「緑谷ちゃん、なんだかいい顔をしてるけど何か良い事でもあったの?」
「顔に出てる?」
「ええっとってもいい顔をしてるわよ」
夕食の準備へと取り掛かっている時の事、隣で同じように食材を切っている梅雨が話しかけてきた。周囲が合宿の疲労が出始めてぐったりとして来ているのもあるだろうがこの合宿で大きな手ごたえを感じる事が出来た明るい表情はかなり目立っているらしく彼女に言わせればいい顔をしている、との事。
「うん。僕オリジナルって言っていいスタイルを見出す事が出来たんだ」
「緑谷ちゃんオリジナルって事は今までは参考にしてた人がいるのね?」
「前まではオールマイトの戦い方を参考にしてたんだ、パンチとかを主体にする感じ。でもガイさんと戦ってる時にちょっと切っ掛けを貰って、そっちにシフトしてみたら思った以上にガイさんに通用したんだ。だからこれからそれを研究してみようって事になったんだ」
コスモススタイルは良くも悪くも衝撃的だった。元々はオールマイトを連想させるような圧倒的なパワーを誇るサンダーブレスター、それに対抗する為にパワーを受け流す事でダメージを抑えつつもカウンターを狙うのが目的だったのがそれを主軸に据える物へと転じようとしている。流石に突然スタイルを変えるのは危険も伴うので暫くは今までのスタイルに組み合わせて徐々に転換させていく事になった。
「ケロケロ、でもよかったわ。緑谷ちゃんが無茶な事をしなくなったのは」
「やっぱりそう見えた?」
「私、思った事をハッキリ言っちゃうから言っちゃうけどあんなことがあったのに同じ訓練に向かい続けるのは異常に映ったわ」
素直に突きたてられた言葉に出久は第三者からしたら確かにそう見えてしまうのかと思案顔になり、マグナはまあそうだろうなぁ……と納得する。ウルトラマンという個性以上に超常的な存在を知っているのは僅か、皆から見れば出久のそれは生き急いでる行いでしかない。何故そこまで焦るのか、確かに合宿での集中訓練は1週間しかない、そこで伸ばせるだけ伸ばしたいという気持ちは分からなくはないが……それでも行き過ぎていると感じられる。
「緑谷ちゃんはもう強いと思うの、体育祭で轟ちゃんに勝って爆豪ちゃんとあそこまで戦えていた。今からプロに行っても活躍できると思うの、だからこれ以上強くならなくてもって思う。知識を付けたり、誰かを導こうとする事を優先しても良いと思うの。寧ろそうしたらきっといいリーダーになれると思う」
紛れもない本気、それは単純に出久の強さを知っているからではない。USJでエレキングに襲われた際に出久はあれだけ強大相手にも恐れる事もなく自分に出来る事を全力で勇ましく行い続けた。それは人々の精神的な支柱に成り得る力の在り方でもある。
「ウチも、そう思うんよ」
「麗日さん」
それに同意したのは野菜を洗い終わった麗日だった、彼女もそれ強く感じている。それは合宿前の買い物でも色濃く表れているように思えた、あの時に出現したゼッパンドン。その圧倒的な存在に飲まれて逃げる事を考えていたのに出久は逃げ遅れていた子供の元へと迷う事もなく駆け出していけるような勇敢さがある、それは何が出来て何をするべきなのかを見据えられていたからだと強く感じている。ヒーローにとって自己判断の素早さは重要だと授業で言われている、出久は出来ているのにまだまだ強くなろうとする。出来る事の幅を伸ばすのではなく、単純に更に自分を大きくしようとしている事が疑問だった。
「昨日は特にそれを思った、ガイさんとあんな事になってて……聞いても、その大丈夫?」
「……大丈夫ではあるよ、でもちょっと難しい質問だねそれ」
洗われた野菜を手に取りながら包丁で皮を刮いで行きながら言葉を紡ぐ。
「僕は単純に理想とするヒーローになる為に必要だと思ったから……かな」
「デク君の理想って……オールマイト?」
「う~んちょっと違うかな、オールマイトは僕にとってはヒーローを目指すオリジンで憧れだけど理想のヒーローは別の人なんだ」
「初耳だわ、緑谷ちゃんってばオールマイトの事を嬉しそうに話したりするからそう成りたいとばかり思ってたわ」
ある意味それはカモフラージュ的な側面がなかったとは言い切れない、自分の理想は―――ウルトラマンマグナなのだから。だがその人の事を話す事は出来ないので元々の憧れであったオールマイトの事ばかり話していると言った方が正しい。オールマイトの事をリスペクトしていない訳ではない、だが目指しているのはマグナ、それだけなのだ。
「その人が見てる世界って本当に広いんだ、素晴らしい事だけじゃなくてどうしようもない理不尽も潜んでる。平和を守るためには努力を欠かしちゃいけないんだよって。だから僕は頑張り続ける、一歩一歩出来る事をこなし続けていったら何時か振り返った時の景色を見たいから」
迷いも戸惑いもない輝くような笑みに二人は抱いていた言葉を取り下げる事にした、唯悪戯に自分を苛め抜いて成長しようとしていたのではない。それが分かっただけでも答えを貰えたに等しい。ガイとの過剰にも見えた組手も階段を上る為の必要な事だった、その階段を登り切って出久が振り返った時に広がっている光景はきっと本当の平和に通ずるのだろうか、それを見てみたいと二人は心から思う。
「それにガイさんのあれは本当に意味があったからね、オールマイトみたいな超パワー系ヴィランに対する戦法の確立にもなったしもう一回オールマイトと戦ったら多分良い所まで行けると思うよ」
「フンッ無駄にでかく出やがったなクソデクが」
そんな言葉に反応したのは試験で共にオールマイトと戦った爆豪。その言葉に偽りはねぇだろうなと言わんばかりの鋭い瞳に出久は勿論と凛とした瞳で迎え撃つと僅かに愉快そうにしつつも忌々し気に鼻を鳴らした。
「だったらそん時思いつけやクソが」
「いや面目ない……」
「合宿終わったらオールマイトにもう一戦申し込むぞ」
「いいね、負けっぱなしなんてカッちゃんの性に合わないもんね」
ったりめぇに決まってるだろクソが!!!と叫びながらも超高速で野菜を手元を見ずに刻んでいく爆豪。本当に多方向に優れた才能マンだと言わざるを得ない、母にご飯を作るのを手伝えと言われてなんだかんだ言いながらも手伝っていたのだろうか。出久の脳裏には互いに罵り合いながらも調理を続けていく爆豪親子が過ってありそうだなぁ……と思うのであった。
「緑谷、そん時は俺もオールマイトに挑んでも良いか」
と声を上げたのは焦凍であった。
「俺もオールマイトに見て貰いてぇし、№1の立場から親父を見てたから対処方法とかを体験して炎を伸ばせるかもしれねぇ」
「成程、そういう考え方もあるね」
「ついでに俺もお前と一緒にタッグ組んで戦ってみてぇし、体育祭の時の炎とお前の光線の合わせ技ならオールマイトにも通用しねぇか?」
炎を纏った光線、それを聞いてマグナにこっそりと聞いて見るとウルトラマンの中には炎を主軸にする者も居る事を聞く事が出来た。その場合は熱線や火球だったりする。だがその分威力は申し分なく光線としての側面を持つのか水の特性を持つ光線と互いを打ち消す事もなく寧ろ威力が上がるという事もあったらしい。それを含めると爆破よりもシナジーを組みやすいのではと思った時、爆豪が焦凍にかみついた。
「おい半分野郎何勝手に決めてんだクソデクと俺でオールマイトにリベンジすんだ邪魔すんな!!」
「邪魔なんかしてねぇだろ、その機会があったら俺も混ぜて欲しいって言ってるだけだ」
「邪魔でしかねぇわ!!!」
爆豪としてはその時と同じでなければ雪辱を果たす事が出来ないから邪魔するな!!と言いたいのだろうが何処か出久と共に戦う事を楽しみにしているような節があり、梅雨から良かったわねと声を掛けられ少し照れてしまう。確かにこんな風に彼から望まれるなんて事はあり得なかったなぁ……そう思いながら夕食の準備を進めた。そして夕食後、飴と鞭の一環として行われたクラス対抗肝試しにて―――それは起こった。
「あれはっ……!!くそっ出久俺は洸汰を探しに行く、任せていいか!?」
「分かりました!!」
『ゼッパンドンの時点で予測しておくべきだった、まさかこんな事があるなんて―――!!!』
出現したそれは叡智の結晶末に悪魔が混ぜられ生まれた怪物……限りない悪意が創造してしまった科学が辿り着いてしまう極致の一つ……。
―――ベリアル、宇宙ロボット、シヴィルジャッジメンター。
―――さあ、貴様の命日は今日になるか試してやる。来い、ウルトラマンマグナ!!
遂に登場、オリジナル……とまでは言えないけどその要素を持った怪獣のエントリーだ!!キングギャラクトロンの強化を目的にこんな感じになりました。
名前については、陛下が映画・ベリアル銀河帝国で変身したアークベリアルから取りました。悪くないネーミングなんじゃないかなぁと少し思ったりしたり。