思わぬ再会、それは唐突に訪れるという話を聞いた事があるが真だったのかと目を丸くした。現れた二人は世界中の研究者・科学者の集まる学術人工移動都市 I・アイランド、そこで最高峰の研究者と称されオールマイトの親友でもあるデヴィット・シールド博士とその娘でありながら自身も優れた技術者でもあるメリッサ・シールドであった。以前オールマイトの誘いで向かったI・アイランドで起きた事件ではお互いにお世話になった。
「でもどうして此処にお二人が……?」
「色々事情があってね」
「しかしまたお会いできるとは……実に光栄です」
「本当ね、また逢えて嬉しいわメリッサさん」
「ええ私もよ」
開発工房へと入りながら話を聞いて見る、飯田達もI・アイランドでお世話になったシールド親子との再会を喜んでいる。
「しかし緑谷君、君も大変だね……I・アイランドにも周囲の目や迷惑を気にしない類の研究者はいるのだが雄英にもいるとは……しかもそのブレーキ役を担っているなんて……」
「僕がやらなかったら発目さんは誰に目を付けるか分からないですから……」
完全に死に絶えた瞳を見てこれまでして来た苦労を察する。この雄英で起きる爆発や爆音の6~7割は発目という女子生徒によるものだという話は昼食時に聞いたがそこに関わっている出久の事は完全にノータッチだった。此処にいる間は彼女を出来る限り止めて欲しいという事をお願いされたのだが、これは予想以上に気合を入れる必要があるらしい。そんな出久にデヴィットはひっそりと雄英に来る意味を伝える。
「例の一件でI・アイランドは甚大な被害を被っただろう、そして神野区での一件もありI・アイランドは全面的に対超巨大ヴィラン組織への参加が決まったんだ。それの参加と身の安全の確保の意味もあって雄英でお世話になる事になったという訳さ」
「な、成程……」
「それと―――マグナさん、またお会い出来て光栄です」
『此方こそ』
と挨拶を終えると改めて宜しくと述べてからの握手でカモフラージュをしておく。I・アイランドでの一件もあってシールド親子はマグナの事を知っている、というか二人を守るために目の前でマグナに変身したので誤魔化しが利かなくなったとも言える。
「おっとそっちの子達はお初だね、騒がしくて悪いね。ようこそ工房へ、イレイザーヘッドから話は聞いてるよ、コス変の話だったね」
「興味あります是非とも私にも絡ませてください!!」
「発目さんには是非とも僕のコスチュームのデータの修正をお願いしたいな今回の必殺技開発で前に言ってたコスモススタイルのデータ取れたからそれに関する調整とかお願いしたいからこっちに集中して貰いたいなぁ!!」
「おおっ何時になくやる気と私を頼って下さる発言にやる気がむんむん湧き上がってくるじゃありませんか良いでしょうやりましょうやりましょうコスモススタイルでのデータも興味ありますしついでに新しいアタッチメントに関するご意見も是非是非お聞きしたいんですよさあさあ早速調整に入りましょうハリーハリーハリーハリー!!!」
「という訳だから麗日さん達はごゆっくりどうぞ」
工房の一角に連行されていく出久は穏やかで明るい顔のままだった、もしも発目が関わっていたらという不安もあったがそれも解消された……がその代わりに罪悪感が凄まじく圧し掛かってくる。
「普段から出久君はあの、あんな感じなんでしょうか……?」
「ええ、自分以外だとまともに発目の実験に耐えられない事を良く知ってるからこそ自分を犠牲にしてるんですよ。まあそのお陰で彼さえいれば発目も騒ぎは起こしますが問題は起こさないんですよ……その代償が彼ですが」
思わず向けられた視線に麗日達は頷いた。異常な程に自分本位、だがその自分本位に耐えうる肉体と興味をそそられる個性を持つ出久は最上の組み合わせとも言える。発目の発明によって出久は自分の力を高められる、そして発目は出久から齎されるデータを使う事で更なる発展へと至る事が出来る。尚、そこで発生する当人への負担は考えない物とする、という前提があるが。
「発目さんこれだと取り回し悪くなりすぎない」
「そうなんですよ軽量ではあるんですけど大型になりすぎて取り回し自体に難があるんですよねぇ何か良い手ありませんかね流石に何時までもエネルギー方面一辺倒だと芸がないじゃないですか」
「う~ん……弦の部分だけをエネルギーにするとかどうかな」
「―――緑谷さん貴方天才ですか思いつきもしませんでしたよ」
「いや発目さんに言われても嫌味にしか聞こえないんだけど」
絶妙なコンビの二人、だが実際発目の発想力と技術は既にかなりのレベルにまで高まっている。防衛組織の技術部門へのスカウトも本気で検討されている程、その審査も雄英に行くついでに頼まれているのだが……これはやりがいがあるなとデヴィットはニヤリとしながら声を掛ける。
「……そこの場合は数値を全体的に4上げてから、各部を0.9下げる必要があるね」
「―――っ!!おおっ一気に安定してきましたよ流石はデヴィット・シールド博士何という事でしょうか一瞬画面を見ただけで瞬時にデータを理解して必要な計算まで済ませてしまうなんて素晴らしいという他ありませんよムムムッしかし緑谷さんは渡しませんよこの方は私の大親友兼大事な協力―――いえ実験相手なのですから!!」
「だからなんでそこを言い直すかなぁ!!!」
「嗚呼っやっぱりいりますかさっきの押し倒されだと足りませんよね?」
「だから僕を本当になんだと思ってるの!!?」
「お、思ってた以上に大変そうやったねデク君……」
「全くだ……まさかこんなにも発目君がアグレッシブだったとは」
「あれで助けられてると思うと何も言えないわね……」
発目のハツラツっぷりは以前教室に来た時に知っていたつもりだったがそれでは足りない位だった、ほぼ毎日あのテンションに巻き込まれていると思うと出久の苦労は測り知れないだろう。加えて出久が断ればその矛先が何処に向くのか分からなくなる、なので安易にやめた方が良いとも言えない……唯々感謝の念を浮かべているとメリッサは笑みを浮かべながら自分達に向かい直る。
「さあ出久君の厚意に甘えながら貴方達の事も済ませちゃいましょうか、それに何だかんだで出久君は嫌だとは言ってないわ。あれはあれで楽しいのかもしれないわ」
「あ、あれでですか!!?」
「まあ限度は必要だけど分かっていて引き受けてるのよ」
そう言いながら3人のコスチュームの取扱説明書を受け取りながらコンソールに触れて行く。突然身体に装着されていくアタッチメントに驚いて声を荒げながらも出久の声に拒絶の色はない。自重して欲しい程度しか思っていない、それも既に父であるデヴィッドが彼女の扱い方を理解し始めたのか緩和され始め、すぐさまアタッチメントが取り外され改めて説明と了承を取る所から始めている光景がある。
「という訳ですよ良いんですよね緑谷さんの事だから拒絶しないとわかってますけど」
「まあやるけど……」
「しかし発目君、緑谷君が拒絶する事は考えないのかい?」
「そもそも拒絶されるような物なんて作りませんしお願いもしませんよ大切な人なんですからその辺りのリスクマネジメントや管理は万全なんですよ」
「それなら有無を言わせないのだけはやめて欲しい……」
「ええだからやる直前に聞くようにしますねこれからは」
「もっと前以て言ってください……」
「アハッ無理です!!」
「ですよね……」
酷く落胆しながらも拒絶せず怒りの欠片もない、出久も彼女に対して全幅の信頼を置いている証拠。そして発目も出久の事を知っているからこそ安全性などを確保しつつ拒絶されない程度に自分のやりたい事を詰め込んでいる。これもある意味では絶対的な信頼がなければ出来ない事。
「だから偶のお休みに一緒に遊びに連れて行くだけでもありがたいと思うわ」
「そっか、そっかぁっ!!梅雨ちゃんそうしてみよう!!!」
「ケロッそうね」
「うむっ確かに、これからは俺も出来るだけ緑谷君を支える事にしよう!」
発目は 申し訳程度の自重を 覚えた。
出久の苦労が ほんの僅かに 下がった。