「シェア"ァ!!」
「ぐっ、らぁ!!」
「デュワッ……!!」
身体の奥深くへと突き刺さっていく一撃、重々しい打撃音が内部を抉り痛みを生み出すのを無視するように我慢して逆に自分の射程内へと入ってくれている相手へのカウンターとする。それらを互いに行いながらもフラフラと千鳥足になるが、腰を落として無理矢理それを打ち消す。
「どぉしたデク……足に来てんじゃねぇのか……?」
「それカッちゃんが言える事かい、そっちだって、随分とフラフラじゃないか……!!」
「ハッテメェのが一々生ぬるいからねみぃだけだクソが」
「ならもっと強い目覚ましでもいるかい……?」
「テメェにはもっときついのがいるらしいな、俺以上に頭に靄が掛かってるらしいな……!!」
「ご自由に」
僅かに口元から漏れている血を拭いながら軽口を叩く、そこにあるのは決勝戦というよりは何方かと言ったら幼馴染の喧嘩に近い光景だが実際は個性を用いたガチ喧嘩。故に観客たちの反応は悪くなく、寧ろ互いの健闘を祈りつつもあそこまでの時間を殴り合えるタフネスさや攻撃の重さなどを分析して是非スカウトしたいといった策を巡らせている。
「おらぁっ!!」
「シャァオラ!!」
「ンだそのパンチはぁ俺を舐めんなクソがぁ!!」
「誰が馬鹿にするもんかぁ!!」
罵声を浴びせながらも個性を使いながらパンチスピードを加速させて出久の頬を抉る爆豪に合わせるようなクロスカウンターをブチかます出久、だがその一撃は先程より軽かった為か怒りながら更に殴り掛かってくるのでお返しと言わんばかりの飛び蹴りを炸裂させる。そんな殴り合いを審査する審判である教師であるセメントスとミッドナイトは冷静に何処までがアウトでセーフかを見極めている。
「フムッこれなら大丈夫そう、ですかね……これを続けるのは心配ですが続行で問題ないですね」
とコメントを零しながらも内心ではあそこまで信頼性を持っての殴り合いが出来る相手がいる事に羨ましさを覚えている、自分の学生時代にはあんな風に喧嘩出来る相手なんていなかった。そう言った意味で酷く羨ましい、そんな思いを振り払うように主審に意見を求めてみる、あくまで自分は副審。最終的な判断は主審に委ねられる、なので其方も聞いておかなければ。男である自分はそう思うが女性であるミッドナイトの意見は別かもしれない。
『―――……』
「ミッドナイト、あの聞いてます?」
『ぃぃっ……』
「えっ?」
『良いわよ、良いわよ二人とも!!こういう展開、男と男のガチンコの殴り合いっていう超絶熱くて青臭い展開超好み!!!』
通信機越しに聞こえてくるミッドナイトは超ハイテンションになっていた。視線を上げてみればそこでは鞭をビシバシ振るい、主審という立場すら忘れているような荒ぶり方をしながらもそれぞれを応援していた光景があったのを見て思い出す。ミッドナイトは寧ろ男以上に青春チックな熱い展開や行動を好む熱血教師だった。
『そうよそこ!!もっと深くよ、激しくよっ!』
「ちょっとミッドナイト貴方は主審なんですからそういう発言は慎んで……!!」
『あぁぁんいいわ、もっと行きなさい逝っちゃいなさい!!』
「そう言うのはもっと控えてください!!」
いやある意味SM嬢的な見た目を加味すればこれ以上ないピッタリな発言ではあるのだろうが……流石に相応しくないので止めておく。そんな最中―――
酷く鈍く生々しい、重々しい音が周囲に木霊した。それらはスタジアムの歓声を打ち消すかのように静寂を生み出した、その音の中心には出久と爆豪の両者があり互いに深々と拳が突き刺さっていた。真芯で捉えられたクリティカルヒット、互いにノーガードではあったがそれは明確な最高の一撃だった事だろう。それを受け、苦しみに溢れた声が漏れる。
「グッガァッ……」
「ゥゥッ……ゥワッ……」
両者の身体が同時に傾き倒れこんだ、その姿には既に力が入らないのか四肢がピクリとも動かず荒々しい呼吸音のみが聞こえてくる。
『ダブルノックアウトかぁ!!?緑谷と爆豪、両者にすげぇ一撃が決まったぁ!!こりゃどうなる、どうなっちまうんだ!?』
『主審のミッドナイトの判断待ちだな』
「……これよりカウントを10取ります、その間に立ち上がって構えを取った場合に続行の意志ありと判断します!!」
つまり、先に立ち上がって構えを取れば自動的に勝者が決まるという事になる。このままならばダブルノックアウトで引き分けになる、これからどうなるのかと観客たちはドキドキしつつも歓声を両者へと送って立ち上がれと叫ぶ。既に疲労とダメージで限界な筈、本当に立てるのか。
―――1.2.3!!
「グググッ……」
「ぅぅぅっ……!!」
呼吸に混じって呻き声がし始める、それと同時に地面に突き刺すかのように腕が、足が動き始めて何とか身体を立て起こそうとする姿が見え始めた。
「頑張れ緑谷君~!!頑張れ!!!」
「爆豪気合いだ気合で立てぇぇ!!!」
「ウオオオオッ緑谷あと少しで優勝なんだ気合だ!!立てぇ!!撃てぇ!!」
「爆豪も立てぇぇ!!」
「緑谷さん頑張ってください~応援もちゃんとしますからあとで私の治療カプセル使ってくださいねぇ~!!!」
一部何やら変な歓声が混ざっていたが、それらは確実に二人に届いて力を与えていく。不思議と身体に少しずつ力が漲っていくのを感じながらも必死に立ち上がっていく、込み上げてくる物を僅かに吐き出しつつも必死に立ち上がる。ボロボロながらも強く崇高な意志を見せ付けながら不屈の闘志を滾らせる。スタジアム全体で奏でられる英雄への詩、それらが齎すのは一体何のか。
「ウァァァァァッッ……!!!」
「ぜぁぁぁぁあぁっ……!!!」
『おおおおおおっ立った、立ったぜおい!!?緑谷爆豪共に未だに健在っつう事は続行だぁぁ!!!』
「シェアァ!」
「ォラァ!!」
猛々しい声と共にとられた構え、それに更に表情を滾らせたミッドナイトは恍惚の笑みと共に試合再開の号令を掛けようと鞭を振ろうと掲げるのだが―――鞭の隙間から見えた、グラリッと再度出久の身体が瓦礫のように崩れるように、瞳から光を消しながら背後へと倒れこんでいってしまった。重量の鎖に引かれるように倒れこんだ身体は僅かに四肢をバウンドさせるともう動かなくなってしまっていた。
「はぁはぁはぁ……」
「―――緑谷君、戦闘不能!よってこの試合、爆豪の勝利!!」
「ガァッ……!!」
その一言を聞いてから爆豪は足をよろめかせながらも腰を降ろした、スタジアム全体から沸き上がる両者の健闘を称える拍手の中で目の前で倒れた出久を見つめながら言葉を作る。
「おい、テメェデクの癖に粘りやがって……ざまぁねぇ姿だな」
「ハハハッ、この上で追い打ちなんてカッちゃんらしい、ね……」
アドレナリンの効果がなくなったのか、冷静になって痛みがぶり返してきたのか言葉を詰まらせながらも話す出久のそれは痛々しい。ミッドナイトは直ぐに医療室への搬送手続きを済まそうとすると爆豪は痛む身体を引きずるようにしながらも立ち上がって出久へと手を差し伸べた。
「おらよ……連れてく程度の事はしてやる……デクが」
「―――有難う、カッちゃん……でも身体動かないから運んでくれるとありがたいんだけど……」
「贅沢言うなら蹴り飛ばしながら運ぶぞクソが」
「分かった、分かったから小突くのやめて……」
脇腹を軽く蹴る爆豪の手を取ってフラフラと立ち上がる出久、そしてそんな彼を伴うように彼自身も身体を引きずるようにして医療室へと向かって行くそんな姿に会場の拍手は一段と大きくなりミッドナイトもこれ以上ない程の笑みを浮かべながらサムズアップを作り、最高!!!と述べるのであった。
「確かに、今までにない程に最高の決勝戦だったよ―――少年たち」
そのオールマイトの言葉に誰もが頷いた事だろう。