仮面ライダーW 『Hの正義』   作:はちコウP

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仮面ライダーWの時系列はTV本編終了後~仮面ライダードライブ・アクセル客演以前

風都探偵以前orパラレルを想定しています。



『Hの正義(前編)/ダブルアイドル&ヒーローズ』⑤

 

 晴れ渡る空の下、街に吹くそよ風を身に受けながら、俺は愛車ハードボイルダーを走らせていた。

 

 前方には一台のタクシーが。その中には283プロのプロデューサーと果穂、付き添いで亜樹子が乗っている。

 

 タクシーと一定の距離を空けて走り続けること暫く、俺らは街の大通りに差し掛かった。

 

 そこで俺は何となしに街の様子に目を向ける。

 

 歩道には若者を中心とした、普段この街じゃ見慣れない人々の姿がちらほらと見受けられた。

 

 たぶんG.R.A.Dを見に全国各地からやって来た観光客、もといアイドルファン達だろう。

 

 この風都に長いこと住んでいる俺でも珍しく感じる程の賑わいぶりや独特の雰囲気を感じる。だからG.R.A.Dが注目されているイベントなのだということ、加えて経済効果も高いのだろうということが嫌でも分からされる。

 

 例の議員サマがイベント誘致に執心するわけだ。

 

 そんな彼は、ヘルダークネスの襲撃を受けて破壊された予選会場の修繕計画でも辣腕を振るっているって話だ。

 

 全ての工事計画及び業者が昨日中に全て手配され、予選会本番に間に合うようにと急ピッチで作業が進められているらしい。

 

 その間イベントは中断……とはならずに新たに手配された臨時の会場で行われることになった。

 

 

 

 

 

「わぁっ! すっごくキレイで大きな広場です!」

 

「本当だな。おっ、あの高台なんか特にいい雰囲気出してるなあ。あの辺りで写真撮影するのも良さそうだ。ツイスタ用の良いプロモ画像が出来そうじゃないか?」

 

 昨日のうちに病院で治療を進めたプロデューサーが、松葉杖を突きながら進み出て広場の一角を指差した。

 

「そうですねプロデューサーさん! あたしヒーローのポーズを決めてみたいです!」

 

「ははっ、どうやら気に入ったみたいだな」

 

「はいっ! 翔太郎さん」

 

 その眼を相変わらずキラキラさせながら果穂は答える。

 

 俺もついつい彼女の楽し気な様子に刺激されて、両腕を大きく広げ得意気にこの場所の魅力を語り出してしまう。

 

「普段この広場には風都中の路上パフォーマーがたくさん集まっててな、そのおかげでいつも賑わってるんだ。風都の誇る名所のひとつなんだぜ」

 

「路上パフォーマー。どんな人たちがいるんですか?」

 

「マジシャンだとかジャグラーだとか、定番の路上シンガーなんかがよくいるな。パフォーマンスを見る方も演る方もみんな良い笑顔しててな……見てるこっちも気持ちよくなるってもんさ」

 

「中には狂気の歌声でみんなを恐れおののかせるミュージシャンもいるけどね……」

 

 隣に立つ亜樹子が目を細めて、こめかみに手を当てながらボソりと呟いた。

 

「あー、アイツか……アイツは、まあ……な」

 

「キョーキの歌声、ですか? 何だかヒーロー番組の怪人みたいで凄そうで面白そうです! あたしもそのパフォーマンス見てみたいです!」

 

「いやいやいや、やめておいた方が良いわよ絶対! アイドル活動に支障が出ちゃうから! 大事なお耳が壊れちゃうわ!」

 

 亜樹子が手のひらを横にブンブンと振りながら猛烈な勢いでまくしたてる。

 

「そうなんですか?」

 

「ははは……まあ、何にせよG.R.A.Dの開催期間中にはそれらを見るのは無理そうだけどな」

 

 俺はチラリと視線を広場の入口の方へと向ける。

 

 そこにはパフォーマーらしき人間が数人が立っていて、立て看板と広場の内側とを交互に怨めし気な眼差しで見つめている様子が窺えた。

 

 看板には【イベント実施中につき関係者以外立入禁止】の文言が書かれていた。

 

 まあ、彼らにとっちゃ迷惑な話だろうな……

 

 やがて溜息をついて諦めの様子で肩を竦めた一同はその場を去っていった。

 

「で、今日は一体ここでどんなことをするんです?」

 

 広場の外へと向けていた視線を戻して俺はプロデューサーに尋ねる。

 

「この後は先日中断されたリハーサルの続きと団体パフォーマンスの練習を行います」

 

「団体……? ええと、G.R.A.Dってソロで参加するオーディションですよね。なのにどうしてそんなことを?」

 

 亜樹子が小首を傾げる。

 

「一種の余興、フィギュアスケートなんかのエキシビションみたいなものですよ。とはいえ多少なりとも審査に影響を与えるものですが」

 

「へー。それで具体的には何をするんですか?」

 

「参加アイドル達は三つのグループに振り分けられて歌とダンスを披露するんです。曲も振り付けも運営が用意した共通の課題用のもの、これを使ってパフォーマンスを行うんです。そして―――」

 

 プロデューサーの説明を要約するとこうだ。

 

 まずG.R.A.Dにおける審査は審査員による評価が大きなウェイトを占める。

 

 だがそれとは別にファンによる人気投票も行われ、その順位も加点要素のひとつになるらしい。

 

 その人気投票を左右するのが団体パフォーマンスだ。

 

 アイドル達による団体パフォーマンスは後程撮影され、運営の特設サイトにアップされる。

 

 それと同時に人気投票がWEB上で執り行われるのだ。

 

 大抵のファンには応援するアイドル、所謂“推し”が既にいるものだが、中にはそれに当てはまらない視聴者もいる。そういった人々の浮動票をいかに獲得するか、これが重要らしい。

 

 ここで下手に悪目立ちしてしまうと反感を買ってしまう場合もあるという。

 

 そのため、全体の調和を乱さず且つ他者よりいかに優れたパフォーマンスを行えるか、そういった点が重要視されるらしいのだ。

 

 ちなみに本来は本選前のプチイベントとしてファンを会場に招き入れてパフォーマンスを披露する予定だったらしい。それが先日の襲撃事件の影響で急遽中止となったのだ。

 

「ファン投票は審査全体のごく一部の要素にすぎません。しかしながら勝ちを得るためには決して逃してはいけないものなんです。それに今後の活動にプラスにもなりますしね」

 

「なるほどな……余興であっても気は抜けないわけか」

 

「はい。でも、あたしすっごく楽しみなんです。283プロ以外のアイドルの人たちとパフォーマンスするのってめったになくて、ワクワクが止まらないです!」

 

「とはいえ、本人がこの調子ですから。私としても伸び伸びと果穂らしくやってくれるのが一番と思ってるんですよね」

 

「うんうん。私もそれで心配無いと思うわ。果穂ちゃんは自然体でも充分魅力的だもん」

 

「えへへっ、ありがとうございます、所長さん!」

 

「だな、自分らしくいけよ果穂」

 

「……どうも、おはよ―――」

 

 と、その時、俺らに話かけてくる声がした。

 

「おう! 翔太郎じゃねぇか!」

 

「ん? ……おっ、刃さん」

 

 トレードマークのツボ押し器を肩に当てながら近付いてくるスーツをラフに着崩した中年男性、風都署の刃野刑事だった。

 

「どうしたんだよ刃さん、こんな所で。もしかして退屈しのぎにG.R.A.Dに出るアイドルを見に来たとか?」

 

 そんな俺の軽口に反応したのは刃さんではなく、隣にいた別の若い男、刃さんの部下のマッキーこと真倉刑事だった。

 

「んなわけねぇだろ探偵。お前と違ってヒマじゃねえんだよ俺らはよ!」

 

「んだとこの!? こっちだってな、依頼でここに来てんだぞマッキー! そっちこそ最近は定時上がりで毎日悠々と呑みに行ってるらしいじゃねえか。偉そうに人のこと言えんのか、あ?」

 

「んなっ! ……何でそれを」

 

「へへっ、この街は俺の庭みてぇなもんだぜ。噂は何でも耳に入って来るんだよ。キャバクラの姉ちゃんに随分と入れ込んでるみてえだけど、まあ程々にしとけよな」

 

 薄ら笑いを浮かべながらマッキーの肩をポンポンと叩いてやる。

 

「こんにゃろう、人のプライベートを……」

 

 歯ぎしりをしながら、わなわなと握り拳を掲げるマッキー。

 

「あ? どうした?」

 

 俺も負けじと顔を突き出してその姿を睨みつける。

 

「まあまあ落ち着けって二人とも、な?」

 

 薄ら笑いを浮かべながら刃さんが間に割って入り、睨み合う俺らをスッと引き離す。

 

「実際、翔太郎の言う通りアイドルを見るのも楽しみじゃあるんだけどな、生憎とこっちも仕事だ。会場のパトロールに駆りだされてな。その、なんだ。ヘルなんちゃら、なんてけったいな名前のヤツらがまた襲って来ないとも限らんってわけで風都署に警備の要請が来たってわけよ」

 

「ヘルダークネスな。にしても超常犯罪捜査課が何でわざわざ……って、そういや照井はどうしたんだ?」

 

「照井課長は昨日のドーパント事件の調査に行ってるよ。本当は俺らもそっちに行く予定だったんだけどな、偉~い議員さんの差し金で上層部からウチの部署にも署長直々に命令が来てよ。課長としちゃ突っぱねたいとこだったんだがな、無視するわけにもいかず俺らだけこっちによこされたってわけ」

 

「そうか。ドーパントの……」

 

 その時、俺の脳裏に昨日照井から報告された事件のあらましが思い浮かぶ。

 

 昨日の夕方ごろ、帰宅途中の照井はサラリーマンに襲い掛かるドーパントと遭遇、戦闘になった。

 

 ドーパント自体には大した戦闘能力は無かったらしいが、戦いの途中で突如としてヘルダークネスの一味が出現、アクセルと交戦に至った。

 

 最終的にヘルダークネス、ドーパント共々その場から姿を消し、戦闘は終結したらしい。

 

 だが話はこれだけで終わりじゃなかった。

 

 実はその数時間前に同一のドーパントによるものと思われる傷害事件が発生していた。

 

 被害者は風都在住の専業主婦と男子大学生。いずれもナイフのような刃物で身体を切り裂かれ重傷を負い病院へと搬送された。

 

 幸いにして、照井の助けたサラリーマン含め被害者三人全て命に別状は無かったらしい。

 

 彼らへの事情聴取も今朝までに済まされたのだが、被害者らは全員が襲われた理由について全く心当たりが無く、三者の間には面識も共通点も全くみられないとのことだった。

 

 このことからドーパントによる通り魔的な犯行だろうというのが大筋の見解となっている。

 

 メモリを手にした人間がその力を試したいがために人を襲う。まあ、よくある話ではある。

 

 加えてドーパントと戦う照井の元に乱入するように現れたヘルダークネスの一味。

 

 照井の話だとヤモリンゲやガイコツ怪人とは違う未知の敵も現れたという。

 

 ヤツらはあそこで何をしようとしていたのか……

 

 アジトらしきものが近くにある、アクセルを脅威とみなし排除しようとした、何かの偶然で遭遇することになった。

 

 仮説は幾つか思いつくがどれもしっくりこない……

 

「おはようございます、刑事さん!」

 

「刃野刑事、真倉刑事、ご無沙汰してます。先日はどうもありがとうございました」

 

「おう、果穂ちゃんにプロデューサーさん。二人とも元気そうで何よりだ」

 

 その会話が耳に入り、思案していた俺は我に返る。

 

「何だ、みんな知り合いなのか?」

 

「こないだ二人が襲われた事件の話を聞いたのが俺らだからな」

 

「ああ、なるほどね」

 

「翔太郎さんも刑事さんたちと知り合いだったんですね。刑事さんと知り合いの探偵さん、何だかドラマとかで見るシーンみたいでカッコいいです!」

 

 果穂の真っ直ぐな憧れの眼差しを受けた刃さんが顔をニヤけさせる。

 

「お、そうか? そう褒められると嬉しくなるねえ。まあ、実を言うとな翔太郎とは俺が巡査だった時からの腐れ縁だ。コイツが高校生の頃なんかよく追っかけ回したもんだよ」

 

「警察の人に追いかけられてたんですか、翔太郎さん?」

 

「ちょ、刃さん! 果穂の前でその話は!」

 

「へへっ、翔太郎は昔はかなり荒れててな、しょっちゅう不良どもと喧嘩しては身体のそこかしこに傷をこさえてたもんさ。正に尖ったナイフってやつだな」

 

 唐突な過去の暴露を受けて俺は思わず片手で顔を覆う。いたいけな小学生になんちゅうこと話し出すんだこの人はよ。

 

「ある時は街中で、ある時は河川敷で、またある時は不良どもの溜まり場で、この街の至る所で暴れまくってたもんさ。うんうん、懐かしいねえ」

 

「だぁーっ! もう黙ってくれ刃さん! ほら、いつまでも油売ってねぇでさっさと仕事に戻れよ!」

 

 俺は腕組みして遠い目をしている刃さんの肩を引っ掴んで、強制的に回れ右させてその背中を押し出した。

 

「おっとっと! ったく、わかったよ。話の続きはまた今度っつーことで。そんじゃあな」

 

 手をひらひらと振りながら刃さんは歩き去っていった。

 

 その後を付いていくマッキーの肩がプルプルと震えて、その横顔がニヤケているのが見えた。

 

 チクショウ、二人とも後で覚えとけよ!

 

「あの……もし――」

 

 と、俺の耳に呼びかけてくる声が聞こえてきた。

 

「翔太郎さんって不良だったんですか!?」

 

「あー……果穂、今の話はな、何ていうか……」

 

 口籠りながら声の方へと視線を向けると、瞳をキラキラと光らせた果穂と目が合った。

 

「……ま、まあ、そんな時代もあった……かな?」

 

 その純粋な視線に誤魔化そうとしていた気持ちは霧散して、思わず首を軽く縦に振って肯定をしてしまう。

 

「わぁ! だったらあたしと一緒ですね!」

 

「……は?」

 

 一緒? つまり果穂も不良だってことか? いやいやいや、こんな純真無垢な子供が不良だなんてそんな話が……

 

「えっと、それってどういう意味――」

 

「そいつはズバリ! 『轟!紅蘭偉魔空珠†番外地』のことだね~」

 

 俺が小首を傾げていると、背後からねっとりとした口調の男の声がした。

 

 何事かと振り返ると、そこにはモジャ毛に人一倍面長で髭面の胡散臭い雰囲気を漂わせる男が立っていた。

 

「どうも~翔ちゃん、亜樹子ちゃん」

 

「ウォッチャマンじゃねえか」

 

「あら、ウォッチャマン。ここは関係者以外立入禁止のはずだけど」

 

 亜樹子のその一言に対し、ウォッチャマンは得意気にニヤリと笑って、両手の人差し指で自分の着ているシャツを指し示してみせる。

 

「これ見て分からない? 今のボキはこの会場の運営スタッフの一人なのさ」

 

「んん? ……あ、確かにそのTシャツG.R.A.Dのロゴが入ってるわね。でもどうして?」

 

「先日の騒ぎでスタッフにも怪我人とか辞退者がでたんだよ。だから急遽臨時スタッフの募集が行われてね。ボキも応募からの即採用でめでたくスタッフの仲間入りを果たしたってわけさ」

 

 ウォッチャマンはドヤ顔で鼻息をフンスと吹き出す。

 

「で、そのクライマックス何たらってのは?」

 

「『轟!紅蘭偉魔空珠†番外地』放課後クライマックスガールズ主演のWEBドラマさ。そこで果穂ちゃんは正義の不良役を演じてたってわけ」

 

「はい、そうなんです! えっと、あの……この人は?」

 

 果穂が怪訝な様子で俺らの方を交互に見やる。

 

「ああ、こいつはウォッチャマン。風都じゃちょっとは名の知れたブロガーなんだ。情報通なヤツで、俺らの捜査に協力してもらう時もあるんだ」

 

「いわゆる一つの情報屋みたいなものよね。ウチの事務所とも色々やり取りしてるのよ」

 

「じょーほーや! アニメとかドラマで見たことがあります! 探偵とか刑事が主人公のお話のやつで! カッコいいですっ!」

 

「ふっふっふ~。いや~それほどでもあるかな~?」

 

 果穂の声にウォッチャマンのヤツは鼻の穴を膨らませてニヤケ顔を晒している。またしても果穂の純真さに魅了された男が一人。まあ、その気持ちはよく分かるけどな。

 

「それと、ドラマ見て下さってありがとうございました」

 

「いやいや、こっちこそ面白いドラマ見せてくれてありがとう。ホントに良かったよ~シナリオは熱くて、キャラクターの関係性は激エモ! みんなの個性や演技、脚本とがベストマッチ! って感じでもう最高! 果穂ちゃんの初登場時のあの決め台詞とか大好きでさ、出来れば生で聞きたいくらい!」

 

「あのセリフですね! わかりました!」

 

 すると果穂はスッと目を閉じて、軽く深呼吸をし、キリっとした表情を作った。

 

 そして顎のあたりに片手を添えて一言を発した。

 

「見ない顔ですねぇ……!」

 

「うわーおっ! 本当に目の前で見れるなんて、ボキ大感激! もう果穂ちゃんしか勝たん!」

 

 ウォッチャマンは組んだ両手を頬に当てて、まるで乙女の如き仕草で目を輝かせている。正直言って大の大人、それもむさ苦しい髭モジャ天パ男がしてるもんだからその気色悪さときたら半端ない。

 

 ドラマを見ていない俺には正直どういうシチュエーションでの台詞なのかさっぱりわからないが、独特の口調と果穂の見た目とのギャップが相まって何だか妙に印象深いように感じられた。

 

「あと出来れば記念に一枚写真を撮らせてもらえたら」

 

「写真ですか? えっと、それは……」

 

 果穂が一瞬困ったような表情になり、プロデューサーの方へを目を向ける。

 

 同じようにそっちの方に視線を向けたウォッチャマンは

 

「と、そっちの男の人は噂の敏腕プロデューサーさんですね。どーもー、ワタクシこういう者です」

 

 彼の方へと歩み寄り、懐から取り出した名刺を差し出した。

 

「あ、ご丁寧にどうも。……敏腕は流石に言いすぎですよ。がむしゃらに日々仕事をこなしているだけですから」

 

「またまた、ご謙遜を」

 

 プロデューサーもまた自分の名刺をウォッチャマンへと差し出して交換をする。

 

「で、どうでしょう? 一枚パシャっと」

 

「おいウォッチャマン、流石に調子に乗りすぎじゃねえのか」

 

「構いませんよ」

 

「って、いいのかよ!」

 

 プロデューサーがあっさりと承諾する。

 

「ただし、私どもによる撮影という形でお願いします。ツイスタにアップするPR用の写真、スタッフさんとのオフショットという型式よろしければ」

 

「全然構いませんよ! あとでシェアしても?」

 

「大丈夫です」

 

 そんなこんなでウォッチャマンと果穂とのツーショット写真が何枚か撮られることとなった。

 

「いやー、感激だなあ! 果穂ちゃんとこうして撮影出来て!」

 

「あたしも嬉しいです。風都でもファンの人と交流が出来て」

 

「ムフフフ、バイトに応募してよかったな~ホント」

 

「おいコラ! そこのモジャ毛のノッポ!」

 

 と、怒鳴り声が響き渡る。

 

「サボってねぇで設営の仕事手伝え! 時間ねぇんだぞ!」

 

 ウォッチャマンへ向けてベテランスタッフと思われる筋骨隆々の男が叫んでいた。

 

「ヤバっ……! そんじゃあボキはこの辺で。みんなまたねー!」

 

 そそくさと小走りにウォッチャマンは去っていった。

 

「さて、それじゃあ私たちも準備がありますのでこの辺で。行こうか果穂」

 

「わかりました。それじゃあ翔太郎さん、行ってきます!」

 

「おう、頑張れよ」

 

「じゃあ翔太郎君、見回りよろしくね」

 

 付き添いの亜樹子と果穂、プロデューサーが仮設の控室があるプレハブ小屋の方へと向かっていった。

 

 さて、それじゃあ俺はこないだと同じように見回りに精を出しますか。

 

 踵を返してその場を後にしようとする。

 

「ああ……行ってしまいましたか」

 

「うおっ!」

 

 そんな俺の目の前に、突如として老齢の男が姿を現した。

 

 ビックリして心臓がバクバクする。

 

 って、この人は……

 

「あ、アンタは……確か、古碌プロの社長さん?」

 

「はい、どうも。探偵さん」

 

 英田雄子さんの所属事務所、古碌プロの世話谷社長だった。

 

「ビックリさせないで下さいよ。いきなり人の背後に立つなんて」

 

「いえ、その……さっきからお側に居たんですが」

 

「さっきから?」

 

「ええ、警察の方々とお話しする時からずっと」

 

「マジで?」

 

 全然気が付かなかった。ていうか、他の誰にも気付かれなかったのか? あれだけの人数がいて?

 

 初めて会った時も思ったけど、どんだけ存在感薄いんだこの人は……

 

「その、何だか無視してしまってたみたいですみません」

 

「いえいえ、構いません。慣れっこですから」

 

「ところで、何か御用でも?」

 

「ただ皆さんにご挨拶をしようと思っただけですよ。そういえば聞きましたよ、厚志くんや雄子くんから。探偵さんはなんでも283プロさんのとこの果穂ちゃんの護衛をされているとか」

 

「ええ、まあ」

 

「物騒な話ですねえ。暴漢に襲われてしまうなんて。もしかして、283プロの方々は彼らに狙われていたのですかな?」

 

「いや、多分たまたまだとは思いますけれど。あまり言いたくは無いですけど風都では時たま物騒な事件が起こりますから」

 

 俺はさりげない調子で質問の答えをはぐらかす。

 

 脅迫文に関しては依頼人の機密情報でもあるし、無暗にベラベラと口にする必要はないからな。

 

 それよりも一点、俺はこの人の物言いに引っかかりを感じた。

 

「そうですか。思い違いでしたか、これは失敬」

 

「どうして果穂たちが狙われた、だなんて思ったんですか?」

 

「いや……昔の私たちと重なる部分があったものですからつい」

 

「それはどういうことですか?」

 

「我々の事務所が隆盛を極めていた頃は所属タレント宛てに脅迫文ですとか、危険物が送られてくるなんて出来事が時たまありましてな。実際にタチの悪い人間に襲われた者もおったのですよ」

 

「そりゃあ参っちゃいますね」

 

「ええ、まったく。ですが今にして思えばそれは人気の裏返しでもあったと強く感じます。現在のウチの弱小ぶりじゃあまるっきり縁遠い話なのが悲しくもありますな」

 

 乾いたような笑いを漏らしながら世話谷社長は肩を竦めた。

 

「ですが今は少し希望を持てているんです。また事務所が盛り立てられるんじゃないかって。このイベントには社運を賭けて臨んでいます。それもこれも全て厚志くんや雄子くんのおかげです」

 

「そうなんですか。ところで、久留瀬さんと雄子さんの姿が見えませんけど、どちらに?」

 

「雄子くんはウォーミングアップに軽くジョギングしてから来るとのことで。それと厚志くんなら、あちらの方に」

 

 世話谷社長が指し示した方向に目をやると、設営のスタッフ達に混じって荷物運びをしている久留瀬プロデューサーの姿があった。

 

 両脇に資材を抱えて小走り気味に会場内を往復するその様子は、えらく場慣れしているように感じられた。

 

「彼は人一倍今回のイベントに賭けていましてな。本業の合間には率先して手伝いを買って出ているようでして。加えて毎日朝一番に会場にやってきてゴミ拾いに勤しんでたりもするようで」

 

そういえば初めて彼に会った時もそんなことをしていたな。

 

「一生懸命な人なんですね」

 

「ええ、まったく。私も手伝いたいところではあるのですが、生憎と歳で足腰がついていきません。G.R.A.Dの戦略についても厚志くんが全面的に主導していますし。全ての決定権は彼に一任しています」

 

「へぇ。そういうのって社長さんが音頭をとって一緒に進めていくもんかと思ってたんですけど、違うんですね」

 

「他の事務所はそうかもしれませんね。ですが私はどうにも慎重すぎるタチでして、周囲に比べ行動が出遅れがちで。厚志くんのような熱意とスピード感、牽引力のある部下に任せて下手に足を引っ張らないようにするのがベストかと思っております。……と、長話が過ぎましたな。探偵さんもお仕事があるでしょうに、申し訳ありませんな」

 

「いや、別に気にされなくても」

 

「ははは、そうですか。ですがまあ、取り敢えず私はここらで失礼させていただきます。では」

 

 曲がり気味の腰を更に深く曲げるように会釈をして、世話谷社長はゆっくりと仮説ステージの方へと歩き去っていった。

 

「……古碌プロ、か」

 

 俺はスタッグフォンを懐から取り出して電話をかけることにした。

 

 

 

 それから会場近辺をぐるりと一周してステージ側まで戻ってくると、響き渡っていた音楽がちょうど鳴り止んだ。

 

 ステージ上でリハーサルをしていたアイドルが捌けて、別のアイドルが入れ替わりにやってくる。

 

「あっ、翔太郎く~ん!」

 

 そこへ俺の名を呼ぶ声が聞こえる。

 

 見るとステージ正面に向かって、まばらに並べられたパイプ椅子のひとつに腰かけた亜樹子が手を振っていた。 

 

「何やってんだ亜樹子」

 

 見るとその手にはハンディカメラが握られていた。

 

「撮影よ撮影。果穂ちゃんが他のアイドルの子たちのパフォーマンスを参考にする為のね。いや~流石芸能プロの備品、画質がスマホより格段に上だわ」

 

「へぇ、研究熱心なんだな」

 

「むしろ、それくらいやらなきゃいけない位に大変なんでしょ。アイドル戦争に勝ち残っていく為にはね」

 

「戦争って、大袈裟な……いや、そうでもないか」

 

「ん? どうかしたの?」

 

「あ~……さっき古碌プロの社長さんと話したんだ。それで、芸能界ってのも大変なんだなって思ってな」

 

「ふ~ん。そういえばさ、283のプロデューサーさんから聞いた話なんだけど、古碌プロってかなりの経営難らしいわね」

 

「らしいな」

 

「あら、知ってたの?」

 

「何となく気になってな。ちょっと調べてみた」

 

 俺は会場を回るついでに関係者に聞き込みをし、加えてフィリップに連絡して簡単な情報を検索してもらった。

 

 それによって分かったのはこうだ。

 

 古碌プロは全国行脚をする劇団を前身とする芸能事務所で、昭和の時代劇ブームに乗って規模を拡大。一躍黄金期を築き上げた。

 

 殺陣に優れたアクション俳優を多く擁していたことから、特撮の黎明期には多くの番組に参加し、その発展に多大なる貢献をしたらしい。

 

 時には事務所が企画を立ち上げてテレビ局に売り込むなんてこともしていたとのことだ。

 

 だが、景気の後退やブームの衰退とともに派手なアクションを要するドラマや時代劇の仕事は激減、世話谷さんが社長として就任する頃には事務所経営は火の車となっていたらしい。

 

 経営方針の転換を度々行うも全てが上手く噛み合わず、最早現存しているのが奇跡、とまで言われている。というのが関係者の大筋の意見だった。

 

「久留瀬さんみたいな若い社員が中心となって、再起をかけて事務所を切り盛りしてるみたいだな」

 

「へぇー。283プロもあのプロデューサーさんが入社してから大きく伸びていったって話らしいし、新しい風ってのはどこでも物事を大きく動かすものね」

 

「だな」

 

「いやー、カリスマっていうのかしら? やっぱり改革を行う人間は違うわね、私みたいにさ!」

 

「何でそこでお前の話になるんだよ?」

 

「だってそうでしょう? 誰かさんが不甲斐ないせいで経営が傾きかけてた探偵事務所を立て直したんだからさ」

 

「あ? 何だそりゃ、イヤミか?」

 

「純然たる事実でしょ。私が来てから事務所の利益がどんだけアップしたと思ってるの? ほらほら、具体的な金額言うてみいや、ん? ん? ん?」

 

「ぐっ……!」

 

 亜樹子の猛口撃に言葉を詰まらせる。

 

 言い方は気に食わねえが、事実だから何とも反論できない。

 

 ていうか、どうしていつの間にか俺が責められてんだ?

 

 どうにかして話題を変えようと頭を巡らしているとスピーカーから音楽が鳴り出した。

 

「おい、リハ始まるぞ。カメラ回せ回せ!ほらほら!」

 

「わかったわよ。そんなに急かすなっつーの」

 

 

 こうしてこの場を乗り切った俺は、そのまま暫くステージを見続けた。

 

 アイドル達の個別リハーサルが終わり、例の団体パフォーマンスの練習が開始される。

 

 その頃合いになると、運営・設営スタッフと思わしき集団が俺らの周囲の席に座り始めた。

 

「やっほー翔ちゃん、亜樹子ちゃん」

 

 両肩掛けにしたタオルで軽く汗を拭いながら、ウォッチャマンが俺らのすぐ近くの席に腰かけてきた。

 

「ウォッチャマンどうしたの? 他のスタッフたちもだけど、仕事はいいの?」

 

「取り合えず設営は一段落したよ。そしてこれが次の仕事なんだよ」

 

「どういうことよ?」

 

「ボキたちは観客役として席に座って音響の具合とかを確かめるワケ。加えてアイドルの子達に本番を意識させるって目的もあるのさ。無観客とそうでないのとだとパフォーマンスの質が変わったりするしね」

 

「なるほどね~」

 

 周囲を見渡してみれば少し遠くの方に283のプロデューサーの姿も見えた。彼は俺の方に軽く会釈をすると傍のパイプ椅子にゆっくり腰を掛けた。

 

「けどこうして普段はお目にかかれないアイドルの子たちの練習を見れるだなんて感激だなあ。ムフフ」

 

 ニヤケ顔のウォッチャマンの様子を見て俺はやれやれと肩を竦める。

 

 と、壇上には青色を基調とした腕章のようなリボンを付けたアイドルらがやってきた。

 

 どうやら最初のグループのアイドル達らしい。

 

「ね、あれ雄子さんじゃない?」

 

「ん? ……お、本当だ」

 

 亜樹子が指差した方、ステージ向かって左方面の中ほどに英田雄子の姿があった。

 

 立ち位置についた彼女は真剣な眼差しで正面をじっと見据えていた。よほど集中しているのか、どうやら俺らの存在には気が付いていないようだった。

 

 程なくしてシンセサイザーとギターを主旋律とするダンスミュージックが流れ始め、アイドル達のパフォーマンスが開始された。 

 

 暫くそれを見ていて素人ながらに俺は思った。彼女らの団体パフォーマンスは正直言って前に見た個別パフォーマンスの時に比べると粗削りで未完成な感じが否めないと。

 

 しかしながら普段はバラバラのライバルと言える者達が一糸乱れぬ動きをしようと、一つのステージを作り上げようと、一生懸命に頑張る様は見ていて心地の良いものだった。ファンではないが応援したくなる気持ちが湧いてくるような気がした。

 

 と、亜樹子がひそひそと話しかけてきた。

 

「ね、翔太郎君、見て雄子さんのダンス」

 

「ん?」

 

 言われて彼女の方を見てみると、他のアイドルらとは一線を画すキレのある動きでダンスを披露している姿が目に入った。

 

「うーん、彼女のダンス何だか凄いわね。みんなとの調和を乱さないように動きつつも、所々ビシッと決まってるって感じ?」

 

「そうだな。手足の動き、ステップのメリハリが素人目に見てもハイレベルに感じるぜ」

 

 彼女のことを知らない人間が見てもついつい注目してしまうのではないだろうか。

 

 さっきプロデューサーの言っていたのはこういうことだったのかと実感させられる。

 

「雄子ちゃんは元ダンサーグループの人間だからね。ああいうのは得意中の得意なのさ」

 

 ウォッチャマンが俺らの会話に加わってくる。

 

「え、そうなの?」

 

「所属グループが解散したのをきっかけにアイドルに転向したって話。まあ、実力は高かったらしいけどアマチュアグループだからあまり知られてはいなかったみたいだんね」

 

「ダンサーからアイドルって随分思い切ったことするな。まあ、似たような業種ではあるけどよ」

 

「何でも今の彼女のプロデューサーが熱心にスカウトしたらしいよ」

 

「へえ。なるほどね」

 

 俺の脳裏にはあの熱血漢な久留瀬プロデューサーが、雄子さんを目の前にして熱弁をふるう姿がありありと想像できた。

 

 そうこうしているうちに彼女らのリハーサルは終了。

 

 運営スタッフ及びグループの担当トレーナーによる反省評が述べられ、次のグループと入れ替わる。

 

 続くピンクの腕章をつけたグループのパフォーマンスも滞りなく終了し、最後のグループとなるオレンジ色の腕章のグループがステージ上へとやってきた。

 

 その中に果穂の姿があった。

 

 彼女はセンター寄りの位置に立って、床と周りとを交互に見つつ、ちょこちょこと動きながら立ち位置を微調整している。

 

「果穂ちゃーん!」

 

 そんな中、亜樹子がステージに向けて大きく手を振りだす。

 

 それに気付いたのか果穂は表情を綻ばせて、こっちに向けて軽く手を振り返してきた。

 

 亜樹子のはしゃぎ様に軽く呆れ肩を竦めつつも、果穂に向けて俺も手を小さく振ってみせた。

 

 暫くして全員の配置が完了し、場内は静寂に包まれる。

 

 ステージ端や上部に設置されたスピーカーが軽快な前奏を流し始め、それに合わせてアイドル達が手をゆっくり上へとかざしていく。

 

 それと同時に会場内に火薬の弾けるような音が響き、白い煙が立ちこめた。

 

「うぇっ!? なになに!?」

 

ウォッチャマンが慌てふためいて首を動かして周囲を見渡す。

 

「こいつは!?」

 

 こないだのあの時と同じだ!

 

「クケケケケケーーーーッ!」

 

 甲高い笑い声が周囲に響き渡る。

 

 同時にステージ上に浮かび上がる影。

 

 いや、ステージだけじゃない。見渡せば観客席の側にも煙に紛れた人影がいくつも出現していた。

 

 吹き抜ける風が煙を晴らしていく。

 

 そうしてステージ上にハッキリとその姿を現したトカゲ男、ヤモリンゲが叫ぶように声を上げた。

 

「風都の愚民ども! 今日こそ我らヘルダークネスの元に屈するがいい!」

 

「キャーーーーッ!」

 

 ステージ上のアイドル達が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。しかし……

 

「おっと! 逃がすか!」

 

 ヤモリンゲがその舌を延ばし、集団の先頭をゆくアイドル3人の身体に巻き付ける。

 

 そのアイドルらはそのままもつれ合うようにして転倒。後に続くアイドルらはそれに阻まれる形となり急停止する。

 

「ヤモリンゲ! あの野郎!」

 

 立ち上がった俺はステージへ向けて一目散に駆け出そうとする。

 

 だがパニックとなり悲鳴を上げて逃げ出そうとする客席のスタッフらに阻まれて思うように動けない。

 

「貴様らもだ! 逃げるな! 妙なマネはするな!」

 

 ヤモリンゲのその叫びに呼応するようにして客席内に出現していたガイコツ怪人らが、逃げようとする人々に立ちはだかる。

 

 ある者は突き飛ばされ、またある者はその場にねじ伏せられる。

 

 ステージの上に目を向けてみれば、逃げようとしていたアイドル達の周囲にもガイコツ怪人の集団が展開し、完全に行く手を阻んでいた。

 

「ステージの上の女どもも、客席のヤツらもおとなしくしていろ。死にたくなければなあ。ケケケッ!」

 

 アイドル達の周囲や客席のガイコツ怪人がナイフのような武器を手にして、威嚇するようにひらめかせている。

 

 チッ! 会場の人間全てを人質にとったってわけか。こんな状態じゃ流石の俺も迂闊に動けねぇ。

 

 後ろにチラリと視線を向けると不安気に周囲をキョロキョロと見ているウォッチャマンが。そして隣に目を向けると手をわなわなと震わせている亜樹子の姿が。その手には『卑怯モンが!』と書かれたスリッパが握り締められている。

 

 その言葉には同感だが、ここは大人しくして成り行きを見守るんだ。

 

 まあ、口にしなくても亜樹子はわきまえてくれていると信じているが。

 

 俺は視線を正面、ステージの方へと戻す。そこでは大仰な仕草でヤモリンゲが高らかに演説を始めていた。

 

「我らヘルダークネスの目的はズバリ! 世界征服だ! 偉大なる首領様の支配を受け入れるというのであれば命は取らないでおいてやる。首領様は寛大であらせられるからなあ。クケケッ!」

 

「何が世界征服だ、ふざけやがって! お前らのお遊びに付き合ってる暇なんてねえんだよ! とっとと帰りやがれ!」

 

 激昂した――さっきウォッチャマンを怒鳴りつけていた――男が拳を振り上げながら前に進み出る。

 

「ケケッ!? 生意気なヤツめ! 我らに逆らうというのなら……」

 

 ヤツが手で合図を送るとガイコツ怪人らがステージのアイドル数人を羽交い絞めにしてその胸元にナイフの切っ先を触れさせる。

 

 アイドル達は恐怖に顔を歪ませて大きな悲鳴をあげる。

 

「なっ……!? ……クソッ!」

 

 男は苦々し気に顔を歪めて振り上げた拳を下ろしていく。だがそこで事は納まらない。

 

「我らを侮辱した罰、そして逆らうとどうなるか、その身をもって味わうがいい!」

 

 ヤモリンゲが大きく腕を振るうと共に男の周囲にいたガイコツ怪人たちが彼を袋叩きにし始める。

 

 男の苦悶の声と周囲の人間の悲鳴がイベント会場に響き渡る。程なくしてその顔を腫らして体中に痣を作った男の身体が地面に転がった。

 

 クソッ! 人質を取るばかりか一般人に手まで出すなんて、許せねえ!

 

「さて、では次の作戦に取り掛かるとしよう。お前たち!」

 

 すると今度は散らばっていた数人のガイコツ怪人達がステージから降り立って、観客席の合間を縫うように歩き始めた。そして数人のスタッフらを引っ立てて、またステージへと戻っていく。

 

 連れていかれた人達は見るからに若い風貌をしていた。彼らはステージ上のアイドル達と同じ所へと集められる。

 

「貴様らは若く身体能力にも優れている。そのような者らには特別に我らの尖兵となって戦う栄誉を授ける。首領様からのありがたい慈悲、心して受け取るがよい! クケケケケッ!」

 

 高笑いするヤモリンゲと手を振り上げて敬礼のようなポーズを取るガイコツ怪人たち。

 

 アイドルを始めとした若者たちの間にざわめきが広がり、皆が同じように不快感を顔に表している。

 

「どうだ、嬉しいだろう。お前のような小娘も我らが首領様のお役に立てるのだからなあ」

 

 それを全く意に介さない様子でヤモリンゲが一人の小柄なジュニアアイドルに手を伸ばす。

 

「ひっ!」

 

 少女は顔を引きつらせて声を上げる。と、そこへ割り込む人影があった。

 

「やめてください!」

 

「お前は……」

 

「果穂ッ!」

 

 283のプロデューサーが声を上げて立ち上がる。だが足の怪我のせいかよろめいて倒れそうになってしまう。

 

「……クケッ!? あの時のガキではないか!」

 

「怖がらせないで! この子震えてます!」

 

「生意気な……愚民の分際で我らに立てつくとは。であるならば手始めはお前からだ!」

 

 果穂を両脇から挟みこむようにガイコツ怪人が近づいてその腕を拘束した。

 

「あっ!」

 

「大人しく従うのならば手荒な事はしないのだが、お前のようなヤツはそうもいかなそうだからな。この洗脳装置を使わせてもらうとしよう。ケケッ!」

 

 いつの間にかヤモリンゲの手には様々な電子部品が取り付けられたヘルメットのような物が握られていた。

 

「これを使えば貴様の意思は掻き消えて、我らヘルダークネスの忠実なしもべとなる」

 

「い、嫌だ! そんなの……!」

 

 必死にもがいて頭を振るう果穂。けれどその頭がガイコツ怪人に押さえられ、ヤモリンゲの手が近づいていく。

 

「クソッ!」

 

 俺は決断を迫られていた。このまま指を咥えて見ていれば果穂に危害が加えられるのは間違いない。

 

 だが仮面ライダーに変身すれば助けられるかもしれない。

 

 周囲には多くの人達がいる。ここで変身すれば間違いなく……

 

 いや、迷うまでもない。取るべき行動は一つだ。

 

「助けて―っ!」

 

 果穂の悲鳴が響くと同時、俺は懐に手を伸ばした。

 

「そこまでだヘルダークネス!」

 

 雄々しい叫びが周囲に響き渡った。

 

「ケケッ!? この声は!」

 

「とうっ!」

 

 驚愕してキョロキョロと辺りを見渡すヤモリンゲに猛スピードで飛来する影。

 

「グゲェッ!?」

 

 その突撃を受けたヤモリンゲは鳴き声とも悲鳴ともつかないような、間の抜けた声を出しながらステージから転げ落ちていった。

 

 そして飛来した銀色の人影はヤモリンゲを突き飛ばした後、ハンググライダーのような機械から手を離し、空中できりもみ回転しながら着地して、果穂を拘束していたガイコツ怪人どもを薙ぎ倒した。

 

「っ! ……ジャステリオン!」

 

 よろめいた所を彼に支えられた果穂は安心感と喜びの入り混じったような表示を浮かべた。

 

「危ない所だったね。間に合って良かった」

 

「はい! ありがとうございますっ!」

 

「くっ……お、おのれ、ジャステリオンめ……」

 

 文字通り這うようにしてステージに登ってきたヤモリンゲが恨めしげな声を出す。

 

「人々に夢を与える少女達の輝かしいステージを破壊するヘルダークネス! 私はそのような事は絶対に許さん!」

 

「ほざけ! こちらには人質がいることがわかっていないようだな!」

 

 ヤモリンゲがギョロリと目と首を動かすとステージ上のガイコツ怪人達がアイドル達ににじり寄っていく。

 

「小娘どもがどうなっても―――」

 

「ジャステリオンウェーブ!」

 

 ヤモリンゲの言葉を遮るようにして叫んだジャステリオンが両手を合わせ、その手を床へと叩きつけた。

 

 凄まじい勢いでほと走る青白い光が、床を駆け巡っていき、それに触れたガイコツ怪人らが激しく痙攣してバタバタと倒れていった。

 

「グゲガガガガガッ!」

 

 長い舌を口の端からはみ出させて痙攣するヤモリンゲがよろめいて、再びステージ上から転がり落ちた。

 

「今のうちに逃げるんだ君達!」

 

 ジャステリオンの声を受けて、人質となっていたアイドル達は散り散りにステージから走り去っていく。

 

「な、何を……した……グゲッ……どうして、小娘どもは何とも……ないのだ……」

 

 ヨロヨロと這い上がってくるヤモリンゲの問いに

 

「ジャステリオンウェーブは貴様達のような悪しき存在に反応する波動を送り込む技だからだ」

 

 ジャステリオンは指を突きつけながら答えた。

 

「おのれ……こうなれば、その小娘だけでも」

 

 ショックから立ち直ったガイコツ怪人達がジャステリオンと果穂をジリジリと囲むように近づいていく。

 

「そのガキを守りながらどこまで戦えるかな? ケケケッ」

 

「ジャステリオン……」

 

「心配無い。君を絶対に傷つけさせはしない」

 

「ああ、その通りだぜ」

 

《ルナ! メタル!》

 

 鞭のようにしなったメタルシャフトがガイコツ怪人どもを打ち倒していく。

 

「ゲェッ!? この攻撃は!?」

 

「そらっ、受け取れ!」

 

《ルナ! ジョーカー!》

 

 メモリを差し替えてフォームチェンジした俺は、転がったガイコツ怪人の一体の足を掴むと勢いをつけてヤモリンゲへ向けて投げ飛ばした。

 

「なっ!? グブヘェッ!」

 

 真正面からガイコツ怪人の身体を受け止めることになっちまったヤモリンゲは、またもステージから転がり落ちていった。

 

「仮面ライダー! また君に助けられるとは」

 

「なーに、お互い様ってやつよ。お前が来てくれて注目を集めてくれたおかげで俺も駆けつけられた」

 

「それはどういう意味だい?」

 

「ん、まあこっちの話だ。適当に流してくれ」

 

 俺は視線を亜樹子の方にむけて頷いてみせるとOKのハンドサインが帰ってきた。

 

「ささ、ウォッチャマン、ここは仮面ライダー達に任せて逃げるよ」

 

「う、うん……って翔ちゃんは!? いつの間にか居なくなってるし!」

 

「大丈夫大丈夫、翔太郎君なら心配いらないから。ほらほら、プロデューサーさんを支えるの手伝って」

 

 そうして283のプロデューサーを連れだって逃げていく二人の姿を見送って視線を戻す。

 

「ありがとうございます、仮面ライダー!」

 

「おう。ともあれここは危ねえ。早く逃げてくれ」

 

「はい、わかりました。でも、その前に……」

 

 果穂はジャステリオンへと向き直って頭を下げた。

 

「何度もあたしのこと助けてくれてありがとうございます、ジャステリオン」

 

「ははは、どういたしまして」

 

「えへへ、やっとちゃんとお礼が言えました」

 

「私の方こそ君のその笑顔が見れて嬉しいよ。そして今ここに誓おう。君とその夢を守ってみせると」

 

 ジャステリオンは胸元に拳を当てるポーズをとってみせる。

 

 それを見た果穂も同じようにしてみせた。

 

 そしてジャステリオンと頷き合うとステージ袖の方へと果穂は駆けていった。

 

「さて、これで心置きなく戦えるな」

 

「ああ」

 

「お、おのれ……」

 

 その時ヤモリンゲが三たびステージに這い上がってきた。

 

「ようトカゲ野郎。その姿勢、随分とサマになってるじゃねえか」

 

「黙れ! 我らをコケにしたその報い、高くつくぞ!」

 

「そっちこそアイドル達を、この街を泣かせておいてタダで済むとは思ってないだろうな」

 

 俺は拳を構えてヤツの姿をハッキリと見据えて言う。

 

「子供達を、その夢を踏みにじる貴様達に明日はない」

 

 隣のジャステリオンもまた手刀を作るような構えで敵に相対する。

 

「ぐぬぬ……ええい! お前達、行くぞ!」

 

 ガイコツ怪人達がその呼び掛けを受けてゾロゾロと集まってくる。

 

 睨み合う俺達の間の緊張が高まり、やがて戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 かと思われたその時……

 

「なかなか面白いことになってんじゃねえか、ヤモリンゲよう」

 

 どこからともなく声が聞こえてきた。

 

「っ!?」

 

「こ、ここ、ここっ、この声はっ!?」

 

 ジャステリオンが戦慄してヤモリンゲが慌てふためく様を俺は訝しみながら交互に見やった。

 

「っと、邪魔だどけテメェら」

 

 苛だたし気な声がステージ上のガイコツ怪人の一団の方から聞こえてきた。

 

 その次の瞬間、ガイコツ怪人の群れの一角が霧散した。

 

「なっ!?」

 

 いや、正確に言うならこうだ。

 

 数体のガイコツ怪人の身体が突然上下に両断された。

 

 そして分たれた断面からガイコツ怪人達は黒い霧のようになって消え去ってしまった。

 

 漂った黒い霧が晴れると、そこには見たことのない人影があった。

 

 刺々しい、悪魔の角を思わせるような意匠が所々にあしらわれた黒ずくめの鎧。

 

 紅く、禍々しく光る瞳を覗かせる漆黒の兜を被った、見るからに邪悪そうな雰囲気をした騎士だった。

 

 その黒騎士は手にした赤紫の刀身が特徴的な剣を肩に担ぐようにして、どこか挑発的な空気を漂わせるようにして声を出した。

 

「よお、久しぶりだなあ、ジャステリオン」

 

「……ギャックアー!」

 

 拳を握りしめて、今までに聞いたことがないくらいに憎々しげな声で、ジャステリオンは黒騎士に向けて声を上げた。

 

 

 

 

 




大変長らくお待たせして申し訳ございません。
今回より連載再開となります。

これ以降の中盤の展開に納得がいかず執筆停滞及び全ボツにしてプロット練り直し、書き直しなどを行っておりましたが完成の目途が立ちました。

今後は週一を目途に投稿を続けてまいります。
最終話までの執筆はほぼ済んでいるので中断は無いと思われます。

また、連載再開に合わせて今話以前の部分に大幅な加筆訂正を行っております。
今話投稿以前にご覧になられていた方はお手数ですが復習がてら再読していただければ幸いです。
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