不気味な声を雷の如く轟かせ、腕の刃を振るう。頭部には火傷と思われる傷、そして身体中に残る切り傷。紛れもなく先程のツルク星人である事は間違いないだろうが、それは今までの鬱憤を晴らさんばかりに怒り狂っている。ビルを容易く両断しながら進撃し自らの力を誇示するかのように声を上げる。
「な、んだなんだよあの馬鹿でかいヴィランは!?あり得ねぇだろ!?」
「いいから早く避難誘導をするぞ!!」
「慌てないでこっちです!!」
大パニックとなってしまっている保須市、市民を逃がす為にプロヒーロー達が避難誘導を行うが彼らとて気持ちは同じ、未知の巨大な相手に対しての恐怖心でいっぱい。大きくなる個性を持つ者はいるにはいるがあそこまで巨大になれる個性などいない。
「私が奴を抑えます!!」
「マ、Mt.レディか!?」
そこに登場したのは偶然そこへと居合わせた巨大化個性の超大型新人とも言うべきヒーロー、Mt.レディだった。彼女も彼女で個性によって巨大化する事が可能でありその巨体から繰り出されるダイナミック且つ強烈な一撃を活かすのだが―――
「駄目だお前でも抑えきれんぞ!?サイズが倍ぐらい違うんだぞ!?」
「50m級だぞ!?お前確か20mそこそこだったろ!?」
「お前も避難誘導を手伝うんだ、そっちの方が大切だ!」
それでもMt.レディの巨大化限度は2062㎝、詰まる所約20.62mにしかなる事が出来ない。ツルク星人は52mの超巨体、それでも圧倒的な体格差で勝てる訳もないと皆がやめろという。あれほどの巨大であってもきっと有効な個性がある筈だからそれに任せるべきだと皆が言う、だがそれでもMt.レディは退かなかった。
「わ、私だって怖いのよ!!で、でもでも私だってヒーローなんだから、立ち向かわなきゃいけない義務が……あるのよ!!」
震えている、自分よりも遥かに大きな相手に対してMt.レディだって恐怖を感じ続けている。自分より大きい所か同格の大きさのヴィランすら中々存在しない程の体格差を作り出せるはずのアドバンテージを一瞬で崩され、優位性は消滅している上に相手にはビルを両断する刃がある。危険なレベルを凌駕しているのにも拘らず彼女は退く事もなく立ち向かおうとする、そんな恐怖に飲まれながらもブレる事のない矜持を見せ付ける彼女に一人が声を掛けた。
「―――新人がほざくじゃないか、ならばこのエンデヴァーが退く訳には行かんな」
「えっ―――エッエンデヴァーさん!?」
そこにいたのは№2ヒーローのエンデヴァーであった。焦凍を伴って彼もヒーロー殺しを追ってこの保須市まで乗り込んできた、そしてこの現場に遭遇した。ヒーローであるならばヴィランに向かう、ただそれだけだと言わんばかりに炎を燃え上がらせている。
「奴とて生き物だ、急所に炎を浴びせ掛ければ倒せる筈だ。Mt.レディ、奴の動きを僅かでいい封じろ、後は俺が引き受けよう」
「―――分かりました、こうなったらやったりますよぉ!!」
「新人の割にいい顔をする、期待させて貰おう」
そう言いながらエンデヴァーは足を高熱化させ、ビルの壁面を融かしながら駆けあがっていく。それに合わせるようにMt.レディはツルク星人へと走りながらギリギリの距離まで接近していく、そして―――巨大化しながら精一杯自分に出来る事をしようとした。
「行くわよ、キャニオンカノォォォオオン!!!」
「こっち、早く!!」
「飯田動けるか!」
「あ、ああ何とか……!!」
出現した巨大化ツルク星人、それを目の当たりにした出久は焦凍、飯田、そして負傷して動けず意識を失っているネイティブを伴って進路方向から逸れた方向へと必死に進みながら避難していた。まさか先程までの存在があんな巨大になるなんて思いもしなかった、矢張りマグナの世界はスケールがやばすぎる。と思いながらもそれを何とか出来るのは同時に自分だけではないのかと思う。
「―――轟君、飯田君、ネイティブさんを任せていいかな。僕行かなきゃ……!!」
「お前、何処に行く気だよ……!?」
「僕にもやれることがあるみたいだ、呼ばれてる!!」
「―――そうか、インターンの方か。では早く行くんだ!!其方でも手が必要な筈だ!」
「そういう事なら行け!」
細かい説明をしなかったのだが好意的な解釈をしてくれた二人に感謝しつつも路地裏へと入っていきながらツルク星人の方へと走りながらマグナへと問いかける。
「(マグナさん僕ならあいつを何とか……!)」
『無理だな、以前にも言ったがフルパワーのイズティウム光線でも体勢を崩す程度が精々。あのツルク星人を倒せる程ではない』
「でも、マグナさんなら何とかする方法は知ってるんでしょう!?」
『……ああ、マグナリングを使うんだ』
その時出久は一瞬でその言葉の先の意味を悟った、一度だけ使ったリングの力。爆豪を救う為にマグナと融合して戦う事が出来た、その時の姿ならばなんとかなるかもしれないという事なのだろうと。だがそれ以上の危険性を秘めているとマグナは警告する。
『言わなかったがあの時は私が意図的に融合率を下げて君の身体に対する負担を下げていた、だがあのツルク星人と戦う為に本格的な融合が必要になるだろう……』
「ならそれを!!」
『死ぬかもしれない、それでもいいのか』
冷たく突き放すかのような言葉が胸を突き刺した、姿こそ見えない筈なのに酷く鋭いマグナの瞳が向けられているという実感が全身を襲ってきた。
『あれを相手にするのはヴィランとはスケールが違う、君はその意味を理解しているか。これは地球のヒーローとしてではない、ウルトラマンとして君は戦う覚悟はあるか』
「ウルトラ、マンとして……」
『そうだ、この星のヒーローが行う戦いとは別次元のそれをする覚悟はあるんだな。それが本当の意味で戦うという事、私と本当の意味で融合し戦う、ウルトラマンマグナになるという事だ』
息が詰まる、舌が乾く、喉が枯れる、動悸が激しくなり、思考が鈍くなっていく。それらを感じる、これから自分が向かおうとしているのはUSJでのエレキングとの戦いと酷く似ているが全く違う領域に手を伸ばそうとしているのだ、その為の覚悟は本当にあるのか。酷く重い問いかけに詰まりながらも―――出久は叫んだ。
「僕は、僕は―――貴方みたいになれるなら本望です!!僕はマグナさんみたいな皆の光になれるようなヒーローになりたいです、誰かを傷付けて喜ぶような奴を野放しには出来ませんしこのままあいつをそのままにしたら凄い被害が出ます!だからお願いします、力を―――貸してください!!」
『……やれやれ私のように、か……ならばその目で確りと見て、身体で感じるんだ。これから君はウルトラマンとして戦う事を!!』
「はい!!」
瞬間、その指に嵌められていたマグナリングが一際強い光を放ち始めた。だが何処か暖かく優しい光が自分の身体から溢れてくるのも感じられた、それは紛れもなくウルトラマンの力―――だと分かった、そしてそれを感じながら指輪を掲げた。
「行くわよ、キャニオンカノォォォオオン!!!」
ギリギリの距離まで生身で接近したMt.レディは突如巨大化して必殺のドロップキックをツルク星人へと浴びせ掛けた、先程まで感じもしなかった攻撃が腹部を抉る。自分よりも小さな存在の攻撃だろうと完全な不意を突かれたために有効に作用したのかツルク星人は呻き声を上げながら後方へと下がった。そしてそれを見逃がさずビルの屋上へと達したエンデヴァーは腕の炎の温度を一気に引き上げ、青い炎を作り出す。
「貴様とて生物、ならば頭部への炎は利くだろう―――そこだぁ!!赫灼熱拳ジェットバーン!!!!!」
腕から放射される完全燃焼の青い炎の奔流、それは体勢が崩れたツルク星人の頭部へと浴びせ掛けられて行く。しかも的確に火傷を負っていると思われる部分のさらに脆い部分、瞳へと命中させる事に成功する。エンデヴァーの必殺技である赫灼熱拳、それを受けて絶叫のような声が上げられる。これは流石に利いただろうと皆が確信する中で刃が振られて一瞬で炎がかき消されてしまった。
「な、なんだと!!?」
「エ、エンデヴァーさんの炎が利いてない!!?」
そこにあったのは炎によって多少なりともダメージは負っているが、なお健在であるツルク星人の姿であった。更に大きな雄叫びを上げると手始めと言わんばかりに目の前のMt.レディへと向かって刃を振り下ろす。
「キャアアアッッ!!?」
咄嗟に後ろに飛んで回避する、が先程まで居た場所には深々と痕が残されており自分等あっさりと両断されてしまうという現実が押し寄せてくる。それによる恐怖はあっという間にMt.レディの精神を食い破っていく、身体の制御すら容易く奪う恐怖に支配されていく。
「あ、ぁぁぁぁっ……!!」
「もう一発来るぞ回避しろぉ!!」
「(だ、駄目っ身体が……!!)」
指一本動かせない、絶対的な恐怖によって肉体が縛られている。そして刃を振り下ろさんと迫るツルク星人、エンデヴァーは援護の炎を放つがその炎を受けても軌道を変えるこそすら出来ない。刃が彼女の肉体を貫かん、としたその時だった。Mt.レディの身体を眩いばかりの光が包み込んだ、ツルク星人の一撃は容赦なく炸裂……したはずだったがそこには彼女の姿はなくただ道路を貫いただけだった。
「何……何だあれは……!?」
その時、皆が見た、あらゆる者がその場を見た。夜を昼間に変えんばかりの圧倒的な光が街の中にあった、それは周囲を照らしながらもその胸にMt.レディを抱き抱えるかのように佇んでいた。彼女に怪我はなく、光は彼女を守っていた。
「―――い、生きてる……の?」
何時までも訪れない痛みに恐る恐る目を開けるとそこは光の中だった、だが何かに抱き抱えられている感触だけが分かった。ゆっくりを顔を上げてみると―――そこには光の奥にあった銀色の優し気な顔をしていた巨人が自分を見下ろしていた。突然すぎる事に声も出ない、そんな自分を、20mもある自分を簡単に抱き抱えられる巨人は優しくゆっくりとMt.レディを地面へと降ろした。
「えっあっ……ありが、とう……」
思わず出た感謝の言葉に巨人はゆっくりと頷いた、その時に変化のない筈の巨人が僅かに笑った気がした。そして―――巨人は立ち上がりながら振り返ると拳を握りながら構えを取りながら叫んだ、お前の相手はこの私がすると言わんばかりに……。
「デュワァッ!!!」
光の巨人、ウルトラマンマグナが初めて真の姿を地球にて見せた瞬間だった。
せ、戦闘まで入らなかっただと……!?