体育祭までの準備期間はあっという間に過ぎて行き、開催までの時間を各々が有効に使ったと確信出来るような日々を送りながら遂に当日の朝がやって来た。出久も自分の事をしながらも発目に振り回さながら今日を迎える事になった。
「ちょっと緊張するなぁ……」
『何大丈夫だよ、別段大切な日だからと言って張り切ってしまう事なんてないんだよ。何時も通りにやればいいんだよ、逆に今日を見に来る人というのは普段通りの事を大一番で出来るかどうかを見に来るのさ』
「(そ、そうなんですか?)」
『私の時もそうだったさ、懐かしいねぇ……もう何千年も前の事になっちゃうのかなぁ……』
「(な、何千年……)」
やっぱりウルトラマンとは時間の感覚という物が全く違うんだという事を思い知りながらもマグナが当時の事を話して少しばかりリラックスを図る。当然の如く筆記なども存在していたがマグナの場合は当時は文明監視員を志望していたので特殊実技なども存在しておりかなり大変だったらしい、文明監視員は光の国でもトップクラスに難しい役割だったのもある。
「(マ、マグナさんでも難しかったなんて……)」
『でもやっぱり一番評価されたのは普段と全く変わらない平常心の維持だったよ、どんな状況でも落ち着いて対処出来るのはどんな戦闘力よりも見られる部分なんだよ。避難誘導をする時に慌ててる人の指示よりも落ち着いている人の指示に従いたくなるのは心情じゃないか』
「(な、成程……)」
確かにその通りだった、人の心情的にそれは明白だった。慌てていたら冷静な判断だけではなく様々な物に影響が出てくるという物、それに此処大一番だからと言って見栄を張るのも良くない。逆に普段から出せる力を高めている方が余程有意義だしアベレージを上げる方が応用が利きやすいという物。それを聞くと緊張が解れたのか上がっていた肩がすっと下がった。控室で待機している友達と見ても自分の肩は大分下、かなりリラックスしているらしい。
『大丈夫さ君なら。そうだね、終わったらご褒美に私が好きな所に連れて行ってあげようか。オールマイトと一緒に』
「(えっ何処に行っても良いんですか!?)」
『勿論、取り敢えず地球から出てみる?』
「(いや気軽に大気圏突破を選択肢に出さないでくださいよ!?)」
普通にありだからね~っと軽く語るマグナに矢張りウルトラマンとは凄い存在だと思い知る中で麗日と梅雨に声を掛けられる。
「デク君全然緊張しとらんね、うちなんてもうガチガチやよ……」
「それはしょうがないわよお茶子ちゃん、でも緑谷ちゃんは本当に余裕そうね」
「受け売りだけど普段通りの力を出せればいいんだよ、勝ちあがる事もそうだけどプロにアピールするにはそうした方が大事なんだってさ。それに―――USJのあれに比べたら怖くないし」
「成程ね、確かにあのおっきなヴィランに比べたら全然怖くない物ね」
思わず納得しながらも確かにあの時に
「や、やっぱりUSJの時ってそんなに凄かったん?」
「凄いなんてもんじゃねえよ!!水の中から顔出してるのにMt.レディよりもずっとでけぇバケモンだぜ!?それ相手に緑谷の奴、おいら達を助けながらの大立回りだぜ!?」
「ええっ本当に、でも同時に凄い怖かったわ。あの時の緑谷ちゃん全然自分の身を顧みなかったから」
「ああしないと無理だと思ったからね」
もう勘弁してほしそうな顔をする出久、それはその時の事を許して欲しいのもあるが梅雨と峰田がその時の事をそのまま皆に話してしまったから皆からの視線を集めてしまったり質問攻めになってしまったりしたからである。その時から妙な視線を送られるようにもなってしまった、それは―――
「緑谷、今此処で言っとく。俺はお前には負けねぇ」
「と、轟君」
轟であった。何故か妙にライバル視というよりも何やら仇を見るかのような鋭い視線を送られるようになってしまい、敵視されているような感じがするようになった。明確な敵意を持っての宣戦布告。出久としては今まで全く絡んだ事も無い彼に此処まで言われたり敵視されたりしてしまって困惑が大きかったが矢張りそれだけ轟が目指す者が大きいのか、それを目指す為には自分を超えないと無理だと思っているのかという解釈をするようにしている。
「なんかオールマイトに気を掛けられてるようだけどそんな事関係ない。俺はお前も超える、それだけだ」
「僕は君の中でどうなってるのかは分からない、でも多分―――」
でもこれだけは言っておきたい、これだけはハッキリさせておきたかった。
「僕を超えるのは無理だよ、だって僕が目指すのは轟君のとは違うから」
「……何だと?」
そんな視線を送られてから考えた事があった、轟のそれは自分を見ていながらも自分を見ずにいるとマグナから指摘を受けた。言うなれば自分に何かの影を投影させてそれを見つめているようなものだと。そしてそれに込められている物は……酷く暗いものだと気づいた。
「轟君が何を目指してるのかは分からない、だけど僕が目指してるのは光みたいなヒーローなんだ」
「……そうか、お前はそんなヒーローになりたいのか」
「うん。オールマイトとは違うかもしれないけど僕にとってはその光みたいなヒーローが最大の目標かな」
『照れるねぇ』
そんな言葉を掛け合っている内に入場の時間になってしまったのか、皆控室から出て行くがその中で轟の瞳は僅かばかりに色が変わっていた。自分の両手を見つめながら片方を悲し気に、もう一方を憎らし気に見つめている。
「くそっ……」
『刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!今年もおまえらが大好きな高校生たちの青春暴れ馬…雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!?』
解説席から聞こえてくるプレゼント・マイクの声、それと同時に打ち上げられる花火の数々が知らしめるのは開始の合図。出場生徒の間に一気に緊張が走って行く。マイクの言葉と共に入場が行われるが矢張りと言わんばかりに視線と歓声が集中しているのはA組。まだ未熟な身でありながらヴィランの襲撃に遭遇しながらも生き延びたクラスに注目が集まるのは必然。大観衆が声援を上げて出迎えてくる。それをプレゼント・マイクの気合の篭った実況が更に加速させていく。それらの勢いに飲まれそうになる生徒、物ともしない生徒に別れる中で全1年が集結した時、一人の教師が鞭の音と共に声を張り上げた。
「選手宣誓!!」
全身を肌色のタイツにガーターベルト、ヒールにボンテージ、色んな意味でエロ過ぎて18未満は完全に禁止指定のヒーロー、18禁ヒーロー・ミッドナイト・が主審として台の上へと上がった。その八百万以上にやばい姿を見たマグナは思わず絶句した。
『―――っ……』
「(マ、マグナさん!?)」
『いやねぇよ……流石にこれは……ねぇよ……』
「(マグナさんが口調を崩したァ!?)」
一体化してもう3年近くになるというのに礼儀正しい敬語であったマグナ、それが思わず崩した言葉を聞いて出久は今までにないショックを受けた。
『ぇぇっ……これ報告書に上げないとダメなのか、ぇぇぇっ……雄英高校の職員なの先生なのあれ……』
「(え、ええっ……ミッドナイトは先生です……)」
『……如何しよう』
素直に頭を抱えてしまうマグナに出久は如何した物かと思ってしまう、流石にこれは何も言えなくなる。と言ってもミッドナイトの場合は個性も関係している……だとしても過剰するかもしれないがあれは確りと意味があると説明するべきなのだろうか。それとも自分も流石にやばいと思っていると素直に言うべきなのだろうかと迷っている自分の名前が呼ばれる。
「選手代表、1-A 緑谷 出久!!」
「っ!はい!!」
『いけない落ち着かないと……』
首席入学した出久にはこの場での大役が待っていた。一応事前に説明があったので内容は考えてあった、壇上へと上がるにつれて自分へと突き刺さる視線の数々があるが
「宣誓―――ッ!!今日此処に集いし我ら、それぞれに目標、夢を抱き此処に立ちます。抱く思いは異なり此処に立つ理由も異なる、だからこそ此処に誓います!!!」
凛々しい顔つきで語る出久、その声を聴いた者は驚くだろう、以前の彼を知っていればいる程に驚く事だろう。あれほどまでに胸を張り、声を出せる人なのかと。今日までに彼は大きな変化を遂げている、成長を遂げているのだと理解する中出久はそれを否定する。
「今までどんな努力、どのような道筋、どんな苦難、どんな
その言葉に会場は一瞬の静寂に包まれ、拍手が生まれそれは大きな熱狂となって全てを飲み込んでく。大歓声で溢れていきながら熱狂の渦が光となって空へと放たれていく。この時を以て、本当の意味で雄英体育祭は始まった。