緑谷出久はウルトラマンと出会う。   作:魔女っ子アルト姫

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変化する心情

すっかり日も傾いて夕暮れが近づき始めている現在の時刻は午後5時、オールマイトに対する説教は一体何時間続いているのだろうか。その日の授業全てが期末の実技として扱われ、その最終がオールマイトの物だったので……軽く見積もっても数時間は経過しているだろうか。その間ずっと正座しっぱなしオールマイトはもう既に脚の感覚という物が薄れて来ていた―――という甘えは存在しない。

 

「ひぐぅわらぁ!!?こ、校長先生止めて下さ……ァァァァァッッッッ!!!!」

「フムッこうして平和の象徴が苦痛に歪む顔を見ながらお茶をやるというのも中々に乙だね」

 

説教はグラントリノとナイトアイに任せながらそれらを見張りつつお茶を啜っている根津、時折痺れている脚を突っついて刺激して苦しみを与えるという事をやったりしながら数時間。その時間がオールマイトにとってどれだけ辛かった事だろうか……もう勘弁してほしいという念が全身から溢れ出しているようだった。

 

「ふぅ取り敢えずはこんなとこで勘弁してやっか……」

「そうですね、この辺りが妥当な所でしょう」

「いやぁお疲れ様。二人の分もお茶入れてあるから喉を潤しなよ」

「た、助かった……」

 

倒れこみながらも安堵の息を吐くオールマイトだが足の痺れから苦しみからは解放されるのは大分後の事、先ずはそれに耐えてからでないと本当の安堵は訪れない。これも計算しての正座だとするとこれが自分へと罰なのか……と重く受け止めるのであった。

 

「ったく俊典、お前今度碌な事しやがったら無理にでもお前を師匠から外させて俺が代わりに付く。まあ幸いな事にイズティウムにはもう一人師匠が居るらしいからな」

「そ、それだけはご勘弁を……!!」

 

もう一人の師という言葉に僅かばかりにナイトアイの瞳が輝くがオールマイトはそれ以上に自分が師から外されるという事に強い危機感を覚えている。自分の不甲斐なさは分かっているつもりだがそれでも出久は自分が全てを掛けてでも育て上げると誓っている、その割にマグナに大分投げている感が半端ないがそれでも彼が自分の弟子である事に変わりなくそれを譲るつもりなどはなかった。

 

「グラントリノ、イズティウム……つまり緑谷 出久にはオールマイト以外にも師が居ると?」

「らしいぞ。小僧はこいつに見てもらう前に見て貰ってた人がいたらしい、話を軽く聞いただけだが随分と信頼してて嬉しそうな顔してやがった」

 

そっちの方が大分師弟らしい関係だろうな、と言うが事実なのでオールマイトはバツが悪そうな顔をしてしまう。ヒーリングパルスを撃って貰ったり出久の指導を任せっぱなしだったり何方かと言ったらマグナの方が師として立派なのは明白だろう。

 

「オールマイト、今回雄英に来たのは根津校長からお話を受けただけではなく幾つかお話したい事があるからです」

「や、矢張り君を呼んだのは校長先生だったか……」

「当たりさ☆」

 

ウィンクをしながら答える校長曰く、恩師に加えて嘗て自分のヒーロー活動を支えてくれていたサイドキックが説教に参加してくれた方が効くだろうからと呼んだとの事。全くもってその通り、もう効きすぎて今直ぐ家のベッドで横になって眠りにつきたい気分になっている。そして何故此処にナイトアイがやって来たのかを聞こうと思う、聞かなければならない。彼は自分の秘密、ワン・フォー・オールの事を含めて全てを知っているのだから……だが彼とは疎遠になってしまっている、お互いに話しづらいと思っていたのだが……何故こうして会いに来たのかを。

 

「……オールマイト、保須の巨人に付いてはどの程度」

「いやニュースで見た以外はそこまでは」

「単刀直入に言います、私が見た未来にあの巨人は存在していなかった」

 

その言葉にグラントリノと根津は眉を顰め、オールマイトは理解した。彼の個性に関わる事なのだと、ナイトアイの個性は対象人物の一部に触れ、目線を合わせることで発動させる事が出来る"予知"。それによってナイトアイはオールマイトの未来を見た事があった、だがそこに保須に出現した巨人は全く存在しなかった。

 

「見逃がしちまったって可能性はねえのか、制限の間じゃ見られない未来もあるだろ」

「そうかもしれないが集中し気になる物は確認する癖は付けています、ですがそこにあの巨人の影も形も無かった。私の予知に存在すらしなかった……」

 

オールマイトはそれを聞いてある意味それは正しいのだろうと納得していた。マグナがこの地球に、いやこの宇宙の地球にやって来たのは偶然の巡り合わせが齎した奇跡のような物なのだから。ナイトアイの個性のそれは別の世界の宇宙までは到底予測出来なくても当然、そしてそこにマグナが存在しなくても当たり前な事なのだろう。

 

「あの巨人は私の個性の外側の存在かもしれない、もしかしたらオールマイト(貴方)の未来を変えられるかも……しれないんだ……!!」

 

まるで縋るような声だった、終わりに近づくたびに小さくなっていくが最後にはまるで振り絞るかのように大きな声を出して胸の中に燻り続けていた言いたい事を、伝えたい事を吐き出す事が出来た。

 

「(ああそうか、君はそれを私に伝えたかったのか……そうか、君の本質は本当に何も変わって、居ないんだね……私という男は本当に……)」

 

それを理解するといかに自分が今まで小さくて馬鹿な事をしていたのかと思えてきた、改めて考えるとオール・フォー・ワンの事を考えるとナイトアイとはさっさと仲直りして共に戦って行く方が良いに決まっている。それなのに自分は意固地になって、気まずいからという馬鹿みたいな理由で彼から眼を背けて来ていたんだ。出久とマグナに自分も一緒に戦うと誓っておきながら……それにナイトアイはずっと自分の身を案じているんだ、想ってくれているんだ、心配してくれているんだ……今度は自分がそれに応える番だと心の中で呟く。

 

「(マグナさんまだお聞きになって居られますか)」

『ええ、何やら覚悟が決まったように感じられますが何かありましたか』

「(はい―――貴方の事を話す許可を頂きたい)」

『―――私が信頼してもいいと?』

「(はい、私の全てを以て保証いたします)」

 

その言葉にどれだけの決意などがあった事だろうか、そしてどんな事を齎すのかと問いかけるようなマグナの問いに凛とした言葉で返す。暫しの沈黙の後、返答が返ってくる。

 

『……良いでしょう、これからの事を考えると協力者がいてくれるのは素直に有難いです。出久君も私と貴方が良いというのならばと言ってくれています、その信頼に応えると誓えますね』

「(勿論です、談話室に居りますが此方に来れますか?)」

『問題ありませんよ、爆豪君はまだ寝てますが……此方は動けますので向かいますよ』

 

そこまでで会話を切ると足の痺れが途端に消えた、もしかしたらマグナがテレパシーと一緒にヒーリングパルスを送ってくれたのかもしれない。それに感謝しながら立ち上がるとオールマイトはマッスルフォームへとなりながら根津、グラントリノ、そしてナイトアイへと瞳を向けた。

 

「これから皆さんに重要且つ大切な話があります、そして同時にお願いがあります。これから伝える事を他言無用に願いたいのです、そうでなければ私は今すぐに退出します」

 

マッスルフォームの威圧感……ではない、そこにあるのは彼自身の真摯な心があった。こんな姿の彼を見るのは何時以来になってしまうのかと思いながらもただ事ではない話が待っていると3人は思いながらも迷う事無く頷いた。それはオールマイトへの信頼、信用、そして―――今までの事を踏まえた結果なのだろう。それらを見るオールマイトもそれが真実である事を感じて口を開いた。

 

「私は保須の巨人の事を以前より知っておりました、そして今彼は此方に来ます」

「何ですって!!?」

「此処に来るってもしかしてそいつは……」

「雄英生いやそうじゃないね、君の弟子なのかい?」

 

流石の頭の回転に感心しつつ頷こうとした時、談話室の扉がノックされた。オールマイトがその扉を開くとそこには普段とは瞳の色が違う出久が居た、それをすぐさま感じ取ったのは職場体験で彼を指導し続けたグラントリノ。続いて根津、そしてナイトアイだった。少年とは思えない雰囲気を纏いつつも綺麗な礼をしながら自己紹介を行った。

 

「皆様初めまして、私はM78星雲・光の国からやって来たウルトラマンマグナと申します。今は相棒である出久君の身体を借りてお話をさせて頂いています」

 

思わず、3人は硬直してしまった。まるで以前のオールマイトのように。そんな姿を見つつもマグナは微笑みながらどんなふうに説明をしようか考えるのであった。


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