緑谷出久はウルトラマンと出会う。   作:魔女っ子アルト姫

75 / 232
夕食と対話

「さあ昨日のうちに言っておいたからこれからする事は分かってるね~!?」

「己が食う飯位は自分で作れ~カレー!!」

『イェッ……サ……』

 

日も大きく傾き始めた夕暮れ、夏なのでまだまだ日の光はあるがそれでも暗くなってきたのは事実。夕暮れ時にその日の特訓は終わりとなってそれぞれが食事の準備をする時間となったのだが……皆、特訓の厳しさ故か元気がなく疲れ切っている。声にも覇気がなく肩を落としていた。

 

「キャハハハハ、全員全身ブッチブチ!!だからって雑なねこまんまは作っちゃダメね!!」

「確かに……災害時など避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一貫……流石雄英、無駄がない!!世界一うまいカレーを作ろうじゃないかみんな!!折角ならとびっきり美味しいカレーを!!」

「オ……オォー……」

「(飯田便利)」

 

とラグドールの言葉一つで皆を導こうとする意志と意図を見出して元気を出せる辺り、飯田は他人を牽引する才覚があると言わざるを得ないと思いながら素直にこんな時に場面進行を行える飯田を便利だと思う相澤であった。そして調理が始まっていく、調理場にはガスなどはなく自力で火を起こさなければならない―――のだがその辺りは個性で何とか出来るので苦もない。

 

「流石轟~!!こっちもお願い~!!」

「芦戸君、轟君に頼りすぎるのはよくないぞ!!」

「いや、いいさこの位……」

 

焦凍は手に浮かべた炎をそっと薪へと移し、そこへ新しい薪を焼べる。彼の中での個性の在り方というのもかなり変わってきているのか炎に対する忌避感という物は薄れている、そして何より友達の笑顔の為に個性を使えているという事実に僅かながらの微笑みを浮かべている。そんな変わってきている自分に自覚があるのか、少しばかり驚きながらもこれはこれで悪くないいや、寧ろ良い事だと思いながら友達の為に個性を使うのであった。

 

「緑谷、お前光線で火付けられるんじゃね!?」

「いや大袈裟過ぎない、出力ミスったら爆発しかねないよ」

「いいからやってみてくれよぉ!!」

「しょうがないな……」

 

ガイとの訓練で出久自身もヘトヘトなのだが、全身疲労で完全に動けなくなってしまっていたのでマグナがある程度まで回復させてくれたので動けるようになっている。一応光線も撃てる程度には回復しているが流石にそれで火をつける経験なんてない、上手くいく保証もないが折角だからチャレンジてみようと「シェアッ!!!」とスペシウム光線を発射。疲労の影響もあってか僅かな火花が散る程度だったがそれが上手く着火したのか火を点けられた。

 

「おおっやれるじゃん緑谷!!」

「いやでもあんまりやりたくないかな……意外と光線って疲れるから……」

 

そんなやり取りをしながらもワイワイ賑やかなカレー作りは進行していくのであった、途中火加減の調整に苦戦しているとガイが混ざってやり方を教えたりと言った事をしたりしているとあっという間にカレーが完成した。矢張り日本の国民食はそれぞれ好みのカレーや特色がある家庭がある、故に今回は野菜ゴロゴロのカレーとなった。育ち盛りにとって野菜ゴロゴロであったとしても空腹のみであればバグバグ食べてしまうもの。

 

「うおおおおおっっ疲労と空腹に自分で苦労して作ったカレー超染みるぅぅぅぅ!!!」

「超絶うめぇぇぇ!!店のカレーとは違ったうまさだこんちくしょおおおお!!!!」

「ドリンクにラムネいる奴いるか~、レモン果汁入りだからカレーにあうぞ~」

『頂きます~!!!』

「というかガイさん凄いラムネ推し……」

『昔咄嗟の言い訳で子供達にラムネのお兄さんだよって言う位だしね。筋金入りだよ』

 

そんな事をしつつもガイは皆に断るとカレーを少し貰って行くと何処かに歩いていった。それを見送る出久は森の奥へと消えていった先に先程プッシーキャッツと一緒にいた少年、洸汰が歩いて行った事を思い出した。思えば彼は自分達にはいい顔はしないが何処かガイには対応が柔らかい気がした。

 

「おい緑谷食わねぇのか?だったらその皿寄越せぇぇ!!」

「駄目だって僕だってお腹ペコペコなんだから!!」

 

 

「よおっ洸汰、腹減ってるだろ。カレー食うだろ」

「……」

「ほれっ」

 

鬱蒼とした森を抜けた先にあったのは小さな洞窟と崖、そこから満天の星空と山々を見つめる洸汰に追いついたガイは分けて貰ったカレーを差し出す。気に入らなそうだがガイからという事もあったからか受け取ると食べ始める。それを見ると隣に座りながら共にカレーを食い始める、小さな鍋に分けて貰ったからお代わりあるからなと言いながらも本人もかなり食べている。

 

「んっイケるな、結構才能あるかもな」

「……」

「やっぱり気に食わないかヒーロー目指すあいつら」

「……ああ」

 

とぶっきらぼうに応える洸汰。彼は雄英生どころかヒーローそのものに対して良い感情を抱いていない―――いや抱けない。彼の両親もヒーローだった、だが……ウォーターホースはヴィランによって命を奪われてしまった、それが余りにも大きく影響し今の洸汰を作り上げている。それ故かプッシーキャッツにもいい顔をしないのにガイに対してはある程度心を開いているのは彼がヒーローではないから。

 

「そうだろうな。訳解らないよな、あいつらは自分から危険な世界に飛び込もうとしてるんだから意味分からないよな」

「……目立ちたいだけだ。自分の力を、個性をひけらかしたいのかよ……」

「そう言う奴もいるだろうな、ヒーローは目立つからなぁ」

 

ガイは自分の言葉を全く否定しなかった。寧ろ肯定するような言葉を掛けてくれる、自分の考えを、思いを受け止めてくれるような感覚がして心地良いような気がする。酷く器が大きく否定もせず話を最後まで聞いてくれる……そんなガイに憧れに近い何かを抱いているのかもしれない。

 

「でもこんな奴もいるだろうな」

「……どんな奴」

「大馬鹿野郎さ」

「……ハッ?」

 

思わず聞き返してしまった。大馬鹿野郎、とガイは大笑いしながらそう言ったのだ。

 

「覚えときな洸汰、世の中には自分の事なんて顧みずに誰かを助けちまうなんて大馬鹿がいるんだ。だけどな案外そういうタイプの奴が世界を変えちまうのさ」

「なんでだよ、馬鹿なのにどうやって世界を変えるんだよ」

「そこに打算、つまり助けて何かを得ようなんて思ってないからだ、だからこそ人はそれに惹かれる。だから次に他に人に親切にしよう、出来る範囲で手伝いをしてあげようって気持ちを作り上げるのさ。あの中だと出久がそうなるな、何時か分かる日が来る」

 

そう言い残すと少し強めに頭を撫でてから去っていってしまった、残された洸汰は言葉を失いながらも唯々カレーを口へと運び続けていた。自分の中にあった何かが大きく崩れて全く別のものが生まれたような気分だった。

 

「わかんねぇ……」

 

 

「あっそうだ出久、明日の訓練はもっときつくなるから覚悟しとけよ」

「ウェッ!?あれ以上にきつくなるってどんだけやばい事になるんですか訓練!!?」

「そうだな……闇を抱いて光になる感じ?」

「いやどういう事なんか全然わからないんですけどぉ!?というかなんかそれ若干矛盾している気がするのぼくだけですか!?」

『ああっ遂にあれが来るのか、頑張れよ出久君。明日は本当に気張って行かないとマジでやばいかもしれないよ、ヒーリングパルスの準備はしておくから』

「(何それ怖い!!?)」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。