緑谷出久はウルトラマンと出会う。   作:魔女っ子アルト姫

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心の本当の優しさ

無事に、無事とは言えないかもしれない騎馬戦。主に発目が開発してしまったロボットアームが大ハッスルしてしまったせいで出久達のチームはポイントを守り抜く事が出来た。爆豪の爆破にも容易に耐え、轟に凍らされても一切動きが鈍る事がないスーパーアーム。それを見てマグナは益々とある怪獣を連想したのかげんなりとしているのを出久だけは気付いていたので余程な目に遭ったのだろうと思う。

 

『何でよりにもよってあれに似せるんだ……いや偶然だったのは分かったが……』

「(まあまあマグナさん、そのお陰で無事に勝ち抜けたんですから)」

『釈然としないなぁ……はぁっなんでUキラーザウルスに助けられるなんて事態が起きるのか……』

 

曰く、今まで生きてきた任務の中で相対した中で最も苦労した上で本気で死ぬ事を覚悟したらしい。マグナ、マックス、ゼノン、ネオス、セブン21という面子で戦闘を行い激戦の末に倒す事に成功した。そんな究極超獣の触手に似ているアームに助けられるというのは中々な皮肉を味わっているような気分になる。

 

『最終的にマックスのマクシウムソードに私達全員の必殺光線をぶつけて収束させて、それをぶつけて倒したのさ……あれ以上の激戦は経験した事ないなぁ……』

「(どんだけやばかったんですかその任務……)」

『ハハハハッ―――過去最高のやばい任務だよ』

 

とマグナが遠い目をしてしまう程の激戦であった。Uキラーザウルス自体がウルトラマン、セブン、ジャック、エースの4人と互角以上に戦った究極の超獣なのに自分達の時は出現した星で研究されていた人工太陽を取り込んでパワーアップしていたので冗談抜きで死ぬかと思っていた、と戦った全員が漏らしたとの事。

 

『まあ私の昔話はいいさ、それよりももう直ぐ第一試合、即ち君の試合だ』

「(ええっもう直ぐなんですよね……ちょっと緊張してきました)」

『ハハハッでも私のピンチに比べたら大した事ないだろう?』

「(流石に人工太陽を取り込んでパワーアップした超獣を相手にするのと比べられても……)」

 

そう言いながらも出久の中の緊張は既に砕け散っている、というよりも此処までくるまでの間に緊張なんて物は言葉にする程作られていない。正確に言えば緊張なんて物が生まれるよりももっとやばい物が生成されて全力で止めに入ったり突っ込んだりをしていたのが原因だったりするのだが……当然発目である。そんな彼女も当然最終種目であるガチバトルトーナメントへの出場が決まっている。

 

「飯田君、大丈夫かな……」

『彼女と戦うのだからねぇ……サポート科は自分で作ったアイテムなどは自由に持ち込めるらしいが、あの段階で彼女が見せた物は既にとんでもないからなぁ……あまりこういう事は言わない方だが、彼が勝てるヴィジョンが見えないよ私』

「(大丈夫ですマグナさん、僕もそう思えちゃってます……)」 

 

ガチバトルトーナメントで発目は初戦として飯田と戦う事になっている、がサポート科はヒーロー科などと違って自らが作ったアイテムならば使用が許可される。寧ろ体育祭では自身の技術力や発想力、独創性などを見せ付ける場であるのも寧ろそうしなければサポート科は体育祭に出る意味さえなくなってしまう。本来それはヒーロー科との実力を埋める為でもあるのだが……発目の場合はその差を埋めたてた上で超高層ビルを作るようなものだから質が悪い。

 

『さあ遂に始まるガチバトルトォォオオオオナメンツゥ!!!!ガチンコ勝負、頼れるのは己のみだ!!心技体に知恵知識、総動員して駆け上がれぇぇぇ!!!!』

 

そんな熱い実況が行われる中入場していくのは初戦を戦う出久、そして―――体育祭前に教室へとやって来た挑発をしてくれた心操であった。何処かその瞳は鋭くなっているが口元はやや上がっている、もう既に勝ちを確信しているかのような雰囲気を醸し出している。何か秘策でもあるのかと警戒を厳にする構えをする中、開始の合図が鳴り響く。心操は高らかに言葉を形にした。

 

「よぉ首席、如何だ高みの椅子の座り心地は。最高か、そりゃよかったな。それも全部個性のお陰か、けっいいよなぁ良い個性はよぉ……この世は全部個性だくそが」

「それは否定しないよ僕だってそれは味わっ―――」

 

途中まで繕った言葉は途中で途切れてしまい、出久の瞳から光が消えてしまった。それを見て心操は笑った、もう既に勝ったも同然だからだろう。出久は知らなかっただろうか彼を探していたクラスメイトの尾白がその事を伝えようとしていた―――が発目に捕まっていた為に知る由も無かった。心操の個性、それは洗脳。人聞きが悪い名前だが洗脳する意志を持ってした問いかけに返事をした者を操るというかなり凶悪な個性、そして本人も認める程にヴィラン向きな個性となっている。そして発動条件が意志を持って問いかけ、それに相手が答えれば良い。とんでもない個性である。もう出久は心操の操り人形で命令通りに―――

 

「そのまま周れ右して全力ダッシュで退場しろ」

「―――色々と苦労をしていたってあれっあれ?」

 

動く筈なのだが……唐突に声が再び発せられた、そこにあったのは突然記憶が途切れたかのように状況が飲み込めないのか周囲を見回している出久の姿。何やら顎に指を当てている仕草をしているが、何が如何なっているのかと心操は内心でパニックになっていた。

 

「(主導権を私が握っている、いや違うなこれは……出久君、聞こえるかい意識はあるかな)」

『……』

「(これは催眠、いや洗脳と言うべきか。主導権は未だ出久君のまま、だが意識がなくなった故に私が操っているのか)」

 

「おい、おいお前なんで洗脳されてねぇんだよ……おい何をやったぁ!?」

「いや何をやったと言われても……逆に何かしたのはそっちじゃないか」

 

と出久の喋り方を模すマグナ、きっとオールマイト辺りは違和感を覚えて自分が動いていると見抜く事だろう。だがマグナはこのまま以前言えなかった事があったので今代わりに言ってやろうと折角の機会を利用させて貰う事にする。

 

「君は個性が全てだと言っているけど素晴らしい個性じゃないか、問いを投げかけるだけで相手を操れるなんて人質を取ったヴィランの交渉役になるだけで解決出来るよ。寧ろヒーローが心から欲しいと思う個性の一つだよ、誰も傷つけないで事件を収める事が出来るなんてオールマイトでも出来ないよ」

「何、を言ってるんだよ……」

 

声が震える、感情が揺れている。今まで散々言われてきた言葉とは全く真逆の事に心が歓喜してしまっている。洗脳という個性を持つ自分が逆に洗脳されているかのような気分に陥る心操だがそのまま言葉は続けられた。

 

「君の個性は誰にも負けない位に凄い優しいんだよ、誰も傷付けないヒーロー……未だ嘗てないヒーローの先駆けだね。ヴィランだけじゃない、個性を扱えきれずに暴走させてしまう人を鎮める事も出来るんだ、優しくね」

「ッ―――やめろ、それ以上、言うな……!」

 

マグナの口から放たれてるのは紛れもない本音、誰かを助けるヒーローやヴィランを倒すヒーローは数多くいるがそれ以上に誰も傷付けないヒーローなんていない。まるでコスモスのようなヒーローになれるなんて素晴らしいとマグナは心から称賛しその個性に敬意を払った。

 

「君は色々悪態をつくけどさ心の中で諦めちゃってるだけさ、自分の個性はヒーロー向きじゃないって」

「―――やめろっ……!!!」

「君はヒーローになれる。時に拳を、時には花を差し出させるヒーローに」

「止めろぉぉっ!!!」

 

その言葉を聞いた時、自分の中の何かが砕け散ったような音がした。それを否定したくないのに今までの自分が許さずに殴り掛かった、振り抜かれた拳が頬を捉えた。敢えて避けなかったそれに対して―――心操の目を見ながら言った。

 

「これが君の本当のオリジンだ、自分に負けるな、自分の優しさで自分を包めっ―――シェアァッ!!」

 

両手の掌底が心操の身体を捉える、剛腕の一撃は彼の身体を易々と戦いの場であったフィールドから吹き飛ばしてしまった。そのまま地面へと倒れこんだ心操は不思議と痛みをあまり感じずに青々とした空を見上げながらも胸の中にある熱くなる心に堪え切れずに笑みを浮かべてしまっていた。

 

『心操君場外!!緑谷君の勝ち!!』

 

「(あ、あのマグナさんなんかほっぺがジンジン痛むんですけど何があったんですか……?)」

『何、私が美味しい所を貰っただけだよ気にしない気にしない』

「(いやしますよ……)」


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