緑谷出久はウルトラマンと出会う。   作:魔女っ子アルト姫

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二人の始まり

宇宙に浮かぶ青く美しい星、太陽系第三惑星地球。青い星はM78星雲・光の国では伝説となっているウルトラ兄弟たちを始めとした多くのウルトラマンたちによって守られてきた、守るに値する星であると。そんな戦士達が活躍した地球とは全く異なる次元にある地球、そんな別次元の地球へとやって来たウルトラマンマグナは青々とした美しい地球を見つめなら複雑な嬉しさの渦中にあった。

 

「これが、地球……何だろうこの胸に沸き上がる不思議な思いは……感動と喜びがあるというのに別の思いが……」

 

前世の中では映像ではある青い母なる大地を見た事は何度もあった、だがこうして宇宙空間から直接それを見つめるという経験は初めての事。マグナとして任務に出向きそれなりの数の星々を見た事はある、地球よりも美しい星を見た事もあるのに……胸には複雑な思いが沸き上がってきている。帰って来たという思いを理性が違うと叫んでいるのに違う、自分はもう地球人ではない。光の星のウルトラマンなのだと。分かっているのにどうにも複雑な思いを浮かべずにはいられないらしい。

 

「……儘ならんな」

 

様々な思いが交錯する中でマグナは気を取り直してゾフィーから託された任務を果たす事にした。そしてそこで全く別の進化を遂げた地球人たちの姿を見る事になった。そこにはあったのは―――大きな角を持つ、透明な身体を持つ、翼を持つ、動物の特性を宿すといった様々な力を宿している人間たちの姿であった。確かにこれは全く別の光景だと言わざるを得ない、自分達宇宙人に近い容姿をした存在もいる。

 

「しかしこれは凄いな……」

 

地球にも人種、文化、肌の色などによる個性差は有ったが、それを上回る差異でありながら人々は何の疑問にも思わず共に生活しているその姿に圧倒されていた。前世にあった人種差別の形は目立っていない、いやそこに至るまではきっと壮絶な戦いがあった事だろうがそれを乗り越えた末に今と言う現実があるのだろう、これはレポートの書き甲斐があるなと周囲を見回しているとそこで思わず彼は見た。

 

「―――っ!!」

 

そこにあったのは何やら暴れている怪物と戦っていると思われる人々の余波で起きた瓦礫、それが小さな少女を押し潰さんとしていた。それを一人の緑色のもじゃもじゃした髪形の少年がその子のために我が身を顧みる事も無く、何の躊躇も無く身を投げ出したのだ。その時マグナはその少年から溢れんばかりの輝きを目にした、瓦礫は容赦もなく少年の身体を押し潰し、少年を瀕死の重体にしたのにも拘らず少年は少女が助かった事を確認すると穏やかな笑みを浮かべたまま意識を手放してしまったのだ。

 

「……何て気高くも輝かしい、そして優しい心を持った子なんだ……よし」

 

マグナはある事を決意すると光の粒子へと変貌して瓦礫へと押し潰された少年へと一直線に向かって行った。光は少年の身体へと到達すると―――瓦礫に押し潰されてしまった少年の身体を一瞬に完治させてしまった。暫くした後に少年は目を覚ますのだが……瓦礫によって傷は外から見えなかった為か、少年は運よく瓦礫を避けつつも女の子を助けたとして周囲から褒められ、ヒーロー達からは謝罪を受けるのだが……瓦礫によって身体を押し潰された感覚が残っている身としては何が起こっているのか、全く分からず呆然としたままその場を去るのであった。

 

 

「一体、如何して……だって僕はあの時……」

 

自室の椅子に腰掛けつつも放心状態となりながらも今日起きた事を振り返っている少年―――緑谷 出久は改めて自分の身体に目をやる。そこには傷一つなく健康な状態の自分の姿がある。だがそれは明らかにおかしい事だ、瓦礫が肉を裂き骨を潰した激痛も鮮明に覚えているのに……訳も分からない漠然とした恐怖感が自分を覆い尽くしていた。

 

「もしかしたら個性が……いやある訳ないか、だってお医者さんに言われたし……はぁっ折角プロヒーローに褒められてヒーロー向きだって言われたのに……」

 

そんな暗い暗い独り言を呟いてしまった時、その言葉に疑問を抱いたのかような声が脳裏に響いてきたのである。

 

『私は君は十二分にヒーローだと思うよ、君は人一人の命を救った。それは胸を張っていい事なんだ、尊い人の命を迷う事も無く救うのは偉大な事だ』

「そう言って貰えるのは嬉しいですけど僕はヒーローにはなれませんよ……だって無個性だし……」

『無個性、先程も聞いたが個性とは何なんだ?それぞれの特徴などの事を指す言葉ではないように聞こえるが……』

「いえそう言った意味の個性じゃなくて……ってえっ?」

 

余りにも自然な問いかけるような声だったので受け答えをしてしまったが一体この声は何処から聞こえてくるのか、周囲を見回してみても自分の部屋が広がっているだけで一緒に暮らしている母がいる訳でもなく誰もいない。だが確かに会話を行っていた、それではこの声は一体何なのか!?と思っていると申し訳なさそうに謝罪する声が聞こえてくる。

 

『そうか突然申し訳ない、私は君の心に直接問いかけているんだ。君達に通じやすく言えばテレパシーと言えば分かるかな』

「テ、テレパシー!?もしかしてそう言う個性で僕に話しかけているんですか!?」

『いやそういう訳ではないのだが……そうだな、一つ一つすり合わせを行いながら話をするのが良いだろうな』

 

突然の事に驚くがその声が余りにも冷静で温和で優しそうな声だった故か、出久は少しずつだが冷静さを取り戻していく。深呼吸をすると声も大丈夫かな、と同意を求めてきたので大丈夫だと返すと会話が始まった。

 

「え、えっとそれじゃあ貴方は一体誰で何処にいるんですか!?」

『私がいるのは君の中さ、そうだな……瓦礫に押し潰されてしまった君の身体を治した存在と言えばいいかな』

「えっ……ぼっ僕の身体を!!?」

『良かれと思って君の身体を治療したのだが、如何やら不信感と恐怖を与えてしまったようだね。本当に申し訳なかった、だがあのままだと君は5分もせずに死んでいたんだ、君を助ける為だと思って貰えると有難い』

「いやいやいや!!!それじゃあ逆に僕は命を救われたって事じゃないか!?って僕の身体の中ぁ!!?」

『そう、今私は君と一体化しているのさ』

 

思わず胸に触れて困惑している出久、そんな彼に対して声は話をするならば顔を確りと合わせた上でした方がいいよねっと出久の目の前に姿を現した。銀色の身体には炎のような赤いラインが走りながらも胸にはプロテクターのような鎧とその中心に輝く青い光を放つ装置のような物があった。そして何処か優し気な雰囲気を纏った半透明のホログラムのような形で声は姿を現した。

 

『改めまして……初めまして、私はM78星雲・光の国からやって来たウルトラマンマグナという者だ』

「えっM78星雲って……まさか宇宙人って事ですかもしかしてぇ!?」

『君たち地球人が分かりやすく言えばそうなるだろうね、それで良ければ君の名前も聞かせて貰えないだろうか』

「あっえっと……み、緑谷 出久です!!」

『緑谷 出久君か、良い名前だね』

 

余りにも突然すぎる事に出久は腰が抜けそうになっていた。今の世の中は超人社会という超常的な現象が定着してしまっているが、まさか宇宙人なんてそれを遥かに超えるような出来事と遭遇する事になるなんて思ってもみなかったからである。

 

「宇宙人だなんて、ええっ!!?あ、あのもっとお話を聞かせて貰っても良いですか!!?」

『勿論さ、だがその代わりと言っては何だがこの地球の事や先程の個性などについても教えてもらえないだろうか』

「勿論です!!」

 

こうしてウルトラマンマグナは嘗てのウルトラ戦士たちがそうだったように一人の地球人の少年、緑谷 出久と一体化しながら地球の調査をする事となった。そしてそれは―――新たなヒーローの誕生を祝う日でもあった。


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