『さて今日は休日だというのは酷く幸運だったね、これなら今の君の状態も良く分かる事だろう』
「あのマグナさん、これから何をするんですか?」
『何簡単な事だよ出久君、これからヒーローを目指す君のお手伝いさ』
光の巨人、ウルトラマンマグナに命を救われた翌日は運が良い事に土曜日だったので動きやすい服装に着替えて人目に付かない広い場所に行って欲しいという要望を言われた出久はそれに従ってALL Mという独特なTシャツにジーンズを履くとゴミだらけの海浜公園へとやっていた。出来る事ならば標的に出来るようなものもあると好ましいと言われたので此処にやって来た。
『随分とお誂え向きな所があった物だね、しかしけしからん。ゴミは所定の場所に捨てるのがルールだろうに……全く』
「此処は海流的な問題もあって良くゴミが流れ着くみたいなんです、そこに託けて不法投棄をしちゃってる人も多いみたいで」
『やれやれ、まあそれについての事は後にしておくとしようか』
出久は内心でこれで地球人に対する心証が悪くなってしまったのではないかとやや不安になるのだが、マグナはそんな事は何処かに置いておきながら話を進める事にした。
『今現在君と私は一体化している、その関係で君の身体能力などはある程度引き上げられていると思われる』
「ほっ本当ですか!?」
『私は嘘は言わないさ、冗談は言うがね。そうだね……じゃああのテレビを持ち上げてみなさい、出来ないなら無理に持ち上げなくてもいいよ』
「あ、あれをですか!?」
声が示した先にあったのは旧型の大型テレビ、様々な機材が一体化しているこのタイプならば軽く20キロは越えている事だろう。自分なら持ち上げる事は出来るだろうがそこまで持ち上げられないと断言出来る、だが不思議とチャレンジしてみようという気持ちが沸き上がって来た。出来ないなら出来なくてもいいよっという言葉があるからか気軽に挑戦する気概を持つ事が出来た。大きく屈みながら折角やるなら思いっきりと思いながら腰を入れて臨む。
「それじゃあ……いっせぇの、せぇぇぇぇっっ!!!?」
思いっきり気合を入れて全力で持ち上げてみる、きっと無理だろうと思っての破れかぶれだったのにも拘らずテレビは一体化している台ごと持ち上がってしまった。予想外の事にバランスを崩して尻もちをついてしまうがテレビは楽々と保持出来たままであった。
「も、持てちゃった……!?」
『ふむっこの程度ならば問題も無くすんなりと持ち上げられると……よし出久君、次は全速力で走ってみようか』
「えっあっあのマグナさんこれって!!?」
『言っただろう、私と一体化している故に君の身体能力は底上げされている。恐らくだが私の力の大きさも影響しているんだろう、自慢出来る立場ではないがこれでも一応エリート部署に所属してた身だからね』
茶目っ気タップリに語っているが昨日夜遅くまで聞いていた話を思うと紛れもないトップエリート、そんなウルトラマンと一体化しているだろう出久の力は何倍にも底上げされていたのであった。試しに全力で走ってみると100mを7秒ほどで走り切れる程瞬足、ジャンプすれば9~10メートルは当たり前というとんでもない事になっていたのである。
「個性も無しでこんな力が……」
『そしてこの力はまだまだ伸びるぞ、こういう言い方は卑怯かもしれないが……出久君はヒーローを目指すと言っていながら諦めてただろう、身体を全然鍛えていなかった』
「そ、そうです……」
『何これから努力すればいいのさ、それに無個性だなんだと言われてもこれで多少なりとも言い訳が付くだろう。遠慮なく私の影響を使いたまえ』
明るく笑うように自分の暗さを吹き飛ばす恩人に思わず胸を撫でおろす、確かにこれならば無個性だからヒーローは諦めろなんて言わせないし堂々とヒーローを目指せるというもの。少しばかり卑怯な気もしない事も無いが……それよりも今あるこの力を高める為に頑張らなければならないと心に誓うのである。とその最中でマグナが何やら考え事をしているのが分かった。
『フム……これなら、成程な……』
「あのマグナさんどうかしました?」
『いや如何やら君と私の相性は思いの外高いらしい、これなら光線も使えるかもしれないな』
「光線って……もしかしてビームって奴ですか!?」
『そんな呼び方もあるね、少しばかり身体を借りてもいいかね?』
「はいどうぞ!!」
興奮気味になっている出久の許可を得てマグナは出久の身体の主導権を一時的に得る、瞳の色が僅かばかりに青白く変じると雰囲気が一気に変貌する。何処か落ち着きのなさと弱弱しさが一気になくなり冷静沈着な大人な男のような瞳をした出久の姿がそこにある。そこで身体を振るってみると成程……ほうっこれは……と何かを試すようなことをした後に不法投棄されているドラム缶と向き直った。
「さて出久君、我々ウルトラマンは様々な技を会得している。その中でも我々の象徴と言っても過言でもない物が―――光線技だ」
『凄いやっぱりウルトラマンって凄いんですね!!プロヒーローにも光線とか撃てるヒーローもいる事は居ますけど話を聞いてると凄い話だぁ!!だって象徴とか必殺技って事は凄い威力とか性質を持ってるって事なんでしょう!?』
「フフフッ期待に応えられるようなものを出せるように努力しよう」
顎に手を当てながら微笑む
「シェアッ!!!」
青白く輝く光線が発射された。ジェットエンジンのような音を立てながら光線は寸分違わずドラム缶へと命中すると一瞬で爆発しドラム缶は海へと吹っ飛んでいってしまった。それを見つめていた出久は唖然としながらも感動と驚きの嵐の渦中へとあった。
『す、凄い……凄いですよマグナさん!!あれがマグナさんの必殺技なんですね!?なんていう名前なんですか是非教えてくださいいやというかもしかして僕でも今のは撃てるんでしょうか!!?』
「落ち着きなさい出久君、今のは確かに私の使える光線技だがあれは基本中の基本の光線だよ」
『今の威力でですか!!?』
信じられなかった、眼前にあるドラム缶があった場所は軽くクレーターのようになっており吹き飛んだドラム缶は爆発によって内部から抉られたかのようになりつつも溶けてすらいる。あれだけの威力を誇りながら基本中の基本技と言うのだから信じられなかった。
「今のはスペシウム光線という訓練校で皆が習う光線だよ。今でも抑えたつもりだったが……まだ抑えないとダメだね。私のオリジナルの光線はもっと威力があるから逆に出せない」
『もっとですか!!?』
「ああ、皆あのスペシウム光線を独自にアレンジしたりして威力や様々な効力を持たせたりしているんだよ。そしてご期待通りに出久君も使える筈さ、チャレンジしてみるかい?」
『是非お願いします!!!』
この後出久へと主導権を返して早速スペシウム光線の練習へと入ってみるのだが……流石にいきなりで出来る訳も無く失敗続き、何とかエネルギーを溜める事は出来るようにはなったが放出する事はまだまだ先になりそうである。
『何事も練習あるのみだよ、これからのトレーニングに光線練習も加えてみるかい?』
「はいっ!!」
『いい返事だ。後出久君、スペシウム光線の構えは左手首が標的側、右手首が顔面側になるようにするんだ。それでは別の光線になる』
「き、気を付けます!!」
スペシウム光線。皆様ご存じウルトラマンこと、マン兄さんの必殺技……
というイメージがあるスペシウム光線だが、光の国の全ウルトラ戦士の光線技の原点であり、光の国の全ウルトラ戦士は打つ事が出来る。マグナの言葉通りウルトラ戦士はまずスペシウム光線を会得してからそれぞれの技へと発展させていく。
マン兄さんはこの基本技を徹底的に磨き上げる事で一撃必殺の光線へと昇華させている。他にもジャック兄さんやウルトラマンパワードなども極限までスペシウム光線を磨き上げていると思われる。
出久がやった逆の構えはウルトラマンゼアスのスペシュッシュラ光線になるので注意。