緑谷出久はウルトラマンと出会う。   作:魔女っ子アルト姫

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強さは優しさ

昼休みに起きた大事件も無事と言えるかわからないが終わりを告げ、授業も終わり放課後になり出久は一応発目との約束をしているので其方へと行こうとした時―――A組の目の前の廊下を埋め尽くすかのような生徒達の山に驚いてしまった。

 

「な、何この人の数!?」

『大方敵情視察がてら見に来たのだろう、雄英中にA組が授業中にヴィランの襲撃にあったが無事に撃退されたという話は出回っているだろう?それを踏まえた場合に体育祭で最も手強い相手は必然的にA組という事になるのだよ出久君』

「ああ成程……」

 

マグナの解説に納得を示す、理由は理解出来たのだがこれでは教室から出られない。自分はまだ雄英から出るつもりはないが他には帰宅する人や約束がある人だっている筈、これでもそれらの人にとっては邪魔でしかない。何とかしないとなぁと思っていると普通に帰ろうとしていた爆豪は不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、邪魔だなと呟いた。

 

「(あっやばい、マグナさんカッちゃん最近丸くなってきたとは思いますけどこれ絶対キレるパターンですよ)」

『激しく同意だね。というか普通に帰りたい人にとってこれは普通に迷惑だからねぇ……このまま爆豪君に何か言わせるのもありだとは思うが、それはそれで問題が起きそう……』

 

直ぐに人をモブと言わなくなったりある程度温厚さが出てきて良い傾向が出始めている爆豪、だが不機嫌になった爆豪は何を言い出すかは分からない。以前のような獰猛さが剥き出しになる事も否定しきれない。そんな時、気だるげな顔つきの生徒が人を掻き分けるように出てきていった。

 

「噂のA組を視察に来たんだけど案外普通そうな連中ばっかりか、こうなると普通科とあまり変わんないみたいだな」

「あ"っ?」

「なあ知ってるか、普通科にはヒーロー科に落ちた奴ら多いんだよ、だけど普通科にはヒーロー科への編入もあり得るんだよ。体育祭の結果(リザルト)によっちゃ、俺達のヒーロー科への移籍(ランクアップ)、あんたらにはその逆が、普通科落ち(ランクダウン)だってあり得る。敵情視察、まああってるかもしれないけど少なくとも俺は、ヒーロー科でヴィラン相手に生き残ったからって調子に乗ってると俺達がアンタらの足元ごっそり掬っちゃうぞって宣戦布告に来たんだよ」

 

と明白な挑発と此方を小馬鹿にするような言い方に少なからず出久もムカッとしてしまう、挑発の為か、ゲームのように例えて馬鹿にしている。がそんな事はマジでどうでもいい。それ以上に心配だったのか隣の爆豪から微妙に何かがキレるような音がしている。横目を見ると額に僅かに青筋が浮かび上がっている、長い付き合いの出久は分かる、これはカッちゃんがキレる前兆だと。

 

『いただけないね、素直にいただけない……』

「(僕も同じ気持ちですよ)」

『まあ人それぞれ意見はあると思うよ、だが彼の物言いはいただけない』

「(ですね、でもここは僕に言わせてください)」

 

暗にマグナは変わって欲しいなぁと言っていたのだが、出久は自分に言わせてほしいと言ったので素直に引っ込んで出久に任せた。

 

「君は随分と上からで失礼だね、だから僕もそれで返させて貰うよ。何も知らない人が馬鹿な事言わないでくれるかな?」

「―――何?」

 

明白な敵対心に目の前の少年は此方へと向き直った。

 

「ヴィランとの戦いは授業や訓練とは違うんだよ、本当の命のやり取りなんだよ。それを偶然生き残ったみたいな言い方しないでもらえるかな、それは大怪我をしてまで僕たちを助けようとしてくれた先生たちに対する侮辱だよね」

「いや違う、俺はお前達に対して……」

「何も違わない、君は僕たちを知らない。あの場で僕たちがどれだけが苦しんで、どれだけ怖かったのを何も知らない。実際死に掛けた僕達の事なんて知らないでしょ」

 

それが明確だったと断言出来る、あの場にいたヴィランは明確に此方を敵だと認識して襲いかかって来たのだ。一歩でも選択を誤れば死が待っていた、特にそれを実感しているのは梅雨や峰田だろう。もしも出久が一緒に居なければ、彼が死力を尽くさなければ数回死んでいた事だろう。

 

「一つ聞くよ、ヒーローに必要な強さって何か分かってる?」

「それはっ」

「個性なんかじゃない―――優しさだよ。誰かに手を差し伸べてあげられる優しさだよ、誰かの為に必死になれる優しさだよ。君にとって立ちはだかる相手って言うのは僕たちなのかな、それともヴィランかな。君はヒーローになりたいって言いながら僕達と切磋琢磨して上に行くつもりもないんだね」

 

その言葉は少年、心操 人使の心に突き刺さってきた。ヒーローを目指すと言っておきながらヴィランとの戦いを否定した上にヒーロー候補生と戦うという宣言をしている。そんな君がヒーローになんてなれるのかという単純な問いに彼は言葉が出なくなっていた。

 

「君の考えがそうならいいよ、でもそのままだと君はヒーローになんてなれない。少なくとも―――誰かに求められるヒーローになんてなれないよ、人の心が分からない人にはね」

「っ―――!!」

 

最後の一言は彼の心に深く突き刺さってしまったのか俯いてしまう、彼にも思う所があり何か悩みがあるのかもしれない。だがそれと向き合うのではなく別の方向性にしてしまっている、だがそれを正す事が出来れば―――こう言った人間は果てしない伸びしろを持って夢へ向かって駆け出して行く。

 

「本当に僕達に向かって来るならいいよ、僕達は全力で戦うから。唯生半可な思いじゃ崩れないよ」

「―――ハッ、宣戦布告に来たら逆にされたってか……上等だ、そうやって上からもの見てろ。下克上、ジャイアントキリングって奴を見せてやる……!!」

 

そう言い残してその場から去って行く心操、それに続くかのように生徒の一部は道を開けたり自分も此処にいるのではなく努力しようと移動を開始したりをする。本当の成長を望むなら心から行動をしなければ。これで漸く帰るようになると一息つきながら爆豪に言う。

 

「これで帰れるよカッちゃん」

「フンッ……デケぇこと言いやがって」

 

と悪態をつくが何処か満足そうな顔をしている事を出久は見逃さなかった。爆豪的には自分の言いたい事やらも言われたので溜飲が下がったのだろう。

 

「うおおおっ緑谷お前カッコいいな!?男だぜ!!!」

「本当に大事なのは誰かに手を差し伸べてあげられる優しさ……確かにそうね、あの時の緑谷ちゃんがまさにそうだったわね」

「そうだよなぁ!!あの時、あの馬鹿でかいヴィラン相手にオイラ達を守り抜いてくれたもんなぁ!!」

 

クラスからは出久に共感したり称賛する声が殺到する、それこそがヒーローだと言わんばかりの言葉の嵐に出久は照れてしまう。自分は言いたい事を全部吐き出しただけに過ぎない。そこには単純にUSJでのことを否定されただけではなく、自分の大切な恩人であり相棒のマグナの事を否定されたような気分にもなったからだ。だからあんな言葉が出てしまった。

 

『いやいや中々良い啖呵を切るじゃないか出久君。うんうんおじさんは少年が成長しているようで嬉しいよ』

「(そんなっ……マグナさんはおじさんじゃありませんよ!!)」

『あっツッコム所其処なの?いや地球では27っておじさんの範囲じゃないのかい?いや私の実年齢的には爺さんか』

「(全然違いますから!!)」

 

「よし緑谷一緒に帰ろうぜ!!今日は帰りにオイラが行きつけの店で奢ってやるぜ!!」

「ケロケロッ私も是非USJでのお礼をしたいわ」

「そんないいのに……それにゴメン、今日はもう予定があるんだ……発目さんとの」

『……頑張れよ』


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