「「―――っ……」」
思わず言葉を失いながらこんな事があっていいのかとさえ思ってしまう、ヒーローとは困難の連続に立ち向かっていく者だと言われたがこれがそれなのか。たった一人で圧倒的な相手に立ち向かいながら限界を超えた力を発揮し倒れてしまった出久を嘲笑うかのようじゃないかと梅雨と峰田は不条理を恨んだ。目の前にいる全身に手を付けたヴィランに脳が剥き出しになっている大柄ヴィラン、その背後にはボロクズのように倒れこみ重体となっている相澤の姿があってしまった。相澤を倒した二人が今度は此方の目の前にいる。そんな悪夢に等しい現実があった。
「あのさぁっ……あいつはさ、偶然見つけられたすげぇ奴なんだよ。強引に言う事聞かせてたはずなのにそれを倒しちまってなにしてんだよ……?」
酷く苛立ち怒りに塗れている声を出しながら男は指の隙間から鋭い瞳を覗かせながら抱えられている出久を見た。既に動けなくなっているなんて関係などはなく頭の中にあるのはそこにいる3人への絶対的な怒りのみ。助けられた二人も同罪だと言わんばかりに目を血走らせながら叫んだ。
「脳無―――こいつらを殺せぇ!!!」
脳無。隣の大柄ヴィランはその命令を正確に実行する機械のようにオールマイトにも匹敵しそうな剛腕を用いて逃げる隙も与えんと言わんばかりの一撃を加える。それは大地に巨大な亀裂を生み出し小さなクレーターをも作り出してしまうような物だった、それを見て男は狂ったような笑みを浮かべた。
「ざまぁみろ……あっ?」
エレキングは倒れた、だが死んではいないだろうから回収さえ出来ればいいかと思いながらも視線の端に立っていた銀色の人影へと目を移した。そこにあったのは―――
「何で、生きてやがる……!?」
「い、生きてる……生きてる?」
「生きてる、かしら……?」
何時までも襲ってこない痛み、それに疑問を浮かべるように瞳を開けると五体満足な身体があった。安堵しつつも何故自分達は無事なのかと視線を巡らせると直ぐに答えがあった。
「緑谷、ちゃん……?」
「緑谷お前……!?」
静かに膝をつきながらも自分達を腕に抱いていたのは出久だった。閉じられた瞳を上げながらも自分達をゆっくりと地面へと降ろすと落ち着き払った様子で静かに頷いた。まるでもう大丈夫だ、と語り掛けてくるような力強くも暖かで優し気なオーラが自分達を包み込む中で出久のコスチュームが変化する。首の後ろ、肩の間から装甲が飛び出すと顔を覆い銀色のマスクとなって青白い光を灯した。
「緑谷ちゃん、貴方動けるの……!?」
梅雨の問いに頷きで応えると出久は先程の弱り切った姿とは打って変わって落ち着き払いながらも余裕のあるクールな動きで半身を反らすようにしながら構えを取る。
「緑谷お前戦う気なのか!?でもお前限界だって……」
先程の憔悴っぷりを知っているからこそ何故戦おうとするのか分からない峰田、梅雨もそれは同様だろう。戦えるような状態ではない筈だろうに動こうとするそれに疑問しか沸かない、だがそれに対してサムズアップが返された。自分は大丈夫だから早く逃げろと言いたいのだろう、そして僅かに顔が横を向いた。倒れている相澤を安全な場所へという意味もあると理解した二人はそれを汲んで相澤の元へと駆けだし、担ぎ上げると声を張り上げながら走り出した。
「やっちまえぇ緑谷ぁ!!」
「絶対に無事でいてね緑谷ちゃん!!」
そんな声援を受けながらも去って行く二人に出久はマスクの内で苦笑しながらも漸く声を漏らした。
「優しい子達だ、そんな子供を守るのも―――そして相棒のお願いを守るのもウルトラマンとしての仕事だね」
そこにあったのはマグナだった。既に出久の意識はなく主導権はマグナが握っている、既に限界に近い身体だろうがそれをマグナが自身のエネルギーを供給しながらもヒーリングパルスを使う事で修復しながら動かしている。これならば多少の無理は利くだろう。
「おい、お前……何なんだよお前、さっきからよぉっ……チートみてぇな事ばっかりしやがってウザいんだよ……」
と男は幽霊のようなふらふらとしながらも明確な怒りを沸々と沸騰させていきながら此方への敵意をむき出しにしてきた。凄まじい怒気を向けられるがマグナは態度を変えない。数々の任務の中で凶悪な宇宙人や宇宙怪獣、中には策略を持って恐怖と混乱を齎す存在と対峙してきた彼にとって悪意や殺意などは仕事柄退治するのが当たり前のもの。しかも何も洗練されずただ漠然とした自分の考えと楽しみを邪魔された程度の物で怯むような精神性は持ち合わせていない。
「さてヴィラン連合と言ったか、悪いが君達は此処で終わりだ。君風に言えばGame overだ、君のあれも何処で見つけてきたかは知らないがチートなんて小賢しい卑怯な物に頼るのはこの位にしておくといい。空しいだけだぞ」
「うぜぇっ……!!脳無奴を今度こそ殺せぇ!!!」
叫びと共に脳無は先程とは見違えるような速度を発揮した。地面を蹴ると周囲に風圧を巻き起こす、その風圧は周囲の物を吹き飛ばすような物。その加速のまま迫ると剛腕の一撃を放つ、普通ならそれに反応すら出来ずに直撃するだろうが―――
「無駄がありすぎる上に雑だ」
「―――はっ?」
軽く跳躍しながら放った一撃は脳無の顔面を潰すように炸裂した、出久と脳無の体格差は圧倒的。それなのに一撃は脳無をあっさりと仰け反らせながら逆に宙へと浮かばせた。余りにも異常な光景に間抜けな声が出てしまうがそんな事知った事かと言わんばかりに倒れこんだ脳無の脚を掴むとそのまま殴り付けるかのように地面へと背負い投げた。脳無はそのまま体勢を立て直す暇も与えられないままに何度も何度も天地が返されながらも大地へと叩きつけられていく。
「しっ死柄木弔、あれは一体何なのですか!?」
「おれ、俺が知る訳ないだろうが黒霧ィ!!なんだあいつは、なんなんだよ!!!」
そこへ出現したのは出久達を転移させた黒靄のヴィラン、黒霧と呼ばれつつも手だらけの男を死柄木弔と呼ぶ。だが問われても訳が分からない、何故一介の、しかも雄英に入学したばかりの筈の生徒があの脳無を一方的な格闘戦を演じる事が出来るのか訳が分からずに混乱してしまう。
「ッ―――!」
「デュェッッ……デュア!!!」
慣れてきたのか素早く体勢を立て直しながらも今度こそと言わんばかりに殴り掛かってくる脳無、だがそれに対するマグナは素早く後ろに引きつつも胸へと両腕を構えつつも片腕をチョップするかのように掲げるとその手には青白い光がまるで丸鋸のように変形し集っていた。そのまま投げられた光輪は途轍もない勢いで回転しながら脳無へと迫っていく。だがそれから危険を感じた咄嗟に回避する―――が
「デュッダァッ!!」
回避された光輪へとマグナはウルトラ念力を送り込むと光輪は途端に4つへと分裂しながらコースを変えて脳無の背後から一気に迫って脳無の四肢を瞬時に両断してしまった。脳無は達磨になりながらそのままの勢いを殺せずに地面へと突っ込んでしまう。
「な、なんだと!!?」
これこそマグナの必殺技の一つにしてスペシウム光線のエネルギーをリング状に高速回転させて投げつける切断技、
「私もね、やる時はやるんだよ―――私の相棒の活躍に、報いる為になぁ!!!」
「まさかあの脳無が此処まで一方的に!?」
信じられないと言いたげな言葉にマグナはチャージを開始しながらも言葉を作った。
「超獣の類と思って間違いなさそうだな、ならば―――喰らえ」
両腕をクロスさせながらそこにエネルギーを集中させる、両腕は激しい閃光を纏いながらも周囲にエネルギーが溢れているのか余波が地面を抉っている。エネルギーを収束させつつも腕を大きく翼のように開け放っていくと収束、圧縮させたエネルギーが元に戻ろうとしているのか、それがまるで銀河の様な光を放つ。
「死柄木弔あれはやばい、絶対にやばい!!」
「くっそぉ、クソがぁ!!」
黒霧、死柄木弔の両名はマグナの光のやばさを感じ取ったのか大急ぎで撤退していく。それを見てもマグナは止めず集ったエネルギーが臨界を迎えるとそれを腕を十字に組みながら、元に戻ろうとするのも利用した自身の光線を地面に転がっている脳無へ向けて放つ。
「マグナリウム光線!!!」
真っ赤に滾るマグマのような、宇宙に輝く銀河のような、宇宙の輝きのような光線が十字の腕からは放たれていく。それは脳無を飲み込みながらも地面を抉りつつも水難ゾーンへと炸裂していく。そしてイズティウム光線によってダメージを負い水中で身を潜め続けていたエレキングへと直撃した。そしてそれを受けたエレキングは限界を迎え水中で爆発し巨大な水柱を立てて消滅した。光線を浴びた脳無は全身が焼け爛れながらも尚も息があるようだが、完全に動かなくなり機能を停止したようだ。
「出久君、これで君のお願いは果たせた事になるかな」
マグナリウム光線、収束圧縮したエネルギーが元に戻ろうとする勢いすら利用して放つ威力と照射範囲を追及したマグナオリジナルの光線。発射までのフォームはティガのゼペリオン光線と似ているが、開いた腕を後方まで伸ばしている、言うなれば、FERのマン兄さんのスペシウム光線のような感じになる。収束版も放つ事も勿論可能。
名前は嘗てウルトラセブン救出のために使われたマグネリウムエネルギーから。尚、ウルトラマンネオスの必殺光線であるマグニウム光線とは一切関係なし。
マグナスラッシュ、皆様ご存じ八つ裂き光輪のマグナバージョン。発射後はウルトラ念力で操作、分裂、相手の拘束などが可能。何方かと言ったら作中にて『断て!撃て!斬れ!』という助言の後にギロチン王子ことエース兄さんが放ったウルトラギロチンに近いかもしれない技。
前回のサブタイトルはウルトラギャラクシー大怪獣バトルの第8話『水中の王者』が元ネタです。