普段の日常から鍛える事を始めた出久、初めは高すぎる身体能力に振り回される事が多かったが一月も立てばそれらをコントロールする術を見つけられていた。それだけの時間を真面目に身体を鍛えていたお陰か、重すぎる荷物に振り回される事も無く確りとした持ち方を学習したような感じだとマグナは語る。そんな日々の中でも出久が唯一上手くいっていないのが光線技の習得であった。
「スペシウゥゥゥッム……光線んんんん!!!!」
『……うぅむ矢張りいきなり宿った力にまだなじみ切っていないかもしれないね、何まだ先は長い。地球の言葉では確か……千里の道も一歩よりというのだったかな』
「ハァハァハァッ……はい頑張ります……!!」
身体の中にある光のエネルギーを蓄積させていく方面の才能はかなりの物なようで身体に力をためて能力を強化する事には成功している。だが如何やら放出する方面はまだまだ慣れないらしい、元々人間にはそんな機能がない上に無個性である事が響いているのかまだまだエネルギーの放出にすら踏み切れていない。と言っても初日の挑戦と比べると雲泥の差、日進月歩、継続は力なり。これから続けて行けば何時か出来るようにはなるだろう。
「やっぱり発音が違うのかいやでも今のところがこれが僕の中ではかなり力が入るし腕に溜まっているエネルギーもかなり高いって感じられる。という事は発音のベースはこれにしつつもう部分部分で改良を重ねて行く方向で行く事にしつつ……後は撃つフォームとかか!?そうだあの時のマグナさんのフォームは腰を落として重心を下げてたからその辺りも関係が……」
『君のこれにも慣れてきたな私は』
ヒーローマニアでもある出久はヒーローへの考察やら個性の分析などをする癖がある、それが何時しかこんな形で現れたらしい。最初は如何にも慣れなかったが流石に一月も一緒に居れば慣れてくるというもの。そんな日々の中でマグナは初めて出久に対して疑問、というよりも疑念を抱いたのか問いを投げかける事になった。そのきっかけは……
「おいデクッ!!テメェ未だに雄英受けるなんて戯言抜かしてんじゃねぇか、テメェみたいなクソモブはヒーローになんてぜってぇなれねぇんだよ!!」
「かっちゃん……」
『何だこの傍若無人が人間になったみたいな少年は』
思わずマグナが驚いてしまうような出会いだった。授業も終わった帰り際の事、それまで接点がなかったというか純粋に絡まなかっただけに留まっていたのだが、授業にてヒーロー云々を支える側も立派なヒーローだと先生が説いていた。そこで出久に無個性だろうとヒーローにはなれるんだから諦めるな!!とエールを送ってくれたのでそのつもりでヒーロー科最難関である雄英を受ける!と宣言をした為か思いっきり絡まれたのだろう。
「(えっと……僕の幼馴染の爆豪 勝己、かっちゃんです)」
「おいクソデク、テメェは精々普通科がお似合いなんだよ分かってんのかクソがぁ!!いやテメェ何ざは雄英に進む事すら間違いなんだよぉ!!」
『……友人は選んだ方が良いと思うけど』
とナチュラルな心配が飛んできて内心では頬が引き攣るような感覚がする、確かにそう言われてもしょうがないかもしれない……。幼馴染であり友達と思っているのは出久の一方的な考えだけであり爆豪からしたら単純な幼馴染なだけで完全に下に見ている。全く対等ではない。
「僕が何処を目指そうが自由じゃないか、何でかっちゃんが口を出すのさ」
「ハッ決まってんだろうが!!俺はこの中学初の雄英進学者になるんだからな、俺のロードにテメェみたいな奴は邪魔でしかねぇんだよ!!邪魔は今から摘んでおくだけだ!!」
『おいおいおい本当に彼はヒーローになるつもりはあるのかい?ヴィラン方面の才能はピカイチだと思うが……随分と名誉に拘るんだな』
短いやり取りだがマグナは爆豪の内面を大体察したつもりでいる、とてつもなく自尊心が強く攻撃的な性格なだけではなく頭が回り自分の利を追求するタイプ。こういった少年の背景には才能のあまり持て囃される事が多いが……彼もその類だろうか、だとしても流石に見逃がす事は出来ない。
『出久君、私が一言言うかい?』
「(……いえ僕が言います)」
これが出会う前の彼だったら間違いなくお願いしていたか、でなくても絶対に言い返さないで欲しいと頼む事だろう。だが今は違う、自分の夢を応援してくれるだけではなく共に歩んでくれる恩人の存在が脆く小さかった心を大きく頑丈な物へと変貌させている。出久は荷物を担ぎ上げながら真っすぐと爆豪を見据えた。
「かっちゃん、君は君で勝手に雄英を受ければ良いじゃないか。僕だって勝手に雄英を受けるから」
「あ"あ"んっ!!?おいクソデク、テメェ何様のつもりで言ってんだ!?」
「緑谷 出久のつもりで言ってるんだよ。僕はデクじゃない、
「ハッ……!?」
突然此奴は何を言ってるんだと爆豪だけではなくクラス全体が固まってしまった、自分が無個性である事は知れ渡っているからだろう。だが出久はやめる事はなかった。マグナに頼み一瞬だけ主導権を握って貰って光線を出して貰えるように頼む、それを快諾し筆箱から出した鉛筆を宙へと投げ―――
「シェアッ!」
声とともに腕を振るう、すると振り抜かれた腕から光の矢のような物が放たれる。それは鉛筆を両断しながら出久の手へと落ちた。その光景に皆が驚愕する中で最も驚いていたのは爆豪だった。
「あり得ねぇ……お前は無個性な筈だろうがぁ!!」
「最近そうじゃなくなったんだよ、僕は―――本当に嬉しかったよ、これで漸く憧れの君と同じになれたからね」
その瞳に見つめられて爆豪は一歩退いてしまった、そこにあったのは紛れもない嬉しさだったからだった。怒りや憤りなどではなく紛れもない喜びが……そこにあった。
「これで条件は五分と五分、僕は君に負けないヒーローになる。それじゃあかっちゃん……またね」
そう言って教室から出て行く出久、残された爆豪は愕然としながらも怒りを灯しながらも拳を力いっぱい握りしめながら―――僅かに口角を上げながら呟いた。
「上等じゃねぇかクソデクがぁ……!!無個性から個性持ちになろうが関係ねぇ……テメェは俺の下に変わりねぇ……お前が俺に勝てる訳ねぇんだからなぁ!!!」
『やれやれ、出久君、君は随分と変わっているな。あんな事を言われたりされたりしてきたのだろう、それなのに彼を憧れと言えるとは……』
「あの……呆れます?」
『フフフッ生憎光の国の人間と言うのは聖人気質が多くてね、嫌いじゃないよ君のような少年は』
「素直に嬉しいです」