終業式も近くなってきた雄英、そんな日々が近づこうが雄英生徒にとっては毎日はあまり変化はしないのである。今日も今日で授業があるので同じように登校して同じように授業を受けてヒーローを目指すだけでしかない、そんな時間を過ごそうとしていた出久はオールマイトから呼び出しを受けて談話室へと赴くとそこには何処か窶れてしまっているような姿になりつつお疲れ気味なオールマイトと眼鏡を輝かせているナイトアイの姿があった。
「オ、オールマイト如何したんですか凄い疲れてるみたいですけど……!?」
「ハハハッ……心配無用さ、ちょっと自分の不甲斐なさを再認識させられて凹んでるだけだから……」
『大方ナイトアイさんの指導が堪えているんだろうね、お世辞にもオールマイトの指導は良質とは言えないから』
「その通りです、故に私も全力且つユーモラスな指導を行い続けています。ですがまだまだ、これからも続けていきますのでお任せを」
ナイトアイは生き生きとした表情で当人にとっては死の宣告のような言葉を吐く、と言っても本人としては今までの確執がなくなったから望んだ関係を築け直せているのだからこれ以上に嬉しい事はない。故にそれを導いてくれた且つヒーローとして尊敬すべき先人であり恩人であるマグナに対してかなりの敬意を払っているのだと出久は感じている。
「では早速、先日木椰区にて出現したもう一人の光の巨人に付いて教えて頂きたい」
『成程。それについてでしたか』
保須の巨人と共に出現したもう一体の巨人、世間一般には木椰の巨人と呼ばれている。突然出現したそれらに対しても保須の一件もある為か世間は酷く好意的だった。保須の巨人ことマグナに対しての物が下地になっているのもあるだろうがゼッパンドンが明確にショッピングモールへと攻撃しようとしたり、避難中の人々へと攻撃しようとしていた事、それらからマグナと共に人々を守っていた事が決定打となっている。
「ウルトラマンオーブ……酷く神秘的な響きですね」
「確かに、なんだかマグナさんとは別な印象を抱かせますな」
『彼は光の国とは無関係の別の出身ですからね、そう思うのもしょうがないかもしれませんね』
「「「えっ!!?」」」
マグナの言葉に思わずその場の全員が驚いた、それも当然かもしれない。ウルトラマンという存在は光の国の住人であるというのが共通の認識のだから、出久も出久で別の世界のウルトラマンの話は聞いた事はあるがそれは別の世界の光の国のウルトラマンなんだという認識であったので余計に驚かされてしまった。
『一口にウルトラマンと言っても様々な出身があるのですよ、そして力の出自などは殆ど意味はありません。平和のために戦う戦士、それがウルトラマンなんですから』
ウルトラ兄弟の一員として数えられるウルトラマンレオ、アストラ。この二人とて光の国の出身ではない、獅子座L77星が本来の出身地。ウルトラマンという言葉を指す者は非常に広い、だがそれ故にその名前には多くの重責が付き纏うのである。その名を名乗る事自体が名誉であるとも言えるっとマグナは考えている。
「その木椰の巨人、いえウルトラマンオーブの事もあっての事なのですが大規模な組織編制、対超大型ヴィラン想定ヒーロー編成組織への関心、編成が一気に加速しています」
「それってマグナさんの世界で言う所の防衛隊……って事ですかね」
『そうだろうね』
ツルク星人の一件で対超大型ヴィランへの警戒は一気に広まり、今回のゼッパンドンの事でそれらが従来のヴィランとは全く異なり今までのヒーローでは対処しきれないのではないだろうかという見方が強まっている。その中には得体の知れない巨人に守られ続けるのは危険だからという意見もあるらしいが……兎も角、従来のヒーローを警察に例えるならば軍隊として役割を担うヒーロー選抜、特殊な装備などを許可した上で対処出来るようにしたいという事らしい。
「私が以前雄英を訪れた際の本当の目的、それはオールマイトにその組織のオブザーバーとして参加して頂けるように話を通して貰いたいと依頼を受けてからなのです」
「オ、オールマイトに!?」
オブザーバー、会議などにおける発言権のない傍観者などを指す言葉。第三者としての意見を求められ、独自の視点から意見を述べたりする事になるのだろう。ヒーローとして経験が豊富でアメリカなどで日本よりも強大なヴィランとも交戦経験があるからこそ求められているのだろう、が―――
『オールマイトに務まるのですかそれ』
「「マグナさん!?」」
「仰る通りです、私もお伝えしようとした時にそれを痛感し言葉を控えたほどです」
「「フォロー皆無!?」」
「『じゃあ務まると?』」
遠慮なしの全力ストレートな言葉に出久とオールマイトが思わず声を上げるが有無を言わさんと言わんばかりに務まらないでしょうねと断言するナイトアイに二人は絶句するのだが改めて問われると確かに納得せずにはいられなかった。
「ですので私が様々な事を叩きこんでいるのです、遅かれ早かれ必要な事ですしこの先も同じような事が起きるのであれば話が来るのは間違いないでしょう」
『確かに……でしたら本格的に発目さんに話を通さないといけないかもしれませんね……』
「嗚呼っマジですかマグナさん……」
『マジだよ君だってわかってるだろう出久君、あの子は仮にも超獣の強化個体に一定の成果を上げる一撃を即興でやってのける程だよ……』
それを聞いてナイトアイとオールマイトは思わず顔を見合わせるのだが、試験前にあった事を伝えると酷く驚いてしまった。
「は、発目少女君は……!?」
「確かに彼女の技術はブレイクスルーを次々と引き起こしかねない物ばかりでしたが、彼女は既に異星人とコンタクトを……!?」
『一応言っておきますが、発目さんと共に居る方は友好的な方ですので……そして技術面については私としてももう頭が痛い程ですよ……いやもう怪獣云々よりも彼女の方が色々とやばいと申しますか……』
「その辺りは本当に凄いですよね発目さん……クォリティとか凄いんですけどなんかもう……でも安全性とかは大丈夫ですよ僕の身体で実証済みですから」
目が死んでいる出久の言葉に二人は全てを察して素直に彼が気の毒になってきた。特にオールマイトは日々発目に追いかけられたりサポート科のパワーローダーから出久に応援を求めたり授業中に出久の名前が頻繁に出たりするという話を聞いたりしている。発目はウルトラマンと共に居る出久のデータとそれらを基準にしつつ発明を進歩させたい、出久は出久で発目の犠牲者を増やしたくないという事で協力している。
「……実は巨大化個性を持っているMt.レディの装備開発を委託したいという意見もあったのですが、取り下げるように言った方が良いでしょうか」
『必要になりそうだから何とも言えませんね……お目付け役がいるならいいんでしょうけど彼女を抑えられるのっているんでしょうか……下手したら私か出久君位なんじゃ……』
「い、いやでも彼女だって平和の為に貢献すると分かればきっと自制やらしてくれるはず……」
「オールマイト、自制する人が同級生目掛けて光子砲を躊躇なくブッパすると思いますか?」
「緑谷少年せめて君はフォローする立場なんじゃないのかい!?」
『いや一番の被害者は彼ですから』
平和へと向かって少しずつ歩み始めようとする世界の裏側で行われる話し合い、それが迎える最終的な結論とは一体どんな物なのだろうか……。
―――それじゃあこれは好きにさせて貰うよ、感謝する。
闇の中で嗤うそれが見つめる先にあったのは……不気味に輝く黒い闇色の……瞳。それは小さく呻くと歪んだ笑みを湛えながら声を上げた。
―――楽しみだ、実に楽しみだ……そう思わないかい、オールマイト……!!