「何だ、あれは……!?」
誰もが驚いた、誰もが目を見開いた。逃げ惑う人々ですら、人々を誘導するヒーローですら、先程まで戦っていたエンデヴァーですら―――そしてそれらは中継ヘリを通じて日本中へと拡散されていく―――夜の闇を光で照らし払い除けるような巨大な光の巨人を。
『―――きょっ巨人です!!巨大なヴィランとほぼ同サイズの巨人が出現しました!!わ、私の目が確かならば、あの巨人は勇敢にも立ち向かったMt.レディを救ったように見えます!!彼は味方なのでしょうか、それとも凶悪なヴィランなのでしょうか!!?』
我を忘れていたレポーターは懸命に自分の役目をこなそうとする、状況を余さず正しく伝える為に言葉を尽くす。それに応えるようにカメラマンも巨人へとカメラを向け、ヘリも旋回するように巨人を映し出している。その腕にはMt.レディが抱かれており、まるで割れ物を扱うかのような優しい動きで彼女を地面へと降ろすと静かに頷きながら振り向くとビルを切断する程の凶悪ヴィランへと―――ファイティングポーズを取った。
「デュワァッ!!!」
『こ、これがマグナさんとの本当の一体化……!!』
光の中、無数の光の中にいると表現するべきだろうか。出久はその中で自分が巨人となった感覚を味わいながらも急激に高くなった視点に映り込んでいる街に言葉を失いそうになりつつも眼前で吠えて此方を威嚇しているツルク星人へと意識を向ける、だがそれよりも先に身体が戦闘態勢を取った。そのまま走り込みながらその刃を振り下ろさんとするツルク星人、だがマグナは一切動かない。迫りくる刃、今にも切断せんと迫るそれを―――
『出久君よく見ておけ、これが―――ウルトラマンマグナだ!』
『嘘ぉ!?』
「ディァ!!」
両腕であっさりと受け止めた、出久も見ていたがツルク星人のそれはビルをも容易に両断する程異常な切れ味を秘めているのにそれを両腕であっさりと受け止めて見せる。そのまま両腕を勢いよく開きボディをがら空きにすると素早く正拳突きを叩きこむ。重々しい打撃音が町中に木霊して、Mt.レディの不意を突いた攻撃以上のよろめきを見せた。間髪いれず前へと出て放った小規模の爆発を伴うほどの痛烈なアッパーが、残虐な宇宙人の身体を宙へと舞い上がらせる。
「凄い……」
まるで動けなくなっている自分をも護ってくれている巨人の圧倒的な力に、Mt.レディは普段ならば自分の専売特許と言っても過言ではない巨大化戦闘を奪われて文句を言いかねなかったが、今は素直にその光景に見惚れていた。アスファルトの地面を隆起させ、舞い上がらせながらも倒れこむツルク星人、それは再度立ち上がりながらも更に速度を上げた一撃を放とうとするが既に見切っているのか前へと出たマグナは腕を弾けながらも連続で蹴りを炸裂させていく。
「デュァッ!!!」
その時、一瞬だけ見えた。マグナの身体が僅かに光を纏っている事に、その光が刃が身体に到達する前に防いでいるようにも見えた。ツルク星人自慢の腕の刃は完全に無力化されているに等しい、だがそれでも暴れる事もやめない相手をマグナは腹部に一撃を入れながらも50mにも及ぶその巨体を持ち上げると地面へと投げ付けた。
「な、なんてパワーなの……!?」
圧倒的な力だけではない、先程からあの
「凄まじい、あれこそが正義のあるべき偉大な姿……」
それを見ていたのはツルク星人を追っていたステインも同じだった、巨人にどんな意図があるのかは直ぐに理解出来た。あれは人々を救う為に姿を現し戦っているのだと理解出来た、その姿は自分が最高のヒーローと思い描くオールマイトとも酷く共通していた。あれこそがヒーローが戻るべきあるべき姿、誰かの為に力を振るい、平和を脅かす刃から人々を守る究極の英雄。あれこそが……
「―――ッ……」
そんな時だった、自分が握っている刃が酷く薄汚れているように映った。自分も分かっていたのかもしれない、如何するべきで何をすべきなのかを……だが自分には勇気がなかったのかもしれない、だから安直で簡単な方法を取ってしまった。誰かに差し向けられて上げるべき花ではなく、誰かに差し向けてしまう拳を取った。
「……光の巨人……」
最後に言い残すとステインは刃に残っていたツルク星人の血を舐めてからその場から去っていく、その足取りは不思議と―――初めて感じる程に軽く前向きだった。
『マ、マグナさんまたあいつの動きが!!』
『よしっ一気に決めるぞ!!』
再びツルク星人の動きが不自然に止まった、それはステインの個性によるものだった。彼の個性は凝血、相手の血液を摂取することで、相手の身体の自由を最大で8分間まで奪う個性。だがそれは異星人であるツルク星人にはほんの一瞬動きを奪う程度の効力しか示さなかった、だがそれで十分だと言わんばかりにマグナは両腕にエネルギーを集めながらそれを一気に収束させていく。
「デュェッッ……デュア!!!」
深く踏み込みながらも両手には超回転する二つの光輪が存在していた、それをUSJのように投げるのではなくそのまま保持したまま相手の刃目掛けて振り抜いた。二つの
「ァァァァッ……デュオオッ!!!」
畳みかけるかのような迫ってきたマグナが赤く輝く拳をツルク星人へと炸裂させた、その一撃は頭部を抉るようにヒットした。その拳から光が全身を包み込むように浸透していくとゆっくりとツルク星人は倒れこみながらも光へと還元されていくかのように消え去ってしまって行く。
「か、勝った、の……?」
静かに放たれた彼女の声に応えるかのようにゆっくりと振り向いた巨人は静かに頷いた、そしてMt.レディには分かった。彼はこのまま去るのだと、唯まだ行かないで欲しいという思いで溢れていた。たった一言、それを聞いてくれるだけでいいから待って欲しい、頭の中を駆け巡っていく言葉の数々、その中で最適な言葉は何かと。自分の気持ちを伝えられる言葉は一体何なんだと今までにない程に頭が回転して導き出した言葉は……
「有難う!!」
酷くありきたりで当たり前な言葉だった、もっといい言葉があっただろうに思う。自分は命を助けられて自分の代わりに戦ってくれたような相手なんだからもっと感謝を込めた言葉があっただろう、なんて馬鹿なんだろう。これじゃあ幼い子供と同じじゃないかと自罰的に成る中、そこにあったのは此方を見てながら心なしか笑顔になりつつも頷いている巨人だった。それだけで十分だと言わんばかりだった、そして彼は空を見上げ……
―――デュオッ!!
空へと飛び立っていった。唯々それを見送る事しか出来ないヒーロー達は純粋にその力の凄まじさに驚き、自分達では対処すら出来なかったヴィランを倒してくれた事に感謝した。突如として現れた彼は保須の巨人と呼ばれる事になったという。
『あと一応光線は使わなかったから君との関係性も疑われにくい筈だ』
「えっ戦いながらそんなことまで!?」
『私これでも勇士司令部所属のエリートだからね、この位軽い軽い―――Uキラーザウルスに比べたらね』
「いやあの、比較対象可笑しくありません……?」
やってみたかった事、ギャラクシーファイトのエース兄さんみたいに八つ裂き光輪で斬りかかる。