき超人であると。
「はっ!」
照井竜は即座に次の行動に移った。
地面を蹴り、一気に距離を詰めると、ドーパントへ向かって拳撃と蹴りを繰り出した。
ドーパントもそれに応戦し、やがて二人は取っ組み合いの姿勢になる。
「逃げろ! 今のうちに!」
その声を受け、小刻みに首を上下させたサラリーマン風の男は、落ちていた鞄を抱え一目散に路地裏から走り去っていった。
「何なんだお前は!? 何故私の邪魔をする!?」
叫びながらドーパントは片腕を翻し、短刀を振るう。
その攻撃を飛び退って躱し、照井竜は静かに、そして微かに怒気を孕んだような声で言い放った。
「俺に質問をするな……」
バイクのハンドルのような形の機械、アクセルドライバーが彼の手に握られていた。
腰に当てられたドライバーから伸びたベルトが巻き付くと同時に、赤いガイアメモリを起動する。
《アクセル!》
「変……身ッ!」
ドライバーにメモリを差し、ハンドルを捻った照井竜の身体は、轟くエンジン音にと赤いオーラに包まれながら、真紅の鎧を纏った戦士へと変化を遂げた。
「お、お前も仮面ライダーか!? そうなのか!!」
いきり立つドーパントに対し、仮面ライダーアクセルは重厚な剣を構え
「言ったはずだ。俺に質問をするなと」
宣告すると共に突撃していく。
振り下ろされた重剣、エンジンブレードの一撃をドーパントは大袈裟な動作で、やっとのことで避ける。
そして振り下ろし後の隙を突き、ドーパントは短刀をアクセルへ向け突き出した。
だが、それはアクセルの予想済みの行動だった。
素早くブレードの腹をかざし、攻撃を受け止めるアクセル。
そして鍔迫り合いの体勢へと持ち込み、ドーパントの顔を間近で観察する。
帽子を被った人間を思わせるような頭部のシルエット、その顔面は垂れ下がったベールのような何かに遮られてよく見ることが出来ない。
(イマイチ掴み所の無いドーパントだな)
「うっ……くくっ……このっ……!」
ドーパントは必死に刃を押し返そうとしているが、アクセルは微動だにしない。
実際彼はその力の大半を出してはいない。いや、出す必要が無いくらいに謎のドーパントの膂力は脆弱だった。
アクセルは脚でドーパントの腹部を蹴り飛ばす。
「グフッ!」
ドーパントが地面をゴロゴロと転げて蹲った。
「つ、強い……」
「張り合いがなさ過ぎる。大した力は持っていないようだな」
「クソッ! 舐めるな!」
ドーパントは左手を上げてアクセルの方へ向けてグッと突き出した。
するとその先端から何かの束のような物が伸び出してきた。
「フッ!」
振われたエンジンブレードがそれらを切り飛ばす。
「触手か何かか? つまらん攻撃を……」
バラバラと地面へと散らばっていくそれを踏み付けつつアクセルは前進する。
「これ以上様子を伺う必要も無いだろう。先にメモリブレイクして無力化する」
「く、くそおっ……」
「逃がすか」
這うようにして逃げんとするドーパントを見据えながら、アクセルはドライバーのハンドルに手をかけた。
その瞬間!
「何っ!?」
周囲にボフッ! という弾けるような音が響き、白い煙が立ち込め周囲を包み込むように広がった。
咄嗟に身構えるアクセル。
彼の視界の先、煙の向こう側に黒い影のような物が浮かび上がる。
その一つが蠢いて、アクセルへと飛びかかってきた。
アクセルはブレードで攻撃を受け止める。
彼に飛びかかってきたもの、それは骸骨頭の怪人だった。
ブレードで押しのけるようにし、怪人を突き飛ばすアクセル。
周囲を見渡してみれば、十体程のガイコツ怪人がアクセルを取り囲んでいた。
(左がイベント会場で戦った奴らか!? 一体何処からどうやって……)
そうして四方八方から襲いくるガイコツ怪人ら。
ここでもアクセルの判断は早かった。
敵の攻撃をいなしつつ、ブレードへとエンジンメモリを装填。身体を回転させるように動かし、周囲の敵全て巻き込むように斬撃を放った。
≪エンジン! マキシマムドライブ!≫
アルファベットのAを模したようなエネルギーが放出されると同時にガイコツ怪人らが吹き飛んだ。
(聞いていた通り、コイツらの戦闘力はそれほどでもないようだが)
「やるねぇ、アンタ」
「!?」
何処からともなく聞こえてきた異様な声にアクセルが身構える。
すると、彼の眼前に黒い霧のようなものが立ち込めていた。
刹那、霧の中から響く風切り音。
咄嗟にブレードを構えるアクセル。
金属音と共に火花が散った。
「ぐっ……!」
「悪いが、これ以上好きにさせるわけにゃいかねえんでなっ!」
野太く荒々しい声が言い放つ。共に何度も襲いくる、斬撃と思しき攻撃をアクセルは受け止め続ける。
(一撃一撃が重い。今までのヤツらとは違う!)
「オラオラ! どうしたぁ!」
黒い霧に紛れて繰り出される攻撃に押されるアクセル。
彼は飛び退って距離を取り、形勢をひっくり返さんと再びメモリを起動させた。
《スチーム!》
エンジンブレードから吹き出した凄まじい勢いの蒸気が黒い霧を拡散させていく。
「おっと、こいつぁ厄介だ」
「そこか!」
聞こえてきた声の方へと蒸気が晴れるより先にアクセルは切りかかった。
「!?」
しかしながら、振り下ろしたその手に手応えは無い。
体勢を立て直し周囲を警戒するアクセル。
やがて蒸気が晴れ、視界が完全に開けた時、空き地には彼以外の人影は存在していなかった。
蹴散らしたガイコツ怪人らも、一人残らず忽然とその姿を消していたのだった。
ドーパント含め、敵が完全に消えたと悟ったアクセルは変身を解く。
「……黒いドーパントとヘルダークネス……ヤツらは一体何を……?」
陽の落ちきった路地裏に照井竜の呟きだけが虚しく響いた。
第四話お送りいたしました。
アクセルの戦闘シーンは書いていて楽しかったです。
W含め彼も今後活躍していきますのでお楽しみに。
【2025/2/28追記】
連載再開に合わせて加筆訂正を行いました。