それは突然訪れた変革、あってはならない、見てはならず、来てはならないモノの前触れを知らせる警鐘。
極小の点であった空間の穴、偶然誰かが見た時違和感を覚える程度の物が拡大していく。そしてそれは次第に亀裂となり、空間が捻じ曲がって物事の根本を覆すような様を生み出しながらその奥からゆっくりと影を大地へと降ろした。音も無く、風圧も無く、まるでそこには本当は何も存在はせずに映像か何かのトリックなのではないかという疑念を抱かせる程に、それは静かで空虚な出現だった。だがその姿を一度見た者は言葉を失い、そして震えるのであった。
光の巨人たるウルトラマンとは真逆、全身が漆黒の常闇に染められている。それでありながら何処まで厳かで煌めきを秘めている、全身を走る闇の炎は金色の輝きによって縁どられている。胸部にはプロテクターにも見える何かがありその中央部には球形の藍色の宝玉が収められていた。極めてウルトラマンに似ている何か、としてしか人間が認識出来ないそれは雄英のある街へと降り立ち、まるで値踏みをするかのように周囲を一瞥する―――その瞬間
ほんの一拍、心臓が一度鐘を打ち鳴らす程の時間が過ぎ去った時に一つの区画が炎上した。誰もが呆気にとられた、耳を劈く轟音が鼓膜を揺らす前に爆炎が一気に内部へと向かって衝撃波が集中していく。そして跡形も無く消えた。身を焦がす炎が降り注ぐ訳でもなく、身を震わせる衝撃が轟く訳でもない。一瞬にして虚無に飲み込まれて消えていった。故に―――恐怖が一気に伝播していく。
「な、んだよ今の……!?」
余りにも偶然過ぎる出来事だった。A組の生徒達は計画していたイベントを終えて寮へと戻ろうとした時にそれを目撃してしまったのである。
「街がっ……破壊、いやそんな生易しい言葉なんか、これを表現してはいけないっ……!!」
飯田の言葉が正しくその状況の異常性を象徴していた。聞こえてくるのは爆炎が一気に凝縮する際の空気の僅かな音のみでそれ以外の破壊音などが一切聞こえてこない、なんて静かな光景なのだろうか。街には暗黒の魔神が立ち、その魔神によって街が文字通りに消されていく光景をどうやって表現しろというのか。
「―――究極の破壊、存在の否定、無の……肯定」
喉ごと身体を震わせながら言葉にする常闇のそれに誰もが納得した表現を見つけたと言わんばかりの顔をした。正しくそれだ、あれは無だ、無が産まれているのだ。有を殺して虚無がこの世界に生まれ出る現象なのだと。それを聞いてそんな光景を見つめる出久に沸き上がるのは驚愕そして……怒りだ。一体なぜこんな事をするのか、許しておけるかと駆けだしそうになる自分を止めたのは誰でもない、魔神の声だった。
―――ウルトラマンマグナ、聞こえているか。姿を現せ、現さなければ我はこの地球が焦土と成り果てるまで力を使い、あらゆる命、存在を無へと誘う。
『見え見えの挑発をしてくれる……!!』
「(でも行かないと街ガッコの辺りにはかなりの人が住んでるですよ!!?)」
明白過ぎる挑発、だがいかないなんて選択肢は存在しない。それはウルトラマンである以上に好きにさせれば奴は地球を文字通り何もない星へと変えてしまうから。PLUS隊員として飛び出して皆からの視線から外れようとした時だった―――魔神が、魔神が此方を見据え、声を上げた。
―――そこに居たか……ならば此方から出向くのが礼儀。
刹那、出久達の目の前にそれは現れた。街に立ち尽くす魔神と全く同じ姿、自分達に合わせたかのような大きさになりながらそれは現れた。
「な、なんだっあいつの仲間か!!?」
「雄英のセキュリティとかお構いなしかよぉ!!?」
「怪獣に通じたら苦労しねぇだろ!?」
パニック一歩手前、それを見据えながらも腕を振るった。瞬間、雄英その物を崩壊させてしまいそうなエネルギー波が放たれた。誰も反応する事も出来ずにエネルギー波が全てを包み込んでしまいそうになったその時の事―――甲高い音と共にそれが崩れ落ちる音が響き渡った。
「みっ緑谷!!?」
出久は立っていた。誰も反応する事も出来ないそれに、たった一人で反応しながらもそれを砕いて見せた。その手にマグナリングを輝かせながら眼前の魔人と対峙していた。
「ほぅ……成程、貴様が依り代か」
「お前はっお前は何者だ!!」
「我は―――無限の悪意、無限の闇、無限の怨嗟を抱きし者、終焉に座し全てを原初の虚無へと誘う魔神」
低く唸り響く声で名乗るそれに誰もが震えていた。だが誰も逃げない、桁違いの存在であろうともヒーローを目指す彼らが逃げるなんて事はしない、どんな相手だろうとも立ち向かう意志を持ち続けている。それに敬意を払うかのように語る。
「何故、あんな事をした!!」
「我は創造された、そうあれかしと母によって生み出された命。既に我が母、アウローラは存在せぬ。だがそれが我の存在理由ならば果たそう、全てを終焉へと導き、原初へと返すが我の目的」
ただそうあれと望まれた、だからそうするという言葉が何処か焦凍の胸に突き刺さる様だった。だが自分とは違うと強く否定する。
「賽は投げられた。最早時の針は戻る事を知らぬ、我は生まれ出でた。ならば過去、現在、未来は全て虚無へと突き進むのみ」
「そんな事っ認めるもんか!!」
「気に入らぬというのであれば来るがいい、我を否定して見せろ、我を倒して見せろ―――さあ世界が終わる日か、それとも始まる日かそれを決めようじゃないかウルトラマン」
そう言い残し、魔人は姿を消した。そこに居たのは立体映像だったかのように何の残り香も残さず、何もなかったかのように消え失せた。だが残っている物はある、鋭く力強く猛々しい闘志を燃やす勇士の姿がそこにある。見つめるのは魔神唯一つ、それ以外は何も視界に入れずそれだけを見据えている。
「カッちゃん、轟君。後任せるね、僕は―――行くから」
此方を見ずにそう告げる男に友は鼻を鳴らしながら何処かそっぽを向くようにしながらも了承し、もう一人の友は力強く任せろと答えて見せた。
「とっとと行きやがれクソデク」
「緑谷、気を付けろよ」
「うんこれが―――最後だ」
一歩足を進めようとする自分を誰かが止めた。クラスの皆が自分を止めようとしていた、あんな化け物に戦いを挑もうというのか、正気なのか、様々な思いよりも先に出たのは……まさか、本当にそうなのかと問いただしそうな、今にも泣き出そうな顔だった。それに対して出久は笑みで答えた。
「皆僕行ってくるね。皆を守る為に、ウルトラマンは平和の為に戦わないと」
屈託のない笑みは身体を繋ぎ止めていた力を緩めさせた、そして一歩踏み出しながら出久は右腕に力を込めた。そして叫んだ。
眩いばかりの光が周囲を照らす、太陽のような光の中で出久はマグナと一つになる。そして即座にラムダスピリッツへと姿を変えながら魔神の元へと降り立つと同時にその隣にゼットが降り立った。彼もまた、この異常性に気が付き駆けつけてくれたのだろう。それを見ても魔神は何も答えず此方を見据え続けていた、そして―――叫んだ。
―――我は、アウローラによって生み出されし終焉を導く魔神……フィーニス・グノス。光の巨人、貴様らも終焉へと引き込んでくれる……!!