「オールマイト、オールマイトアンタ聞こえてるか!?」
『なろがぁっ!!!!』
『SWALLOW SMAAAAAAAAASH!!!!!』
『OKLAHOMA SMASH!!!』
モニタールーム、試験中の様子が映されたそれを見ながら審判役でもあるリカバリーガールが必死にマイクに向けて声を飛ばしてオールマイトを制止しようと必死になっているのを麗日、飯田、梅雨が見つめていた。何故ならば彼女が焦る程の事象が起きているのだから。
「駄目だねこりゃ、インカムが完全に逝かれちまってる。しかもオールマイトの腕の重りが外れちまってるのにも完全に気付いてないみたいだし……」
「な、ならば早急に止めなければ不味いのではないのですか!?」
「まずいに決まってるよ、見れば分かるだろうけどあの二人は超格上への対応とその経験蓄積。元々あの二人はもうプロに入っても活躍できるだけの力を持っている、だから最難関のオールマイトがぶつけられたのさ」
それは理解出来る。傍から見てもあの二人の実力は遥か先に進み続けながらも成長し続けている、それでいながら個性を中心に組んだ戦いではなく個性を自分の戦法に個性や幅を利かせる為として使っている。相手が相澤でも単純な肉弾戦だけで十二分に対応出来る、そんな相手はオールマイトしか務まらないだろうという事も分かる。
「だがありゃやりすぎだね……ハンデが半減しているオールマイト、しかも相手が相手だけに本気に脚を半分突っ込んでる」
「そ、そんなっ……本気の半分だとしてもデク君と爆豪君凄い危ないちゃうの!?」
「試験に落ちる所じゃないわ、大怪我必須よ」
「流石にその辺りは加減するだろうがそれでも大変な事になるぞ!!」
そんな言葉の直後だった、モニターに映り込んだのはビルを突き破りながら地面を抉るように吹き飛ばされるようにしながら倒れこんだ出久と爆豪の姿だった。控えめに言って既に満身創痍、荒い息を吐き続けているそれらに顔を青くしてしまった。
「ッソがぁっ……」
「グッガァッ……」
抉られた地面、そこに倒れこむ両者は息を吐き出しながらも苦しみに耐える。二人のコスチュームも酷く破損しており爆豪の両手の籠手も完全に粉砕、出久のGAIAも各部が破損し内部の回路が見え隠れしながら時折スパークを起こしながら地面を照らしている。それらの前にゆっくりと歩いて来ながら肩を回してくるオールマイトが迫る。
「漸く身体が温まってきた、さあまだ行けるかなぁ―――少年たち」
漸くギアが入ってきたと言いたげなそれに二人はうんざりしたくなった、これでまだまだ上があるのかと。流石は日本をヴィラン犯罪発生率世界最低へとした平和の象徴、格が違う。
「ぉぃ、まだ動けっか……」
「行ける、よ……」
「―――行くぞ」
「―――うん」
迫ってくるそれに対してハンドスプリングで立ち上がりながらまだまだ健在と言わんばかりの対応をする、もう既に身体にガタが来ているのだがそんな事も言っていられない。
「よしいいぞっ子供とヒーローは元気でなくちゃな!!」
「ケッ良く言いやがる……」
「こっちはもう、ヘトへとで元気なんて欠片も残っちゃいないのに……」
その元気を打ち砕いている人が良く言うよと言わんばかりの言葉にオールマイトは確かにそれもそうだなと少しばかり苦笑いをした、だがそれでも二人は立つのだ。最早精神力の領域に入ろうとしているそれらに敬服しながらも一気に迫っていく、1秒にも満たぬ時間で距離を0にするとダブルでラリアットを炸裂―――
「んなろぉォぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「シャアアアアアアラァァァァァァァァァ!!!!!」
する瞬間、その腕を掴んだ二人はその勢いを逆に利用して200キロを超えるオールマイトの巨体を投げ飛ばしてビルへとぶつけた。ぶつけられたオールマイトは全くダメージがなさそうだがその表情には驚きが浮かび上がっており、まさかあの一撃を逆に利用されるなんて思ってもみなかったらしい。
「まだ力を温存していたとは、まだまだやれるとは思ってもみなかったよ」
「ザケんな力なんざもうねぇんだよクソが……」
「あれ?」
ふら付き、何時倒れこんでも可笑しくもない状態になりつつも何時もの悪態を返す爆豪に思わず疑問符を浮かべる。だが先程のそれは開始直後の全力のそれと何ら変わりない力だった。だが最早力など無いというそれらとは明らかに矛盾している。
「ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張ってるだけですよ……!!」
「戦いの最後は気合と根性だ……おいデク、先に倒れたら承知しねぇぞ!!」
「カッちゃんこそ!!」
「「力を出し切るんだぁぁぁ!!!!」」
その時、二人の瞳に再度光が灯った。今までにない程の強い光を灯しながら二人は腰を入れながら此方を見つめてきた。そうだ、自分が見たかったのはこれだったのかもしれないとオールマイトは自然と口角を持ち上げてしまっていた。強さ、連携、作戦、様々な物を見たがこれが一番価値がある。決して敗北の恐怖に脅えずに最後まで折れぬ意志と決意を胸に前に踏み出せるか否かを。そうだ、ヒーローとはそうでなければいけないんだ。
「ォォォォォッッッッ!!!!」
「ァァァァァッッッッ!!!!」
最早言葉すら出す余裕すらないのか、それら全てを行動に変換しているのかという叫びを上げながら出久が突進する背中を爆豪が爆破で後押しして加速させた。衝撃波だけを当てるなんて器用な事をしている余裕もなく、爆風と爆炎が容赦なく出久を襲うがそれに構う事もなく突撃する。その速度はオールマイトも驚く程、その分出久へのダメージも大きいだろうに彼は怯む事無く突撃し自分の蟀谷に飛び蹴りをブチ当てた。
「いたぁがぁっ!?」
流石のオールマイトも急所に一撃を食らえばたじろぐのかバランスを崩すとその隙を見逃がさずに喉辺りを蹴り上げられ、思わず声を上げながら怯んだ。そして出久はGAIAの出力をMAXに引き上げながら組み付きながら前へと跳んだ。そのまま全体重をかけて地面へと叩きつけようとするのに気づいたのか踏ん張ろうとするのだが―――
「ドラァァァァァァッッッッ!!!」
「ぐっ!!」
「ディアアアアアアッッッッ!!!!!」
「ぐぶっ!!」
背後に回り込んだ爆豪が後頭部目掛けて爆破の勢いで加速した蹴りを放ち押し込む、完全にバランスを崩してしまいそのまま出久によってフェイスクラッシャーを決められてしまう。流石のオールマイトも長いヒーロー活動の中でも顔面砕きを食らった事は初めての事だった、しかも両者の攻撃が完全に急所狙いであり容赦がまるでない。ならこちらもそろそろ本気で―――
『……言おうか迷ってたけどオールマイト、貴方腕の重り如何したんですか』
「えっあれぇっ!?」
此処で出久の戦闘の意志が非常に頑強で水を差す事になると黙り続けていたマグナがマジになろうとしていたオールマイトを止める為に遂に声を出した。それで漸く気付いたのかオールマイトは腕の重りが完全に外れている事に気付いた、通りで途中から調子が良くなったと思ったらそういう事なのか!?と納得した所でそこへ出久と爆豪の全身全霊を込めた拳が身体に炸裂するのだが―――そこで二人は完全に力尽きてしまい倒れこんでしまった。
『それと一つ、これ試験って事忘れてないですよね。ちゃんとクリア出来る範囲で力出してましたか、壁になろうとしてて加減忘れてませんでした?』
「あっ……」
『……如何するんですか……』
完全にやってしまったオールマイト、そんな彼を他所に出久と爆豪の気絶による試験終了が宣言されてしまいもう取り返しがつかなくなってしまった。真っ青になりながら冷や汗をダラダラと流しつつもオールマイトは必死にマグナに如何すればいいのか助言を請おうと心の中で叫ぶのだが先程まで聞こえていた筈のマグナのテレパシーは全く聞こえなくなっていた。
「(マグナさんどうか応答してくださいぃぃぃぃぃ!!!!)」
『いやもうどうしようもないよこれ……』
ガイアの投げ技で一番印象的なフェイスクラッシャー。一応スプリームホイップという投げ技の派生らしい。