Becouse I am .   作:黒犬51

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叶い叶えて

懐かしい夢を見た。まるで蜃気楼のような、身体中から滝のように流れた汗と、頰を伝う涙。

けれど、目を覚ますと何があったのか自分がなぜ泣いているのか。どうしても思い出せない。まるで何も無かったかのように消えている。

 

まだ幻想郷を作って間もない頃、いつも通り幻想郷の結界の見回りをしていた賢者は一人の人間を見つけた。年はまだ18くらい。ガタイが良いというわけでもなく、一般的な人間というイメージ。恐らく、森に迷い込んだ末に幻想郷に流れ着いたのだろう。

幻想郷を作りたての頃はまだ結界も甘く、外来人が迷い込むことも少なくは無かった為、それほど問題にも思わなかった。背中に背負われた大きめなリュックからして登山に来ていたんだろうと予測するが、確実には分からない。森には色んな者が来る。

 

「貴方、迷子?」

 

スキマから地面に降り立ち、人間に声をかける。突然声をかけられ、驚いたような素振りを見せるが笑顔で言葉を返してきた。

 

「そうなんです。恥ずかしい事に、どうやら迷っちゃったみたいで」

 

周囲を見渡せば既に日は沈みかけ、月が登っていた。もうじき、夜が来る。

 

「そう、なら今日はもう遅いから私の家に来なさい」

 

幻想郷の夜は危ない。本来ならば妖怪の餌にしても良いのだけれど、この能力は殺すには惜しい。始まりは単純な欲と興味、それだけだった。

 

「でも、申し訳ないですし」

 

「良いわよ、来なさい」

 

人間の足元にスキマを作り自宅へ飛ばす。それを追うように賢者も裂け目に飛び込んだ。

夕焼けで紅に染まった森に残された黒く不気味な切れ目はゆっくりと閉じ、入れ違うかのように森には静寂が訪れた。

 

「藍、今日の夕食は一人分多く作って頂戴」

 

どこにでもあるような家庭だ。一つの机、そこに席が4つ、キッチンでは狐の尻尾が9本生えた女性がエプロンを纏って卵を割っていた。

 

「分かりました」

 

まだ、周囲を見回しおろおろとしている少年に声をかける。

 

「突然だけど、貴方にはここの神様になって貰うわ」

 

彼の能力は最もそれに近く、それほどまでに強力だった。

 

「神...?何故ですか?」

 

「貴方は願いを叶えれるからよ」

 

幻想郷、そこに外から訪れた者は不思議な力を手に入れる。それは外に戻れば消える幻のようなもの。だが、来たものの大半はそれに気づく前に、妖怪などに襲われ死んでいく。

だが稀に、非常に強力であったり、有用な能力を持った者は幻想郷の賢者が気まぐれに救うことがある。

 

「そう...ですか。では何を叶えれば良いですか?」

 

「あら、動揺も無くて素直なのね。なら神様として神社で来る人の願いを叶えてちょうだい。神社はこちらで用意するわ。でもここには神が多いから信仰を集めるのはそれなりに大変だから頑張ってね」

 

そうして少年の神としての生活が始まった。支給された服を着て、村から少し離れたところに神社が出来た。神社までの道には妖怪除けの結界と札が博麗の巫女によって貼られ、神社にも同様の対策が施された。

 

「ありがとうございました」

 

札を貼り終え、境内から去ろうとする赤と白、どこにでもあるような巫女服を纏った巫女に声をかけた。

 

「いいのよ、大変だろうけど頑張って」

 

笑顔でそう告げて巫女は飛んで行った。

博麗の巫女は神ではないが幻想郷では屈指の実力者であり、戦えばまず勝てないらしい。そして肉弾戦が得意とのこと。巫女で肉弾戦...とは思っていたが確かに女性にしては背も高く、筋肉量も常人のそれでは無かった。

飛び去っていく彼女を見送り、境内の掃除を始める。

明日は村に行こう。信仰を集める前に挨拶した方が良いだろう。

 

数日経ち、彼という神の名前は村中に広まっていた。願いを叶えてくれる神様。それだけ聞くと神とはそういうものだと思うだろうが、彼は能力として願いを叶えられる。それは豊作であっても雨乞いであっても疫病の防止でも。

彼は信仰の力ではなく、能力によって万能の神となった。

だが、それは裏を返せば他の神の需要が無くなると言うことでもある。当然他の神も黙ってはいないだろう。だが、現実は異なった。

 

「おいおい、沢山だね」

 

「有難い事です」

 

彼の元には神がよく訪れるようになった。聞けば、彼は神では無い為に信仰の邪魔にはなっていないらしい。原理も理由もわからない、だが神を常人が理解する事は出来ない、魚が何を思って泳いでいるのか考えるようなものだ。考えるだけ無駄だろう。

 

「相変わらずね」

 

彼の頭上に裂け目が発生し、その中からぬるりと賢者が現れる。

 

「彼を神社へと勧誘するのは禁止よ、信仰が偏り過ぎるわ」

 

「そんな事しないさ、いつも通り話に来ただけだよ」

 

両手を上げて疑われた神は降参の格好だ。

 

「貴方ももう少し自衛しなさいね...」

 

「ええ、気をつけます」

 

笑顔で返された賢者は諦めたように項垂れる。

そんな彼へ向けられていた無関心もある日崩壊した。

 

「どうか...どうか夫をお救いください!」

 

列を掻き分け、汚れで色すら失った服を乱し。顔のやつれ、髪の乱れた女が彼の前に現れた。当然列を乱された村人から怒りが漏れているが、それ以上に何か別のもっと悪意の様な感情が溢れる。

 

「一体どうしました?」

 

そんな女に彼は一切取り乱さず応対する。

 

「夫が朝から息をしていないんです...!」

 

「わかりました、見せて下さい」

 

そう言って彼は彼女の案内の元、神社を後にして村へと降りる。

 

「賢者様と神様は来る意味ありましたか?」

 

「いや、お前の能力を一目見たくてね」

 

裂け目から体を出した紫は答えない。

 

「そうですか」

 

その家は家というよりか倉庫の様で、中には大量の物が散乱しており、酷い腐敗臭がした。雨漏りも酷い様で窓もない為日差しもなく昼だというのに夜の様に暗い。そんな家の中で男が横たわっていた。その横にはひとりの痩せ細った少女が泣きついている。

 

「これは...」

 

死んでいた。すでに息はない。命を感じることが出来ない。

泣きつく少女の服は垢で汚れ、黒く、身体には虫が止まっている。

 

「おいおい、こいつは」

 

神様も同様に気づいていた。これは救えない。死んでいないのならまだ希望はあった。だが、死んでいるのならもう無理だ。神にそこまでの権限はない。

 

「わかりました。叶えましょう。しかし、内密に頼みます」

 

次の瞬間死んでいたはずの男が目を覚ました。

 

「おいおいおい」

 

神には無理だ。だが、彼は神ではない。願いを叶える能力を持った人間だ。神に出来ない事でも叶えることが出来る。それが願いであるならば。

 

「願いは叶えました。そして、この村を離れて下さい。あなた達にとってここは良くない。別の村に行く事を勧めます」

 

「神様!ありがとうございます!なんとお礼を言ったらいいか!」

 

土下座までして泣きつく女性とその少女を置いて、少年は境内へと帰っていく。

 

それから数日後、神様が個人的に賢者を呼びつけ対話を始めた。

 

「おい、あれはなんだ?あそこまで出来るとは聞いていないぞ」

 

いつもは感情のない神のことばに怒りがこもっていた。

 

「彼の能力よ。私もまさかあそこまでとは思わなかったわ。死人すら願いであれば蘇るのね。でも地獄からは何も報告が上がって来ない。まだ魂が残っていたんじゃない?」

 

「そういう問題じゃない。あそこまで能力の範囲があるならここが危険だ。ここに不満を持った人間が彼に願えばここが滅ぶぞ」

 

当然の危惧、無理もない。死人すら蘇らせる彼の能力は願われれば殺す事すら出来るだろう。そして世界の根本を変える事も。

 

「それにだ、あいつは本当に何者だ?あの家の状況を見ても一切動じなかった。外の世界だとあれは普通か?」

 

それもまた異常な点だった。あの家は外の世界から見ても異常だ、そしてあの死体。当然見慣れている筈がない。焦ったり、戸惑ったり、怯えたり、なにかしらの反応があってもおかしくは無い。だが、彼にそれは無かった。

 

「ただの人間よ」

 

「話にならないな。明日覚妖怪を読んであいつの記憶を読んでもらう」

 

「いいわ」

 

翌日、彼は一人、人のいなくなった境内を掃除していた。意味があるのか分からない。だが、なにかをしなければ落ち着かない。恐らく、先日の一件で自分が問題になっていることはわかっていた。

それでも彼は、人を救い続けなければいけない。

 

「おはようございます」

 

翌日、境内に見慣れない少女が訪れた。桃色の髪にゴスロリの服、まるで喪服の様なそれは少し気味が悪かった。そこに感情を感じない顔と胸元に浮いた三つ目の瞳。身長は中学生程度しかないが、無邪気で幼いというイメージのある中学生とはかけ離れていた。

 

「こんばんわ、突然失礼ですね」

 

「どうも。そうですかね、突然心を読むのもどうかと思いますよ」

 

彼女はさとり妖怪と呼ばれる種族だった。そしてその種族の能力は読心。第三の目で見られたものの心を読む力。これを目にした人間は基本的に最初は何が起きたかわからず、戸惑ったりするが、この正面の人間は能力を理解したうえで無感情だった。彼女にとっては一発目で看破されたことも驚きだが、それ以上にこの人間に経験がある方が驚愕だった。

 

「忠告しておきますね。私の記憶は見ないほうがいいですよ。貴方のような人とは外でも会いましたが、みんなおかしくなりました」

 

彼女からしてもこの少年は異常だった。私のような読心のできる人間に会ったと言うこともだが、それ以上に感情の起伏があまりに少ない。まるで感情を出すことに疲れてしまってるような。

 

「で、何用ですか?」

 

「読むなというなら貴方の口から聞きます。貴方は外の世界で何者だったんですか?これを読むために私は派遣されました」

 

「ああ、なるほど。わかりました。お話ししましょう。少し、長くなります。中へどうぞ」

 

先導する人間の背中は何も語らない。ただ、心の中は、雨を忘れた荒野のように酷く枯れていた。もうきっとどれだけの慈雨が降り注いだとしてもそこに草木が生い茂ることはないだろう。

招待された家の中で、少女と人間は向かい合って座っていた。お茶とみかんが並べられ、深呼吸。

 

「私は何の変哲もない人間でした」

 

彼の口から語られたのは彼の過去、普通の人間だった少年が人間の欲望によって壊れていく話。

 

少年は一般人だった。少し裕福な家庭に育ち、家族の仲も良い。弟と妹がおりいつも通り学校を終えて家に帰る。大学生の彼は偶然授業が少ない日で家に帰るのが早かった。自室に戻り服を脱ぎ、洗濯物カゴへ入れてベッドに横になる。そのまま少年は前日に夜更かししてゲームを友人とやっていたせいもあり、眠りについた。

目覚めたのは奇妙な音によって。まるで肉を叩くような音。親が料理でもしているのかと思うがにしては生活音が少ないし、音があまりにも大きすぎる。何事かとベッドから体を起こし、下へと降りるとそこでは黒いスーツを着た男が机の上に置かれた肉塊を叩いていた。それはもう原型をとどめておらず、脂肪と血の混ざったピンク色の血液が漏れ出ていた。

 

「誰?」

 

異常事態であることはわかるが何も出来ることはない。わかるのは不審者が家にいると言うことだけ。

 

「あれ、家にいたんだ。君を待ってたんだ。一緒に来てくれるかい?」

 

男は叩いていた肉から手を離し、こちらに目を向けた。特に奇妙な点があるわけでもない男の顔がそこにはあった。

 

「何故ですか?」

 

「君が特別だから」

 

「特別...というと?」

 

少年は確かに昔。誰にでもあるだろう幻想を抱くお年頃には自らを特別だと考えていたこともあるが。今ではそんな年齢ではない。突然特別と言われても理解が出来ない。

 

「あれ、自覚なしか。君は超強力な能力を持ってるんだよ。その力を貸して欲しい」

 

「拒否権は?」

 

「ないよ」

 

目の前の肉塊を掌で叩きながら笑っている。

 

「ところでその肉塊は?」

 

「君の妹」

 

笑顔で告げられた言葉に少年は恐怖と共に、それを黒く塗り潰す程の殺意を抱いた。

 

「証拠は?」

 

「うーん、あー」

 

男は徐に血塗れの手をポケットに入れ携帯を取り出した。じゃらりとキーホルダーがついた携帯が現れる。

見間違うこともない。それは妹のものだった。

 

「殺す」

 

「無理だよ。君には武器がないけど俺には銃がある。現実見なよ。でも君が協力してくれるって言うなら妹ちゃん生き返らせれるよ」

 

事実、確実にこの男には勝てない。武器、経験。そして妹を肉塊にするほどの力か武器も持っている。なんにせよ尋常ではない。例え包丁などの武器を持っていても勝機は薄そうだ。

 

「そこに嘘は無い?」

 

「ああ、誓って」

 

イギリスの紳士の様な堅苦しいお辞儀をする男を睨みつけながら、少年は自らの無力さに打ち拉がれた。

男に先導され、家を出た先には黒いバンが止まっていた。開いたドアから中に入るとそこには手術台の様なものが設置されていて、中に控えていたのであろう数人の黒服の男に容易く身体を持ち上げられ、手足をその手術台に拘束される。

 

「ほら、これ飲ませて」

 

家に入っていた男が車に待機していた男に注射器の入った袋を投げ渡す。その注射器は注射器の部分が注射器にしてはに太く、チューブの様になっている。男たちは無理やり少年の口を開けさせるとそこに注射器の内容物を流し込む。

甘ったるい様な、少し酸っぱい様な味覚を感じその直後意識が遠のいていく。少年を乗せたバンは家を後にし、何処かへと走っていった。

 

「ほら起きて」

 

目を覚ますと視界に入って来た強烈な光。眩しさに慣れず、何度か目を閉じたり開けたりをした後に周囲を確認する。相変わらず手足は拘束されている。横には家を襲った男。部屋にはその黒服の男以外はいない。なぜか部屋は一般的な病室だった。そんな中でまるで家族の様に男は椅子に腰掛けながら少年の起床を待っていた。

 

「おはよう」

 

男の挨拶を無視し、目を閉じる。

 

「まぁいいよ。本題に入ろう。君の力について、君の力は『願いを叶えない』」

 

何を言っているのか分からないと言いたげに男を眺める少年。無理もない、彼は全く自覚が無いし、あまりにひどい能力だった。

 

「例えば、生きて欲しい。そう願えば対象は死ぬ。逆に死ねと願えば相手は死なない。他人に生きたいと願われればその対象は死ぬし。死にたいと言われればその人間は死ぬことが出来なくなる」

 

「そんなことを突然信じろと?それにそれなら妹は...」

 

そう、もしもこの能力が本当に彼のものだとすれば。妹を蘇らせるには。妹に死んで欲しいと願わないといけない。それはあまりにも

 

「そこで君に一つ提案。ちょっと感情を削ってみない?そうすればきっと妹を蘇らせることも容易になるよ」

 

「そういうって事はただ口に出すだけでは駄目なんだろうな」

 

「そうだね。自分の願いは自分で真偽が分かる。願いが嘘だったら叶える事はできないだろうからね。でも安心して、他人の願いの真偽は分からない。君が頑張ったら家族に合わせてあげる。そうしたら妹に死んでくれ、生き返らないでくれと願ってもらうと良い。それか自分で本心から妹に死ねと願うか」

 

ただ、こいつらの願いを叶えないだけ。簡単だ。そうすればきっと妹は蘇って同じ生活に戻れる。その言葉だけを信じて少年は毎日にように男からの願いを叶えない。最初はやり方がわからなかったが管理役として送られてくる心を読める人間達のお陰で上手く使えるようになってきた。

扱いになれた少年はそれから毎日願いを叶えなかった。生きて欲しいという願いを、成功させてくれという願いを、子供を産ませてくれという願いを。

 

その結果、少年は、

 

「もう、言わなくても分かるでしょう」

 

そこで彼の物語は止まった。正確にはそれまであった彼という人間の物語が終わり、願いを叶えない機械の物語が綴られ始めた。

 

「そうですね。ただ、一つ確認を」

 

少しの静寂の後に口を開いた少女。

 

「貴方にはまだ、心がありますか」

 

少女の顔には不安と悔恨が見えた。一体彼女の過去に何があり、彼女が何をしてしまったのか。それは分からない。ただ、今重要なのは彼女の表情から過去を読み取ることではない。

 

「どうでしょう。私にはもう心が何かがわからないので、けれどまだ他人を助けようという意志があるというのは確かです。私はできればヒーローになりたかったので、結局駄目でしたが」

 

少年は少し笑ったように広角を上げるが目には過去の陰惨な記憶が映っている。何も忘れたわけではない。痛かった、苦しかった、辛かった。願いを叶えられなかった人を見るたびにこれは自分のせいだと罪に苛まれた。

ただ数多の願いを叶えなかった結果。少年はあることに気づいた。

 

「人は皆同じになりたいのです。きっとそれが素晴らしい物だから。けれど人は誰一人として同じではありません」

 

あんなお金持ちになりたい、あんなに絵が上手くなりたい、あんなにイケメンになりたい、願いとは常に自らよりも上のものを指して願われる。それと同じになりたいと、対等に平等になりたいと。

少年はそれ以上を語らない。ただ、その心の中にある広大な虚無。願いを叶え無かった結果わかってしまった願い。

ただ空虚に世界を見る瞳に今何が映っているのか。

 

「そうですね。私はこれで。失礼しました」

 

そう言って立ち上がり、境内から飛び去っていく少女を見送り、建物へと戻る。

少年は不思議とこの世界に来てから空腹を感じなくなった。だが、味は感じるので、毎日何かは食べていた。

特にやることもない。今日は村で祭りがあるらしく来客もない。ただ、一人。残された境内でみかんを食べていた。日は既に立ち去ろうとしている。それを見送る前に境内に向かい、明かりを灯していく。この世界には電気がない。その為こうして自分の手で火を灯す必要がある。それに神社にはいつ来客があるかわからない。いつでも願いを叶えられるように備えるべきだ。人がいないから来やすい人も居るだろう。

 

「貴方」

 

火を灯している最中に上空から声をかけられた。見上げた先には灯りに照らされたスカートがあった、正確にはその中だが。

 

「あの。パンツしか見えませんがどなたでしょうか」

 

少しの間の後に咳払い。ゆっくり降りてきた少女は白のワンピース、腰には大きな赤いリボンが巻かれており、青なのか紫なのか意見の割れそうな色の髪。そして染まった頬。外国のお嬢様を日本人が描いた場合に生まれる様な格好と言えるだろう。そして何よりも際立っていたのが紅く光る目。わかりやすくは光っていない、消えかけの炎の様だがそこに弱々しさはない。そして最も目立っているのは背中に生える黒い両翼。竜のものというよりかは蝙蝠のそれに近い翼で体を浮かせている。

 

「私はレミリア・スカーレット」

 

「ようこそ私の神社へ。何か御用ですか?」

 

「名前を言われたら名前を返すのが常識というものよ」

 

やはりただの少女ではないようだ。空を飛んでいた。この時点で普通ではないが。少し、彼の中の常識というものが崩壊しつつあった。

 

「名前はないんですよ。ここで名乗る様なものは」

 

名前はあった。けれどそれは捨られた。機械に名前はいらない。

 

「そう。まぁ良いわ」

 

「で、何用でしょうか?」

 

「貴方、最近来たんでしょう?」

 

静かに頷き少女を観察する。見た目は少女だがやけに威圧感がある。その言葉一つ一つがまるでこちらを探っているような。

 

「お願いしに来たのよ」

 

「ああ、参拝でしたか。人では無いようで少し警戒してしまいました」

 

唐突にお前を殺すなどと言われる可能性も考えていたがそうでは無いようで安心しながら笑顔を浮かべる。

 

「一体何が目的でここに来たのかしら、レミリア・スカーレット?」

 

「保護者のお出ましか。お願いをしに来たんだよ。わたしの妹の事で」

 

一瞬賢者の表情が曇る。

 

「危険すぎよ」

 

「成功すればここの安全が守られるが?」

 

賢者は黙る。言えることはない。ただ、それは事実だった。危険すぎる彼女の妹の能力、それに加えて精神面も異常だった。精神が壊れてはいるが破壊衝動に向く様子がない彼と比べるとある種では危険と言えた。

 

「そうね。過保護すぎたわ」

 

「では、行ってきます」

 

少年が死者を蘇生したという噂はあの後すぐに村中に広まった。その影響で少年は村人から大いに怖れられる事になった。それによって少年を訪れる人々が急激に減少した。いくら願いを叶えると言っても。度が過ぎればそれは恐れの対象になる。だが、これは少年にとって何も悪いことだけではなかった。少年は恐れられると同時に確実にどんな願いでも叶えるということが大衆に広まった。それが例え理に逆らっていようとも。

 

「君がフランドール?」

 

「誰?」

 

真っ暗な部屋の中七色のクリスタルだけが何かに吊るされて光っている。部屋の電気は点かず、少年は仕方なく少女の部屋に入っていた。

 

「私は...名前ないんだよ」

 

「悲しいわね。何の用?」

 

「君のカウンセリングしろって君のお姉さんに言われた」

 

そう。とだけ言い残し声の主が何か壁を触ったかと思うと電気がついた。

 

「改めましてこんばんわ。わたしはフランドール・スカーレット。悪魔の妹よ」

 

そこに立っていたのはネグリジェ一枚の金髪の少女だった。背には枝のようなものが2本、そこに七色のクリスタルがぶら下がっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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