翌日の午前5時半、前日の疲れもたっぷりの睡眠などによって疲れも十分に取れたA組は早朝に全員集合していた。何処か眠そうな所もあるが、これから始まる合宿を楽しみにしていたからか全員士気も高い。手始めとして身体能力把握テストにて行われたハンドボール投げを爆豪が行う事になった。入学から3か月、USJやら体育祭やら職場体験などで自分達も成長している、さぞかしとんでもない記録が出るんだろうと皆が期待する中で爆豪が叩き出したのは709.6m、ハッキリ言って期待外れに近い結果。
「確かに君達は成長したことだろう、3ヶ月間様々な事を経験して成長しているのは確かな事だろう。だがそれは主に精神面や技術面、後は体力面が少々と言った所で個性そのものは今通りで成長の幅は狭い。今日から君達の個性を伸ばす、死ぬほどキツいが……くれぐれも死なないように―――……」
其処までにきつい事がこれから先に待っている、という事に全員が思わず喉を鳴らした。死なないように気を付けなければいけない訓練がこれから待っている……。特に出久は自分に待っているであろう試練に震えてしまう、何せ個性とウルトラマンとしての力を同時に鍛えるのだから。
「それじゃあ早速始めるぞ」
と相澤が言葉を切った途端にその隣に4つの影が降り立ってきた、一糸乱れぬ動きで降り立った影に思わず全員が身構えた。現れたのは……。
「煌めく眼でロックオン!!」
「猫の手、手助けやって来る!!」
「何処からともなくやってくる……!!!」
「キュートにキャットにスティンガー!!」
『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!!』
と先日マンダレイとピクシーボブが行ったポーズに二人を加えた本来のフルバージョン、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの本来の状態とも言える。一人だけ、女性たちの中に屈強な男性である虎が混ざっている事については恐らく突っ込んではいけないのだろう、多分きっと恐らく……そして欠伸をしつつ登場したガイもそこに混ざると説明が始まった。
「それでは詳しく説明する。筋肉は負荷をかけて壊し、超再生させる事で大きくなるように個性も同じように負荷をかけ強くなる。故に林間合宿ではそれぞれが個性の限界を突破する事で更なる個性の強化を図る。限界を超えて鍛えるんだ。それでは皆さん、宜しくお願いします」
いよいよ始まろうとする林間合宿、それぞれが個性に合わせられたメニューが準備される中で出久はガイに手招きされて森の奥へと足を踏み入れながら説明が行われる事になる。
「お前さんも分かってると思うが今回の合宿では個性とウルトラマンとしての力、マグナさんから貰った物を同時に鍛えて貰う事になる。端的に言ってきついから覚悟しておけ、俺はマグナさん程優しくはないからな」
「はっはい宜しくお願いしますガイ先生!!」
「先生か……何かむず痒いな、ガイでいいぞ」
「はいガイさん!!」
こうして始まった林間合宿での特訓、それらに遅れるように合流しその光景を見たB組の皆は言葉を失いながらもこれから自分達もこれらを行うのかと……と思いながら突如として空から降ってきた鉄の塊に驚愕した。
「うわぁっ何だ鉄哲か!?」
「うぉい俺は此処にいるぞ!?」
「んじゃなんだ!?」
「人デース!!」
突然空から降ってきたそれは人間の形をしていた……というよりも人間が鉄の塊を纏っているに等しかった。それは嘗て出久が雄英入学前に纏っていたテクターギアの改良型。個性因子に同時に負荷を与えつつも出力を身体能力と共に抑制するという物で今の出久はそのままでは満足に動けず、出力制限されているフルカウルで身体を強化しなければ歩く事も儘ならず、光線どころか光弾すら容易に打ち出す事が出来ない。
「ウォォォリァァアア!!!」
「グゥゥゥゥゥッッッ!!!」
そんな出久へと向かって森の木々から飛び出した影が太陽で目晦ましを行いながらも凄まじい勢いで蹴り込んできた。咄嗟に起き上がりながらガードを固める出久、防御するがその際に生じる異常なまでの衝撃波と風圧はB組へと襲い掛かってしまう。小柄な者は思わず吹き飛ばされ、大柄な生徒でも飛ばされそうになる程のそれらに驚愕する。
「何だぁぁこりゃああ!!?」
「どういうぶつかり合いだこれぇぇ!!?」
「んっ……おっと悪い悪い気付かなかった、出久5分休憩な」
「は、はいぃぃぃっっっ……」
倒れこむように休憩に入る出久を見ながらも耳を疑った。倒れこむ際に凄い音が立つ光景が広がっているのだから、あの鎧は一体何キロあるのだろうかという疑問が担任のブラドを含めた全員へと走ってしまった。そんな不安を他所にガイは挨拶をしながらブラドへと握手を求める、求められたそれを取りながらも挨拶をしながら今何をしているのかを尋ねてみる。
「貴方が噂のクレナイ・ガイさんですね、今は何を?」
「ああ、出久の個性強化訓練だけど?」
「いや先生が聞きたいのはそういう事じゃなくてその、その鎧の事とか……」
「ああそっちか」
出久のメニューは個性のMAXを制限した状態で全身に負荷を掛けた状態での常時組手、可能であれば自分に出来る事を全て行っていいというルールの下でそれを行い続けている。全身に拘束具を纏いながら行う事で体力と判断力などなど実戦で求められる全てを一気に鍛えるメニューとなっている。
「ち、因みのそのテクターギアってどのぐらい重いんですか……なんか、緑谷が倒れた地面が凹んでるですけど……」
「そりゃ50キロあるからな」
『50キロぉ!!?』
「ぐぅぅぅ、ぅぅぅうううおおおおお!!!!」
地面に腕を突き刺しながら声を上げながら立ち上がる出久、それだけで皆は言葉を失う。単純に50キロを持ち上げろなんて言われたら出来ない者も多いのにそれの重さが全身を包み込むように圧し掛かってくる。しかも個性の出力も抑えられてしまっている上に肉体面の力も制限される、本当の意味で全力を出さなければ動く事も出来ない状況にある出久。倒れこんだ状態から立ち上がるだけでも一苦労。
「動けます、ガイさん……!!!」
「よしっんじゃ続きやるか。それじゃあ後でB組の方も回りますんで、行くぞ出久!!」
「はいっ!!」
と目の前で組手を再開される、先程の重々しく動けない様な状態から一転して空気が変わり跳躍したり乱打戦を繰り広げたり転げ回って回避したりと本当に50キロもあるギアを付けているのかと疑問に思いたくような光景が広がり続ける。が、それ以上にガイの実力にも驚かせるばかり。
「シュウワァ!!リャアアアア!!!」
「ン"ン"ッ!!シェェエア!!」
「ォオリィィィヤアアア!!!」
出久の体重を考慮したら100キロは越えるだろうそれを掴んでジャイアントスイングで空高くぶん投げ、そこから体勢を立て直しながら空中に浮かんだまま発射される光弾を避け続けながら木で高さを稼ぎつつも跳躍、飛び蹴りで出久を蹴り落とすという人間離れした技を披露しながら10メートルはくだらないだろう位置から平気そうな顔で着地して撃墜した出久へと追撃を掛けるガイ。ヒーローでもあんなことは出来る人間はそうはない。
「如何した出久こんなもんか!!それでもあの人の相棒か!!?」
「まだ、まだぁ!!フルカウル、うおおおおお!!!」
「いい叫びだ!!」
発破を掛けられた事で勢いに乗ったのか、更なる出力で個性を発動させながら一気に突進してくる出久。そしてギアの重さを活かすようにしながら攻撃を加えようとするがガイはそれをあっさりと受け流しながらカウンターで深々と拳を突き立てた。
「ゼロさんとセブンさん譲りの指導はまだまだやってないぞ、此処でやめるか!?」
「止め、ない!!」
新型テクターギア。以前マグナとオールマイトが出久を見ていた際に使用していたテクターギアの改良型。I・アイランドにて更なる改修が施された結果、個性に負荷を掛けつつも出力制限を行う事が可能になった。
これを使う事で肉体面の強化と個性強化に適したものとなっているが重量も50キロとパワーアップしており使える人間は限られている。