緑谷出久はウルトラマンと出会う。   作:魔女っ子アルト姫

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個性の輝き

「お友達ごっこしたいなら他所に行け、ここはヒーロー科だぞ」

 

賑わっているその場にまるで冷や水のような低く気だるげな男の声が場を黙らせた。男はのそのそと寝袋から抜け出ると更に気だるそうな声を出しながら言う。

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠けるね」

『そう言う其方は社会性に欠ける、合理性だけで社会を生きていると思ったら大間違いだと思うが』

 

マグナのいう事には尤もだと思いつつも、男は自分がA組の担任である相澤 消太であると伝えると即座に新しい言葉を飛ばす。それは酷く単純な指示だった、体操服に着替えてグラウンドに出ろというものだった。そしてグラウンドで告げられた次の指示は……個性把握テストを行う、という趣旨のもの。突然すぎるそれに皆が困惑する中で一部が動く、それが指示ならば従うしかない。荷物を置くと体操服に着替えてグラウンドへと出た。他のクラスの人間などがいない事などを見るとどうやらA組にだけ行われているものらしい。

 

「あの、入学式とかガイダンスは!!?」

 

グラウンドにて改めて問われる、出久が試験で助けた少女事、麗日が思わず聞いてしまう。入学直後ならば行われるであろうそれを完全無視しての行動に驚いている。だがそれを嘲笑うように答える。

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。ヒーローを目指すならお前らに使える時間は少ない、雄英は自由な校風が売り文句。それは先生達もまた然り、良き受難を―――"Plus Ultra"って奴だ」

 

便利な言葉だとは思う、これから雄英では様々な事が正当化されているのだろう。ヒーローになる為の高校では通常のそれとは全く異なる物ばかりである可能性は否定出来ない、受難というには重すぎる物が多く圧し掛かってくるだろうがそれらをその言葉を掛けて乗り越えろと言う。都合の良い言葉と取るか、それらを心の支えにして差し向けられる物を超えていくか。それらは人によって変わってくる、それを見るのも一つの試練と言う奴なのかもしれない。

 

「お前達も中学の頃からやってるだろ、個性禁止の体力テストを。平均を成す人間の定義が個性の存在によって崩れて尚それを作り続けるのは非合理的、まあこれは文部科学省の怠慢だけどな。実技入試トップは緑谷だったな。お前の中学時代のソフトボール投げの最高記録は」

「えっと……86mです」

 

それを答えると周囲から驚きの声が聞こえてきた。当然、相澤が述べた通りで個性が禁じられているのにも拘らず、つまり個性使用無しで出久はその記録を叩き出しているのだから。それもマグナの影響と鍛え続けた結果なのだが、相澤は興味なさそうにしながらもセンサー付きの計測ボールを投げ渡してくる。

 

「なら今度は個性使って投げてみろ。思いっきりな。円の中にいる限り何をしようが構わない」

 

ボールの重さを確かめながら円の中へと入りながら集中する、そして同時に身体の周囲に碧色の閃光が走り始めていく。今現在出久の個性許容上限は少しだけ増えて15%、それらを全身に纏いながら出来る限りの力を、全身全霊を込めながら全力で投擲―――しながら

 

「SMASH!!!」

 

爆音と爆風を纏いながらボールは空へと撃ち放たれていった、初めのお試しのような物なので個性だけで投げてみる。それでもボールは重力の鎖から解き放れたかのようにぐんぐんと伸びていく、ボールがまるで豆粒の様なサイズになるまで吹き飛んでいき漸く地面へと落ちていった。相澤も結果に関心の息を漏らす。そして手元の機材にボールの飛距離――1022.4mの記録が表示される。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

「いっいきなり1キロオーバー!!?」

「すっげぇっなんて個性だよ!!?」

「というかマジで個性全開で使っていいんだねぇ!!」

「ウォォオオ面白そうでやる気満々になって来たぁ!!!」

 

「面白そう、ねえ・・・・」

 

その不用意な一言で、相澤の周りの空気が豹変した。呆れ半分、そしてもう半分浮かび上がっているそれは酷く意地の悪い物だった。

 

「ヒーローになる為の三年間、そんな腹積もりで過ごすのか。決めた、じゃあこのテストのトータル成績最下位はヒーローになる見込みなしと判断して、除籍処分にしよう」

『おいおい……突然無茶苦茶を言うな……』

 

マグナだけでなく、1-A全員が絶句した。だが相澤は続けた、自然災害にヴィランが起こす事件、今の世界にはいつどんな厄災が起きたとしても不思議ではない。そんな理不尽を越えていく力を持つ者こそがヒーローだと。

 

「自由な校風が売り文句と言った筈だ。君ら生徒の如何もまた俺達の自由だ。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

『突然の試練だね、さて切り抜けられるかい出久君』

「当然……僕はヒーローになる為に此処に来たんです。その為の試練なら幾らでもクリアしてやりますよ……!!!」

『流石だね』

 

そんなマグナからの期待に応えるかのように50メートル走、握力、立ち幅跳び、反復横跳び、ボール投げと出久は立て続けに好記録を叩き出していく。特にボール投げでは―――

 

「よし、今度は本気でいこっと」

「えっあれ全然本気じゃなかったん!!?」

「うん全然?」

「だったら本気出してみやがれデク」

「分かった」

 

何処か自分がどこまでやれるのか見たそうにしている爆豪の期待に応えるかの如く、出久は改めて円内に入った。気合を入れながらも構えに入った。ボールを握った右腕を上げるがその手は軽く開かれている、腕を力を込めながらそれに合わせるように腕が輝きを持って行くのをイメージする。だがそのイメージは優しく相手を包み込み相手を抑え込むかのような物、限られた出力を活かす為に出久は頭を巡らせながら―――圧倒的な力をイメージしながらそれを解き放つ。

 

「シェアッ!!!」

 

投げながらも咄嗟に腕を組んで光線を発射する、それはスペシウム光線―――のようだが一直線に伸びるのではなくボール全体を押し出すかのように照射面積を大きくしていた。威力こそ落ちてしまうがボールを押し出す力はかなり強化されておりボールはぐんぐんと伸びていく。そして―――叩き出した記録は4キロオーバーという大記録を叩き出したのであった。

 

『ほぅ、ワザと光線の収束率を下げて威力を下げつつもボール全体に当てて飛ばすのを安定させたのか。考えたじゃないか』

「(前にマグナさんが相手を一切傷付けないウルトラマンがいるって言ってたじゃないですか、それを参考にしたんです)」

『ああコスモスか、慈愛の勇者とも呼ばれる彼を参考にして……フム、君の可能性は未知数だな』

 

そんな大記録を叩き出した出久は周囲から様々な事を問われたりどんな個性なのかと聞かれたりするのだが、少し困ったような顔をしながらも如何だと言わんばかりに爆豪を見つめるがそこにあったのは鼻を鳴らしつつも何処か闘志を燃え上がらせているような爆豪の姿であった。そんな個性把握テストはあっという間に終わりを迎え、出久は優秀な成績で2位に付く事が出来た。

 

『長座体前屈とか反復横跳びはもっと練習しないとね、特に瞬発力は大切だよ』

「(が、頑張ります)」

「あっ因みに除籍は嘘だから、君たちの最大限を引き出す合理的虚偽」

『……はぁっ~!?』

 

このテストで最下位を取ったものは除籍されると脅しを掛けられていたのだが相澤はあっさりと嘘だと白状した。思わず最下位になっていた峰田という少年は愕然としながらも自分の絶望を返せといいながらも酷くホッとした表情をしていた。

 

『あれこそ嘘だな、あれは皆に見所と将来性が確りとあったから嘘にしたみたいだ』

「(そ、それじゃあ除籍しようとしていたのはマジ……?)」

『マジだね、やれやれ教師の割に人が悪いな相澤先生とやら』




コスモスを参考、という事だが何方かと言えばコスモスの力を借りてなったウルトラマンジードのアクロスマッシャーのアトモスインパクトのそれに近い。

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