「う、腕が……腕だけじゃなくて身体全身が軋むみたい……!!」
『全く無理をするからだよ、私に良い所見せたいと張り切ってくれたのは嬉しい事だがこれでは本末転倒だよ』
受験後、何とか自宅に帰ってこられた出久だが無理をしたせいなのかベットの上で全身に襲いかかってくる痛みに苦しんでいた。そんな様子をマグナは呆れ半分で見つめている。
『確かに以前のあれをヒントにして逆転の発想で光線技へと昇華させた発想力は称賛に値する』
「そ、そうですか……!?」
『自分の未熟さを逆手に取りながらも良い応用力だとは思う、だけどその結果としてこれだ。君は光線に慣れていない身、それで個性にも身体が馴染み始めている段階だ、双方まだまだ未熟な段階であんなことをすれば当然体にかかる負荷は大きくなるのは必定。褒めるが30、説教60に呆れが10と言った所かな』
「うぅぅ……」
イズティウム光線。個性の許容限界を超えると体外にエネルギーを放出するという事を逆手にとって発射する出久のオリジナル光線。威力としては彼が個性を使わずに放つスペシウム光線を大きく上回っている、ドラム缶を壊す程度には成長しているがそれでも30m級のロボを破壊する程の威力ではないのは確か、それ程までに威力には優れているが……如何せん身体に大きな負担がかかりすぎている。
『威力を出そうとして照射面積をスペシウム光線からかなり大きくしているね、それも反動増大の原因だ。あんな面積から余剰出力を放ったらそりゃこうもなるよ……容易にアレンジを加えるのは危険だとこれで身に染みただろう。君はまだまだスペシウム光線からスタートしないとダメだよ、あれはまるでウルトラセブンのワイドショットだ』
「セ、セブンというと例のあの……」
『そう……仮にも亡国の王子相手にやばい訓練した方だ』
それから数日は出久は反動でまともに動けなかったので暫くは座学とマグナによるウルトラマン雑学が続く事になった。出久としてはウルトラマンの事は非常に興味深く聞いていて楽しい事ばかりだった。特にウルトラ兄弟の戦いの歴史には目を輝かせていた、そしてその話もメビウスの話になった頃の事……。
「ええっそれじゃあそのメビウスさんって方はマグナさんよりも2000歳以上も若いのにウルトラ兄弟に入ったんですか!?」
『まあ彼は素質が凄かったからねぇ……それに実績も凄まじい、一応年上だからか向こうは私の事を敬ってくれるし勇士司令部だって憧れてくれてるみたいなんだけど……私的にはなんか複雑だったなぁ』
一方では尊敬しつつも永遠の憧れのウルトラ兄弟に入っている年下に敬意を持っている、だがその相手もエリート部署に配属されている自分を尊敬しているという事になっている。マグナ的には幾らエリート部署に所属している身ではあるがそれでもメビウスの方が確実に格上だと思っているのに其方が此方を尊重し敬うような感じなので複雑な思いを募らせ続けている。
「でもマグナさんはそれだけ凄いって事ですよ」
『素直にそう思えれば私も良いんだがねぇ……流石に側近の四天王と暗黒宇宙大皇帝を直接討ち取っている方にそう思われるのはこそばゆい』
「えっなんですかその凄いやばそうな肩書は……」
やばそうではなく実際にやばいのである。宇宙そのものを暗黒に包み込まんとした強大すぎる存在と直接対峙したメビウス、その凄さを改めて語ろうかとした時だった。部屋の中に大きな声と共に出久の母親である引子が全身を震わせながらその手に一通の封筒を差し出していた。
「いいいいいっ出久来てたよ……雄英から!!」
「遂に来たぁっ!!?」
『あのね……』
思わず身体を全力で引き起こした際に全身がビギィッ!!!という音とともに激痛が走り出久はベッドに再び倒れ伏しマグナは呆れながらもしょうがないかと、一時的に主導権を奪いながら引子からそれを受け取る。
「有難うお母さん、少し一人にして貰っても良いかな」
「うっうんそれじゃあお母さん、リビングにいるからね……でも絶対に結果は教えてよ!?」
と気遣うようにしながら部屋から出て行く姿を見送りながら椅子に腰掛けながら再び出久に主導権を返却する、そして出久は机の上に置かれた封筒を見つめながらも酷く緊張してしまい何度も何度も深呼吸を繰り返して何とか落ち着こうとする。そして―――覚悟を決めながら中身を開けてみた。中を出そうとすると書類よりも先に何かある事に気付いた、それを見て見ると……何やらの装置のようだった、500円硬貨程度の大きさのそれを両者とも掌に載せて首を傾げていると突然それから光が伸びて……映像が投影された。
『私がぁぁぁぁ……投影されたぁ!!』
「オールマイト!!?」
飛び出したのはオールマイトだった、黄色のストライプスーツに身を包みながらネクタイまでしている姿は何処か新鮮な気がする。この時、また痛みが走るのだがもうマグナは突っ込まなかった。
『HAHAHA驚いたかな緑谷少年!!実は話すの忘れてたけど来年度からこの雄英の教師として赴任する事になっていてね!!』
「オ、オールマイトが先生に……改めて本当に凄い!」
感動する出久、だがマグナはオールマイトにちゃんと教師が務まるのは心配になった。自分達に対する指導に対しても完全な超感覚派……グググッとしたらそれを一気にブワワワァ!!っという感じに擬音のオンパレードでどれだけオールマイトが天才的資質を併せ持っているのかを実感できた。必ずしも名選手は名監督ではない、という事だろう。
『それでは発表だ!!緑谷少年、当然のように筆記は合格!!実技ではヴィランポイントは52ポイント、問答無用で合格だ!!だが試験はこれだけでは終わらないんだよねこれが!!見ていたのはヴィランポイントだけにあらず!!』
もう既に合格の言葉が出ているのにも拘らず、それに釘付けになっていた。どういうことなのかと思いつつも何処か此方の反応を予測したようにふふんと笑いながらオールマイトは自分を激励するように、だが君にとっては当然だろうがねと言いながら答えを示した。
『試験にはヴィランポイントとは別に教員による審査制による別枠のポイントが設定されているのだよ、ヒーローはヴィランを倒すだけの存在かな?NO!レスキューポイント、それがもう一つ設定されていた隠された制度!!』
レスキューポイント。ヒーローは唯ヴィランを倒すだけで成立する訳ではない、人を助けてこそヒーロー足り得る。人助けという正しい行いをした物を何故ヒーローを育成する機関が排斥しなければならないのか、寧ろそれは評価すべき対象でしかない。
『緑谷少年、ヴィランポイント52ポイント&レスキューポイント60ポイント!!全く以て文句の付けようがない程の超優秀な成績だ!!素直に祝わせて貰うぜ少年、君は自分の力で首席合格を勝ち取った、カッコいいぜ!!』
力強い言葉と共に差し出された手、自分達に向けられたそれを見つめながらオールマイトはもう一度問いかけた。
『来いよ緑谷少年、此処が君の―――ヒーローアカデミアだ!!』
「僕が首席ごうかっく……いぃィィいやぁぁぁぁだぁぁぁぁあ!!!!??」
『はぁっ……しょうがないな、マグナヒーリングパルスを掛けてあげるよ』
「ゴ、ゴ迷惑おカケしマす……」
再びベットの上に転がる出久に対して回復光線を放ちながらもこれからが始まりである事を語り掛ける。
『既に始まってるとはいえ、此処からが本格的な始動になる事だろう。大変になるだろうけど私もサポートしてあげるからこれからも頑張ろう』
「はいっ……!!」
『取り敢えずイズティウム光線は改良か出力制御、負担軽減出来るまで使用禁止だからね』
「そ、そんなぁっ……」
『文句は言わない』