緑谷出久はウルトラマンと出会う。   作:魔女っ子アルト姫

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目指すものと刻む者

『さあ始まるぜ準決勝!!対戦カードはヒーロー一家の次男坊、飯田 天哉ぁ!!バーサス、あの轟との激戦を駆け抜け、最後には超すげぇビームブッパして勝利をもぎ取った緑谷 出久ぅ!!』

「訂正を要求します!!あれはビームじゃなくて光線です!解り易く言ったらイズティウムビームじゃなくてイズティウムレイです!!」

『こいつはシヴィィィッ!!!もう既に名前にこだわってらぁ!!』

 

ステージの上に立つ出久は思わずマイクの実況にツッコミを入れてしまった。本人としては光線という所を譲る事は全く出来ないのである。何故ならば憧れであるウルトラマンの象徴は光線技、光線とビームは全然違うのである。意味合いとしては似ているかもしれないが感じとしては全く異なっておりそれを一緒くたにされると非常にムカつくし腹が立ってしまう。

 

『分かる、分かるよ出久君。光線とビームは全然違うんだよ!!』

「最初からビームだったらいいんですよ。でも光線をビーム、ビームを光線と呼ぶのは絶対に許しませんし絶対に譲りません!!」

『いや意味的には似たようなもんだぞ』

「『黙らっしゃい違うといったら違うんですよDo you understand!!?』」

『アッハイ』

『緑谷お前そんな熱くなれたんだな……』

 

と相澤の呆れた声が聞こえる中で観客からも笑い声と共に分かる!!と同じ意見を述べるヒーローも存在していた。因みにオールマイトはきっと今のはマグナも一緒に叫んでいたんだろうなぁ……と思いながら頬を掻いていた。

 

「緑谷君、こうして君と対戦する事になって俺は心から光栄に思っている!そして同時に君に対する尊敬の心にも溢れている!!轟君とあれほどの戦いをし凄い必殺技も持っている君とこんな風に戦えることを―――僕は本当に胸を張って誇りに思う、故に僕は全力の全力、いやそれを超えて君にぶつかる!!それが雄英生のPlus Ultraという物だ!!」

「僕だって出来る事を尽くすだけだよ、負けないよ飯田君!!」

『それでは準決勝第一戦、STARTだぁぁぁ!!!』

 

 

「……」

 

観客席には腰を降ろさずに通路から瞳を投げかけて試合を観戦している人影、ステージ上ではスピードとスピードのぶつかり合いが起きており目まぐるしい展開が起き続けている。まるで馬上戦を思わせるかのような交差するような激突の後、再度加速を付けてからまたぶつかっていく光景は中世の騎士の決闘を思わせ、そんな戦いをする二人の姿は酷く胸を震わせながらも熱くさせている。

 

「SMAAAAAASH!!」

「たぁぁぁぁぁっっ!!」

 

振り上げられた蹴りが両者に炸裂する。その後に崩れるように地面に転がりながらも体勢を持ち直し、再度加速を付ける為に同時に円を描くかのように駆け出し、タイミングを計る姿には高い計算と戦士としての洞察を感じさせる。そんな光景を見つめていると背後から迫ってくる気配に気づいたのか溜息をつきながらそちらを見ずに問いかける。

 

「んだよ親父」

「いや何、お前が遂に自分を認めたと思ってな」

 

そこにいたのは喜びを表に滲ませながらも表情を歪ませているエンデヴァーがいた、そんな先にいる焦凍は何のアクションも見せぬままに出久と飯田の対決に目を奪われ続けていた。

 

「2回戦敗退というのは情けない話だが、だがそれはいい。これでお前は本当の意味で俺の完全な上位互換となった!炎の操作は未だ危なっかしいがそれはこれからコントロールすればいいだけの事だからなっ卒業後は俺の元へ来い、俺が覇道を歩ませお前を完璧なNO.1へとしてやろう!」

 

何処か歪みつつも我が事のように悦びの声を上げるエンデヴァー、それは息子の成長を悦ぶ物なのか、それとも自分の野望を叶える一歩が漸く形を成し始めた事に対する悦びなのか……。それを焦凍は冷えた思いで聞き流し続けていると手を差し伸べながら野心溢れる表情でエンデヴァーだが……肝心の焦凍は極めて迷惑そうに一言だけ言った。

 

「如何でもいいがうるせえぞ、試合に集中できねぇだろ」 

 

その言葉に僅かな動揺と怒りが芽生える、これからの将来を確約としてやるといわんばかりの提案をしたのに肝心の息子はそれを受け取る所か一蹴したのだ。

 

「お前が望むヒーローにはぜってぇならねぇよ、俺は俺の行きたい道を行く。そもそも覇道を歩むヒーローってのはどんなヒーローだよ」

「決まっているんだろう、オールマイトを超える№1ヒーローだ」

「んで超えた先に何があるんだよ?」

「―――何っ?」

 

不意に焦凍が浮かび上がった質問をぶつけてみるとエンデヴァーは思ってもみなかったのかと言わんばかりに驚いてしまった。

 

「最高のヒーローを超えたヒーロー……ってのは一体どんなヒーローなんだよ、唯強いだけのヒーローなのか?」

「全てを超えたという事はそれだけの到達点だ!!崇高で偉大な存在だ!!」

「なら俺は別にいい、俺は別に誰かに威張りたい訳じゃねえし……」

 

焦凍は唯々、必死ながらも何処か愉しそうな笑みを口元に讃えながらステージを駆けまわっている出久の姿を目で追い続けながらぶっきらぼうに言う。今焦凍の中にはどんな形がヒーローとしての理想形なのかというは何処か曖昧なのかもしれないが、それでもエンデヴァーが求めるそれとは明確に違う物があった。何方かと言ったら単純に自分の個性を活かして誰かの笑顔を守れるような、困っている人に自然と個性を差し出して助けられるヒーローが最も近い形。

 

「SWALLOW SMAAAAAAAAASH!!!!!」

「レシプロォォォバーストエンドォォォオオオ!!!!」

 

刹那、その光景に焦凍は一歩前に踏み出しながらその光景に釘付けになった。自分の時にも使ったアクロバティックなムーンサルトスピンを決めながら一直線に超高速で迫ってくる飯田へと放たれる必殺の一撃。それに対するかのように即座に最高速へと到達しながらその段階からさらに一段階加速を掛け、暴力と言ってもいい程の速度を叩き出しながら回転の勢いと更に距離を稼いだ末に放たれる回し蹴り、その場で飯田が編み出した必殺キックが激突した。

 

「「ッ―――……!!!」」

 

その僅かな瞬間の互いが宙にありながら放たれた蹴りの余韻を残すように上げられた光景は勇ましさではなく美しさすら纏っている。そして互いに着地する、時間の切れ目に生まれた静寂は一瞬にしてスタジアム全体を飲み込んで真夜中のような静けさを生み出した。最高の一撃同士がぶつかり合った末の決着はどうなるのかと皆が固唾を飲んで見守る、そして―――

 

「……んぐぅ……!!」

 

思わず激痛に顔を顰めながら膝をつく出久、それに皆が言葉に出さない動揺を作る。これは飯田が勝者となったのか!?と思われた、膝に手を突いて必死に身体を崩さんとする姿があるその背後で―――

 

「―――完敗だ……緑谷、くん……」

 

全身から力が抜けるように倒れこみながらも称賛する飯田、彼の身体にも紛れもなく出久の一撃が炸裂しており限界を超えてしまった。そしてミッドナイトの飯田の戦闘不能宣言により出久の勝利が確定した。刹那、スタジアム中から大歓声とともに嵐のような溢れんばかりの拍手が生まれて二人の勝負を祝福した。それらを受けながらも出久は飯田の元まで歩くと手を差し伸べた。

 

「凄い一撃だったよ、僕もやばかったよ」

「緑谷君の一撃も素晴らしかったよ、急ごしらえだったのもあったが回転は欲張りすぎたな。回転で威力を上げたのはいいんだが狙いが曖昧になって浅くなっていただろう」

「うん、深く突き刺さってたら間違いなく僕はノックアウトだったよ」

 

手を借りながらも立ち上がった飯田は自らの技に語りながらも出久を称賛する、そして出久もそれに合わせるように一緒に練習したりなどの誘いをすると飯田も是非と声を明るくして頷き、互いに肩を貸すかのようにしながら一緒に退場していく。そんな姿を見つつ焦凍は晴れやかな笑みを少しだけ作りながら振り向いて言う。

 

「あんな感じのヒーローもいいかもな……いねぇか」

 

だが其処にはエンデヴァーはいなかった、何時からいなかったのかは知らないが……兎も角今は出久の決勝進出を祝う事にしていた。

 

「負けてしまったが本当に満足だ!!これは兄さんにも胸が張れる一戦だった」

「お兄さんっていうとインゲニウムだよね」

「ああ早速連絡してみるよ、忙しくなければいいんだが……」

 

通路へと入ると飯田は尊敬し目標とする兄へと連絡を掛けてみる、大人気ヒーローと言われるだけに忙しい時だと逆に迷惑だろうが興奮もある為か迷う事もなく連絡をしてしまった。しかしコール音が重なるが繋がる事はなかった。

 

「矢張り忙しいのか……まあ兄は兄で凄いから致し方ないな」

「だね、じゃあ一緒にリカバリーガールの所に行こうよ」

 

そんな風に共に歩んでいく中で、また新たな嵐が巻き起ころうとしている事を二人は知らなかった……。

 

「ぐっうううううっっ……お前は、一体、何故こんな事を……!!」

 

誰もいない路地裏、そこでは一人のヒーローが血まみれになりながらも倒れていた。そのヒーローとは……飯田の尊敬する兄であるインゲニウムだった。全身に傷を作りながらも尚その崇高な精神は弱まる事もなかった。だが……そのヒーローを以てしても目の前の存在を捉える事は出来ずに逆に一太刀を受けてしまい倒れてしまう。血溜まりの中で倒れるインゲニウムの傍には謎の金属板が落とされていた。まるで刃物で彫られたようなものでそこには―――【KILL HERO】と刻まれていた。


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