談話室は奇妙な緊張感で満ち溢れていた、先程から一名追加で爆豪が目覚めた事で手が空いてリカバリーガールも合流。彼女もオールマイトへの説教を行おうとしていたのだがそこに広まっていた空間の空気に驚いてしまっていた。そこにいたのはソファに腰掛けながら一点へと集中するかの如く瞳を向け続けている根津、グラントリノ、ナイトアイ。それをオールマイトと出久は何処か苦笑いしながらリカバリーガールを手招きして彼らの近くに座り込んでいる銀色の存在へと驚きながらも改めて話が再開されたのであった。
「まさか、いや本当に……」
「宇宙人なんて一時期異形型への侮辱に等しかったが、それが目の前にいるなんてな……」
「―――っ……」
「長生きはする物なんだねぇ……」
と自己紹介が成されると思わず皆が言葉を漏らす中でホログラムに近い状態のマグナも何処か微笑んだ。ヒーロー達にとって最早幻想の彼方へと消え失せ、頭に浮かべる事も無くなってしまった宇宙開発の果ての果ての出会うであろう異星の者。保須の巨人とも呼ばれる存在が異星人という衝撃もある。故か根津が先陣を切るように言葉を口にした、僅かに震える声色を整えながら。
「それで貴方の事はマグナさん、とお呼びしてもいいのかな」
『構いませんよ、出久君にもオールマイトにもそう呼ばれてますからね。呼び捨てでも構いませんよ』
初めての言葉のやり取りに緊張していたのだろうか、ファーストコンタクトが上手くいったことに根津は感激しているのか身震いしながらも思わず背凭れに身体を預けてしまった。今の言葉だけでマグナの性格、人格、価値観などを感じて地球人と極めて近いかほぼ同じである事が分かった。それならば同じ感覚で話しかける事が出来るという確信も得られた。だが思わず力が抜けてしまったのだろう、まるでバトンタッチのようにグラントリノが質問をする。
「んじゃ気軽に呼ばせて貰うぜ。マグナさんよ、イズティウムが見て貰ってるっていう人はアンタで間違いないのかい」
『そうとも言えますね。今現在の私は出久君と一心同体になってますから、ですがオールマイトと出会ってからは一緒に指導したというのが正しいですね。ですので彼に対する怒りは収めてあげてください、貴方に話した指導は事実ですから』
「ちっ命拾いしたな俊典」
「せ、先生本当にご勘弁を……!!」
「本当に怖がってるんですねオールマイト……」
自分のフォローまでしてくれたマグナにはもう感謝を尽くしようがない、そこに続いてリカバリーガールがする。
「それじゃあ次はアタシがしようかね、体育祭の時にその子の身体に余りダメージが無かったのももしかしてマグナさんがやったのかい?」
『はい、私の技の一つであるマグナ・ヒーリングパルスで彼の疲労と共に傷を癒しました。当時は貴方の事も考慮して出力は抑えていましたが』
「そんな事まで出来るのかい……医学的にどんな効力があるのかも興味あるから是非ともその技を見てみたいね、今度お願いしてもいいかい?」
『お手柔らかに、私は本職ではないので』
そんな言葉に出久は思わず笑ってしまう、マグナとの間でよく聞く言葉の一つである本職ではない。そう言いながらも彼自身は尽力してくれるので自分達の側としては満足を超えた大満足しかない。それなのに当人は本職ならもっと行けるんだけどね、とこぼすのがお決まりになっている。光の国の本職、銀十字軍の方々はどれだけ凄いんだろうかと思いながらも話を聞き続ける。
「それでは次は私が、以前よりオールマイトの活動時間が奇妙に増えていると思っておりました。マッスルフォームとトゥルーフォームを上手く切り替えていると思っていましたがそれでも総合活動時間が6時間を超えているのは奇妙だと、それも貴方が」
「そうだよ。私も半年以上前からマグナさんのヒーリングパルスのお世話になっててね」
「オールマイトアンタ何やってんだい!!そういう事を医者の許可も無しにやるなんて何を考えてるんだい!!?」
マグナの凄さと如何に現代の平和に貢献してくれているのかと高らかに語ろうとするオールマイトへと炸裂する拳骨。平和の象徴から聞いた事もないような「痛ぁぁぁぁっっ!!!??」という声が室内に響き渡り同時に吐血する、それにマグナが透かさずヒーリングパルスを照射して痛みの抑制と傷の回復を行うのであった。それに目を見張りつつもみるみるたん瘤が消えていき、同時にオールマイトの体調も回復していくのか血色と肌の艶が良くなっていく事にリカバリーガールは驚いた。
「ど、如何ですかリカバリガールこれがマグナさんの凄さでして……」
「こりゃ凄いね……だとしても医者の許可なしにやるなんて言語道断さね!!まあ今回は見逃がしてやるけどその代わりアンタは後で精密検査だよ、ヒーリングパルスとやらがどの程度身体に影響するのか調べさせてもらうからね」
「お、お手柔らかにお願いします……」
医者として何かが疼いているのか目つきが鋭く輝きを放つリカバリーガールに圧倒されるオールマイト、まあ彼の身体の事を考えたらリカバリーガールの言葉は正論のそれであるので逆らえないのだろう。
『私の目的は先程も説明した通りにこの地球の調査でした、がもうそれ所ではないでしょうね。私が保須の巨人と呼ばれるようになった時に戦っていたあれは私と同じ異星人です』
「マジか……エンデヴァーの炎が利かねぇ訳だ」
保須にて直接ツルク星人と相まみえたグラントリノはそれを強く実感した、改めて考えるとあれらはヴィランとは全く別の存在のようにも感じられた。それが今ハッキリとした、あれもマグナと同じく地球のものではないという事ならば確かにそうだと。そしてそれに光の国の技術を悪用している、それを見逃がす訳には行かないし人々が危険に巻き込まれる事をウルトラマンとしては無視する事は絶対に出来ない。
「では、マグナさんはこれからも私達と一緒に戦ってくれると思ってもいいのかな」
『勿論です。私は出久君が一人前になるまで共に居ると決めていますからね、そして私もワン・フォー・オールに関わった者として尽力させて頂きます』
その申し出は酷く心強く有難い物だった、それを一番強く思っていたのは他でもないナイトアイだった。話をしていてマグナの力を受けてオールマイトがどれほどまでに変化を促された上に傷の痛みを和らげられ、前に進めるような心の余裕を作り出したのかと。そして同時に出久の存在にも目を向けていた、最初こそ認めるつもりはなかった、だが……
「じゃあ緑谷君の力は個性じゃなくてマグナさんの影響で身に付いたものなんだね」
「そう、ですね。本当に大変でしたけど色々と助けられて今こうして頑張れてます」
「恥ずかしがるこたぁねぇだろうよ、お前さんの力は俺が保証してやる」
笑いながら話をする姿は自分が定めていたワン・フォー・オールの継承先に相応しいと思っていた少年と姿が被る様だった。オールマイトが自分との蟠りを超えてくれたというのに自分はそんな彼が自分の意志で見つけた後継にまるで嫉妬してたかのようだった。それに恥ずかしさを覚えながら顔を上げながらある事を口にした。
「オールマイト、その……また以前のように手を取り合う事は出来ないでしょうか……」
「寧ろ私がそれを言うべき立場だよ、君の気持ちを考えず私は意固地になってしまって済まなかった……」
手を取り合いながら互いへの気持ちを吐露しながら素直に謝罪しながら、ナイトアイは涙を流しながら感謝をした。またオールマイトと歩む事が出来るという現実に嬉しさと未来を変える事が出来るかもしれないという希望、いや変えて見せるという意志を持ちながら。
―――さて次の実験だ、精々頑張ってくれよマグナ……。